特集 1998.6/vol.3


「欲しいもの」から「買いたいもの」へチルド欲求の解凍法 博報堂 生活研究所 南部哲宏
1989博報堂入社。マーケティング局、研究開発局などを経て'97年に博報堂生活研究所に移籍、現在に至る。
主な研究テーマに、第6次産業研究、環境対応社会、少子・高齢化社会のインパクトによる生活再編の方向性研究など。
 
 世の中、どっちを向いても「消費、冷え冷え」の大合唱である。このままだと日本の消費は凍り付いてしまうかのようだ。
 この不況が、ややこしい構造不況で、生活者が購買意欲をなくすのは十二分に理解できるが、モノやサービスを求めるという、「欲求」までも冷え込んでしまったのだろうか。そこで博報堂生活総合研究所では、九七年十一月下旬に生活者の「消費欲求調査」を実施した。山一ショックの直後である。
 質問は、「来年(これから一年ぐらいで)買いたい商品や、やってみたいことがあればいくつでもご記入下さい」という自由回答形式。この自由回答を商品カテゴリー五十二項目に分類し、集計した。なお、本調査は四百一人に対して行われたが、この中には、九六年十一月に同様の調査を行った人が268人含まれている。 
 また、この文章は本研究所が発行する「生活新聞」に掲載した文章に最近の調査結果などを加え、補筆したものであることをはじめにお断りしておく。

欲しい気持ちは冷え込んでいない

 対象者401人の買いたい商品・やってみたいことの総数は1,363個、一人平均3.4個。そのうち上位十五項目で913個、全体の七割近くを占めた。九六年の同月では一人平均3.6個あったが、九七年は微減にとどまり、欲しい気持ちは冷え込んでいないことがわかる(九八年に欲しいものは、表を参照していただきたい)
 二年越しで、同じモノが欲しい、同じコトがやりたいと求めている生活者は、268人中196人と七割以上。また、その196人が挙げたモノ・コトは326個、一人平均1.7個と二個近く強く望んでいるモノ・コトがある。ようするに生活者はこんな暮らしがしたいとココロの中でつぶやき続けているのである。
 以上の結果から、「消費意欲はまだ冷凍されてはいない。氷点の近辺で凝固していないチルド状態」にあると言える。確かに凍りそうな商品はあるが、まだまだ生活者にはやりたいことや暮らしの問題を解決したい強めの意思がある。そう、生活者も景気に負けてはいないのだ。

チルド欲求の中身は、“モア”と“ジレンマ”

 図表を見ていただきたい。一見すると、わがままな欲求と思いがちだが、よーく見ると暮らしの輪郭が浮き上がってくる。
 快適生活や充実した住生活といった、暮らしを支える基本アイテムは維持・管理し続け、その上で個を大切にする。そして楽しみながら健康づくりをし、自己投資・自己実現を図って個を高める。加えて情報社会への対応も怠らない。そして、なんと言ってもお楽しみは旅行。
 生活者がココロの中でつぶやく暮らしのカタチは実に豊かな生活である、加えて現実に対応しようとする姿勢もみられ、生活者は実に賢く、そして、したたか。不況に負けてはいない。
 たとえば旅行。196人すべての人が欲求を実現しているわけではないが、その多くは実際に旅行に行っている。そして国内、海外旅行とも来年も行きたいと望む、モア(もっと)欲求が存在している。個票をみてみると、具体的地名や同行者を列挙する生活者が多く、すでに頭の中ではプランが組み上がり、あとは切符とバッグを持てばいいという勢いだ。旅行関連の欲求は、かなり温度が高い。
 次にパソコンを代表とする「買いたいけど、買えない」、ジレンマ(板挟み)欲求である。
 個票からは、かなりの強い購買意思がみられた。しかし「パソコンはあまりにも機種の変更が早い」との指摘があり、どうやら生活者は、機種変更の速度に付いてゆけないようである。考えたり選んだりしているうちに次の機種が登場して、買う機会を逃す。こんなことを繰り返すうちに二年が過ぎてしまった。これが実態らしい。この傾向は熟年以上の年代に目立った。
 買いたいけど買えないジレンマ状態は、どうやら生活者ではなく、供給側に問題がありそうだ。

■98年買ってみたい商品・やってみたいこと(上位15項目)'97年11月調査

個数

主な回答
1 国内旅行

176

旅行、家族旅行、温泉旅行、一人旅、友人と、夫婦旅行、ツーリング、具体的地名列挙多数
2 海外旅行

166

海外旅行、ハワイ、英国、イタリア、欧州、北欧、スペイン、ポルトガル、米国、インド、トルコ、アジア少数
3 パソコン類購入

93

パソコン、パソコンデスク、プリンター、スキャナー、ワープロ
4 語学学習

59

英会話、英語、語学、仏語、スペイン語、中国語、イタリア語
5 住宅購入・リフォーム

46

一戸建て、マンション、別荘、リフォーム多数(家の改造、おふろの大改造、水まわりのリフォーム、部屋の改造)
5 趣味用品

46

楽器、スキー用品、コンピューターゲーム機器、テニス用品、カーアクセサリー
7 資格・免許取得

44

何か資格、自動車、バイク、ソムリエ、検定試験関連、消費者アドバイザー、インテリアコーディネーター、各種国家資格
8 一般学習

43

各種楽器、お茶、お花、書道、スクール通い、勉強、研究、手話
9 趣味(創作)

42

絵画、陶芸、写真、フラワーアレンジ、切り絵、手芸、文筆、絵本
10 家電製品購入

37

ワイドテレビ、BS内蔵テレビ、ハイビジョンテレビ、電子レンジ、冷蔵庫、エアコン、ウォッシュレット、食器洗い器、掃除機、布団乾燥機
11 自動車

36

車、自動車、車の買い替え、子供の車、キャンピングカー
12 家財道具・食器類購入

33

ソファ、食器棚、タンス、カーテン、こたつ、羽毛布団、ジュウタン、いす
13 会社・仕事

32

転職、辞める、でっかい仕事、昇進、スキルアップ、仕事部屋
13 その他

32

ボランティア、引っ越し、親孝行と帰省、部屋のかたづけ、笑いたい
15 オーディオ類購入

28

MD、MDウオークマン、DVD、オーディオ、ウオークマン

※「主な回答」の項は、自由回答の表記をそのまま生かして使用


■2年連続して買ってみたい商品・やってみたいこと(合計20項目)

項目

個数

男性

女性

小計

旅行 海外旅行

20

34

54

国内旅行

11

24

35

情報生活対応 パソコン類購入

11

6

17

趣味(パソコン)

3

1

4

自己投資 語学学習

6

18

24

資格・免許取得

2

4

6

自己実現 趣味(その他)

0

6

6

一般学習

2

6

8

趣味用品購入

4

1

5

趣味(創作)

1

4

5

健康生活 趣味(登山、ハイキング)

1

4

5

スポーツ(ゴルフ)

2

1

3

スポーツ(水泳)

1

1

2

スポーツ(その他)

1

1

2

美容

0

6

6

快適生活 自動車

10

4

14

家電製品購入

6

3

9

カメラ・ビデオ購入

4

1

5

充実住生活 住宅購入・リフォーム

1

8

9

家財道具、食器類購入

1

2

3

博報堂生活総研「消費欲求調査」 調査の実施・地区はいずれも11月末、首都圏、郵送法。96年調査/344人(男性149人、女性195人)、97年調査/401人(男性189人、女性212人)。うち2年連続の対象者は268人(男性113人、女性155人)。

消費の常温帯にいるシルバー

 年代別では、六十歳以上のシルバーに旺盛(おうせい)な欲求がみられる。代表事例を紹介しよう。
【六十代女性】九七年、友人の金婚式で帝国ホテルに。九月には二十年ぶりにパーマをかける。九八年は、イタリア製のテーブルといす、掘りごたつ、ワイドテレビを買って、九州か北海道に旅行をして、習字を習いたい。九七年にできなかったみのもんたさんの番組に出ることも、まだ興味はある。
【六十代男性】二年越しに欲しいモノは、レコードの聞けるステレオ、大型冷蔵庫、ハイビジョンテレビ、高級乗用車、海外旅行、耕運機である。九八年は、トヨタ・イプサムを買いたい。夫婦で海外旅行をしたい。三か月に一回、グループ旅行をしたい。
【六十代男性】九七年、区のダンスコンクールで上位入賞。九八年は国内外にダンス旅行をしたい。ダンス服も買いたい。バイク免許を取りたい。フラダンスも始めたい。
【七十代男性】二年越しにカールツァイスのレンズを搭載した高級カメラが欲しいと思っている。九八年こそは。あと、パソコンも欲しいのだが、新機種が多すぎて決心できない。これも九八年は買いたい。ベッドも取り替えよう。
 このようにシルバーは、物欲、旅欲とも旺盛で、欲求温度は最も高い。

 以上を踏まえて、消費活性化のツボを紹介する。

(1)チルドを探せ!
 冷え込んでいる消費も、欲求から見れば購買一歩手前から欲求凍結まで、温度差は幅広い。購買一歩手前から欲求凍結直前までを、消費予備群ととらえ、各温度帯の欲求と気持ちをあぶり出し、生活課題を解決する。これぞ不況期の対応かつ醍醐味であろう。素早く調査に取り組み、じっくり分析し、生活課題と生活者の気持ちをクールに解明する。とにかく生活者の声を聞くこと。

(2)モア欲求の背中を押せ!
 モア欲求の代表例は「旅行/趣味各種および趣味用品/スポーツ各種」とサービス消費が多く、「もっともっと」と繰り返しの消費が狙える。一押しすれば消費に向かうのだ。しかし購入経験が多いため、この分野での消費は選択眼が肥えており、自分にフィットする商品を強く求める。ハードルは高い。
 「モア欲求」への対応は個人にフィットする商品をどれだけ企画出来るかが決め手。企画で勝負が決まる!

(3)ジレンマーを解放せよ!
 お金はあるが、買いたいけど買えない板挟みの生活者。グルグル変わる商品やドンドン変わる情報に振り回され、何を基準に選択すればよいかわからず立ちすくんでいる。モノ消費に多く、代表例は「パソコン」。
 判断尺度が定まらないジレンマーには、「選択や消費の裏トリ」情報が決め手。悩み多き生活者は尺度情報を渇望している。購買に踏み切らせる裏トリ情報の提示が決め手。

(4)シルバーを狙え!
 世の中で一番ホットな欲求を持ち、消費の常温帯にいる生活者。お金もあれば時間もある。物欲・旅欲・学欲なんでもあり。「生活を楽しもう」の熱気が個票から伝わってくる。シルバーは輝いている。
 シルバーは生活を楽しむため様々なモノやコトを求めている。シルバーの望む暮らしを把握し、その文脈上にモノやコトを位置付けることが大切。

(5)見えないものを見せよ!
 生活者は、経済構造の変革、環境問題対応、高齢社会の到来など、今後の暮らしが変化することは十分に認識している。だが、どんな暮らしになるかは、具体的に見えてはいない。
 今後の生活の姿や暮らし方を具体的に示し、見えないもの、見えなかったものを見せ、これからの生活を指示すれば、欲求温度は上昇する(詳しくは生活予報'98を参照)。

(6)広告はチンなり!!
 チルド欲求は、温めてやる必要がある。欲求を加熱し、「欲しい」から「買いたい」に意識を変換させることだ。加熱のエネルギーは「情報」である。しかし、単なる商品情報では生活者は動かない。商品がどう生活に位置付けられ、これからの暮らしにどう役立つかを示さなければ、購買意欲を喚起できないであろう。
 だからこそ、価値形成と価値伝導を行える広告の役割が極めて重要になるのである。

そう、広告は電子レンジだ!

 本研究所で毎月行っている「消費意欲調査」では、その月の消費意欲を得点化している。このスコアを見ると、毎年四月は三月より減少する傾向にある。しかし、今年四月の消費意欲は三月を上回り、昨年四月(消費税引き上げ直後)の消費意欲の値を若干上回った。そして五月は四月より上昇し、消費意欲の回復が見えはじめている。
 今こそ生活者の気持ちをくみ取り、チルド欲求を解凍するチャンスだ。



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