特集 2002.7・8/vol.5-No.4・5

デジタル放送の現状を探る
視聴者から見たデジタル放送
 
 デジタル放送は、視聴者には“見たい番組を見たいときに”というメリットをもたらす。反面、視聴者の多様な欲求に応えていく放送の現場には、クリアしなければならない課題もある。日本総合研究所・調査部 メディア研究センター所長の西正氏に、デジタル放送の現状について両面から語ってもらった。

 BSデジタルやCS放送の今後について必ず聞かれるのは、「来年の今ごろは何世帯ぐらいまで普及しているか」ということだ。CS放送はケーブルテレビ経由の視聴も含めて700万世帯で見られるようになったが、それが今後増えるか、減るかと聞かれれば、「圧倒的に増える」と答えるだろう。
 ただ、今の仕組みのままでは限界が来る。その理由については後で述べるとして、まず、デジタル放送の特長を改めて整理してみたい。

視聴者にとっての多チャンネル化、二つの側面

 よく言われることだが、デジタル放送の特長は双方向性と多チャンネル化だ。
 双方向性は、広告主にとっては大きなメリットだ。一昨年12月から始まったBSデジタル放送でも、かなり詳しい視聴者データがとれている。これは、アナログ放送では絶対にできなかったことだ。
 デジタル化によってチャンネル数は飛躍的に増える。このテレビの多チャンネル化には疑問を持つ人がいる。確かに、今の地上波でさえ一人の人が全部見られるわけではない。そのとき見ているのは1チャンネルだけだ。しかし、選ぶという視点で見ると、数チャンネルから選ぶのと数百チャンネルから選ぶのとでは大きな違いがある。
 例えば、CSの番組には囲碁・将棋、ゴルフ、釣り、ガーデニングなど数限りなくマニアックなチャンネルがある。総合編成を行っている地上波テレビでは、疲れて帰ってきたお父さんが釣りが見たいと思っても番組がなければ見られない。それが、釣りのチャンネルを契約しておけば、何時に帰っても見られるようになる。
 好きなときに好きなものが見られるということは、テレビ番組の編成を視聴者が自分でできるということだ。このことの持つ意味は大きい。広告主にとっても、視聴者の好みが直接わかるのは大きな魅力だと思う。

重要なのは番組(コンテンツ)

 放送のデジタル化は、このように視聴者にとっても広告主にとってもプラスの面は大きいが、問題がないわけではない。
 CSで200チャンネル前後、新しく始まったCS110度も百チャンネルには育ってくるだろう。BSデジタルで8チャンネル、地上波もある。しかし、一般家庭でこれを全部見ることはほとんど不可能だ。ベランダにパラボラアンテナを並べ、チューナーをテレビの下にいくつも積まなければならない。視聴者から見たら、そんな非現実的なことはない。
 テレビの前に座っている視聴者に、地上波、BS、CSの区別はない。しかし、行政は旧郵政省のときから地上放送課、衛星放送課、有線放送課などに分かれていて、その行政区分に従って放送局がある。
 「CNNは何局か」、アメリカでそんな議論をする人はいない。CNNは衛星で配信しているが、元々ケーブルニュースネットワークの略だ。放送しているのはディレクTVという衛星放送で、CNNそのものは番組提供者だ。ケーブルなのか、衛星なのかという区別はない。法律も、イギリスやアメリカでは放送法、通信法の区別はなく、一本化されている。視聴者にとっては1本のアンテナ、1台のテレビの前で好きな番組が見られればそれでいいはずなのに、現状はそうなってはいない。

放送と通信の間にある困難な問題

 放送が多チャンネル化すると同時に、ブロードバンドの登場も送り手にとって頭の痛い問題がある。今、インターネットで問題になっているのは著作権の問題だ。テレビ番組をブロードバンドで配信するには、その著作権者の権利処理が大きなネックになっている。
 ハリウッドの映画の権利を買う場合、地上波やCSの有料チャンネルなら放映権をいくらにするかという交渉になるが、インターネットでと言った時点で交渉は打ち切られる。「インターネットに映画を流したら、あっという間に世界中に行きわたって、もうお金が取れなくなる」というわけだ。
 ハリウッドは、映画というコンテンツでどうやってお金をもうけるかを懸命に考えている。まず劇場で公開し、その後、ペーパービューで見せ、ペイテレビに売り、ビデオ化し、それから地上波に行って、シンジケーションに行く。何段階にも分けて、少しずつ出し方を広げていきながら、確実にお金を稼いでいく。
 つまり、放送と通信では権利処理がまるで違うということだ。放送の権利は取っているから、テレビ番組はテレビで流せる。しかし、ブロードバンドでと言ったら、困難な権利処理問題に直面することになる。
 初めにデジタル放送は今の仕組みのままだったら限界が来ると言ったのは、こうしたいくつかの理由がある。

思い切った変革の必要性

 その解決策の一つとして、光ファイバーの利用ができないかという案がある。これをわかりやすくいうと、光ファイバーの中に車線が二つある。普通の道路であれば車線変更ができると便利だが、光ファイバーを通じてコンテンツのやりとりをする時には、車線変更ができると困ることがある。だから光ファイバーの中に中央分離帯をつくれないかという試みだ。
 これがいかに便利かというと、映像配信の部分では一本の光ファイバーで500チャンネル、デジタルハイビジョンでも110チャンネル送れる。当然のことながら、もう一方の車線の方はIP、100メガの高速インターネットができる。そういうことが可能になる技術だ。
 映像配信の部分は、絶対にパソコンの方には行かないで、テレビに行く。IPの方は全部パソコンの方につながる。放送と通信が完全に分離している。そうすると、権利処理の問題も一切起こらない。もちろん、テレビを見ながら、IPでレスポンスを返すこともできる。
 首都圏では東京タワーから電波が出て中継基地を通りながら各家庭に行くわけだが、東京都で電波を家庭で直接受けて地上波を見ている世帯は22%しかない。残りの78%はマンションの共聴やビルによる難視聴対策のためケーブルで見ている。東京都は極端な例だが、日本全国でも実はケーブルで50%ぐらいは見ている。それをもっとハイレベルな有線に変えるという方法だ。デジタル放送のメリットを最大限に生かすためには、思いきった変革が必要だと思う。
 しかし、光ファイバーで500チャンネルが見られる時代が来てもマスコミュニケーションそのものは無くならない。マスコミュニケーションは報道から始まったという歴史的経緯もあり、地上波テレビの情報収集力は一朝一夕につくられたものではない。
 CSのマニアックな番組に1日15分でいいからニュースコーナーを設けようとしても、自社でそれを収集しようとしたらたちまち行き詰まってしまう。500チャンネルの中に、マスもあれば、セグメントされたチャンネルもあるというのが、近い将来の放送の理想だと思う。



広告メディアとしてのCS放送
井股 進氏→


デジタルメディアのキーワード
湯浅正敏氏→
もどる