特集 2002.5/vol.5-No.2

進化するカラー広告

 カラー広告が増えている。これまで新聞ではむずかしいと思われていた中間色もかなりのレベルまで再現されるようになった。この陰には、新聞印刷に携わる人々のたゆまぬ努力がある。今回の特集では、カラー広告に欠かせないインキ、用紙、そして印刷の現場の最新技術をリポートする。

高速に耐え、すぐ乾き、再現性のよいインキ

新聞の印刷は、今、高速のオフセット印刷だ。商業印刷との違いは、インキの特性にも現れている。新聞インキの特性とは何か、サカタインクス新聞事業部応用技術部長の林努氏に聞いた。
 
 新聞と一般の商業オフセット印刷(以下、商業印刷)の違いはどこにあるのだろうか。まず、その点から説明して、新聞インキがどのように改良されてきたかをみてみたい。

インキの乾燥形態が違う【浸透乾燥】

 新聞インキと商業印刷のインキの原材料は、それほど大きく変わらない。どちらも、顔料、樹脂、溶剤が主原料だ。
 両者のもっとも大きな違いは、乾燥形態にある。短時間に印刷しなければならない新聞は浸透乾燥といって、インキを紙に浸透させて乾燥させる。それに対して商業印刷で最も多いのは酸化重合乾燥で、空気中の酸素を触媒にした自然乾燥だ。そのため、印刷には1、2日を要する。また、チラシのように印刷後、熱風で強制的に乾燥させる方法もある。

新聞インキと浸透乾燥 新聞に使われるインキは、紙の繊維にインキが浸透し自然に乾燥させる浸透乾燥方式。インキの成分の内の溶剤が紙に浸透し、着色顔料を含んだ樹脂が紙の表面に残り、定着する。溶剤には最近は大豆油が使われている。

色再現の範囲が限られた新聞【ベタ濃度範囲】

 両者の印刷品質の違いは、インキの違いもあるが、使用する紙の違いや短時間に大量部数を刷らなければならないという新聞の印刷形態の違いがかなり大きい。
 まず、新聞用紙は、使用できるインキの濃度範囲が商業印刷に比べて狭い。
 色の再現は、紙の上に載っているインキの量、より正確にはベタ濃度によって変わる。商業印刷や新聞のカラー広告の校正ゲラに使われる紙は、最大濃度で1.8ぐらいインキを載せられる。それに比べて新聞は最大1.2ぐらいまでの濃度しか載せられない。
 また、商業印刷と新聞では、使用する紙の白色度が違う。商業印刷に使う紙の濃度は0に近いが、新聞用紙は0.2ぐらいの色があらかじめついている。
 新聞の場合、濃度が0.2から1.2という範囲内で、すべての画像を表現しなければならない。広告の校正ゲラと実際に新聞に掲載されたカラー広告の色に違いがあるのは、こうした理由からだ。

商業印刷と新聞本機の網点 校正刷り(ゲラ)と新聞本機の網点 校正刷り(ゲラ)と新聞本機の網点
商業印刷と新聞本機の網点 校正刷り(ゲラ)と新聞本機の網点 校正刷り(ゲラ)と新聞本機の網点

印刷時に網点が太る性質【ドットゲイン】
インキの膜厚とドットゲイン
版上網点に転写されたインキは、印圧によりつぶされることで、版上の網点(ドット)に比べ面積が大きく(ゲイン)なってしまう。一般的に、インキ量が多いほどドットゲインは大きくなる。

 もう一つ、新聞印刷の特性としてドットゲインがある。オフセット印刷では網点の大きさで色の濃度、濃さを変えている。網点が大きければ色は濃く、小さければ薄くなる。新聞の場合、高速で、しかも表面強度の比較的弱い紙に印刷するため、インキの粘度が低い。加えて浸透乾燥なので、印刷時に網点が太ってしまうドットゲインという現象を起こしやすい。新聞カラー印刷は、もともと狭い濃度範囲で色を再現しなければならないことに加え、網点が大きくなりやすいという性質を持っている。

網点をシャープにする工夫【インキ粘度、水、色分解】

 網点をシャープにすればドットゲインは少なくなる。インキの粘度を上げることも、網点をシャープにする一つの方法で、凸版時代に比べると新聞インキもかなり粘度が高くなってきている。
 高速回転の輪転機はインキを練るローラーが少ないので、硬くて流れないインキだとムラになってしまう。新聞社からも、粘度が高くても滑らかに流れるインキを依頼されているが、輪転機の性能が向上し、ここ数年は、かなり高粘度のインキが使用できる環境になった。
 オフセット印刷は水を使う。これを湿し水というが、画像部のみにインキを載せるためには、非画像部に水を吹いてインキが載らないようにする。画像部でインキが混ざるのだが、その混ざり方が非常に重要な要素で、うまく混ざらないと画像があまりいい品質にはなってこない。そのためには、インキと水が版上できっちり分かれるようにする必要がある。
 湿し水もスプレー方式の新しい装置ができたことによって、この点もかなり改良された。使用する水には、ある種の化合物を添加して、インキと水が版上で分かれやすいようにするのが一般的だが、環境問題もある。読売新聞社では、カルシウム分や塩素をイオン交換で取り除いた真水を使っている。
 また、0.2から1.2という比較的狭いベタ濃度の範囲内で、色の再現性をよりよくするために製版工程でもいろいろな工夫がされてきた。実際、新聞の色再現に合ったカラー分解の技術の向上で、新聞カラーの品質はかなり向上していると思う。

裏抜けを防ぐインキの改良【樹脂の透明度、溶剤の減】

 新聞用インキの改良は、こうした新聞ならではの印刷適性を主眼に行われてきた。それと同時に、増えてきたカラー広告の紙面品質をよりきれいに仕上げるために、新しいインキを設計してきた。
 浸透乾燥から起こるのが、インキの「裏抜け」の問題だ。紙の反対側にインキが若干透けてしまうことが起きやすい。また、新聞は印刷して畳むまでの間がないので反対側の紙面のインキがついてしまうセットオフ、いわゆる裏写りも起こりやすい。こうしたインキの「裏抜け」「裏写り」が起こりにくいようインキもかなり改良されてきた。
 浸透乾燥では、溶剤が紙に染み込み、顔料を含んだ樹脂が紙の表面に残ることによってインキの層を作る。この溶剤のオイルに、より透明性の高いものを使い、浸透しても色がつかないようにしてきた。また、樹脂を多めに入れることによって、紙に染み込む溶剤の量を減らし、インキを紙の上に載せる工夫もしてきた。

環境対応するインキ【大豆油溶剤の使用】

 ここ2、3年は、環境対応のインキに取り組み、すべてのフォーメーションをやり直している。環境に悪影響を及ぼすことが不確かな灰色の原材料も含めてカットしたため、ある限られたものの中から材料を選択しなければならなくなったが、これまでと同じ品質は維持している。たとえば、今まで石油化学系の溶剤には芳香族成分(いわゆるアロマ成分)が含まれていて人体に対する影響が問題になっていたが、最近の新聞用インキの溶剤には大豆油を使っている。大豆油は、日本でも新聞用インキから使われ始め、溶剤として使われる比率も新聞インキが最も多い。
 日本の石油系の溶剤メーカーも国内でインキ用に販売するオイルについては、すべて環境対応とする宣言をしているが、インキの環境対応は、アメリカ、ヨーロッパと比べても、日本が1番厳しい基準でやっている。

数値管理に向かう新聞カラー【新聞用ジャパンカラー】

 これからの新聞のカラー印刷を考える上で重要なポイントに、新聞用ジャパンカラーがある。これは、標準の紙とインキを決めて、標準的な印刷をしたら、こんな色になりますという基準だ。新聞印刷の標準色を数値で表そうというもので、この秋までには制定される見通しだ。
 この数値を標準値として、広告を制作するコンピューターのモニターや校正確認のためのプルーフを数値で管理することによって、実際に新聞に掲載された広告の色の再現範囲に合致した色見本を作成することができる。
 新聞用ジャパンカラーでは、色をL*a*b*(エルスター、エースター、ビースター)表色系という三次元座標で表す。これを使うと、すべての色はL*a*b*の座標軸のある一点で表せる。L値は明るさを表し、a*、b*値が色みを表す。出てきた出力物の色のベタ濃度を測色して、標準色のL*a*b*値と比較し、ある誤差の範囲に収まるように管理する。
 この誤差をΔE*(デルタイースター)という。これまでの「色がよくない」というあいまいな表現のクレームが、近い将来、「デルタEが範囲内に入っていない」というクレームに変わるかもしれない。ともかく、そういうL*a*b*空間で色を管理しようというのが新聞用ジャパンカラーだ。
 初めに、色の濃度について触れたが、ベタ濃度が変わると、同じインキと同じ紙を使っても、色が変わってしまう。インキをたくさん載せれば濃い色になる。また、同じ50%の網点でも、ドットゲインが大きいのと小さいのとでは、色が変わる。L*a*b*値が変わってしまうということだ。新聞社が変われば、使うインキも、紙も違う。印刷条件に付随した網点のドットゲインも同じ工場の中でも輪転機ごとに差がある。複合していろいろと考えていかなければいけないので、数値管理といっても簡単ではない。
 しかし、これまでは見た目で色の管理を行っていたが、今後は、新聞ジャパンカラーという客観的な色の基準ができる。そういう目安ができれば、おのずとノウハウも蓄積されてくると思う。

L*a*b*表色系 L*a*b*表色系
1976年に、CIE(国際照明委員会)で規格化され、JISでも採用されている色差の表示を目的とした均等色空間(L*a*b*はエルスター・エースター・ビースターと読む)。L*が明るさ(明度)、a*b*で色み(色相と彩度)を表す。a*b*ともに0の場合には無彩色となり、a*がプラスの方向になるほど赤みが強くなり、マイナスの方向になるほど緑みが強くなる。色差ΔE*はこの色空間の中での2色間の直線距離を計算して求める。現在標準化が進められている新聞用ジャパンカラーを表す数値にも、L*a*b*が使われる。




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