特集 2005.4/vol.8-No.1

「クチコミ」が変えるもの
 インターネットの普及でクチコミが大きな力を持ち始め、企業もその影響力を無視できなくなってきた。マーケットメイブン(市場の達人)と呼ばれるコミュニケーションの新しい担い手も登場し、同時に、マスコミとクチコミの積極的な連携やマーケティングの行き詰まりを打開する手段としてクチコミを取り込もうという動きも出てきている。

マーケット・メイブン――「市場の達人」とは何か

 情報を積極的に伝えるコミュニケーションの担い手が登場している。「市場の達人」と呼ばれる彼らと、これまでのオピニオンリーダーとの違いは、どこにあるのだろうか。

――インターネットの発達で、クチコミが変わってきたと思うのですが。
 昔からのオピニオンリーダー研究に加えて、マーケット・メイブン(market maven)という新しい情報の伝え手についての研究が行われはじめています。社会心理学では80年代の後半から言われ出した言葉ですが、日本語では「市場の達人」と呼んでいます。何かというと、マスメディアやネットから得た情報を人に積極的に伝える人たちです。

――オピニオンリーダーとは違う?
 オピニオンリーダーと市場の達人ではかなり特性が違います。オピニオンリーダーはこれまでのイメージでは、マスメディアから情報を得て、それを周囲の人に説得する役割を持っていると言われてきました。「この商品はいい」と推奨して、誰かにモノを買わせる。それも一種のクチコミです。オピニオンリーダーをマーケティングのターゲットととらえたインフルエンサー(influencer)の考えも、そうした考えを元にしていると思います。ところが、市場の中にはもう一つ違う人たちがいることが、次第に明らかになってきています。

情報を伝えるだけの“達人”

――具体的にはどういう特性を持っているのですか。
 私の研究室で、オピニオンリーダーと市場の達人の比較研究をしている修士学生がいるのですが、その調査結果を見ても明らかに違う特性を持っています。消費行動を因子分析すると、「いろいろなメーカーの商品を買ったことがある」「人にアドバイスできる」「人からよく聞かれる方だ」というオピニオンリーダー的な特性のグループとは別に、「誰よりも早く知っている」「いろいろなことを知っている」「よくみんなに買い得情報を教える」というように単に情報を積極的に人に伝えることに特化している人たちが出てきます。

――人に情報を伝えるだけの人たちがいる?
 その人は誰かを説得するのではなくて、何か情報があったら人に教える。「こんなこと聞いたよ」と情報を投げる人たちです。それを市場の達人というのですが、さらに興味深いのは、オピニオンリーダーの特性と市場の達人の特性をクロスさせると、オピニオンリーダーと、ただ単に情報を投げる市場の達人と、その両方を兼ねた三つのグループに分かれることがわかってきました。
 今までのオピニオンリーダーのイメージは、マスメディアから情報をもらって、それを積極的に人に教えるという三番目のグループのように考えられていたと思うのです。しかし、それは「超市場の達人」と呼ぶべき存在で、どちらかに特化した人たちが多いということが見えてきたのです。

――そういう視点から両者を見直すと、どういう傾向があるのでしょうか。
 オピニオンリーダーは、情報の使い方が狭くて、自分で使ってみたり、試してみて、確信を持たないと人に薦めない人たちです。自分の発言に責任を持っていて、自分がいいと思わないと情報を人に流さない。人から聞かれたら教えるけれども、聞かれるまで待っているタイプです。ところが、市場の達人は、「おもしろい」「こんな商品が出ている」「こんなうわさを聞いた」ということを極端に言えば無責任に人にしゃべる。その彼らの情報源は何かといったら、マスコミを活用していることが多い。
 ネットのクチコミを見ていてもはっきりしていますが、情報源の半分ぐらいはマスコミです。逆に言えば、ネットの時代といってもマスコミがなくなったらネットは動かないということです。

――利用するサイトにも特徴はある?
 たとえば、「2ちゃんねる」は、市場の達人がなじむメディアだと思いますね。逆に、ブログをやっている人たちは、オピニオンリーダータイプが多くて、ゆっくり構えて、議論もする。商品の評価も渋いことを書く。マーケットの中にオピニオンリーダーだけではなくて、もう一つ市場の達人という軸がある。それとインターネットの利用の仕方は関係していると思います。

無責任だからこそ
 
――市場の達人がいることは納得できるのですが、その人たちの果たす役割は何なのでしょう。
 ある意味で無責任な行動だからこそ、時々おもしろいことが起きるわけです。みんなが見ているから、プログラムのバグや商品の問題点を発掘するチャンスも生まれる。商品のトラブルが話題になれば、一瞬にして告発という話になる場合もあるし、その商品がいいとなれば、それに飛びつく。どこかに集まれとなれば、某所に突然集合する。無責任さが特徴ですが、機動力もある。失敗しても誰も責任取らないかわりに、自由なことは自由です。

――昔からある井戸端会議の会話も無責任だと思うのですが、それとは違う?
 誰もが普段の会話の中でやっていることだと思いますが、ほかに聞こえないから大事には至らない。ネットの場合は、誰でも聞けるところが今までの井戸端会議とは違うところです

――クチコミをマーケティングに活用することが求められていますが、市場の達人の存在を前提にすると、どう考えたらいいのでしょう。
 広告効果は実際どれだけ売り上げに貢献したかでなく、接触で測られる場合がほとんどです。人の目にとまること、広く印象に残ることが広告の主な目的とされてきました。それはクチコミにも当てはまると思います。そこがオピニオンリーダーに対する期待とは違う。みんながとにかく商品について語ってくれることが大事だということです。それで、100人のうち1人が買ってくれたらいい。1億人のうち100万人が買ったらヒット商品になる。広告は、元々そのように機能していたものだと思います。

顧客にはプラスの情報を
 
――クチコミには、商品の関心を高める効果があるといわれていますが。
 人から聞くことで、この商品がよさそうだという情報に自分の気持ちが収斂していくことは確かにあります。自分が関心を持っている商品について、どのくらい周囲の人たちと話すことがあるか調査したことがありますが、かなりの情報量がそこでは語られています。PCであれ、洗剤であれ、旅行であれ、7、8割の人は誰かとしゃべっています。それはネットの場合もあれば、対面の場合もあります。しかし、最終的に決める段階では、本人はあまり他人に影響されたとは思っていなくて、他人の情報は参考になったぐらいにしか思っていない。

――消費者心理はそう単純ではない?
 ただ、ネガティブな情報に対しては消費者は敏感で、「その商品はやめた方がいい」と言われると、半分ぐらいの人が購入をあきらめています。

――ネットが普及して、商品に対するネガティブな情報を抑えることは不可能になったと言われていますが
 企業側が、そういうクチコミをコントロールすることはむずかしいでしょう。モノが売れていくプロセスは減点主義という一面があり、人々はネガティブなものには近寄らない傾向があります。社会心理では、「リスク回避傾向」と言っています。

――ブランドや趣味のコミュニティーで、否定的な発言をするとたたかれるという逆の場合もありますね。
 そのグループ内である程度、価値観が共有されている場合は、そういうことが起こりますね。価値観が共有されたコミュニティーでは、商品の魅力的な使い方に関する情報が得られる。ただ、新規購入の場合には、ネガティブな情報が重視される傾向はあると思います。それが、ファンになった途端、好意的な態度に変わる。

――その場合は、プラスの情報の方が喜ばれるようになる?
 消費者が同じ商品を使い続けるとか、新しいものでもブランドに固執するのは、そういう心理からだと思います。そういう場合は、クチコミ情報もプラスの情報が機能する。

――ただ、一般的には新規購入の場合は減点主義で商品は選ばれるということですか
 新商品や未購入の商品の場合は、接触の機会を増やすことが一番でしょうね。クチコミが行われているコミュニティーや人に対して、何らかのアプローチをすることが大事です。
 検索サイトの広告料金はネットの中でどれぐらい言及されているかによって金額が変わることがありますが、そういう考え方もここから出てくると思います。つまり、ネット上のネガティブな情報も含めて、検索に引っかかるものすべてが価値になる。誰かの口の端に上ればいいという考え方も出てくるかもしれません。




「くちコミ」と「マスコミ」を連動させる視点
廣告社 コミュニケーション局マーケティング部 1チーム長 ディレクター 中島正之 氏→

マーケティングデータとしてクチコミを活用する
(株)アイスタイル 代表取締役 吉松徹郎 氏→
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