特集 1998.8/vol.5



視点3
多田氏
 インターネットによるマーケティングを、まず、販促・販売のための機能と、消費者コミュニケーションのための機能に分けて考えてみよう。
 前者では、従来の媒体広告に相当するものとしてバナー広告がある。いわゆるアイドマの法則に照らせば、これは“アテンション”に位置づけられる。そこから先“インタレスト”や“デザイアー”の部分として、ホームページそのものによる働きかけ(情報提供)やプッシュ型広告を経て、“アクション”に相当する「購買申し込み」へと至る。もちろん、インターネットの活用を商品告知にとどめ、興味を持たせる=インタレストのところで止めてしまうこともある。それは、どこまでインターネットを使ってやるのか、通常の広告活動との組み合わせをどうするか、などマーケティング戦略の全体像によって違ってくるはずだ。

大切なのは、ホームページへ導いた後

 いずれにしても、バナー広告からホームページへと導いた段階で、そのホームページの作り方自体が問われてくる。実際のビジネスはこのホームページを介して行われるわけだが、現状はまだ、消費者が商品を買いたいと思ったり、情報を見たいと思ったとき、分かりにくいホームページが多すぎるようだ。デザインやかっこよさも大事ではあるが、それ以上に、消費者が求めるところに簡単にたどり着けることがより重要だ。商品情報の表現や分類が、多様な要求を持つ多くの消費者にこたえられるよう構築されていないといけない。
 これは、後者の対消費者コミュニケーションという機能とも連動してくる。インターネットは既存ユーザーに対する強い関係性構築のツールとしてきわめて有効な使い方ができるものだ。新聞・雑誌の紙媒体やテレビ・ラジオの電波媒体などと比べた場合、インターネットの際だったメディア特性とは、インタラクティブ性にほかならない。こうしたコミュニケーションメディアとしての活用が、インターネットによるマーケティングを考える上では極めて重要となる。本稿では、以下、この部分を中心に進めていく。

消費者対消費者という軸の誕生

 従来は、商品を発売してマスマーケティングを主体に広告を展開することで、その商品の認知度も高まってそれなりに売れた。ところが、商品が普及し飽和状態になってきた今日、消費者の多様化や個性化も進んできたため、従来のマスマーケティングだけでは商品を訴求することができなくなった。「ワン・トゥ・ワン」に代表されるような戦略が、インターネットのようなコミュニケーションメディアに期待されるようになっている。
 インターネット上では、供給側と消費者側とのダイレクトなコミュニケーションによって、両者の間のバリアが希薄になる。その結果、商品の企画・製作段階に消費者が参加するケースが出てくる。消費者のアイデアあるいはクレームといったことが、商品の新しいバージョンや新商品の開発に生かされる方向が現実に見えている。
 これはマスマーケティングからワン・トゥ・ワンマーケティングに単純に切り替わるということではない。むしろ「従来メディアの活用+インターネットの活用」という広告戦略の視点から両者をどう組み合わせていくのかという販売戦略が出てくるということだ。たとえば、企業イメージをマスで訴え、商品の特徴をワン・トゥ・ワンでPRし、フェイス・トゥ・フェイスで売っていくなど、いろいろな使い分けがなされていくに違いない。従来からあった軸の変化と言えるだろう。
 次に、まったく新しい軸が想定できる。それは、同じ物を買った、あるいは関心を持っている消費者同士のコミュニケーションである。つまり、インターネット上のオープン(掲示板等)、あるいはセミオープン(メーリングリスト等)な場のなかで、消費者同士がその商品について何のマスキングもなく話を交わすのだ。その結果、評判のいい商品だと、供給者側を離れてどんどん口コミ的に広がって売れていくし、逆に評価が低ければ、インターネットユーザーの中では顧みられなくなっていく。
 商品情報が氾濫(はんらん)するなかでは、いわゆるコンサルティング・セールスの重要度が高まる。消費者同士のコミュニケーションでは、その商品をすでに買ったお客さんがこれから買うお客さんに、まさしくコンサルティング・セールスをしてくれるという側面をつくり出せる。これは、売る側が買う側に対してというより、先に買った人が後に買う人に対して、結果的にコンサルティング・セールスをするということだ。消費者同士の会話は、何の抵抗もなく素直に受け入れられるというコミュニケーション特性を持っており、その訴求力は、売る側が意図的に流す情報の何倍にもなりうるのだ。もちろん、「あんな商品は買わないほうがいい」といったネガティブ情報も流れてしまう。やはり、商品そのもの、サービスそのものの品質が最も重要だという基本原則は不変である。

消費者を主役にする仕掛けの必要性

 カタログショッピングなどでは、目にとまったものを衝動買いするということも少なくない。インターネットは衝動買いが少ない代わりに、目的意識を持って商品を探すため“ヒット率”は高い。その場合、バナー広告が入り口としての役割を担うにしても、実際に商品を売るためには、インターネットのメディア特性を十分にいかす必要がある。前述の企業と消費者、消費者と消費者のコミュニケーションができるという特性を活用し、消費者自身がプロモーターであるような仕組みを巧みにつくっていくのだ。
  例えば一つの手段としては、プッシュ型広告と似たような特徴を持っているメーリングリストを、企業側が意図的に主宰したらおもしろいだろう。そこでは、供給者側の売らんかなの姿勢を極力隠し、消費者の立場に立った運営をする。消費者だけでは知り得ない情報を流していくことで、消費者の関心を高めていく。
 逆に、自社の商品やサービスに関連が深いメーリングリストに、自社の社員が個人として参加していくという手法も考えられる。メーリングリストに加わることで、嫌みでない自然な形で自社の存在をアピールする。他のメンバーとのコミュニケーションを深めながら、さりげなくシグネチャーとして表示したURLが、バナーとはまた別なホームページへの入り口として設定される。
 現状では、中小企業はメーリングリストやメールを活用しながら、自分の会社を消費者に認知してもらい、ホームページへと来てもらうのが一般的だ。一方で、大企業だと、このステップが抜けてもブランド力で消費者にある程度来てもらえる。
 しかし、これからは、EC(電子商取引)も発展していくはずだし、その過程では消費者自身が自らの価値観で情報を選別するようになり、中小企業であってもアイデア一つで大きなビジネスチャンスを得る可能性が出てくる。そうなると、企業規模からくる信頼感が購買動機に及ぼす影響も相対的に低くなり、多種多様なマーケティング手法が生み出される可能性は高い。
 ネットワーク上で、個性化・多様化される消費者の価値観をいかに引き付け効果的な広告活動を行うか、商品企画に消費者の声をいかに生かすか、マーケットインの戦略においてネットワーク活用は大きな武器となっていくに違いない。


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