特集 2004.4/vol.7-No.1

デジタルネットワーク社会の広告という機能
広告環境の変化にどう対応するか
 
――メディア環境がこれだけ変わると、企業の広告活動も当然変わっていかざるを得ないのではないでしょうか。
 今は、いろいろな産業が情報産業化しています。食べ物がいつ、どんなふうにつくられたかの生産履歴を追跡し、公開するトレーサビリティーも、その例です。BSEをきっかけに牛肉からはじまり、鶏肉、野菜、米、魚介類などさまざまな分野に広がっていますが、その情報も商品の価値を決める重要なファクターになっています。その購入のキーになる情報をキー・バリュー・インフォメーション(KVI)と呼んでいますが、高度情報化社会においては、どんな産業でもキー・バリュー・インフォメーションをいかにしてつくり上げて、伝えていくかが重要になってくると思います。
 情報産業とは最も遠いと思われる建築業でも、注文住宅では建築現場にCCDカメラを置いて、施主が自宅のインターネットで建築過程を24時間見られるサービスが出てきています。家というものは高額ですし、一生に何回も建てるものではないですから、「信頼性」がキー・バリューです。普通は施主にあまり見せたがらない施工過程をあえて見せていくことが価値の創造につながっています。

――その中で、宣伝部の役割というのは?
 これまで、宣伝部は生産部門がつくる商品(コンテンツ)をいかに消費者に伝えるかに腐心してきたわけですが、今の時代は、急にココアや紅茶が売れ始めたり、牛肉の売れ行きがパタッと止まったりする。商品自体はまったく変わっていないのに、商品の売れ行きが大きく変わる。これは、その商品が置かれているコンテクスト(情報環境)が変わったからです。それが高度情報化社会の特徴で、その商品をどういうコンテクストの中に置いていくかで、まるでその商品価値が変わってくる。これからの宣伝部は、商品をいかに消費者に伝えるかだけではなくて、社内のコンテクストを社外に伝えると共に、社外のコンテクストを社内に取り入れていかなければいけない。そういう意味で、今まで以上に重要なセクションになっていくと思います。

――宣伝部は、ホリスティック・コミュニケーションのハブになるべきだということを書かれていますね。
 1980年代に、心の豊かさを重視する人の割合が、モノの豊かさを重視する人の割合を超えましたが、モノの特徴を心の豊かさのコンテクストに置き換えないと商品は売れないということです。大胆な言い方をすれば、企業の生産部門がコンテンツ・プロバイダーであるのに対し、宣伝部や広告会社の役割はコンテクスト・プロバイダーであって、両方ともに同じくらいに大事なものだと思います。

マスメディアはどうすべきか

――ひるがえって、マスメディアは今後どうなるでしょうか。
 通信業界はデジタル化やIP化が進み、ビジネスモデルが根幹から揺さぶられています。安い通信システムが価格破壊をしていったわけです。今年の春からブロードバンドを使ったテレビ放送も始まっていますが、では、これで放送はどうなるのか、マスコミはどうなるのかということですが、大丈夫なんです。

――それは、なぜですか。
 インターネットは、IP、つまりインターネットプロトコルという世界共通の方式で情報のやり取りをしています。ところが、今までの日本の通信網のシステムは、日本だけのオリジナルで非常に効率が悪く、コストの高いものだった。それがIPになって、全世界で競争してつくられた安いシステムで組み立てられ、一気に価格が下がった。
 ところが、テレビ(民放)は、視聴者にとってはもともと無料のメディアです。ブロードバンドテレビの視聴も無料ですが、どちらもお金がかからないとなると、人はおもしろい方を見る。おもしろい番組とは、人気タレントが出たり、きちんとお金をかけてつくられた番組ということです。だから、通信の世界で起きた価格破壊と、放送の世界で起きている問題とは事情が違う。50年の時間とお金をかけてコンテンツをつくり、そこに広告を入れ、情報を無料にして多くの視聴率を獲得してきた。そういう仕組みは、そう簡単にはできません。

コース料理かバイキングか受け手に移る編集権

――テレビでは、来年からサーバー型放送も始まりますね。
 大記憶容量のホームサーバーにあらかじめ番組を送っておいて、視聴者が自分に合ったものを引き出して見るというものです。これはどういうことかというと、編集権が送り手から受け手に移るということです。今まで番組編成はテレビビジネスのキーポイントだったと思うのですが、その編集権を利用者側が握っていく。

――ホームサーバーは、番組のジャンルを指定しておくだけでいい?
 お笑い系とかグルメと指定しておけば、番組録画してくれる機種も出ています。
 ネットでも、そういうエディティングをやるロボットやエージェントが出て来ています。ウェブログもそうで、自動要約ロボットがいて、あらかじめキーワードとニュースサイトなどを指定しておくと自動巡回してその要約をつくってくれる。これが結構よくできているんです。
 今までプロがやっていた編集を個人ができるようになるということですが、これも最終的には、たとえば先付けから繊細な目配りのきいたコース料理と、バイキング方式で自分の好きなものを取って持ってくるというような両極に分かれると思います。スパゲティの横に酢豚が置いてあるような番組編成でも、その人にとってよければいいのですが、万人向けではない。

――どちらが主流に?
 日本では、やはり最終的にはコース料理が上だと思いますね。お決まりやおすすめが重視される。高級料亭ほど、座った時点で出される料理が全部決まっている。つまり、「おまかせ」ですね。客の気持ちをすべて察してもてなしてくれる。
 アメリカでは逆で、全部決まっているパッケージ旅行は安物の旅行と相場が決まっている。自分ですべて選べる、フリーな形のものが高級です。日本で究極の旅行といえば、大名旅行でしょう。もう、何もしない、何も決めないで、それでいて、エージェントの方で自分の気持ちや好きなものも読み取ってくれる。それで、「よかった」「満足した」となる。これは、日本人が均質だからできることだと思います。新聞も、その時の旬、1番いい情報を察して読者に届けるというコース料理のメディアでしょうね。

ツリー型の新聞とブランディングの関係

――新聞のようにツリー型のネットワーク構造を持ったメディアは、逆に、いかに柔軟性を持たせるかが問題になる?
 新聞は一種の社会的権威ですから、基本的にはツリー型の世界をずっと引きずっていくと思います。権威があって、中心があって、情報を流していくところに意味があるメディアですから。それに柔軟性を持たせるには、CtoC型のみんなの声をどうとらえ、今のネットワーク構造に組み合わせていくかだと思います。しかし、別な見方をすれば、だからブランディングに適したメディアだとも言える。ブランドはある意味、権威の世界ですから、新聞のネットワーク特性とぴったり合っている。

――これからの時代における新聞広告の役割は?
 今後のメディアの生態系を考えても、新聞は必要とされていく。新聞の大きさや紙という形態はあまり変わらないと思います。なぜなら、メディアの発達には「経路依存性」があるからです。メディアや製品のイノベーションは、合理性ではなく、発達してきた道筋が決めることを経路依存性といいます。たとえば、「クワーティーの法則」がそうです。タイプライターの上から2段目のキーは、左から「QWERTY」の順で並んでいる。これはタイプライターがつくられた19世紀後半の技術を前提に、速く打たせないようにしたためと言われています。しかし、いったんそれで定着すると、技術が進歩しても決して合理的なキー配列には戻っていかない。  
 新聞も、今の判型と大きさ、紙質で発達してきたことを考えると、この形態はそう簡単にはなくならない。ただ、子どものころからデジタルに親しんでいる若い人たちが、将来も今の形態の新聞を受け入れるかどうかまではわからない。しかしある意味、新聞は日本の評価社会そのものですから、その機能はなくなることはないと思います。
 マスメディアがつくり上げる社会的な価値(オーソライズド・バリュー)と、インタラクティブメディアでそれぞれの消費者に提案する個人的な価値(パーソナライズド・バリュー)と、『価値』には2つのタイプがあると思います。この2つをうまく組み合わせることで、『バリュー・マックス』なキャンペーンができると考えています。新聞は、このオーソライズという機能に最も優れたメディアだと思います。したがって、新聞広告はオーソライズド・バリューを形成するのにこれからも欠かせません。インタラクティブメディアとうまく組み合わせることで、もっと効果的なプロモーションをすることができると思います。

一語一絵
『ホリスティック・コミュニケーション―アクティブ・コンシューマーの出現で進化する広告と販促の境界』宣伝会議刊、2,100円(税込み)。杉山恒太郎氏との共著。


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