特集 2003.11/vol.6-No.8

消費者に近づく
消費者を深く理解したメディアプラン

 これまでメディアプランニングには、接触率を中心とした量的データが使われてきた。メディアプランニングには量的データだけでなく、質的データも必要だと語るのは、エスピーアイの小泉秀昭氏だ。消費者の心理や行動を深く理解したメディアプランニングについて聞いた。
 
――メディアプランニングで質的分析が言われるようになりましたが、質的とは何を指しているのでしょうか。
 今まではマス媒体中心のメディアプランニングで量的データが媒体選択の基準になっていましたが、消費者の心理や行動からメディアを見ていこうということです。質的データをメディアプランニングに取り入れる考え方には2つあります。
 1つは、消費者の心理を深くとらえた効果を測れる「指標」があるのではないかという考え方。もう1つは、分析の手法やメディアプランのアイデアを見つけていく方法として、質的側面を見ていくという考え方です。要するに、アカウントプランナーが広告クリエイティブでやるようなユニークなコンシューマーインサイトを探すことがメディアプランニングでも方法化できないかということです。
 われわれ自身も、最終的にはメディアプランニングの質的な要因を加味した分析、あるいは手法の開発を実現したいと考えています。

――これまで、そうした動きはなかった?
 リーセンシー理論がそうですね。この理論は多少誤解されていて、広告は消費者に1回届けば十分で、それを継続的にやること、つまり、リーチ最大化の理論のように理解されていますが、実はそうではない。「広告メッセージは、商品を購入しようとしている消費者に対して、最も直接的に機能する」という考え方に基づいた理論です。
 どういうことかというと、たとえば、トイレットペーパーが必要もないのに欲しくなる人はいません。その時に広告メッセージを届けてもそれほど効果はない。なくなったときに、はじめて広告のメッセージは効果を持つという考え方です。トイレットペーパーがなくなるタイミングは人それぞれ違いますが、その中で極力リーチを高めることが投資効率を高めることになる。要するに、リーセンシー理論というのは、購入者が本当に欲しくなった、必要だと感じている時にメディアに接触させる。そうしないと効果がないという考え方です。

消費者に近いメディアを探す

――実際に、どうプランニングしていくのですか。
 クリエイティブプランニングという方向が、まずあります。今までメディアと考えられていなかったものを広告メディアとして見つけていく方向です。たとえば、ナイキの公園のゴミ箱をバスケットのゴールに見立てたものや、広い芝生に自然の素材を原料にしたビールの広告を描くなどの例がありますが、そういうふうに今までにないユニークなメディアのアイデアを考えていく。アカウントプランニングの手法と同じように質的データをもとに進めていきます。
 そのためには、まず、消費者自体を深くとらえ、そこから本当に消費者に届くメディアは何かを考えていく必要がある。具体的には、ターゲットとなる消費者の1日の行動分析から発想していく。消費者がどういう生活をし、どんなメディアとどういう気持ちでいつ接触しているのかなどを深くとらえ、そこから最適なメディアを見つけていくというものです。もう一つは、ブランドの課題から考えていく方法です。たとえば、革新性やユニークさをコンセプトとしたブランドがあった場合に、それを伝えるのに最も良いメディアは何か。ターゲットがブランドの革新性をよりインパクトのある形で感じられるメディアは何か。それは果たして既存のメディアなのか、新しいメディアなのか。もっと広告をターゲットに近づけられるメディアがあるかもしれない。そういうふうに考えていく方向です。この両者を加味することで、本当の意味でのコンシューマーインサイトをとらえたメディアプランニングができると思っています。

広告を「置く」から「近づける」へ

――消費者の行動は、実際に調査するのですか。
The Day in the Life
 IMCやブランド論で「ブランドコンタクト」という考え方がありますが、受け手をターゲットの固まりとしてとらえるのではなくて、1人の人間として、どのような生活を送り、どのような行動をどのような気持ちで送っているのか見ていくというものです。
 具体的にエスピーアイでは、The Day in the Lifeという手法を用いています。これは、量的・質的な調査データを基にメディアプランナーが消費者のプロフィルと彼らの1日を日記形式で記述するというものです。たとえば、36歳のサラリーマンで、年収は500万円前後、分譲マンションに住んでいて、家族4人。奥さんの趣味は……というように、ターゲットはどういう人たちなのかを具体的に描いていく。さらに、朝起きてから夜寝るまでのメディア接触も見ていく。まず朝刊に目を通す。あまり時間がないので、話題になるような記事と、娘が来春小学校に入学することもあって、教育や育児に関する記事に目を通すことにしているなど、単にどんなメディアに接触しているかではなく、なぜ接触しているかを含め消費者の心理を深く推察しながら見ていきます。
 こういうふうに分析することで、消費者がどういうオケージョンで、どういう気持ちでそのメディアに接しているのかがわかってくる。そうすることで、単に量的な接触データからではなかなか現れてこないメディアの発見や発想を引き出していく。たとえば、洋画を好きな人は英会話学校に行く人が多い。そういう人たちは、外国に行きたい、外の世界に接したいという気持ちが強いからだと思うのですが、それが見えてくれば、英会話学校に洋画のポスターを張るという発想も出てくる。

――広告が本当に効く場所に広告を出す。
 今までは、どちらかというと人がたくさんいるところに広告を置く発想だったと思うのです。これからは、ある人の生活の中に広告を近づけていくという発想が必要だと思います。今のメディア状況の中では、広告を「置く」というより「近づける」という発想がないと、消費者に対する伝わり方が薄まってしまって、それほど効果が出ない。しかも、1人に効果が出ないものは、大勢の人にも効果が出ない。ターゲットを個でとらえる時代だと感じています。

質的データは仮説立案が役割

メディアプランニングの質的アプローチの考え方
――しかし、やはり広告には多くの人に知らせる役割もあります。
 実際のメディアプランニングでは、定量的な要素も加味しています。質的データは、メディアプランニングの発想の基盤や個々のオケージョンの中で、何か光るメディアはないかを探すために使います。その後、必ずコスト効率がいいか量的側面から分析します。質的データは仮説立案の段階で使うものです。
 別の言い方をすれば、メディアプランニングをやるには、数字だけではなくて、ブランド全体や消費者を見る必要があるということです。メディアプランナーというと、パソコンに向かって数字を足したり、掛けたりしている人というイメージがありますが、数字だけでは間違う場合がある。

――どういうことですか?
 たとえば、年を取っていても若者といっしょにスポーツをし、海外にも積極的に出かけるお年寄りがターゲットのブランドがあったとします。その広告媒体に何がいいか。単に65歳以上が接触するメディアということで、そのCPMだけで選んでしまうと、『壮快』『健康』というような雑誌が上位に出てくる。常識で考えればすぐわかりますが、こうした雑誌は元気なお年寄りよりむしろ、健康になりたい人が読む雑誌です。ところが数字だけ見ていると、それを見落としてしまうことがあるのです。
 もし、そのターゲットが、朝起きてスポーツクラブに行くという行動パターンがあるとわかれば、そのブランドを印象づけるには、スポーツクラブが非常に効果的なメディアになるかもしれない。そういうように質的データは、ブランドとのかかわり合いを見つけていくアイデアを出す段階で使っていきます。

――消費者の行動を日記形式で調べるということですが、その中で何か引っかかるものを見つけていくということですか。
 個別の事象をあまり断片的にとらえない方がいいですね。まず全体を読んで、ターゲットがどういう人なのかつかんで、それを発想の基盤にする。そうすると、単に接触データの数字を見てプランニングするのとは違う結果が出てくる。


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