特集 2005.5/vol.8-No.2

本は変わろうとしているか
「本」に今起こっていること

新本と古本の区別がなくなる

――ネットのブログを基にした本も出てきましたね。
 ブログから生まれた「電車男」や「今週、妻が浮気します」「鬼嫁日記」だけ見ていると新しいように思いますが、田口ランディもネットからデビューした作家ですし、山形浩生も自分のサイトで発表していたものを晶文社が編集して本にしたのが事実上の出世作になったわけです。神戸女学院大学の内田樹の本も、ほとんどは彼が自分のブログで書いているのを編集したものです。

――取り立てて新しい話ではない?
パソコン通信の時代からそこで書かれたものを紙に移すことは行われていましたから、それがインターネットの普及で裾野が広がり一般化したということだと思います。ただ、不思議なのは、ネットで読めるものをなぜ本にするかです。

――本を所有したいという心理が人にはある?

 ただ、それが永遠の所有なのか一時所有なのかという問題はあります。古本をよく使う人は自分の研究分野を得意とする古本屋に集めてもらって、論文を書き終えたらまた古本屋に売るという使い方をします。それは必要な期間だけ自分が所有して、また社会に還元する考え方です。社会の共有財産という考え方が本やテキストの背景にはあるような感じがします。
 それに対して、ブックオフがすごいのは、従来は値段がつかないものだった文庫・新書に値段をつけて流通させたことです。本郷や神保町にある老舗の古本屋だと、文庫は学者から本を引き取るついでに仕方なく引き受けて、店の前の均一棚に放り込んでおくものでした。

――本は所有するものではなくなってきている?
 最近だと、ヤフーオークションとeブックオフの提携、アマゾンのマーケットプレイス、この二つをどうとらえるかが出版産業としては真剣に考えないといけない問題だと思います。
 マーケットプレイスというのは、売りたい本をアマゾンに登録すると、新刊本の隣にユーズド価格として表示されるサービスです。客としては新本を買うか、ユーズド価格の古本を買うのかという選択ができる。若い人の家になぜ本棚がなくなったのか調べたことがあるのですが、ブックオフとヤフーオークションの影響が大きいことがわかりました。読み終わったら売ってしまう。ヤフオクとブックオフが本の所有の感覚を変えたのではないかということです。そのヤフオクとブックオフが3月28日から提携を始めた。ヤフオクに出品してもなかなか買い手がつかない人はブックオフに買い取り依頼を出して送ればいい。つまり、ネットの世界では新刊本とセコンドハンドの区別がなくなってきているということです。本の流通がこれで大きく変わるかもしれない。

――やはり、若い人たちが利用者の中心になっている?
 というより、ヘビーユーザーほどネットとの親和性が高いでしょう。絶版本は確かにネットで手に入るようになりました。値段の比較もできますし、ネットを使えば本当に手に入らない本はほとんどないといっていいぐらいです。

小さな書店と雑誌との関

――大型書店やオンライン書店が増える一方で、街の小さな書店が消えていっていますが。
 街の小さな書店に子どもがお小遣いをポケットに握りしめてマンガ誌を買いにいくというのは、あくまで都市の文化です。以前は、地方の小さい町には本屋がなかった。
 それが変わってきたのは、十数年前です。90年代には郊外に次々と書店ができて、近所の小学生でも気軽に本を立ち読みできる環境になりました。だから、郊外型書店でも、コンビニでも本が手に入る今のほうが本を読んでいる子どもは、はるかに多いと思います。

――街の小さな書店が少なくなっていったのは。
 商店街から本屋が消えていくのは80年代半ば以降です。都市の住宅街では大型店に集約されて、逆に小さい子どもが気軽に入れなくなっていった。また、それが雑誌の売り上げが減っている大きな原因の一つになっています。例えば、10坪の書店100軒分の雑誌の売り場面積と1000坪の書店1軒の雑誌の売り場面積を考えてみるとわかると思いますが、書店は大きくなればなるほど雑誌の扱い率は減ります。小さい書店だと半分以上が雑誌売り場のようなところがあります。書店の総面積は変わらないのに、雑誌の売り場面積は小さくなっていった。

――その分をコンビニがフォローしてきた?
 しかし、コンビニは扱い点数が非常に限られています。効率最優先ですから、売れる雑誌は置くけれども売れなくなると途端に止められます。書店業は前近代的なところが残っていて、売れているのか売れていないのかわからないまま売っていたりする。
 雑誌はコンビニでも売れなくなっています。要するに、雑誌の読者自体が減っているということです。典型的なのがいわゆる男性週刊誌です。最盛期に比べると3、4割落ちています。女性週刊誌も同じです。

見直される書店の力

――小さな書店には新刊本が行き渡らないという話を聞きますが。
 出版点数が増える中で初刷り部数は猛烈な勢いで減っています。地味な文芸書では初刷りは2000から3000部になっています。ところが、日本の書店数は1万7000店ある。しかも、1000坪を超えるメガストアでは地味な本でも10冊は仕入れますから、せいぜい150店舗か200店舗にしか入らない。だから、圧倒的に本の品ぞろえが豊かな書店とメガヒットしたものの二刷り目、三刷り目しか並ばない画一化された街の書店に二極分化する。もし、読書離れ、新刊書離れが起きているとすれば、新刊書店の店頭の魅力の低下が要因としてはあるでしょう。
 もう一つ店頭の魅力をなくしているのが、POSレジによる電算管理と自動発注システムです。書店もかなり経営が厳しいですから、削る部分は人件費しかない。人を減らして、パート・アルバイトで回す。それを可能にしているのが、こうしたシステムです。本が売れたら自動的に補充される。今の大型店はほとんどそうです。書店に行くと棚に番号がついているところが結構多いですが、実はあれが棚番号管理システムで、今日入ったばかりのアルバイトでも、その番号に納品された本を入れておけばいいというシステムになっています。

――その一方で「本屋大賞」のように、書店員の投票によってベストセラーが生まれることも起こっていますね。
 なぜ「本屋大賞」が始まったのか、世話役の一人であるブックファースト渋谷店の方と話したことがあるのですが、全国の大型店でリストラが始まって、個々の支店の文芸担当者が孤立していったというのです。昔だったら大きな書店には文芸担当が数人いて話し合えたが、そういう環境が書店の労働現場になくなっていった。それで、書店員が選ぶ賞があれば、違う書店の文芸担当同士が目に見えない連帯感を味わえるということなのです。

――書店の重要性が見直されてきた?
 ここ1年半ぐらいカリスマ書店員が「この本を読んで」という感想を書く出版広告が非常に増えています。それから、「白い犬とワルツを」や「天国の本屋」のように、埋もれていた本を書店員が発掘することで売れたものも出てきています。読者の微細な動きをキャッチする力が書店にはあって、それをどう育てていくかが最近の書店の課題として意識されています。
 ネット21という書店があるのですが、これは学芸大学の恭文堂や西荻窪の今野書店が中心となって、北は栃木、西は岡山まで全国十数店の書店を一つの会社にした書店です。目的は二つあって、一つは零細書店もまとまれば出版社、取次に対して発言力を持てる、つまり商品の確保ができるということと、もう一つは微細な動きの情報を共有しようということです。これは画期的な動きだと思います。

広い年齢層に広がる読書

――今後の出版はどう変わっていくと思いますか。

 マーケットが縮小傾向にあるのは間違いないと思います。理由の一つは他メディアとの競合が激しくなるからですが、もう一つ大きな理由として、日本の出版マーケットをつくってきた団塊の世代が2007年からリタイアを始めることがあります。それを機に、マーケットの縮小に拍車がかかるだろうと思います。しかし、これまでのよき時代を標準と考えるのではなく、これからの縮小したマーケットを標準と考えて、それに合わせて均衡していけば何の問題もない。縮小均衡がうまく図れるかどうかが産業としての出版が生き残れるかどうかのポイントだと思うのです。
 ところが、現状は売り上げ減を出版点数でカバーするという縮小均衡とは全く逆の方向に動いています。しかし、大手の個々の編集者に話を聞くと、最近は点数を増やせと上から言われなくなったと言います。ある程度時間をかけてもいいから、長く売れ続ける本を作る方向に変わってきています。もちろん、ある部分は携帯配信に置き換わったり電子メディアに置き換わるでしょうが、だからといって紙の読書がなくなることはない。だから、それをどう軟着陸させるかということです。

――今後の読者の中心は、やはり若者なのでしょうか。

 若い人たちがかなりの部分を占めるでしょうが、これまでの高齢者が本を読まないのは高等教育と読書習慣がどこまで身体化しているかという問題と密接にからんでいます。進学率がこれだけ上がっていて、しかも選択的消費が当然の時代ですから、今後は読書人口が広い年齢で分布していく形になっていくと思います。高齢者の中にも読む人がいれば、若い人の中にも読まない人がいるような状況になった時に、本の作り方をどう変えていくか。それが今後問われていくと思います。

Akira Nagae
1958年北海道生まれ。法政大学文学部哲学科卒業後、西武百貨店系洋書店「ア−ル・ヴィヴァン」を運営するニューアート西武に入社。約7年間勤務した後、『宝島』、『別冊宝島』などの編集、ライターを経て、93年よりライター業に専念する。一般誌から出版・メディア業界など幅広い媒体で取材・執筆を行っている。著書に『不良のための読書術』(ちくま文庫)、『消える本、残る本』(編書房)、『狭くて小さいたのしい家』(原書房)ほか多数。


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