特集 2000.11/vol.3-No.8

広告効果を測る
広告主サイドに立ったプランニング
 日本の広告環境の中ではメディアプランニングは育ちにくいといわれてきた。そんな中、いずれの広告会社にも属さず、広告主サイドに立ったメディアプランニングサービスを提供する会社が登場した。今年9月1日に設立されたカラ・エスピーアイに聞いた。
 
キム・ウォーカー氏

――日本のメディア環境をどうとらえていますか。
 他の主要なマーケットと比べて、日本のメディアは非常にあいまいでわかりにくい。そして、そのマーケットが大きな広告会社に牛耳られている。この二つが、日本の特殊なメディア環境を作り上げていると思います。
 カラ・エスピーアイは、こうした大きな広告会社と戦おうとは思っていません。その状況を利用して、広告主に利益を提供していきたいと考えています。
 日本の大きな広告会社の影響力については十分認識していますし、いい意味でも悪い意味でも、非常に賢く、スマートで、利益性の高いビジネスを行っています。それを批判することは、きつねがブドウをとれなかった時に、「これはすっぱいブドウだからいらない」と言った話に似ています。そうではなく、われわれは最新の技術を使って、広告主に広告投資に対する説明責任、広告出稿の的確な判断と透明性を確保するサービスを提供していきたい。広告主の立場に立つことで、実際に作りあげたプランを実行するためにバイイングパワーのある広告会社を使うことができます。

広告主の立場に立って

――カラ・エスピーアイは、どういう会社ですか。
 カラ・エスピーアイは、ヨーロッパ最大のメディア専門会社カラ社とSPI(ストラテジックプラナーズインターナショナル)が設立した独立系のメディアプランニング会社です。どの広告会社とも提携していません。そのために、われわれは広告主の立場に立ったアドバイザーとなることができます。広告会社には通常出さないようなデータや資料、情報も広告主から提供してもらえますし、逆に広告主に対して、的確な市場分析、メディアプランを提供することができます。こうした立場が認められて、われわれは広告主協会のメンバーにもなっています。
 カラ社はバイイングカンパニーとして有名ですが、今は日本市場でバイイングをやる時期でないことは理解していますし、近い将来もやるつもりはありません。カラ社の存在は、カラ・エスピーアイの自主性、独自性を阻害するものではありません。

――そうすると、かなり日本の事情に合わせたプランニングをしている?
 グローバルに事業を展開している広告会社は、世界的に同じフォーマット、同じクリエイティブで広告出稿していますが、こうした方法は限られた大きなブランドだからこそできることです。多くの商品の場合、世界を一つの市場としてとらえるには無理があります。メディア状況、消費行動も市場ごとに違う。メディアプランニングは、その国ごとに違っていなければならないものです。

コスト削減から戦略発想へ

――メディアプランニングが注目されてきた背景は?
 80年代のヨーロッパでは87%の広告がいわゆるフルサービスエージェンシーの扱いでした。それが、97年には22%まで減少しています。
 ヨーロッパでメディアスペシャリストが出てきた理由の一つは、1業種1社制が足かせになっていたことがあると思います。1業種1社制では、広告の取り扱いが大きくならない。それがグループになればバイイングパワーがつくということで、バイイング会社が生まれた。そして、その自社のサービスをよりよくしていこうという発想から、メディアプランニング会社が生まれてきた。
 もう一つは、メディア状況が複雑になってきていることです。4媒体だけではなくて、インターネットやデジタル放送などメディアが増え、媒体選択の幅が広がってきたことです。
 また、広告主の数も多くなり、広告メッセージを目立たせることが難しくなってきていることもあります。個々の消費者に向かってより的確に広告を届ける必要が出てきています。
 確かに5年前だったら、広告主が自分たちでメディアプランを立てることも可能でした。しかし、メディアも広告量も増えてきた今日では、より科学的な理論に基づいたメディアプランニングが必要になってきたということです。
 さらに、広告が企業の中で他の支出と同じように、具体的な効果を求められるようになってきたこともあります。この傾向は今後ますます顕著になってきます。いくら使うのか、いつ使うべきなのか、どのメディアを使うのか。こうした複雑なメディア状況、経営環境にこたえていくために、メディアプランニング会社が登場してきたのです。

――メディアプランニングは広告費のコスト削減だけが目的ではない?
 ヨーロッパの事情で言えば、メディアスペシャリストたちが登場してきた80年代は確かにコストでしたが、もうコスト削減は限界まで来ています。
 いま起こっているのは、そういう状況のなかで、自分たちの独自性を出し、他と競争していくためには何をしなければならないのかということです。ただ単にコスト削減ではなくて、戦略的なプランニング力が重要になっています。

――カラ・エスピーアイの考える広告の具体的な効果とは何でしょうか。
 売り上げの場合もあれば、認知率などの他の指標の場合もあります。しかし、それは測定可能なものでなければなりません。最終的にはセールスの結果に表れるもの。いわゆるプロモーション広告は投資効果がすぐ表れますが、短期であれ、長期であれ、広告は必ず投資効果として戻ってこなければならないものと考えています。広告にも、投資指標として株式などで使われるROI(リターン・オン・インベストメント)の考え方が必要になってきています。
 そういう意味で、われわれは単に一つの製品、ブランドだけでなく、どのブランドから利益を得るべきかという全体的な戦略についてのコンサルティングも行っています。

――メディアプランニング会社というより、コンサルティング会社という印象を受けます。
 企業サイドに立ったメディアプランニング会社という意味でならまさにそうです。広告は大きなお金が動くビジネスだが、広告会社にはあいまいなものを売るというイメージがあり、世界的に見てもその評価はあまり高くない。広告に携わる企業はあまりに低い位置に置かれている。われわれは、そのイメージを払拭したい。真のコンサルタントになりたいと考えています。

SPIについて


小泉秀昭氏

――日本市場に特化したメディアプランニングを行っているということですが。
 日本のメディア状況を理解した上で、欧米の最新のノウハウを国内の状況に合わせて使うという考え方が基本です。現在、13人と少ない人数ですが、その辺が他のプランニング専門会社、プランニングスペシャリストとの違いだと思っています。
 キムとの話で、コンサルティング会社という言葉が出ましたが、カラ・エスピーアイは投資会社の側面がかなりあります。というのは、サービスの一つが、最終的にセールスと広告の相関関係を明らかにすることだからです。セールス予測の分析が伴いますから、そういう意味からすると、確かにコンサルティング会社と同じような部分があります。
 ただ、基本的にはメディアにフォーカスしていますので、その範囲を超えて経営全体を見るということはありません。あくまでドメインは広告メディアのプランニング、コンサルティングです。広告出稿で実際にどの媒体がいいのか、何回出稿すればいいのかという、かなり具体的なところまで提案をしています。セールスの全体的なコンサルティングと同様に、かなり実質的なメディアプランニングの提案もできる。両方にまたがった要素があります。
 また、独立系ということで、監査の依頼も多くあります。例えば、テレビの契約時のGRPが実際に達成されているかといったチェックも行っています。

セールスと広告の関係を知る

――セールスと広告との関係をどのように分析しているのですか。
 最近はモデル式もたくさんあるのですが、最も単純な例で説明します。
 トイレタリーのような商品は、セールスと認知に非常に強い相関があります。要するに覚えてもらえれば、すぐに買ってもらえる商品です。このようないわゆる低関与商品の場合、認知との相関が高いものが結構あります。
 認知レベルといっても、いろいろあります。まず、それらとセールスとの相関を見ていきます。例えばブランド認知、広告認知、広告認知にも助成想起と純粋想起がありますから、それも分けて見ていく。そういうデータをクライアントからいただいて、それとセールスとの相関を分析していきます。すると、どの指標が最もセールスに影響を与えているかがわかる。何が指標として最も重要なのかをまず割り出していきます。
 それが、例えばブランドの純粋想起だということになったとします。今度はその有効頻度を見ていく。何回ぐらい広告を見せると、その商品の純粋想起が上がるかという分析をします。
 2〜3年前、アメリカでリーセンシーという考え方が注目されて、広告は1回見せれば十分だという考えが広まった時期がありました。元の研究を読んでみると、そうは言っていない。ブランドごと、カテゴリーごと、市場環境ごとに全部違ってくると言っている。
 メディアプランニングは、あくまで個別の商品のためのものであるし、 数字の裏付けが大事だと思います。

――有効頻度というのは何から求めるわけですか。
 ビデオリサーチから視聴率の頻度分布の数字は手に入ります。それにクライアントからの認知率データを合わせて、有効頻度を決めていく。クライアントに認知率データがない場合は、自社で調査する場合もあります。
 有効頻度が例えば5回と決まったら、それに沿って最も投資効率がいいメディア選択、あるいは出稿量を割り出していく。これが、SPIRALというわれわれのソリューションです。
 もちろん、トイレタリーなどの広告と違って、車や旅行のように認知率がすぐには購入に結びつかない商品もあります。その場合には、少し違う変数、配荷率や価格を加えたり、新たに購入・利用意向モデルや購入モデルといった多段階モデルを使う場合もあります。

――プランニングには時系列データが必要になる?
 そういうことです。ある程度時系列でとった認知率データ、セールスデータをクライアントからもらわなければ分析できません。

――新聞にデータがないというのは、そういう側面でもいわれるわけですか。
 そうなんです。今、IT関係のクライアントが多いのですが、こうした企業は新聞広告を使う割合が非常に高い。ところが、ACRなどデータが年1回の調査しかないとすると、分析の範囲が限られてしまう。

――新聞にはどんなデータが必要なのですか。
 データがないので、最近はクライアントにお願いして新聞の調査を行うことが結構あります。われわれが欲しいのは「実際に何新聞を読みましたか?」という閲読率の調査です。キャンペーン期間内に少なくとも数回の調査が欲しい。閲読状況と別に「その商品を利用してみたいですか?」などの質問を別にとっておいて、それが実際に新聞に接触した人としない人とでどの程度違うのか、というような分析をしています。
 実際に調査すると、広告を知っている人の方が商品認知率が高かったり、あるいはテレビの方が認知は上がるが深いコミュニケーションは新聞の方がいいという結果もあります。すなわち、それぞれの媒体にはそれぞれの特長があるということです。これまでの経験でも、テレビ単独より新聞とテレビのミックスの方が効果が高いケースもありました。すなわち、そのためには、いつどういう組み合わせで出稿するのがベストかという分析が当然必要になってきます。継続的な閲読率のデータがあれば、そういった分析も可能になります。

プランニングの中心は4媒体

――インターネットについても、プランニングの対象になっていますか。
 インターネットの場合は、いろいろなデータの取り方ができるので、新しい分析方法にトライしているところです。ただ、他の媒体とのメディアミックスまではやっていません。セールスに対してどの程度効果があったかが、なかなか読み切れないのが実情です。
 幸いなことに、インターネットなど、新しいメディアは比較的コストも安いので、今ならトライアル出稿で質的な分析がしやすい。クライアントにも、積極的にインターネットは勧めています。しかし、現段階では4媒体を抜きにメディアプランを提案することは危険が多いと考えています。

――メディアプランニングの指標を見ていると、媒体特性があまり考慮されていないように思えるのですが。
 それはありません。先ほど言ったように、例えば購入意向率がセールスに与える影響が大きいとわかった場合でも、まず認知を高めることが必要です。認知がないと意向まで進めない。認知を獲得するためにテレビを使う。そして、新聞・雑誌で理解を深めるということになります。
 もちろん、覚えてもらえば必ず売れる商品であればテレビが一番有利になるというだけです。特に、耐久消費財などは15秒のCMではなかなか伝え切れない。新聞にはかなり大きな役割があります。 
 それから、新聞にはある程度積極的に読む媒体という特色があり、情報源効果があります。同じようなことを、テレビCMで実際に調査したことがあります。ビジネス関係の商品をバラエティー番組を見た後とニュース番組を見た後で比較してみたのですが、ニュース番組を見た後の方がやはり数字が上がった。メディアには、そういう情報源効果もあると思います。週刊誌と新聞では、当然広告の説得性も違ってきます。
 なかなかそこまでは調べ切れないのですが、そういうメディアの質的な部分もメディアプランニングをする時には必要だし、質的なデータということではテレビも不足しています。一つのメディア指標だけでプランニングができるわけではありません。

実務に汎用的なモデルはない

――プランニングには、経験則も重要だということですか。
 数字がないからプランニングできないということではありません。常識や経験も非常に重要だと思います。企業のブランドマネジャーや宣伝部がこれまでずっと培ってきた経験則も重要だと思います。しかし、広告の効果には科学的に分析可能な部分もあるということです。
 広告出稿後には必ず広告効果を検証すべきだし、そういう過去の経験や数字的な裏付けがあって、はじめて一つの結論を導き出せる。実際に出稿して予測がはずれたら、検証して、時には違うデータを持ってきて分析し直す。メディアプランニングは、その繰り返しです。

――汎用性の高いメディアプランニングのモデルというのはあるのですか。
 学者は、やはり一般的な理論、すべての広告にマッチできるモデルを作りたがります。しかし、実務からいわせると、それは無理だと言わざるを得ない。もう、商品ごとに全部違います。
アメリカにMMAというモデリング会社があります。メディアプランニングのためのモデルづくりに特化して、プランニングやバイイングは一切やらない会社です。ノウハウ的にも、かなりわれわれに近い会社です。カラ・エスピーアイの将来的な方向性としてはMMAの方向に近くなってくると思いますが、メディアプランニングは、やはり実務です。
 われわれは、まず数字を前提にしていますし、大事にしています。ただ、数字を見た後の最終判断、メディアの質的な違いを含めた判断は人間がすべきだと思います。

広告環境から生まれたサービス

――仕事はプロジェクト単位が多いのですか。
 年間契約で月々のフィーをいただくケースが多くなっています。モデルは実績を基に修正することで、より精度の高いものになるからです。最初にプランニングしたものが2か月後、3か月後に合わなくなった。なぜ合わなくなったかを検討し、その点を修正する必要があります。調べてみたら、クリエイティブが大幅に変更されていたとか、競合が従来にない広告量を投入してきたとか、そういうことで予測がはずれるケースが多いのです。

――カラ・エスピーアイは、日本の媒体事情が生んだメディアプランニング会社という側面もある?
 クリエイティブも、メディアバイイングもやらない、しかも独立系ということが、今までにないサービスをクライアントに提供できるのではないかという発想から生まれた会社です。
 ここにいる主なスタッフは、それぞれ広告会社の出身者ですが、これまでの日本の広告環境、メディア環境に対して各自がフラストレーションを感じていたのは確かです。広告主の立場からメディアプランニングができるということは、そういうフラストレーションをためないで仕事ができるということです。
 海外ではやっているという理由で、ボタンを押せばすべてできるというようなメディアプランニングは、もう古い考え方です。やはり、その国その国の状況に合ったメディアプランニングがあるべきだと思います。
 もちろん、そこで使うツールや基本的な考え方には、世界中に通用するグローバルなものが必要です。ただ、その国の消費環境やメディア事情はそれぞれに違うということです。




メディアプランニングに何が求められているか
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