特集 2000.05/vol.3-No.2

「家」の時代
近未来ハウスが提案するもの
 パソコンから携帯電話、ゲーム機まで巻き込んだネットワーク化の動きから、これまで家電は取り残されてきた。特に、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの「白物家電」は情報のネットワーク化から最も遠いイメージがあった。
 ところが最近、こうした白物家電やAV機器をオンラインで本格的にネットワークにつなごうという動きが家電業界で急速に進んでいる。
HIIハウスを見学する

HII全体写真 東京・東品川に松下電器産業のマルチメディアセンターがある。ピラミッドの上半分を切り落としたような建物の内部は巨大な吹き抜けになっている。その吹き抜け部分に全面ガラス張りの近未来住宅ショールーム「HIIハウス」がある。
 ここではすべての家電がネットワークに接続され、端末としての機能を持ち、外の社会とのインターフェースになっている。一個のリモコンですべての家電をコントロールすることもできる。
 入り口の「テレビドアホン」からシステムはスタートする。テレビカメラが内蔵され、どの部屋のモニターからも来客を確認・応答ができる。家庭内に設置されたサーバーに画像と音声が蓄積されるので、不在の場合も帰宅後に来訪者をチェックできるし、携帯電話やパソコンに転送することもできる。出先からでも家のインターホンに応答できるというわけだ。
 リビングには50インチの壁掛けプラズマディスプレーがあり、さまざまな役割をこなす。テレビであり、インターネットの端末であり、家庭内ネットワークに接続された家電をアイコン表示し、管理・コントロールするインターフェースの役割も果たす。
 また、この家ではリモコンや人の声で情報機器や家電のほとんどをコントロールできる。音声リモコンで寝室は、「おはよう」といえば照明が自動的につき、「おやすみ」といえば消える。家庭内ビデオオンデマンドで、リビングで見ていたプログラムの続きを見ることもできる。「電子健康チェッカー」は、体温、血圧、心電図、血糖値のセンサーに加え、患部の状態や医療相談を受けるための電子スコープがケースに一体化されている。日々の健康データを蓄積するとともに、ネットワークを介して主治医などと接続して、データを参照しながら医療相談を受けることができる。
 キッチンの冷蔵庫は中に入っているものを記憶し、外出先から携帯端末で中身を確認できる。ダイニングには持ち運びできる「くらし情報端末」があり、家族のスケジュールや健康、家計簿などを管理する。
 近未来のチケット予約はどうなるか。リビングのプラズマディスプレーをインターネットに接続し、旅行を予約。くらし情報端末にはスケジュールが記録され、デジタル・チケットが自分の携帯電話に送られてくる。空港のチェックインカウンターで、チケットの送信ボタンを押すとゲートが開く。急用ができ、チケットを友人に譲るときもそのデータを携帯電話で送れる。
 これらのシステムの中枢にあるのが「HIIステーション」。家と外を結ぶゲートウエーの役割を果たす。通信回線、テレビ回線、電灯線がホームサーバーを経由して、家庭内のあらゆる機器・設備につながっている。テレビの番組予約や録画、健康管理、家事、省エネ制御などすべてがホームサーバーによって管理されている。
 サーバーには一枚4.7ギガバイトの次世代記録媒体「DVD―RAM(書き換え可能なディスク)」が50枚入っていて、一週間分のあらゆる情報を記憶する。ちなみに、テレビの番組録画もこのホームサーバーがこなしてくれるため、この家にはビデオデッキがない。

家庭で電気を作り水を再利用する

 屋外には、「家庭用小型コージェネシステム」と「中水・雨水利用システム」が設置されている。
 家庭用小型コージェネシステムは、高分子型燃料電池で都市ガスなどから得られる水素と空気中の酸素を反応させ、電気と熱を同時に発生させる。20%の省エネと二酸化炭素の排出量を30%以上削減する。また、2004年には1.5キロワットの電力供給能力で市販される見通しという。
 中水・雨水利用システムは、廃水分割ユニットを通して風呂の残り湯や洗濯のすすぎ水を浄化して再利用できる装置で、40%の節水を実現する。これらはダイニングに設置された「くらし情報端末」の家庭内エネルギー管理システムなどで一元管理できる。
 2003年の生活を想定してつくられたというショールームだが、これまで未来の夢として語られてきた世界がHIIハウスでは現実となりつつある。

身近に感じるには具体的な「未来」が必要

 HIIとはHome Infomation Infrastructure(家庭内情報基盤)の略だ。ショールームといっても一般公開はしていないが、昨年の1月にオープンしてから企業や官庁の見学が相次ぎ、現在も2か月先まで予約で一杯だという。
 HIIハウスは、2003年のくらしを想定し、快適・安心・便利、さらには環境にもやさしい生活空間を具体的に提案するスペースだ。家電、AV機器、情報機器がHIIという家庭内情報インフラを中心に結びつき、娯楽、ビジネス、学習のための情報の受発信が、在宅のまま自由にできる新しいライフスタイルを提案する。
 家庭のネットワーク化と言われても、なかなか身近に感じられない。実際に体験することによって、具体的なイメージが結ばれる。HIIハウスは、デジタル技術・デジタル社会はここまできたことを知るには非常にわかりやすい施設だ。
今後重要になるネットワークの標準化

 また、HIIハウスは新しいビジネスを生み出すための実証実験の場としての性格も持つ。HIIハウスでは来場者に積極的な提案を求める。来場者の意見を開発に生かすというねらいもあるが、事業化に向けてさまざまな情報サービスを実現するには多くの企業や機関との提携が必要になる。また、ネットワークの標準化を進めていくためにも、理解と協力が必要になるからだ。
 「ここにあるのは技術的には実現可能ですが、社会と家庭とのネットワークは一企業だけでは到底できるものではありません。今後、家庭内のデジタルネットワークの標準化も不可欠になってきます」(松下電器産業広報)
 家庭にはさまざまなメーカーの家電が混在している。家電のネットワークの標準化が進めば、家電もホームサーバーも、それぞれ別のメーカーでもよいことになる。
 エアコン、テレビ、ビデオ、CD、家電の多くはリモコンで操作する。これがネットワークされていれば、一つのリモコンですべての家電を操作することもできるようになる。それを可能にするのが、ネットワーク方式の標準化だ。
 家電のネットワーク方式としては現在、省エネ制御のためのエコーネット[注1]や動画など大容量のデータも扱えるHAVi[注2]などのほか、Jini、ホームAPIなど、いくつかの方式が提案されている。標準化の作業は、各団体で進められ、相互の接続の研究も進んでいる。
 例えば、エコーネット・コンソーシアムは松下電器産業、シャープ、東京電力、東芝、日立製作所、三菱電機のA会員6社とB会員65社で構成され、標準規格の作成が進められている。HAViも、松下電器産業、日立製作所、ソニー、フィリップスなど日欧の主要家電八社で構成するHAVi推進協会が普及推進に努め、他の方式との接続の研究も進められている。

[注1]エコーネット:家電がネットワークされる意味/エコーネット・コンソーシアム参照
[注2]HAVi:iリンク(IEEE1394)を利用してAV機器を中心としたデジタル家電をつなぐネットワーク規格。基本ソフト(OS)や超小型演算処理装置(MPU)に依存しないため、異なるメーカーの製品をつないでもお互いのデータや機能を利用できる。また接続すると同時にネットワークへの登録が自動的に行われ、個別に機器を設定する必要がない。

時代の主導権を家電に再び引き戻す

 91年のインターネットの商用開放とパソコンを中心とした情報、放送、通信の飛躍的な進化で、ネットワーク時代は現実のものとなった。携帯電話からインターネットへ簡単に接続できるようにもなってきた。しかし、家電はエアコンや冷蔵庫などの「白物家電」も、CDやDVDなどのAV機器も、単独で電話回線などから操作できる製品は出てきたが、相互にリンクされてはいなかった。
 日本の家電メーカーの多くがネット家電に力を入れている背景には、パソコン陣営に握られていた時代の主導権を再び家電側に引き戻すというねらいもある。コンピューターではアメリカに負けたが、家電製品では勝とうという思いが家電業界にはある。

完全なるデジタル家電製品

 日本のIT革命はアメリカの数年遅れで動いているが、家電製品は日本の重点産業の一つであり、世界的にも信頼性が高い。コンピューターがフリーズしても今やだれも驚かないが、家電製品がフリーズしたら大騒ぎになる。家電は世代や性別を超えたあらゆる人々が使うユニバーサルな製品だけに、パソコンの機能と従来の家電の信頼性を持った製品に育っていかない限り、家庭のネットワーク化はうまく成長しない。そういう完全なるデジタル家電製品が待たれている。操作も簡単でなければ普及しない。今のパソコンのようにスタートしてから目的の機能にたどり着くまで操作が5つも6つもあるようでは、だれもが使えるようにはならない。
 「いつでもどこでも」情報ネットワークを利用できる社会を「ユビキタス(同時にいたるところに存在する)ネットワーク社会」という。松下電器産業ではこれに「だれでも」を加えて、家庭のネットワーク化のキーワードにしている。「だれでも」という要素を実現することがネット家電の大きな役割の一つで、「これがデジタル社会のインフラの三大基本要素」になると考えている。

家庭のネットワーク化はデジタルテレビが入り口

 HIIハウスでは、社会との窓口は大きなプラズマディスプレー、つまりテレビを想定している。それを操作するのが家庭内はリモコン。外からは携帯電話になる。そのための前提となるのが、テレビのデジタル化だ。
 視聴者向けの実験放送が始まるのは6月1日から。このころにはBSデジタル対応のテレビやチューナーが店頭に並ぶ見込みで、12月からは在京の民放キー局が中心となった新しいBS放送局5局、NHK、WOWOWの計7局がハイビジョン放送を始める。
 また、メーカーや放送局などでつくる電波産業会(ARIB)では次世代テレビ共通規格を話し合ってきたが、その結果も4月にまとまっている。電話に接続するためのモデムや電子商取引の決済をするクレジットカードの挿入口、データ放送の内容を一時的に蓄積しておくメモリー機能などを受信機に標準装備することになった。

新聞広告便利、快適だけではない家電ネットワークの効果

 HIIハウスを見ていると、便利さ、快適さに目を奪われてしまうが、家電のネットワーク化は環境面でも効果が大きい。
 一つは、システムとして複数の機器をコントロールできるため、より大きな省エネ効果が期待できることだ。HIIハウスはエアコンと照明を統合的に制御する「家庭内エネルギー管理システム」を備えている。各部屋に設けられた「人体検知センサー」によって、人のいる部屋は快適に制御し、いなくなれば空調の設定温度を変えたり、照明を切ったりする。
 機器の運転状態や各部屋の温度、湿度は「くらし情報端末」で確認でき、エネルギー削減量を金額表示したり、CO2排出削減量を樹木のCO2処理能力に換算して表示するなど、より積極的に省エネを実践したいという方向に消費者を促す工夫もされている。
 また、キッチン回りの家電はネットワークによるメンテナンスシステムを導入していて、故障発生時にはディスプレーに表示するとともに、サービス会社に故障個所を自動的に通報する。機器の性能を長持ちさせるという意味では省資源になるし、メンテナンスにより効率を維持するという意味では省エネになる。また、製品が導入されてから廃棄されるまで、それがどういう使われ方をしたかわかるので、製品のリユースやリサイクルもしやすくなる。
 こうしたネットワーク家電が家庭に普及するかどうかは、コストを含めて、どれだけ消費者に受け入れられるサービスを創造できるかにかかっている。



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