メディアの進行形 2005.5/vol.8-No.2

「EPIC2014」の描くメディアの未来
 「EPIC2014」をご存じだろうか。「最良の、そして最悪の時代」とナレーションで始まるメディアの未来予測フラッシュムービーである。2014年、人々は「前世紀には考えられなかったほどの膨大な情報にアクセスできるようになる」最良の年である一方、マスコミにとっては「衰退する運命にあり、20世紀的なニュース機関は結果的にはそれほど遠くない過去の残留物となった」最悪の年でもある、と刺激的なナレーションが続く。
 もちろん、未来の予測は未来そのものではない。では何か、というと〈現在〉なのである。歴史観が常に時代の都合で修正されるように、未来の予想もまた現在の反映にすぎない。では、この予測に反映された〈メディアの現在〉とは何か。

進化型パーソナライズ情報構築網

 物語はコンピューターのシステムを支配したマイクロソフトの時代が終わり、人と社会の情報を支配するアマゾン・コムとグーグルの時代として描かれている。グーグルはあらゆる種類のメディアを保存・共有するための万能プラットフォームと最高の検索技術を提供し、アマゾンはリコメンデーションシステムと巨大な商業インフラを提供する。
 08年には両社が合併し、グーグルゾンが誕生。あらゆる情報ソースをもとに各人に向けて自動的に記事を配信するサービスが始まる。
 14年、進化型パーソナライズ情報構築網(EPIC)を公開。コンテンツは一人ひとりの消費行動や趣味、人間関係をもとにカスタマイズ化され、誰でも自分のメディアを持つことができる時代となる。ニューヨーク・タイムズはオフラインとなり、エリートと高齢者向けに紙メディアを提供するようになる。
 このストーリーが多くのメディア関係者を刺激した。ネット文化の申し子とも言えるブログでは、ここに描かれたネットの未来観や新旧メディア間の勢力図を取り上げて、好意的なフォロー発言が続いていた。

21世紀のディストピア

 マスメディアは権力の監視機関であるが、そのマスメディア自身も「第4の権力」と呼ばれることがある。そこでブログに「第4の権力」に対する監視を期待する声もある。個人の自由な発言を可能にしたネット文化には、民主主義的な印象がある。ではインターネットは情報流通のユートピアを実現しただろうか。
 物語は情報メディアの主役交代を描いたのではない。むしろデジタル技術信仰や妄信的なネットワーク主義に対する警告なのである。
 いうまでもなくアマゾン・コムのリコメンドシステムにしても、グーグルの検索エンジンにしてもコンピューターの自動処理である。人々の消費行動や趣味は管理され、発言はすでに中央集権的サービスによってコントロールされている。ネットワーク社会は草の根民主主義の実現が期待される一方で、プライバシーを脅かすシステムをインフラとしているのである。

ネットワーク社会の光と影
 
 2014年という数字をみてもジョージ・オーウェルの代表作『1984年』の影響は明らかだ。EPICは、巨大情報処理システムという「ビッグブラザー」なのである。
 そういえば著しいプライバシー侵害を行った組織を表彰する不名誉賞に『ビッグブラザー賞』がある。毎年恒例の同賞は、オーウェルの母国イギリスの監視団体が発表する。
 今年の有力候補にグーグルの無料電子メールサービス『Gメール』がノミネートされた。ユーザーの個人的なメッセージの内容を調べているとされ、強い批判を浴びたのであった。これもまたメディアの相互監視として機能している。

※「EPIC2014」はhttp://www.robinsloan.com/epic/で閲覧することができる
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