ojo interview 2005.5/vol.8-No.2

松田 哲夫氏
松田 哲夫氏

 編集者の心得は、「その著者や原稿を丸ごと評価できるかどうか。あっちがダメ、こっちがダメといじくり回したら、イイ味を消してしまいますから」。
 赤瀬川原平氏をはじめ、波長の合う人とつきあう中で広がった人脈が財産になり、名物編集者として数々のヒット作品を生んできた。ベストセラーとなった『老人力』は、営業的には失敗と言われた雑誌『頓智』内の企画から生まれた。「だから失敗がマイナスに終わっていない。転んでもタダでは起きませんから」
 昨今の読書離れには「読書禁止法を制定すれば、逆にこっそり本を読む人が増えるのでは」と笑いつつ、「活字の本でしか得られないことは山ほどあります」とまじめな顔に。「生きる上で最低限必要な知恵や、物事を判断するために大事なスケールを養うものが活字文化だと思っています。それがあまりにも社会から失われている気がしますね」
 今年1月、若い人にスタンダードを示すため、中高生向けの『ちくまプリマー新書』を立ち上げた。人気のクラフト・エヴィング商會に装丁を依頼するなど、若者に届く本作りを心がける。編集長お勧めの1冊は、『世にも美しい数学入門』(藤原正彦・小川洋子著)。2人のトークショーを聞き、数学の素晴らしさに感銘をうけたのが発端だという。「僕がコミットすることで、新しい面が引き出せれば、やっぱりうれしいものです」
 同新書の編集長、筑摩書房専務のほか、テレビ番組での本のコメンテーター、電子本の配信会社(パブリッシングリンク)社長を日替わりで務め、休日はエッセイストとして過ごす。新たに読書ナビゲーターとして活字文化プロジェクトを手伝うことになったが、「すべて出版回りの仕事だから、ストレスはありません」。
 良い本に巡り合うコツは、信頼できる本の目利きが選んだ「予選通過作品」を教えてもらうことだという。
 「ふだんは電車の中やベッドで本を読むことが多いですが、眠くなったら寝ちゃいます。そういうのが一番いいですね」
文/横尾一弘  写真/はやしたつお
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