特集 1999.12/vol.2-No.9

新聞というメディアを考える
広告効果の枠組みを広げる
1941年生まれ。64年東京大学文学部心理学科卒業。電通マーケティング局勤務を経て、91年から青山学院大学文学部教授。専門は社会心理学、広告心理学。共書に『社会情報論の展開』(北樹出版)、『データによる効果的なメディア戦略』( 誠文堂新光社)など。
 
 広告が話題になる。マスメディア広告ならではの特徴だが、これまでの広告効果指標では評価の外にあった。従来の広告効果の枠組みは、広告の認知や関心など個人の情報処理プロセスやメッセージ内容の説得効果が中心で、媒体による効果の違いや広告が話題になるといった社会的相互作用までをトータルにとらえたものではなかった。こうした視点から広告効果の枠組みを改めて見直し、特に社会的相互作用の研究を進めているのが青山学院大学文学部教授・仁科貞文氏だ。マスメディア広告効果の新しい視点を仁科氏に聞いた。

(1)マスメディアならではの効果からの発想

――広告効果プロセスとして社会的相互作用に注目されたきっかけは何ですか?
 例えば、インターネットで目にした情報を周囲に聞いてもほとんどだれも知らないことが多い。ところが、新聞記事に載っていることは普通の社会人なら皆知っているはずだと思うわけです。なぜなら、皆新聞を読んでいるからです。それと程度は違うけれども、新聞広告に対しても、たぶん皆これを見ているに違いないという意識がどこかで働く。逆に言えば、皆が知っているはずだという意識が「この話は押さえておかないと」という意識を生む。新聞の一 面に載っている記事が話題に出たときに、自分なりのコメントができないようでは社会人としてまずいなと思うわけです。
 また、テレビのコマーシャルも頻繁に流れていると、そのことが話題に出たときに「あのタレントはどうだ」「あのギャグは面白くない」と何か言ってみせたくなる。
 こうみていくと、情報に積極的にかかわりあいを持たせる影響力がマスメディアにはある。

――そうしたことは従来の広告効果モデルでは説明できないですね。
 DAGMAR(※)に代表される従来の広告効果モデルは、広告の認知や関心、購買行動など主として個人の情報処理プロセスをみていますが、マスメディアには、それだけでない広告に積極的にかかわりあいを持たせる影響力がある。その部分を整理すれば、インターネットにないマスメディアの強み、違いをクローズアップできるのではないかと考えたわけです。こうした効果は、社会心理学では従来から言われてきたことですから。

――例えばどういうことですか。
 社会心理学には説得や態度変容の研究が従来からあります。例えば、説得や態度変容には情報的な影響と規範的な影響があるということが、これまでも言われてきた。会議の中でだれかが発言をする。すると話の中身が影響するだけではなくて、それはだれが発言したか。部長が発言したか、若い社員が発言したか。何回発言したか。他に何人がうなずいたか。こういうことを元に、自分がそれに対して黙っていよう、反対しよう、気のきいたコメントを付けておこうなど、人はさまざまなことを会議の中で考えるわけです。場の中の大多数の人間がどれくらいその意見に対して同調しているか、どういう意見を持っているかという情報も一緒にくみ取って会議をしている。

※DAGMAR(ダグマー理論):Defining Advertising Goals for Measured Advertising Resultsの略。 1961年にR.H.Colleyがアメリカ全国広告主協会で発表した。広告目標を明確にしておけば広告効果の測定ができるというもので、広告のコミュニケーション過程を、(1)未知 (2)認知 (3)理解 (4)確信 (5)行動の5つの段階に分け、おのおのの段階に至るコミュニケーション・スペクトル、心理的変客過程の段階を広告目標がどの程度達成できたかを評価するという目標管理の理論。

(2)社会心理学の研究成果を広告効果に応用する

マスメディアの広告効果――そうしたものをマスメディアの広告効果という文脈で整理したのが、今回の研究と言うことですか。
 そういうことです。表を見ていただくとわかりやすいのですが、広告には発信された情報の中身、メッセージ情報だけでなく、どういう入れ物、メディアで伝えられたかというメディア情報があります。
 従来の広告効果で強調されてきたのは、このメッセージ情報の個人情報処理プロセス、つまり「情報的効果」だけです。同じ個人情報処理プロセスでも「情報源効果」は整理されて語られてこなかった。新聞の題字効果もそうですし、広告の出稿量も情報源効果として働きます。単純な話で言えば、新聞の一段広告より十五段広告の方が広告注目率は高い訳です。
 しかし、マスメディアに特徴的な「一面の新聞記事を押さえておこう」とか、頻繁に流れているコマーシャルを話題にする行為は個人の中だけ、個人情報処理の範囲には収まっていない。社会的相互作用とでも言うべきものです。これには、今朝見た新聞記事について人と情報交換するような「パーソナル・コミュニケーション効果」と、一面の新聞記事くらいは押さえておかないと社会人としてはまずいという意識を生む「規範的効果」が考えられます。また、先ほどの広告の出稿量の多さも、受け手に多数の受信者への影響を推測させる場合は、規範的効果として働きます。

(3)他の受け手への推論が規範的効果を生む

――規範的効果とは、これは重要だという判断・評価の基準になる働きということですね。
 今、一番関心があるのはその規範的効果です。一面記事や十五段で載っていた広告だから皆知っているに違いないと思うとき、人は心の中で何をやっているかというと「社会的推論」をやっている。つまり、こういう情報だからだれもが見ているだろう。逆に、インターネットで得た情報などの場合、これはだれも見ていないだろうという推論を働かせる。
マスメディアに載れば、それだけで皆の反応が意識されて、意識されることによって個人の反応はその影響を受けると考えられます。

――しかし、認知や関心という従来の広告効果も社会的相互作用の結果と考えることはできませんか。
 ところが、従来の広告効果のモデルは個々人の気持ちがどう変わったかというモデルです。一方で、広告管理はリーチ・フリクエンシーが何%、知名率が何%、購入者が何%という集合値で扱っています。決して特定の人が何を知っているかということを言っているわけではない。全体として何%、つまり集団の中の何%という集合値で広告管理している。
 Bさんにはこういう変化が起きましたということを測って、それを合計したら世の中の全体になるかというとそうではない。つまりその間にはインタラクションがある。個人的情報処理と社会的な相互作用を区別して考えた方が合理的です。

(4)実証の難しいパーソナル・コミュニケーション効果

――社会的相互作用のもう一つの効果、パーソナル・コミュニケーション効果についてはどうお考えですか。
 パーソナル・コミュニケーションには、マスメディアを使わない手法もあります。例えば、ある場所でゲリラ的にパフォーマンスをして話題になるという方法もありますが、毎回通用する仕掛けではありません。しかも成功、失敗の落差が大きい。マスメディアを使った方が効果が計算しやすいと言えると思います。ただ、マスメディアの口コミ効果は実証が難しい。流行や同調行動についての研究は昔からあり、確かに現象としてはあるのですが、その効果は推測の域を出ない。
 現在調査結果をまとめている規範的効果の方が、はるかに実証しやすいと思っています。

――今回の調査は、テレビコマーシャルが対象ですか。
 二十のテレビコマーシャルについて調査しました。結果は二月ごろ発表の予定です。テレビコマーシャルを取り上げたのは、コマーシャルはどのテレビ局で流したかにかかわらず広告主単位で扱うことができるからです。新聞のように何新聞の朝刊に載った広告という意識がない。

――それも一つの題字効果かもしれませんね。
 新聞社の人には特にその意識は強いでしょうが、広告主にも何新聞に載せた広告という意識はあると思います。消費者も、新聞広告を話題にする場合は、相手の読んでいる新聞をたぶん確認する。大きな事件の記事は別ですが、新聞の場合、個別性というのはある程度あるかもしれません。

(5)社会的相互作用から広告効果を読み直す

新聞紙面――社会的相互作用を考慮すると、これまで説明できなかった広告効果がかなり説明可能になると思うのですが。
 ダンシング・ベイビーを使ったトヨタのキャミの広告がありましたね。調査をやったのですが、この広告は非常にたくさんの人が知っている。しかし、好きかと聞くと嫌いだと答える人も多い。嫌いなのに広告が話題になっているということはよく知っている。キャミは知名率も高いし、よく売れたそうです。
自分自身がどう思ったかという個人的なプロセスだけではなくて、皆がどう思ったかということが影響するという社会的相互作用が働いた結果だと思います。

――音楽CDのように買う層が限られている商品が増えてきましたが、従来の広告効果ではマスメディアの役割はうまく説明できない。
 ターゲットが限定された商品も、テレビコマーシャルを打ったり、新聞広告を出したりする。従来のリーチ・フリクエンシーの尺度からみると確かに不思議です。むしろ、一般的な社会でこれが認知されている商品だということがターゲットと目されている人たちにも影響を与えていると考えるべきではないでしょうか。マスメディアに広告が出ていることが、ターゲットの心の中に「かなり力を入れている商品だ」という推論を生む。実際にだれが買っているかということは別問題として、少なくとも企業はこれにかなり力を入れてやっているのだという意思表明になるということだと思います。

――規範的効果は、高関与の人にはあまり効果がないということはありませんか。
 ビールなどで「販売実績ナンバーワン」を強調した広告がありますが、よく売れているという情報は高関与の人も低関与の人とは別な意味で利用しているという説があります。つまり、売れている事実に詳しい人にとっても一つの商品情報なのです。確信を深める判断材料に使っている。高関与の人にも社会的な規範的効果は効きます。

――社会的相互作用が働く場面としては、ほかに何か。
 新しい習慣や行動などを取り入れる場合です。発泡酒がいい例です。ビールと呼べないものを飲まなくてもいいと思っていたけれど、広告も多いし売れているらしい。そうすると、「発泡酒はどんなものか、値段も安いし、失敗しても別にどうということはないから飲んでみよう」ということになる。

――ブランド形成と社会的相互作用も関係がありそうですね。
 ブランド形成を従来の広告効果プロセスで言えば、「私はこのブランドについて知っています」「こういうイメージを持っています」「こんな好き嫌いがあります」という流れです。社会的相互作用の流れでは「この商品は皆知っています」「皆が使っています」「皆がいいと思っています」という流れになる。一般的にブランド論では個人情報効果を集合したものを資産と呼んでいますが、ブランド論にも社会的相互作用は必要でしょうね。

――インターネットではブランド形成は難しい。逆に言えば、ブランド形成にはマスメディアが必要という考え方もあります。
 例えばレストランで何人かが好きで通っているという時代があって、それがインターネットの中での情報交換で広がっていく。今までは雑誌が担っていた役割です。一度ローカルなところで評価ができて、それがメディアに載ったときに定評になる。インターネットのようなメディアとの違いをあえて言うなら、その二段階をマスメディアの場合は一段階で済ませられるということでしょう。

(6)より多面的な広告展開のために

――今後、どういう方向に研究を進める方針ですか。
 個人的な興味でいえば、社会心理学を応用して皆がバラバラに言っていることを一つにつないでみると「マスメディアの広告効果はこんなふうに見える」ということを言ってみたい。しかし、その次には先ほどいくつか質問があったように「何の役に立つか」という話が当然出てくるだろうと考えています。
 一つは広告管理、もう一つはそれと裏腹ですが戦略立案に役に立つと思っています。  
 広告管理目標でいえば、DAGMARは典型的な個人指標です。つまり「私はこの名前を知っている」「理解している」「買ってみたい」「買った」という。例えば先ほどのトヨタのキャミのように広告としては好まれていないが、なぜか商品は売れる。これもDAGMARでは説明できないが、皆の評判になるという広告効果ルートで指標をとると説明できる。つまり、上から見ていると分からないが、横から見たらもう一本道があったということになるのではないかと思っています。
 もう一つは戦略立案に使えないかということです。しかし、これは難しい。

――キャミの広告はこれまでクリエーターの勘で通っていた世界だと思うのですが、社会的相互作用を考慮することで初めて説明できるようになった。それで戦略立案には十分ではありませんか。
 もう一段階必要です。この商品は世間で注目されている、はやっているという雰囲気を伝えるためには、クリエーティブとしてどうすればいいかが提案できないと戦略にはならない。
 しかし、それは本当はクリエーティブの仕事かもしれませんね。商品と競合関係と受け手を考え合わせて、クリエーティブが作っていくものだと思います。

――今回の枠組みに当てはめると、新聞広告はどのへんの役割を果たすとお考えですか。
 というより、メディアミックスの中で新聞広告の位置づけを考えるために、今回の枠組みは有効だと思います。テレビでキャンペーンが流れていて、そこに新聞広告を出すのはどういう意味があるのか。そう考える時に、新聞の規範的効果や情報源効果がより明確になってくると思います。




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