特集 2005.5/vol.8-No.2

本は変わろうとしているか
「セカチュー」メガヒットの背景にあるもの

 320万部を超え、国内作家の文芸書としては過去最高の発行部数となった『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一著)。映画化、テレビドラマ化されたこの小説は、若い人たちを巻き込み「セカチュー現象」とも呼ばれ、今まで本を読んだこともない層に受け入れられた。どのような考え方の下にこの本はつくられ、また映画など他のメディアに展開されたのだろうか。編集、宣伝に携わったスタッフに聞いた。

――『世界の中心で、愛をさけぶ』は、発行されてから2年たって売れたと聞いています。
 石川 セカチュー」の売れた段階は3つに分かれると思います。第1段階は草の根営業でクチコミで売れた時期、第2段階は柴咲コウさんの推薦がきっかけとなってロングセラーになった時期、第3段階が映画が公開される1か月前ぐらいからの時期です。

――「ノルウェイの森」上巻の238万部を超えたのが、2004年5月に映画が公開される前でしたね。
 庄野 最初、低空飛行といっても、そこそこは売れていました。最近は、本のディスプレーのサイクルが非常に短くなっていますが、長い間、書店の一番いいところに置き続けてもらったことが、こういう結果につながったと思います。初版は8000部だったのですが、片山さんの小学館での2冊目の本を出荷するころ、いろいろな書店で「セカチューが売れてますよ」という声が聞かれるようになった。そこからですね、勝負をかけていったのは。ロングセラーは、そういうクチコミがないと生まれません。

 菅原 書店が最後は、その本を店頭から外すかどうかを決めるわけです。店によっては、返品期間よりかなり早く外すところがあります。

 石川 特に第1段階は、本のPOPを見て買っていった人が知り合いに「いいよ」と薦める。それで売れていくものだから、書店も外せなくて、ずっと置き続けていたということだと思います。

▼セカチュー現象の経緯
2001年4月 小説「世界の中心で、愛をさけぶ」(片山恭一著)が小学館より刊行。初版8000部。
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BOOK
2002年3月 刊行から約1年後。本の雑誌「ダ・ヴィンチ」2002年4月号で、女優の柴咲コウがおすすめ本として紹介。
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4月 柴咲コウのコメント「泣きながら一気に読みました」というキャッチコピーが帯につく。
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2003年3月 刊行から2年近くが経過したころ、10万部を突破。
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11月 2003年後半に爆発的に部数を伸ばし、11月に100万部突破。
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映画「世界の中心で、愛をさけぶ」の制作発表が行われる。2001年夏に映画化をすでに決定していた。
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2004年1月 月刊マンガ誌『プチコミック』1、2月号に、2回に分けて連載。その後、2004年5月に単行本として発売。
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4月 原作が200万部突破。
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映画版の原作&補足本『指先の花―律子の物語』が発売。
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謎本『謎とき「世界の中心で、愛をさけぶ」』が発売される。
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5月 ラジオドラマ化され、4日にTOKYO FMでオンエア。
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6日韓国でも映画化が決定し、「冬のソナタ」チームが制作を手がける。
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7日原作が251万部を突破し、村上春樹「ノルウェイの森」(1987年刊・上巻・238万部)の発行部数を超え、国内作家の小説としては過去最多部数に。
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8日全国で映画が公開。
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20日映画との相乗効果で売り上げを伸ばし、原作がついに300万部突破。
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6月 30日時点で映画の動員数が500万人を突破。興収は同時点で約67億円。
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7月 2日TBS金曜ドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」第1話放送。
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9月 ドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」最終話が放送終了。DVD-BOX化も決定。
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12月 映画「世界の中心で、愛をさけぶ」がDVD化。


二つの本の世界

――「セカチュー」は、これまでに321万部出ている。編集を担当された石川さんは、それをどう見ていますか。
 石川 セカチュー」がなぜ売れたのか、という取材はこれまでも非常に多かったですね。

 庄野 普通に知られている作家の本が30万部売れたら、職場の誰かしらが読んでいる。でも、「セカチュー」は100万部を超えても、たぶん、職場の誰も読んでいないという売れ方をした。だから、誰が買っているのという質問が出てくるのだと思います。

――実際買っているのは10代の子が多かった?
 石川 いろいろな人が読んでいますが、「初めて字だけの本を読んで、感動しました」という感想もありました。そういうのを読むと、うれしくなりますね。それは、本当に意義のあることだと思っていて、その人たちが読まなかったら300万部という数字にはならなかったと思います。

―――日ごろ本を読まない層に読まれた?
 石川 本を読みたいけれど、何を読んだらいいのかわからない人たちが多くなっています。話題になっているので、読んでみたら感動した。単純に言えば、それだけのことなのですが。
 当然ぼくも、文学とはこういうものだという考えは持っていますが、それが自分と地続きになっていないという感覚も同時に持っています。それが何なのか。読者が変わったということでもない。「文学」と呼ばれる世界とは別に、そういうものと切り離された文脈の中でこの本はとらえられている。そういうカテゴライズをするのであれば、どっちがいいとか悪いということではなくて、2つ世界があると思えばいい。どちらかに寄って考えるから、わからなくなってしまうのだと思います。従来の「文学」を否定する必要はないし、「セカチュー」も否定する必要はないということです。

――100万部を超えたあたりから、肯定的な意見ばかりではなくなったと聞きますが。
 菅原 「セカチュー」や『いま、会いにゆきます』(市川拓司著)が売れている現象を認めたがらない人たちは確かにいます。でも、そういう声を聞いていつも思うのは、読者の感性まで否定しているのかということです。そういう言語が通じる人と通じない人の差だと思うのです。高校生の親と子の会話みたいなもので、子どもの側にもきちんとした理屈があるけれど、親から見たらまだ半人前という話に聞こえる。そんな感じだと思いますね。

まず、関心のある本から

――「セカチュー」は小学生にも読まれたという話ですが。
 庄野 ある小学校の読書感想文で、3人を除いて全員が「セカチュー」だったという話がありましたね。

――ケータイ小説が本になって若い人たちにも読まれていますが、本を読むためのきっかけになると思いますか。
 菅原 やはり入門の段階の本がないと、読書習慣は身につかないと思います。活字離れも、文学性うんぬんではなく、ただなんとなく本を読まない世代がいるというとらえ方をしています。人が本を読む、読まないというのは、案外単純なことだと思うのです。しかし、ドストエフスキーを突然読めと言っても読めないから、最初は読みやすいものから入る。読むうちに人間観や社会観が変わってきます。それに合わせて読む本も変わってくるものだと思います。そういう意味で、関心の持てる入門書は、決して悪いことではないと思いますね。

――「朝の10分読書運動」については、どう思いますか。
 菅原 有意義だと思いますね。同じ意味で、『ハリー・ポッター』や『ダレン・シャン』現象は、すごくいいことだと思います。




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