特集 2003.7・8/vol.6-No.4・5

広告にとってデータとは何か
新しいメディアミックスに挑戦するために

 データだけに翻弄されてすべてを片付けてしまってはいけない。媒体選択には、「メディアのソムリエ」が必要だ。キヤノン販売宣伝計画部の細田悦弘課長は、そう指摘する。
 
――最近の広告キャンペーンはメディアミックスが当たり前になってきていますが、媒体の判断基準はどこに置いていますか。
 プラン、ドゥ、チェック、アクションによるノウハウ・データの蓄積がメディアミックスの基本なのですが、そこに必ずキヤノンの味付けをします。データがいくらよくても、選ばない媒体もある。特に雑誌はクラスメディアですから、部数が1番というだけでは、選択理由にはなりません。その判断基準が媒体担当者の自分なりのノーム値(基準値)です。センスというか、えも言われぬものというのがありますが、ノーム値も料理に例えれば、レシピにすべて表すことができないものです。
 テレビスポットもやみくもに入れているわけではなくて、ターゲットに合わせて、多くの方に見ていただきたい(リーチ的側面)のと、とりわけ、その層の中心的な方に見ていただく(視聴質的側面)とか、総合的に考えます。

――最終的には個人の判断が重要だということですか。
 広告キャンペーンには、ある価値基準に基づいた統一性、一貫性がないといけない。その基準がノーム値です。
 どんなに既存のデータを積み上げても完璧なシミュレーションはできないし、広告効果は100%は予測でき得ません。宣伝部のメディアプランニングセクションは、媒体選択のセオリーと、なぜそういうプランニングにしたかというデータに裏打ちされたアカウンタビリティーを持ち、それを自分なりのノーム値で最終判断することができて、はじめて任せてもらえる仕事です。私の担当する宣伝部のメディアプランニングセクションは「メディアのソムリエ」とも言えます。ソムリエも、やはりワインを総合的に判断し、最後は自分の舌を信じる。それと媒体担当はよく似ていて、広告効果を上げるビンテージビークルを見極めるのは、やはり“媒体ソムリエの舌とセンス”だと思っています。ですから、データ上の費用対効果をベースに、多角的に多面的に媒体選択をすべきだと思っています。

――メディアミックスは組み合わせ型か、混合型か、よく言われますが。
 私は、「積み木より粘土細工」と言っているのですが、本当に“ぐしゃっ”とミックスしないといけないと思うんですよ。1つ1つ単独では効果のある媒体を選んでも、全体としては効果が上がらない場合がある。組み合わせ型か混合型かということなら、混合型であるべきです。リーセンシー効果ということを最近よく言いますね。媒体の接触は、生活者のライフスタイルを反映しますので、朝、新聞やテレビで広告を見せて、通勤時の交通広告、そして電車で雑誌を読むだろうと予測して、そこにも広告を掲載する。購買行動へと丁寧にいざなうには、ストーリーやコンテクストを加味した、メディアミックスをやっていかないといけないと思います。

新しいメディアミックス

――メディアが増えてメディアミックスもむずかしくなっていませんか。
2002.11.20朝刊
 主要4媒体といわれる新聞・テレビ・雑誌・ラジオを組み合わせた場合を「トラディショナルメディアミックス」と呼んでいますが、そういう枠にとらわれない新しいメディアミックスを今後はしていかないといけないと思います。新しいメディアミックスは、二律背反への挑戦なんですね。一挙両得をしていかないといけない。
 今までは速報性の高いメディアは簡単な情報しか伝わらないし、詳しい情報を伝えるメディアは遅いと言われてきました。たとえばそれが、インターネットと紙媒体を結びつけて、紙媒体の中にURLを入れれば詳しい情報はインターネットで伝えられますから、この二律背反が解消する。新聞の小枠でもURLから詳細情報へ誘導できる。
 デジタルハイビジョンはリアルタイム映像とデータ放送を連動して使えるし、電波は記録できないというけれども、プル型のホームサーバーだったらできる。料理番組でレシピが表示されたらそこで止められるし、プリンタにも出せるようになるかもしれない。そこからインターネットにも入れるようになってくるでしょう。 
 また、これまで広く伝わるメディアは相手が正確にわからないと言われてきましたが、BSやCS、ブロードバンドはターゲットがつかめてくる。有料で登録しているわけだから基本的には把握できるわけです。
 それから、これまでテレビは受動的なメディアといわれていましたが、そういうプル型のテレビだと自分から見るわけですから、テレビも能動的なメディアになる。というように、これまで二律背反だったものが、一挙両得が可能になる世の中になる。CMもそうした環境を最大限生かした露出形態を追求していかなくてはなりません。

――先ほどアカウンタビリティーと言われましたが、新しいメディアの利用は社内の説得も重要になる?
 確かにリアルターゲットだけでなく、社内のステークホルダーに対するケアも必要ですね。まだテレビという意識は強いし、インターネットやCSの専門チャンネルを使うとしたら、それがだれにどのくらい見られているかデータで立証しないといけない。そういう新しいメディアを積極的に使っていくのはこれからで、最近はマーケティングの打ち合わせにも媒体担当が入るようになっています。まさに、メディアミックスの前の川上であるマーケティングミックスからのアプローチが主流です。

新聞で語るべきこと

――キヤノンは、生産財からパーソナルユースまで商品がかなり幅広い。使うメディアも多様だと思うのですが。
 電波媒体から紙媒体まで幅広く活用しています。雑誌もパソコン誌、女性誌、そして専門誌まで使っています。

――その中で新聞の位置づけというのは?
2003.6.13朝刊
 いま、ブランドの時代であることは確かです。たとえば、デジタルカメラにしても一般的な商品の良さを訴えていくのではなく、キヤノンのデジカメと言ってもらわないといけない時代です。そのためにはイメージではなく、特筆すべき「事実」を訴えていくことが重要で、その積み重ねが「神話」を生み出し、ブランド形成につながっていきます。われわれの商品は高スペックな商品が多いので、商品情報を詳細に語っていく必要がある。そうすると、やはり紙媒体で語っていかないと伝わりにくい。特に、新聞は大発行部数と大きな紙面が魅力的です。それと、昨今では、印刷技術が飛躍的に発展し、「カラーイメージ」を基本に訴求することが多いので活用しています。
 新聞には、信頼性と広く伝わることによる口コミ効果もあります。やはり、「今日の○○新聞の広告で」という効果は大きい。クラスメディアでターゲットに当てるのも大事なのですが、一般商品の場合、新聞広告の方が「ああ、あれね」となる確率ははるかに高い。

――媒体選択の場合、他のメディアと新聞はどのようなところが比較されるのでしょうか。
 小規模のメディアミックスで、よく議論になるのは、新聞に配分する予算です。少ししかできないなら雑誌で接触回数を増やすか、テレビのスポットをその分強化するかという話になる。その時データがあれば、新聞はこれだけちゃんとリーチしているということが裏付けられる。
 それは、速報的なアンケートでもいいわけです。今はアカウンタビリティーの時代ですから、テレビの視聴率と同じように、きょう掲載した新聞広告がどれだけ見られたかという素朴なことに答えてくれるのは、大事なことです。
 15段のカラー広告を出して、それがどのくらい見られ、どうして見られたのかということがわかればいい。15段だったから見られたのか、カラーだから見られたのか。デジカメを好きな読者が多いからデジカメに反応してくれたのか。そういう単純なことでもかなり違います。

――プランニングの段階で必要な新聞のデータというと。

 部数が多いに越したことはないのですが、広告主の立場からすれば、やはり読者の顔がちゃんと見えて、ターゲットとする読者の濃いところに届けばいいということですね。大量の発行部数は重要ですが、実際に読んでいる人が何人で、どういう人に読まれているかというプロファイルです。雑誌でいったらクラスメディア的なデータがもっと欲しい。性別、年齢、年収とかいう一般的なデータではなくて、われわれの商品を買ってくれる志向を持った回読を含めた読者像をもっとアピールしてくれれば、媒体選択しやすい。それは、新聞社にとっても差別化になるのではないでしょうか。そうすることで、新聞ごとに個性的な出稿ができるようになると思います。

共通指標で管理する

――メディアミックスに際して、広告管理の指標は共通?

 全体のメディアプランニングにおいて、ブランドを管理するという視点で共通指標で管理しています。料理の例えでいうと、社内のマーケティング部門と共通の健康指標をもたないといけないということです。たとえば健康に5キロやせたいとしますね。人間ドックの詳細なデータを共有することが望ましいのですが、体全部の健康を管理してやせることは煩雑で困難です。だから、せめてみんなで体重と脂肪率だけを見ましょうと決めて、プラン、ドゥ、チェック、アクションで管理していく。実際は、認知率だったり、理解率だったり、購入意向だったりするのですが、シンプルな共通の指標で追いかける。

広告営業もソリューション

――媒体社の広告営業に対しては……。
 簡単に言ったら、旧態依然の営業をやってはいかんということですね。「ちわー」みたいな営業のままだと、これからはなかなか難しいんじゃないでしょうか。ともすると、新企画ができました、この企画はこうですと、延々と一般的な企画書の説明をして「いかがでしょうか」という、商品本位のアプローチだった。
 これからは広告営業にも、お客さまの問題解決、お客さまは何を欲して、それをどう解決するかという提案、ソリューションが大事になってくると思うんですね。われわれは、「顧客主語」という言い方をしている。
 お客さまは何でお困りですか。コピー機の置き場所に困ってらっしゃいますか。それではコピー、ファクス、プリンタが一体となった商品はいかがでしょうか。スペースは小さくて済みますし、このソフトウエアでこんな便利な仕上げになります。リース料も今より安くなります。機能の付加価値、スペースの付加価値を生み出し、料金の付加価値を生み出していく。簡単にいったら、そういうのがソリューションの原点です。

――広告主がいま欲していることを解決する提案を、ということですね。
 広告会社などの媒体担当として大事なことは、効率と付加価値。これも大事なキーワードだと思うんですね。当社は携帯電話のバッテリー開発も行っていますが、そこで求められているのは、小さく長く安くということです。効率をよくして付加価値を出していかないといけない。広告会社の媒体担当も商品本位営業からソリューションビジネスへと変わるべきだと思います。企画、提案力の総合力、マーケティングサポート、メディアプランニングサポートをちゃんとできなければ、パートナーとは言えない。
 そういう意味では、新聞社も、もっと個性を出してもいいというのが、要望としてありますね。もともと記事にはスタンスがあり、主張も違うわけですから、広告にも違いがあっていいと思います。

――広告メディアとして、新聞の使い勝手はどうでしょうか。
 広告を出稿する側から見た新聞の問題は、掲載日が決まるのが遅いことですね。戦略的にメディアミックスをやろうとするときは、新聞は使いにくい媒体になっています。たとえばですが、一定の条件を満たした“会員”になれば必ず指定日に面が押さえられるようになってもいいわけです。あるいは、スポーツ面対向など特定の面を指定する“グリーン指定”があるとか、逆に早期に申し込めば割引になるとか。料金を払ってでもいいから、早期割付やグリーン指定を受けたい企業はあると思います。
 広告会社も、そういう広告主の要望をきちっと伝えて欲しいと思いますね。よく言うのですが、付き合いたくない広告会社は広告主の言ったことを正しく理解せず間違って伝える。並の広告会社は、そこそこ正しく理解してそのまま伝える。いい広告会社は、ちゃんと理解してくれてうまく伝えてくれるところです。
 そういう意味では、媒体の発注は究極のコミュニケーションリレーです。広告会社のクライアント担当営業、媒体担当の営業、媒体社側の営業、そのスタッフと、ふつう5、6人の人を介さないと発注できない。
 ハイレベルのコミュニケーション能力は発注する側にも必要です。われわれのオリエンテーションが悪いと、いいものは出てきません。青は藍より出でて、藍より青くなりません。鑑識眼がないと、広告会社がいいものをつくってきても見えないのと同じです。

媒体社とも「あうん」の呼吸で

――データはプランニングにとってどの程度必要なものなのでしょうか。
 メディアプランニングの仕事は、全体を三角形とすると、下三分の一の台形の部分がアカウンタビリティー、データです。真ん中がソムリエやシェフとしてのカリスマ性、上が社内外の信頼関係といった三層構造と考えています。データだけに翻弄されてすべてを片づけてしまうつもりはまったくないし、それは、してはいけないことです。ソムリエはノーム値に鑑みて、こうですと言えばいい。その裏づけが露出後の調査で出て来ればいいだけです。プラン、ドゥ、チェック、アクションの効果測定サイクルはかなりでき上がっていますが、それだけで動いてはいません。そこには特有のノーム値が必要になる。そのためには、広告会社はもとより、媒体社とも「あうん」の呼吸があるというのが望ましい関係だと思っています。




広告の役割の変化に応えるデータを
山本泰利氏→


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