特集 2003.1/vol.5-No.10

コミュニケーションが変わった
情報ハブ化する“オピニオンリーダー”

 電通総研では、「個人間コミュニケーション」を定量的側面から分析し、モデル化する試みの一環として、「口コミネットワーク」に関する調査を一昨年11月に実施している。その分析結果で注目されたのが、オピニオンリーダーの位置づけだ。そこにどんな変化が起こっているのか。電通総研産業・経済部長の山本浩一氏と調査・分析を担当した業務企画部主任研究員・山田浩之氏に聞いた。
 
――今回の研究のきっかけからお聞かせください。
 山本 もともとは、別の目的の調査から出てきた仮説です。調査を分析するために、回答者をオピニオンリーダー層とフォロワー層とに分けて分析の糸口にしていこうと思ってデータを回してみたのですが、どうもきれいに分かれない。オピニオンリーダー、フォロワーといったこれまでの区別が、実際の調査結果から見えてこないのです。一体どうなっているんだということから始まった研究です。

情報ハブとしてのリーダー

――具体的にその仮説というのは。
 山本 従来型のオピニオンリーダー像は、情報感度が非常に高く、いろいろな所から情報を収集してきて、彼らが媒介となってフォロワー層に情報を伝えていくというものでした。今回の分析の結果から見えてきたのは、むしろまわりの人たちの情報を吸い上げている存在だということです。最近のリーダー層は、言わば、ある集団の中での情報ハブ的な存在であって、必ずしもさまざまなところから情報を積極的にとってきて、それを流布している存在ではないという傾向が見られるのです。
 もう少し具体的にいうと、自分が人に影響を及ぼす度合いと人から影響を及ぼされる度合いに、強い相関が出て来ている。人に影響を及ぼすけれども人からは影響されないというのが、従来の典型的なオピニオンリーダーです。今回浮かび上がってきたのは、そうではなくて、人に影響を及ぼすけれども、まわりの人たちのトレンドもいつもウオッチしている傾向がものすごく強いリーダー層の存在です。

――音楽、映画、ファッション、清涼飲料といったトピック別にも分析されていますね。
 山本 あるトピックのリーダーがほかのトピックのリーダーでもあるという重なりの度合いは、比較的大きいものもあれば、小さいものもあります。
 また、各領域のリーダー層とフォロワー層の相関を取ってみると、特に化粧品の相関が高く出ている。パソコンですらそういう傾向が出ています。パソコンにはオタクっぽい人がいて、「おれの言うことを聞け」みたいな商品と思われがちですが、そういう人でも、かなり敏感に人の話を聞いています。逆にいえば、そういうインタラクションがないと情報伝達は行われないということです。

――そうした存在が果たしてオピニオンリーダーと呼べるかということもありますね。
 山本 確かにそうで、暫定的にリーダーと言ってますが、リーダー的な人からフォロワー的な人への一方的な情報伝達はほとんどないと考えるべきだと思うのです。フォロワー的な人たちにもある程度、情報の素地があって、つねにインタラクションしながら情報伝達がなされている、あるいは、そのようにして新しいトレンドが生まれてくるととらえるべきだと思います。
 口コミマーケティングの世界では、これまで、オピニオンリーダーにうまくリーチするメディアを見つけて、そこに集中的に情報を流し、彼らをアイデンティファイすれば情報は全体に伝わるとよく言われてきました。しかし、実際はそうではなくて、フォロワー層にもちゃんと情報を伝達しておいて、情報ハブになっている人との間のインタラクションをいかに起こすかが実は重要だということです。広告でも、そのダイナミズムをどうつくるかが今後ポイントになってくると思います。

――そういうようにコミュニケーションの流れが変わってきた要因は、どこにあると。
 山田 従来は情報を一部の人が握っていたのが、今は個人が直接情報を入手して、比較できる環境が整ってきたということはありますね。パソコンの売れ方がいい例で、これまでは、頼まれてもいないのに教える人がいて口コミで広がっていくということが明らかにあったのですが、今はある程度の情報をだれもが得られるようになってきています。
 山本 映画でも音楽でも、それを評価する視点が、多元的になってきていることもありますね。これまでは専門的な評価の視点は一通りしかなくて、それに通じている人の発言で世の中の評価が決まるというかたちでしたが、今は、いろいろな人の評価を総合して、いいか悪いかが判断されるようになってきているということです。



情報感度が上がったフォロワー

――先ほどフォロワーも情報を持っているという話がありましたが、フォロワーも従来とは変わってきている。
 山本 フォロワーの基本的な特性自体はそれほど変わっていないかもしれません。リーダー層に確かに影響を与えているのですが、その場合も自分から意識してというよりは結果的にそうなっている。リーダーがフォロワーの様子を見ながらインタラクションしているといった傾向が強いと思われます。
 ただ、フォロワー自体の絶対感度が上がってきていることも確かです。かつてはリーダーとフォロワーの間に情報デバイドがあったのですが、そのデバイド、情報格差がかなり埋まって来ているという状況はありますね。これまでかなり限られた層の中に封じ込められていた専門情報が、どんどん広がっていく環境ができてきている。単一な情報が持ちうる影響力が相対的に小さくなってきています。最近は相手の顔色をうかがわないと、「こうだよ」とは言い切れないことが多い。そうでないとオピニオンリーダーとしての立場を維持できなくなってきています。みんながそれなりの情報を持っていて、「違うんじゃない」みたいな意見が、すぐ出てくる。
 フォロワーが情報を持ち始めた理由には、個人間のコミュニケーションコストがかなり低下していることもあります。従来であれば、オピニオンリーダーを頂点としたヒエラルキーのネットワークがないと効率的な情報伝達がなされなかったのに、今はインターネットや携帯電話などのフラットなネットワークが普及して、フォロワー同士が手軽にコミュニケーションできる環境になってきています。
 山田 化粧品のサイトでそれに近い話がありますね。ある夫婦が始めたものですが、化粧品の評価をみんなで書き込むサイトで、今や会員が20万人くらいになって、カスタム商品の発注が取れるレベルまで来ています。今までだと、なかなか商品として成立し得ないものが特注でつくられている。知っている限りでは、そこまで行ってるのは化粧品だけだと思います。音楽や映画は失敗しても体に悪いことはありませんが、化粧品は合わないと肌が荒れたりしますから、フォロワーですら貴重な情報源になるということもあります。

――オピニオンリーダーになる人たちというのは、ある程度似た属性を持っている。
 山本 この間、中・高校生向けの雑誌の編集者にインタビューする機会があったのですが、彼らぐらいまでのオピニオンリーダーというのは、むしろ将来的には高い年収は望めない層が担っている。逆に、将来出世するなと思える層ほど影響力を持っていないという傾向がありますね。

――若者文化を担っているのがそういう人たちなのか、あるいは階層分化の兆しなのか。
 山本 別のプロジェクトで、今の高校生の10年後、20年後を予測するプロジェクトをやっているのですが、そこでは、ハイテンション型とローテンション型のコミュニティーに分かれるという仮説を立てています。意識的にネットワークを形成しようと思ってインタラクションをしているハイテンション型と、その中のインタラクションで遊んでいるローテンション型という分類です。たぶんメールのやり取りでも、やっていることは似ていても、ハイテンション型とローテンション型ではネットワークへの囲われ方やコミュニケーションの持っているバリューが違っているような気がします。


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