特集 2004.12/vol.7-No.9

変化に対応するメディアの使い方
提案する「研究所」に聞くメディア選択の現状

 博報堂DYメディアパートナーズは今年4月、「メディア環境研究所」を設立した。所長を務める中村博氏と主席研究員の鈴木雄介氏に、研究所の設立の意図やメディア選択の現状、課題をさまざまな角度から語ってもらった。
 
――博報堂DYメディアパートナーズというバイイングを主な仕事とする会社が、「メディア環境研究所」をつくった理由からお聞かせください。
 中村 まず、誤解があると思うのは、博報堂DYメディアパートナーズはメディアバイイング会社ではないということです。そう理解されている方も業界の中でまだ多いのですが、われわれが目指すところは、メディアとコンテンツの総合事業会社です。

――バイイングに特化した会社ではない?
 中村 欧米のバイイングエージェンシーは、メディアを買うことに業務が特化しています。メディアパートナーズも、バイイングはもちろんやりますが、それ以上にメディアとコンテンツの価値をどう高めていくか、メディアの組み合わせ方によって、それをどう効果に置き換えるか、というところがわれわれの仕事です。

具体的な提案を考える機関

――そのメディアとコンテンツの総合事業会社のつくった「メディア環境研究所」というのは何か、ということですが。
 中村 博報堂DYメディアパートナーズがスタートしたのは昨年12月ですが、実はその前から研究所をつくる考えはありました。ただ、会社と同時に研究所の設立はむずかしいだろうということで、スタートは今年の4月になりました。
 デジタル化でメディアが変われば、当然、生活者の情報収集のあり方も変わります。広告はどうなるのか。もっと広告効果が高まるにはどうしたらいいのか。「メディア環境研究所」はそういうことを考えるための組織です。「研究所」となっていますが、ただ研究発表して、それで終わりという組織でなく、得意先と媒体社に具体的に提案できるものを考えることが仕事です。活動領域を「メディア起こし」「コンテンツ起こし」としています。

――具体的にはどのようなことをやろうとしているのでしょうか。
 中村 たとえばテレビでは、ハードディスクを内蔵したデジタルビデオレコーダーが注目を集めていますが、これが普及するとタイムシフト視聴やCMスキップが起きる可能性があります。当然、それについての研究をしていますし、アイデアを持って動いています。
 それから、インターネットとイベントの連携を図って、イベントの再活性化をやりたいと思っています。ライブコンサートをネットでやると、アクセスが集中して回線がパンクしてしまいますが、ネットをもっとうまく使いながら、立体的なイベントの活性化はできないかというようなことも考えています。

――新しいメディアをつくることも考えている?
 中村 あくまでメディアの使い方ということです。それが新しいメディアにつながることもあるとは思いますが、独自にメディアをつくることは考えていません。
 スタッフは今、専任、兼任、客員研究員合わせて10人。私と鈴木はメディアマーケティング局の実務も兼任しています。2人ともマーケティング、特にメディアプランニングの仕事にずっと携わってきています。

広告効果は証明できるか

――実務の中で、広告主のメディア選択に対する考え方に変化を感じますか。
 中村 まず、広告費はマーケティングコストという意識が強くなっています。そのメディアはどう効くのか、費用対効果はどうなのかということを、宣伝部が社内のいろいろなセクションからだけでなく、株主からも説明を求められる。その結果、広告会社にも、媒体効果の証明をして欲しいという話がよく来るようになりました。ただ、この証明がなかなかむずかしいのですが。

――企業によっては、媒体効果、広告効果を独自に評価しているところがありますね。
 中村 各企業が独自の方法を持つのはいいと思うのです。一定の基準でデータを長期的に貯めていって、こうやったらこうだったと事例を貯めていく。それはできますね。

――しかし、広告主の依頼になると証明がむずかしいというのは?
 中村 世の中にある一般的なデータで広告効果を証明しようとすると、これがむずかしい。広告というのは、接触されない限りは無駄打ちです。この接触はある程度測れる。研究もかなり進んでいて、接触データをベースに各広告会社は最適化手法を開発しています。しかし、接触した後、広告がどう効くかは、行動心理、購買心理にかかわる問題で、ここを測るのがむずかしい。しかし、いままで蓄積されたメディア接触がどう効いたのか。そのへんも考慮しながら、メディアプランを立てようという動きはあります。

――可能性は、多少なりとも出てきている。
 中村 といっても、非常に洞察力のすぐれた人間だけがわかるということです。それは人間の心理がわかるということで、データでは最後までわからないかもしれません。
 広告効果の話は結局、コミュニケーションとは何かということに行き着く。そのコミュニケーションをいかに効率よく効果的にやるかというのが宣伝技術、広告会社の技術だということなので、説明責任を避けるわけにはいかないと思いますが、できるとは言い切れない。めざしているということですね。

キャンペーン中心志向に

――広告会社のプレゼンテーションでは、媒体計画の説明が最後で、時間がいつもなくなるという話をよく聞きます。
 鈴木 確かに以前はそういうことがありましたが、いまは得意先も、メディアプランニングに対してのアカウンタビリティーを求めますから、メディアに関しても時間をとってプレゼンをしてくれということが逆に増えています。
 最近は、制作スタッフと連携してメディアを決めることもあります。まず、ターゲットの行動を考えて、使うメディアを決め、それに合わせてクリエイティブを逆に考えていくことも実際にやっています。

――その原因というのは?
 鈴木 メディア選択にかかわる得意先の人たちに、これまでのメディア担当者だけでなく、ブランドの担当者も加わってきたことがありますね。そういう人たちにもわかるような形で、データを提示してほしいというニーズがかなりあります。

――これまでと要求されるデータが変わってきた?
 鈴木 得意先もバイイングのセクションは、縦割りでメディアを担当しているところが多いのですが、ブランド担当はキャンペーン発想をします。それで、クロスメディアの視点が自然に入ってきていると思うのです。新聞単体、テレビ単体の比較ではなくて、新聞とネット、ラジオとネットなどを組み合わせたときのリーチなどの効果効率を求める話はかなり増えています。

――その場合のリーチはわかるようになっている?
 鈴木 私たちの持つオプティマイザーでリーチはシミュレーションできます。

得点圏まで進めるプランニング

――そうした変化は、いつごろから始まったのでしょうか。
 鈴木 この2、3年ですね。
 中村 博報堂にメディアマーケティング局ができたのは97年ですが、メディアプランニングセクションができてからは、まだ4年ぐらいです。広告会社の中では早いほうだったのですが、そのころから少しずつ変わり始めた。カンヌ国際広告祭でメディア戦略を評価する「メディアライオン」という賞が99年に新設され、それが日本で話題になり始めたのが、ここ2、3年です。それからオプティマイザーオンリーではなくなりましたね。
 鈴木 97年ごろから、テレビの個人視聴率が出てきて、オプティマイザーの全盛期でした。使用するデータは接触データですからシンプルです。それをどう掛け算、割り算して、違う答えを導き出すかを広告会社間で競争していた。今もそれはしていますし、大事なことなのですが、それにプラスして、最近はクリエイティブなメディアプランニングが求められるようになってきました。

――最近のメディアプランニングで一つ疑問なのは、奇抜なメディア選択競争にならないかということです。
 鈴木 メディアプランニングは、クリエイティブ・ディレクターの仕事だと主張する人たちも最近は出てきています。ただ、野球でいえばランナーを2塁か3塁の得点圏内までは進めておかないと、広告のクリエイティブでヒットを打っても点が入らないということです。必ずホームランを打てればいいのですが、そういつもうまくはいかない。やはり、得点圏までは進めておくというのが、メディアプランニングで確実にやっておかなければいけないことだと思います。リーチで3塁までは確実に広告を届けるということです。

――広告は届かなければ意味がない?
 鈴木 3塁までは量の世界というか、オプティマイズの世界でやっておかなければいけない。しかも、費用がかかる部分ですから、効果的なメディアの使い方をして予算を効率的に使う。それで、いいクリエイターに打席に立ってもらうということですね。リーチを基にしたメディアプランニングは絶対になくならないと思います。

ターゲットだけでいいのか

――マスメディアの役割については、どう考えていますか。
 中村 インターネットはアクセスログが残りますから、人々の接触データが詳細に取れる。これを使ってマーケティングをもう少し効率的にできないかという考えもあります。しかし、過去のデータで人間の行動を予測することができるのかと言えば疑問です。詳細に分析すれば、人はある行動の後にはこの行動をするという類型が出てきます。そういう行動分析を基に情報が届けられたとしても、たぶん人は面白がらない。自分の思いもよらない情報が入ってくるから、人は振り向く。そういう意味で、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌というマスメディアはよくできていると思います。

――マスメディアは、それまでなかった関心を喚起してくれるということですか。
 中村 そこに今後、注目していきたいと思っています。世の中の流れや需要をつくり出すとは、どういうことかということです。広告はターゲットに届けばいいという考え方がありますが、それだけではない部分がコミュニケーションの世界にはあると思うんですね。

――より広く伝えるということに意味がある。
 中村 広告はターゲットにピンポイントで届けばいいのか。まだ、ロジックでもデータでもきちんと証明できていないのですが、それは違うと思います。メディア環境研究所のホームページにも書いたのですが、「人が集まればメディアになる」、それが広告の基本ではないかと思っています。奥さんが賛成しなければ車も買えない。それなら、奥さんとご主人の両方をターゲットにピンポイントでやればいいと考えがちだけど、それだとうまくいかない。

――みんなが知っているだろう、みんながいいと思っているだろうという想像が働かないとダメということですね。
 中村 モノを買うということは、ある種の自己表現ですから、自分だけよくてもダメなんです。

――新聞も、そういうマスメディアの一つですが。
 中村 新聞の特徴は、エリアのすみ分けがきちんとできていることです。大都市圏は全国紙が強いですが、そのほかの地域ではローカル紙が圧倒的に強い。県別に広告を掲載するとしたら、データの出る余地はあまりない。だから、新聞はやるかやらないかという判断になってしまう。そうすると、その時は新聞社同士の比較ではなくて、テレビやラジオとの比較になる。ところが、新聞の持っている力がデータではなかなか説明できない。

――新聞の持っている力というのは?
 中村 リーチだけではなくて、市場に対してのメッセージ力があることです。そのマーケットにエントリーしているかどうかというのは、新聞に載せないとわからないと思うのです。それはなぜかというと、新聞は、日付とともに見ているメディアだからです。テレビには日付の感覚はない。キャンペーンがいつから始まったのか、テレビではよくわかりません。新聞は何月何日に出たというのが一番明快な媒体です。
 新聞は、この部分のアピールを今まで、あまりしてこなかったと思いますね。車は記者発表した翌日に、「新車発売」の広告を出します。全国のディーラーに対して、市場にエントリーしたことを宣言するわけです。本当はコンビニやスーパーで売られているパッケージ商品の広告にも、そういうものがあっていいと思います。

生活者の心理に踏み込んで

http://www.media-kankyo.jp/
――メディアデータの今後のあり方は?
 鈴木 ブランドはこの10年くらい、ターゲットインサイトといって、生活者の心理に踏み込んだ質的なデータで論理を構築してきて、それなりに説得力を付けてきました。一方、メディアは、調査の手法も従来からある接触や注目を基軸にやってきました。調査手法の開発はこれからですが、生活者の心理に踏み込んだデータを追求していけば、さらに説得力のあるデータになる可能性はあると思います。
 中村 世の中が先に進んでいくときは、あっちに行ったりこっちに行ったりします。そういう意味では、今は科学とデータが、あまりいい方向には行っていないような気がします。データの使い方は間違っていないけれど、頼り過ぎのところがある。コミュニケーションと人間の心理、心のひだは調査ではわからないところがある。それは観察するしかない。マスメディアの効果も見ていればわかるけれども、データに頼り過ぎると見えなくなる。そういうものだと思うのです。




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