特集 2003.12/vol.6-No.9

ブランディングとメディア戦略
スタイルの継続が広告効果をつくる
  味の素は昨年から新しいコーポレートブランディングに取り組んでいる。従来の食品会社のイメージからアミノ酸の会社へ。そのため昨年から商品広告とは一線を画したクリエイティブの企業広告を展開している。同じスタイルの広告を続ける味の素の島崎紘而氏に聞いた。
 
 今展開している企業広告は、今までの味の素ではない部分をお客さまにわかってもらうことを最大の目的にしている。だれもが持っている味の素=食品会社という認識だけでなく、アミノ酸の会社でもあることを認識してもらいたい。昨年から始めた企業広告は、そういう目的から継続して行っているものだ。
 新生味の素としてスタートしたのは1997年。江頭社長が就任時に五つの経営戦略を掲げ、そのなかで「ブランド力の強化」への取り組みを打ち出したことがきっかけになっている。99年には、重要な経営戦略の一つとしてもブランド力の強化が盛り込まれた。それに伴って「ブランド検討委員会」が設置され、現在使われている新しいコーポレートロゴと「あしたのもと」という新スローガンが決められた。
 私自身がコーポレートブランディングにかかわったのは新スローガンからで、実は5つの案を「ブランド検討委員会」に上げた。会議は紛糾すると思われたが、社長が一日待ってくれと持ち帰り、次の日に「あしたのもと」でいくと決まった案だ。
 コーポレートスローガンに「あした」、あるいは「未来」という言葉を使っている企業は多い。「あしたのもと 味の素」は、駄洒落とも取られかねないスローガンだが、逆に言えば、よその会社にはまねのできないスローガンでもある。新しい試みには必ず反対意見が出るのが常だが、今は「あしたのもと株式会社」にしてはどうかと言われるくらい、お客さまにも、社員にも浸透したスローガンになっている。

なくならない価値をつくる

 商品広告と企業広告との違いは、後者が社内の人たちにも強く影響することだ。企業広告は必ず経営の了承が必要で、トップの意思が入ってくる。だから、企業広告は社内に対しても強い影響力を持つのだと思う。
 この企業広告などコーポレートブランドにかかわる意思決定をするのが「ブランド検討委員会」で、今は「ブランド会議」と名称を変えている。当初、事務局は経営企画室にあったが今は広告部になり、それだけ早い意思決定ができるようになっている。基本的には広告部で発案して、ブランド会議にかけるだけのシンプルな形だ。これは非常に重要なことだと思っている。
 いろいろな会社がブランドに関する組織をつくっているが、「ブランド会議」という名称からもわかるように、当社にはそういう組織はない。必要なときに集まる、そういう仕組みになっている。
 コーポレートブランドと商品ブランドの違いを考える上で、例として思うのは、ここ数年、銀行が相次いで合併し、名称を変えたことだ。それまでお客さまに親しまれてきた○○銀行という名称はコーポレートブランドだ。それがある日、経営が統合されたという理由で突然変わる。これでは、せっかく育てた信用や銀行名を捨ててしまうことになる。親会社に新社名を付けて、それぞれの銀行はそのままの名称にしておけばいいではないか、と思う。実は、コーポレートブランドには、そういう危うさがある。
 一方、企業が合併してもなくならないのが商品だ。企業にとって、商品ブランドを強くすることが最も重要だと思うのは、そういう理由があるからだ。それだけに、コーポレートブランディングに取り組む以上は、商品ブランドと同じように「絶対なくならない価値」をつくっていく必要がある。

同じスタイルを続ける意味

 新聞広告も、テレビコマーシャルも同じだが、最近の広告は表現がよく変わる。新しくつくる広告は、当然、刺激がないと目立たないし、お客さまに認知してもらえない。そういう大前提があるにはあるが、だからこそ、広告はスタイルをつくり、同じ表現をできるだけ長く続けるべきだと思っている。その方が、人々の頭の中に刻まれていくからだ。
 もう少し具体的に言えば、新聞広告でも、ちゃんと読まれることはあまり期待できない。自分でもそうだが、広告はよほど関心のあるものでないと、風景として通りすぎていってしまう。そうすると、ぱっと見たときに、「あっ、また味の素がやっている」と認識してもらうことが大事になってくる。そのためには、味の素の企業広告のスタイルをつくらなければならない。それをわれわれは「トーン・アンド・マナー」と呼んでいる。
 新聞を開いた瞬間に「あっ、味の素がまたやっている」。それが何回か続くと、それほど多くの広告を打たなくても、「またやっている」という認識に変わってくる。味の素の企業広告を今のスタイルにしたのは昨年からだが、できればそのぐらいになるまで続けたいと思っている。
 また、どうしても企業広告だと、まじめな大人向けの内容になってしまう。そこで、若者との接点をつくるために、「味の素スタジアム」など別の取り組みも行っている。FC東京と東京ヴェルディ1969のホームスタジアムになっている「東京スタジアム」が日本で初めてネーミング・ライツ(命名権)を導入したのを機に、今年3月から「味の素スタジアム」になった。

2002.6.1 朝刊 2002.6.8 朝刊
2002.6.15 朝刊 2003.7.23 朝刊

みんなが知っているからブランド

 日本がバブルの時、アメリカは不景気だった。そのころアメリカはブランドの価値に気がついて、どういうふうにブランドの価値を上げ、管理していくかを体系づけていった。その後、日本が不況になり、強いブランドのある会社は生き残れるが、ブランドのない会社は消えていくことを目の当たりにした。遅ればせながらアメリカが指向したことと同じことを、日本でもみんなが言い始めた。
 ブランドの資産価値はどれぐらいあるか、数字に置き換える理論も登場した。しかし、ブランドの価値を具体的にどうやって上げるのかということに関しては、体系立てて理論を展開している人はいない。そこがブランディングの一番難しいところだ。
 ファッションブランドは、女性ならだれもが欲しいと思う。しかし、味の素の提供している商品は、欲しい、欲しくないという種類のブランドとはちょっと違う。そうすると、ブランドとは何かということになる。
 少なくともブランドはみんなが知っていることが大前提になる。全然聞いたこともない名前の商品をブランドとは言わない。それは単なるネーミングであり、商品名でしかない。しかし、最近日本ではブランドがはやっているから、どんな商品でもブランドと言われる。バブルのとき、グルメという言葉がはやったが、最後はおにぎりグルメまで行き着いた。それと同じ道は歩きたくない。今でも価値あるものから価値のないものまで、全部ひっくるめてブランドと言われることがある。

新聞広告にも社会性を

 そのみんなが知っているブランドをつくるのがマス広告の役割だと思うが、今回の企業広告について言えば、味の素のメッセージを託すメディアとしては、テレビではなかなか難しい。メディアの信頼性が重要なポイントになるからだ。新聞とテレビを比べたら、その信頼性は全然違う。そこに新聞の価値がある。
 ただ、残念なのは、新聞が自らの価値を高める努力を怠っているのではないかということだ。以前は、企業や商品にとって新聞に広告を掲載することは市民権を得ることだった。商品が一人前になったひとつの証しのようなところがあった。それが、いまは単なる告知媒体になっているところがある。もっと言えば、新聞はちゃんとした広告しか受け入れないというような姿勢を示すことが、広告に対しても社会性を付加することになると思う。信頼性という新聞の価値は本当に大事にしていかなければならないものだと思っている。
 また、経済欄などに企業の情報が載ることも、新聞のもう一つの価値だ。そこに企業広告が載ることで、さらに効果を生む。


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