特集 2002.12/vol.5-No.9

デザインの時代
ビジネスモデルとしてのデザイン

 電通のブランド・クリエーション・センターは、今年2月設立された。広告産業はこれまで、CI・VIという分野でデザインを中心にサービスを提供してきた。媒体確保とクリエイティブサービスが主要な業務だった広告会社は、企業の資産であるブランドにどのようにかかわろうとしているのか。また、デザインをその中でどう位置づけているのか。局長の冨狭泰氏に聞いた。
 
――デザインの面からみた広告会社の役割からお聞きしたいのですが。
 デザインという視点から見ると、プロダクションを含めた広告クリエイティブ産業全体が、企業の商品開発やコーポレートデザインにかかわっています。企業の戦略的なコミュニケーションにのっとって競合社との差別化を含めたデザインを提供し、CIという分野で一つの産業も形成してきました。そういう意味では、デザイン面でのサービスは、これまでも広告会社の主な仕事だったと言えます。
 80年代にCIがブームになり、ビジュアル面で企業を主張することが流行しましたが、実際は70年代からはじまった動きで、これには二つの流れがありました。
 一つはコーポレートデザインそのものが注目された時代だったということです。それはアメリカやヨーロッパの動きとも連動していたのですが、VI(ビジュアル・アイデンティティー)というかたちで、非常にテクニカルな流れとして今も存在しています。
 もう一つは、企業の経営環境の変化への対応です。周年事業や外資の日本進出に備え企業の統合が盛んな時期で、企業に内部固めをしようという意識が高まっていたことです。企業の内部管理を強める、あるいは合併した企業内部の意識統一のため、CIやVIを導入し、社員の士気を高める動きが起こった。また、製品やサービスを提供する姿勢が、より顧客志向になってきた時代だったこともあります。顧客志向という目標を明確に打ち出し、その方向に戦略を統一していく動きで、そのきっかけとしてCIやVIが利用されたということです。

顧客との関係性を維持するための戦略へ

――それが今はブランド構築に変わってきた?
 最近行われているCIやVIにも、企業の内部的な統一をねらいとしたものはあります。こうした動きは、今も続いています。ただ、それはコーポレートブランド経営やコーポレートガバナンスという言葉に置き換えられてきています。
 最近の動きでこれまでと違う点は、顧客との関係性において、CIを統一的にやっていこうという動きが出てきたことです。たとえば、企業が不祥事を起こしたときにブランドをどう守るか、傷ついたブランドをどう立て直すかということもその一環です。ブランドの価値が毀損される、という言い方がされるようになってきましたが、それはまさに、顧客との関係性が不祥事を起こすことで深く傷ついてしまうからです。
 最近の企業は、顧客は自分たちの資産という考え方をするようになってきました。顧客が製品やサービスを継続的に購入してくれることが、企業の価値の源泉だという考え方です。この顧客との関係性を維持する上で、企業のデザイン戦略、あるいはCIはブランド化されるととらえるべきだと思うのです。

――デザインが企業全体の問題としてとらえられるようになってきたということですか。
 これまでのデザインは、ただ単純に顧客が受け入れやすいデザイン、あるいは顧客のニーズに応じたデザインが重要でした。が、それだけではなく、さらに長期的に見て、自分たちの製品を高いロイヤルティーを持って受け入れてくれる顧客層はどこにいるのかを鮮明にし、彼らに向けたデザインが重要になってきたということです。CIやVI、あるいは自社の提供する製品デザインに、明確な方向性を持たせる必要が出てきた。
 コアになる顧客を発見し、その顧客が自社の製品を生活の文脈の中にどう取り入れているか。ただ単に製品の機能ではなく、顧客の価値観の中で製品はどういう意味を持っているのかを含めて、それに適応したデザインを採用する動きに少しずつ変わってきていると思います。

ビジネスモデルとしてのブランド

――そうやってみていくと、80年代のCIにしても、今のブランド論にしても、一つのブームでしかないということになりませんか。
 経営の考え方は、常に新しくなっていくということだと思うのです。組織にしても、事業形態にしても、環境に適応して変わっています。経営環境や市場環境が変われば、企業は当然それにまた対応しなければいけません。
 広告会社も、そのときどきの企業の課題に応えるかたちでサービスを提供してきました。別な言い方をすれば、そのときどきに合わせたビジネスモデルを提案してきた。そういう意味では、企業の内部固め的なCI、VIは一般化しています。しかし、企業の統合再編は今もありますし、市場は必ず存在します。CI、VIを専門にやってきたデザイナーもたくさんいて、今もそこでがんばっています。
 そして、今はコーポレートブランドの構築が大きな流れになっている。ブランドを企業価値のシンボルとしてとらえ、ブランド価値を高めるような戦略が求められている。そういうことだと思うのです。
 ただ、本当にブランドだけでいいのか。今はその先がちょっと読めない状況です。

デザインはメディアによって変化する

――何か、変化の兆しがある?
新しくなった電通のロゴ  ブランドイメージには、当然デザインが関係します。これまでのデザインは、製品・パッケージ・広告を意識したスタティック(静的)なデザインを中心に考えられてきました。ところがインターネットが登場してから変わってきました。たとえば、動きのついたムービングロゴが当たり前になっています。そのための新しい書体やデザインの考え方が必要になってきています。
 実は、新しくつくられた電通のロゴも、そういう考えでつくられています。これはコンピューター・ディスプレー用に開発された「Verdana」という書体が使われています。

――インターネットが、広告のデザインを変え始めているということですか。
 インターネットに合った効果の高いデザインが求められてきていますね。インターネットの場合、見る人の機器のレベルは千差万別で、鮮明に写るディスプレーを使用している人もいれば、そうではない人もいる。そういうばらつきがあっても、認知できるロゴやデザインであることが重要になっています。
 たとえば、あるサイトを訪れても、リンクで次から次へと新しいページに移っていきますから、そういうときでも、目を引くロゴが必要になる。また、半分ぐらいしかロゴが表示されない段階でも、どの企業だということがわかるという部分での視認性や書体が求められている。ロゴに限らず、インターネットのサイトを想定したデザインの考え方が必要になっています。ただ、それはまだ、試行錯誤でやっていかなければならない段階ですね。
 ムービングロゴは一つの例ですが、要するに、インターネットなど新しいメディアが登場したことによって、デザイン作業のプロセスに変革が必要になってきているということです。

――従来のデザイナーでは対応できなくなってきた。
 日本のプロフェッショナルなデザイナーというのは、グラフィックデザインの専門家で、その範囲では一般の消費者の反応をある程度予測できる人たちです。インターネットはデザイナーにとっては未知の分野で、これからは一般の消費者がデザイン産業を変えていくことになると思います。広告会社の発想は、常に、消費者や顧客が最終的なデザインや商品価値を決めるという立場ですから。

――実際にブランド・クリエーション・センターに来る依頼というのは、宣伝部からが多い?
 今年二月にブランド構築の専門の部署として独立したのですが、広告部門ではない部署、たとえば経営企画部門ですとか、これまで広告会社と接触の少ないところからの依頼が増えていますね。
 これまでは、事業部門や広告販促部門が広告会社の窓口でした。各営業部門は、企業全体のためというより、互いに競い合う形で成長してきた。それをIMC、統合型マーケティングコミュニケーションという言葉がありますが、顧客とのコミュニケーションを全体的に見直し、発信するメッセージに一貫性を持たせるという考えが企業に出てきました。これまで販売促進や宣伝を担当していた事業部の上の組織がトップの考え方を実行するというかたちになってきています。

――広告出稿とは直接関係がない?
 企画を提案することによって対価をいただく。実質的にはフィー制ですね。日本の広告会社は広告のコミッションをいただくことが最大の目的になっていますから、広告会社の営業、つまりお得意先担当も企画ですとか、あるいは商品デザインなどの仕事でビジネスをすることに消極的な面がありました。得意先企業の変化に、広告会社も組織として対応をしていこうということです。

トータルなセンスが求められるデザイン

――企業のデザインに対する意識は、最近変わってきたと感じますか。
 先ほども言ったように、基本的にVIやCI、製品のデザインに関しては、トップマターという意識が、だんだん一般化しつつあります。経営層が自ら決めるという意識が製造業を中心に浸透してきていますね。 
 ただ、デザインの判断が、最近は非常にむずかしいレベルにまで来ていることも事実です。
 ブランドの議論が出てくる前に注目されていたのは、パッケージデザインやブランドネームです。従来のアメリカの製品開発の考え方では、開発の最後に登場するのがコマーシャリゼーション、商品化です。中身がある程度できたから、それをくるむもの、あるいはそれをお化粧するものということから、パッケージやブランドネームが出てきた。
 また、商品によっては2、3年で大きくもうけたいものもありますし、長期的に考えて必ずしも売れることだけを目標にしているだけではないものもあります。既存のブランドをリニューアルするのか、新しいブランドのときにも、長期的な育成を想定しながらやっていくかでデザイン戦略にも違いが生まれます。清涼飲料品の場合、5年から6年のサイクルで新しい商品カテゴリーが登場することが、市場の拡大維持につながることが経験的にわかっている。いわゆるビジネスモデルとして確立しているものもある。
 単に製品をつくるだけ、あるいは売るだけではないトータルなセンスが求められてきています。経営者の視点ばかりではなく、顧客としての子供や若者、女性の感覚も求められますし、その企業なりのデザインポリシーを決めていかなければいけない。それが、会社の体質にまでなっていることが必要です。そう簡単には身につけられない部分がありますね。
 どの企業も、それぞれの製品やサービスに対する理念は持っていますが、消費者の立場から言うと、出来上がったものがすべてですから、それで企業のセンスやポリシーが判断されてしまうというむずかしさがあります。

デザインビジネスの可能性

――製品のデザインは、外部に発注するところが多い。
 業種にもよりますが、自分のところでデザイン部門を持っていても、製品のデザインなど実作業は外部に依頼することが多いですね。ディレクションする側のデザインポリシーさえしっかりしていれば、問題はない。欧米でも、それは同じです。

――海外のデザイナーに発注するケースもあると聞きますが?
 日本の企業や広告会社の場合、国内のデザイナーに依頼すると同時に、海外にデザインを発注するケースもあります。製品の技術的なレベルは競争力があると思いますが、インダストリアルデザインにしても、グラフィックデザインなどでも、デザインは日本ではビジネスをリードするところまでに至っていません。デザインをビジネスの中に取り込んでいく考え方に一貫性が乏しい感じがします。やはり、デザインの思想を持たないと日本発というのはむずかしい。今後、デザインビジネスが重要になると思うのですが、日本で本当の意味でデザインビジネスが成立しているかというと、疑問です。もちろん、そういう老舗のところはありますが、デザインビジネスを日本から起こしていく動きは、まだ乏しい。
 国内メーカーの中には、生産コストがかからないということで中国で生産するところが多くなっています。そうなった時に、日本に何が残るかということです。デザインビジネスは、その一つの方向だと思います。

――イギリスもサッチャー政権時代にデザイン政策に力を入れ、ブレア政権にも受け継がれていますね。デザイン主導の企業活動が、生産戦略や仕組みの再構築を促したといわれています。2000年のイギリスのクリエイティブ産業の経済規模は約20兆円で、GDPの5%を超えています。過去10年間でイギリス経済全体と比べると、クリエイティブ産業は2倍の成長率で伸びている。
 イギリス産業再生のきっかけの一つがデザイン政策だといわれていますね。それだけでなく、ハリウッドやイタリアで活躍するデザイナーにもイギリス人が多くなっています。また、ロンドン、ニューヨーク、ミラノ、アムステルダム、そういった都市では、国を挙げてデザインの集積を図っています。
 日本もファッションの分野ではパリコレクションでも評価されていますが、コーポレートデザインの世界の潮流を日本からつくり出す力はまだありません。CI、VIの動きが大きくなれば、海外でも支持されていくというようになるのでしょうが。それにはやはり、デザインの集積が必要だと思うのです。それも個々の企業だけではなく、一つの産業として人材を育てていかなければいけない。その中で、お互いに切磋琢磨していく環境が必要だと思います。
 ただ、注意しなければならないのは、これからの時代はますます戦略の中でのデザインの良し悪しが問われるということです。



ブランド資産の継承とデザイン
中村史郎氏→


デザインという名のものづくり
栄久庵憲司氏→
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