特集 2004.7・8/vol.7-No.4・5

1年たって見えてきたデジタル入稿のメリットと課題

 読売新聞が新聞広告の完全デジタル入稿を始めてから1年がたつ。技術先行で語られてきたデジタル入稿も、現実を踏まえた議論が必要になってきた。実践の中で見えてきたデジタル入稿のメリットと課題について、特にカラー広告を中心に現場の視点で探った。

カラー広告品質向上のポイント

 よりよい品質のカラー広告をデジタル入稿で実現するためのポイントや今後の課題は何か。積水ハウスの広告制作を管理する福田和幸氏と読売新聞東京本社制作局のメンバーが、話し合った。
 
カラー広告の入稿・印刷工程1つの製版会社に集中して

――読売新聞が完全デジタル入稿を始めて1年たちますが、デジタル入稿で大きく変わったことは何でしょうか。
 福田 原稿が決まるのが掲載の1週間前というケースでも、カラー広告の出稿ができるようになったことです。そういうスピーディーな掲載は、デジタル入稿だからできることです。もちろん、その場合、平台校正や新聞社からのプルーフの出力確認の回数も減りますが、与えられた条件の中で考えれば、上がりも悪くない。このような急ぎの場合になるほど、製版会社とのコミュニケーションが大切になってきています。

――デジタル入稿が始まったころは、まだデジタル製版の経験者が足りないという話をよく聞きました。

 福田 最近は、デジタルの技術が上がった製版会社がいくつかできはじめました。ですから、ここに頼むと決めたら、そこに仕事を集中させて、ノウハウを蓄積させていくという方法をとっています。

――製版会社の技術に差が出てきている?

 福田 それもありますし、印刷のデジタル化に対して問題意識とビジョンを持っているところを選ぶようにしています。これまでいろいろな製版会社にお願いしてきましたが、最近はほぼ数か所に集約してきました。
 そういう製版会社は技術ばかりではなくて、情報も持っています。今までは広告会社や制作プロダクションの下に製版会社があり、広告会社が変わると製版会社も変わっていたのですが、今は製版会社を1本化しようとしています。

――広告会社が変わっても、製版会社は変えない。

 福田 そうしてくださいという指定をこちらでします。そうすることで、目に見えてこちらの負担が軽くなります。たとえば各新聞社から出てきたプルーフをチェックするとき、こちらで1つ1つチェックして色の変更を指示するのは大変な作業です。わかっている製版会社なら、「全体に今回はこういう傾向だから、この方向で進めてください」という一言、二言の指示で話が終わる。後は、製版会社が各新聞社のプロファイルに合わせて調整しておいてくれる。

プルーフだけが離れている

――デジタル入稿が始まったころは多少の混乱もあったと思うのですが、今はどうですか。
 福田 ほとんどないですね。最近の入稿作業は、ひたすら掲載に合わせて、どうチェックをしていくかに尽きます。

――入稿までのプロセスは?

 福田 制作進行過程としては、まず原稿を作り、通常の平台印刷で、初校、再校、念校を出す。次に、そのデータを各新聞社に渡して、プルーフを出力してもらい、平台印刷の念校と各新聞社のプルーフを比較して色合わせするという手順が基本です。

――デジタルで入稿した場合の色の再現性はどうですか。

 福田 新聞社がデジタル入稿を受け付けるようになって数年たちますが、最初のころと比べれば、各新聞社とも傾向が似通ってきていると思います。その点では、作業は楽になってきています。傾向が合いだしたのは、ここ1、2年ですね。1つは、掲載紙というレベルで合ってきた。もう1つは、プルーフレベルでも一応合ってきたかなと思います。ただ、まだプルーフのほうがブレが大きい。各新聞社からプルーフが出たときには、最初、「ワーッ、大変だな」と思いました。同じ色のはずなのに青が強かったり、黄色が強かったり、それぞれ転んで出てきますから。それは製版会社が新聞社のプロファイルに合わせていないからなのか、各新聞社のプルーフの出力環境の違いなのか、癖なのか。いつも頭を悩ませています。

――プルーフもかなりの数になる。

 福田 東京、大阪など地域によって差し替えの版をつくると、10枚、20枚になるときがあります。

――新聞社ごとのプルーフの品質をどうみていますか。

 福田 初めのころは大阪の方がきれいだったのに、いつの間にか東京の方がきれいになった新聞社とか、その逆の新聞社もありましたが、最近は、同じ新聞社内では地域によるばらつきはそれほどなくなってきました。問題は新聞社間です。プロセスも含めてですが、そういう業界のインフラを統一して頂くと、われわれは非常に助かります。

――インフラというのは、輪転機や紙など最終刷りまで含めてということでしょうか。

 福田 それはそれぞれでいいと思うのですが、プルーフの用紙や出力の方式などを統一して欲しいということです。そういうところが統一されていないと、どうしても品質確認がむずかしくなります。

――カラーの基準は、やはり平台印刷の校正刷りなのでしょうか。

 福田 平台で出した最終校正と状態のいい掲載紙。それは、ほぼニュアンスがイコールに上がってきます。最近の新聞のカラー印刷は日進月歩できれいになっていると思います。確かにプルーフの品質は以前に比べればよくなりましたが、平台校正、掲載紙はほぼイコールなのに対し、プルーフだけが離れている。それが今の問題だと思います。

1200になった解像度

――新聞広告のカラーがきれいになったというのは?
 福田 私自身は、広告に携わって20年、新聞を見るようになってから10年ぐらいたつのですが、その間にカラーは非常に良くなった。今、そのころの保存版を見ても色あせてしまってあまり意味はないでしょうが、見たときの印象ははっきり残っています。10年前は、新聞のカラーはこんなものかと思っていました。それが本当にきれいになった。この要因は何ですか。
統括部次長 及川正樹  及川 いくつか要因があると思いますが、この10年間でいえば、印刷の技術的な面ではそう大きな変化はありません。強いて挙げれば、タワー輪転機に装備した自動見当装置の働きでレジスター(見当)の精度が上がったことが挙げられます。
 福田 シャープネスが上がった?
 高月 色ずれがかなり解消されました。逆に、インキが鉱物油から環境配慮で大豆油に変わり、発色という点ではプラスとは言えない変化もあります。むしろ、輪転機の色調整の技術や広告原稿の制作技術が向上したことが要因かもしれません。それからここ1年のことでいえば、読売新聞の場合、出力解像度を1200dpiにしたことも品質が良くなった要因としては大きいと思います。網点が非常にシャープに再現できるようになったということは大きいですね。
 福田 以前はどのくらいだったのですか。
 織田 681dpiです。新聞社の採用している解像度は、これまで非常に中途半端な数字でした。やはり、そういう特殊な解像度を使っていると、どこかで中途半端な計算をしなければいけない。それが、1200dpiに決めた1つの理由です。ただ、これを商業印刷と同じ2400dpiまで上げるのは、新聞印刷の限界もありますし、データ量も大きくなる。
 福田 1200dpiで十分だと思いますね。それも、カラー印刷の美しさにかなり影響していると思います。スクリーン線数も、昔は85線だったものが、今は106線に変わった。
 織田 細部の再現性はかなり良くなったと思います。新聞をデジタルで編集、制作するCTSが始まって20年たちますが、20年間ずっと681dpiという中途半端な解像度でやってきて、われわれ技術者としては、変えたいと思っていたのですが、今回は広告入稿のデジタル化とCTP(ダイレクト刷版)化という2つの大きなシステムの変更があったので、これを機会に1200dpiに変えることができました。
 福田 最初に原稿を作るほうが慣れたという話をしましたが、確かにそれも言えると思います。以前、カラーのチェックをするときは、白い紙でやっていましたが、今は新聞用紙に近い茶紙でやっている。実際の掲載を想定した製版のノウハウもかなり蓄積されてきています。デジタル入稿でも根本的なところは変わっていないと思うのですが、やはり今までとは違う。
 及川 そういう意味でも、広告の作り手とわれわれ新聞印刷の技術者が、時々お互いの情報のすりあわせをやっていくことが必要だと思うのですが。
 福田 お互い正しい情報が入れば、よりよい考えも出てきますからね。

5月7日 朝刊

掲載紙に近いプルーフを

技術一部次長 織田純一 織田 先ほどプルーフだけ色が離れているという話がありましたが、読売新聞が今使っているプルーフの出力機はインクジェット方式で、染料インキを使用しています。次の機種選定の参考のためにも、広告主の方が何を望まれているのかをうかがっておかなければいけないと、われわれも思っているところなのですが。
 福田 たとえば、紙にしても、プルーフの用紙が一番黄色い。平台校正の紙と掲載紙のほうがむしろ近い。その時によって違いますが、プルーフでは赤やグリーンが大きく崩れる時があります。実際の掲載でも、新聞は黄色が強く出る傾向があるのですが、プルーフにも同じようなことが言えます。

――原因というのは?

 福田 プルーフはインクジェット方式ですから、その問題ではないでしょうか。使っているインキの発色の傾向が、やはり新聞インキとは違いますから。掲載紙になるべく近い状態でプルーフのチェックができるのが理想です。
 及川 デジタル入稿をスタートした時のわれわれの発想としては、実際の新聞印刷により近いものをプルーフで出そうということだったのですが、お話を聞いていると、あらかじめ掲載された広告のイメージはお持ちなわけですね。掲載紙の印刷より、問題はプルーフにある。
 福田 そうなんです。ですから、現状のプルーフを見るときには、ある種のフィルターをかけて見なければならない。プルーフがこういう傾向なら、おそらく掲載紙はこうだろうと、製版会社の技術担当者と、そのへんを読んで作業を進めている。それが読めない製版会社は、一緒にやっていて疲れますね。何度も出し直すことになりますから。ですから、製版会社にも経験を積み上げてもらっているわけです。
 先ほども言ったプルーフはマゼンタが弱くなって、全体に黄色が強くなる傾向もその1つの例ですね。
 山岸 それは読売新聞だけの傾向ではなく……。
 福田 全体的にその傾向はあります。
 山岸 実は、読売新聞では今年の4月にプルーフの紙を変えています。その前は、確かにその傾向が強かったと思います。
 福田 今より用紙が黄色かった?
統括部主任 山岸雅広 山岸 黄色が強く出たのは、その影響もあったと思います。用紙を変えた一番の目的はドライダウン対策です。従来のプルーフの用紙では、出力した後、乾燥していくに従って色落ちが激しかった。そのときに従来の用紙は黄色傾向が強いというので、その時若干補正しました。印刷プロファイルはそれまでと同じものを使っていますが、なるべく本紙に近い色調に近づけようという努力はしています。プルーフの色と掲載紙の色が合わないということも、インキが違うため当然あるのですが、なるべくそういうところも合うように検討を進めているところです。

4月28日 朝刊

品質管理のむずかしさ

 福田 最近掲載した30段の広告は、われわれの評価では掲載紙は読売新聞が一番きれいだったのですが、プルーフの精度は一番悪かった(笑)。東京と大阪で色が違っていたんです。後で事情を聞いてみたら、プルーフの出力機が3台あって、3台目のコンディションが悪かったのが原因だったそうですが。
 織田 インクジェットのプリンターは、ヘッドやインキを交換するときの仕方によっても、少し色が転んでしまいます。紙のロットによっても、色が変わる。われわれが最初に想定していた以上に、このへんの問題が大きいことがわかってきています。毎日、標準となるチャートを出して、それを積み上げていかないと、安定した稼働ができない。毎日少しずつずれていくと、人の目ではごまかされる部分がある。
 福田 それは地道にやるしかない調整なのでしょうね。われわれの作業でも、よく実際の撮影と最終原稿の色が変わることがあります。写真の一部、たとえばタイルを別のものに差し替える合成作業もよくやっています。素材撮影はアナログでやって、加工編集はデジタルでやっている。入稿も、デジタルデータで入れる場合もあれば、フィルムというアナログの場合もある。そのときに、やはり置き換えの確認は、今おっしゃったような機械の管理がかなり大きなウエートを占めます。
 銀塩フィルムを現像でどこまで安定させるか。それをスキャニングして、コンピューターの画面で見る。その画面調整も必要になる。そこからカンプをプリントアウトしますから、その機械の調整が必要です。最終的に確認してOKになってフィルムを出力する。それをちゃんとやりましょうということで、各プロセスの担当者と話をすればできないことではないのですが、不思議に今までかなり幅があったものが、経験を重ねるうちにだんだん狭くなってきて、ほぼねらい通りに落ちていく。そういう意味では、ややこしいですけれども、同じ話だとは思います。

――簡単におっしゃいますが(笑)。

 福田 エネルギーはかかりますよ。でも、そのための方法は2つに1つで、途中のプロセスにかかわる人が同じ目的、同じ物差しを持つようにするのか、ばっさりプロセスをなくすか、どちらかですよね。

左から制作局の高月、積水ハウスの福田氏、制作局の及川、織田、山岸 [ 出席者 ]
積水ハウス
販促部課長 福田和幸氏
 
読売新聞東京本社制作局
統括部次長 及川正樹
主任 山岸雅広
技術一部次長 織田純一
技術二部主任 高月宏一
左から制作局の高月、積水ハウスの福田氏、制作局の及川、織田、山岸  


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