特集 1998.5/vol.2

規制緩和時代のマーケティング ―ビッグバン本格化―
競争激化で試される日本のプロポーション 電通 テレビ局きかくい
1997年電通入社。88年から92年まで電通ニューヨーク勤務。帰国後、電通総研に研究主幹として勤務後、現職。著書に「メディア社会の未来地図」(NHK出版)、「メディアショック」(電通)。

 一昨年の春に三十年ぶりといわれる「景品規制」の緩和がなされた。「一千万円が当たります」という華やかなオープン懸賞キャンペーンがいくつか登場して、大きな話題を呼んだ。
 それから二年が過ぎ、いたずらに賞金の大きさを訴えるだけのキャンペーンは影をひそめてきたようにも見える。けれど、水面に輪が静かに広がるように、日本の広告界に規制緩和の考え方はじわじわと浸透しつつあるのではないか。
 「専用の応募はがき」を用いたキャンペーンなどは日常になじみが出てきたし、カード会社と航空会社マイレージサービスなどのタイイン方式なども着実に浸透している。アメリカ系企業は特に、こうしたノウハウを日本のマーケットに持ち込もうと望んでいる。
一方、アメリカ的なプラグマチズムの水準から見れば日本の現状は、まだまだ、徹底していないことも確かだ。「ものを売る」という行為に許されるドライさや戦略の深さのようなものが、やはり違う。

アメリカ流モノの売り方

 私は電通のアメリカの現地法人で数年間の海外駐在経験がある。
 生活を始めたころは、スーパーでのクーポン券の利用の方法もわからず、チラシをこまめに活用する知恵もなかった。新聞や雑誌の広告にしばしば登場する「この商品を買えば、いくらキャッシュバックします」とか「知り合いを紹介してくれればリベートをあげます」などの広告表現も、正直びっくりした。「ずいぶんいろいろなことができるのだなあ」という印象を持った。戸惑ったこともある。自家用車を買おうと思ったときのことだ。
 広いアメリカの国土を前提とした商品販売の方法は、売り手側をあちこち動かすよりも、むしろ、買い手の側を引きつけるような方法で発達した。逆に言えば、こうした土壌があったからこそ、ダイレクトマーケティングの発達や、テレビショッピングへの注目が集まるのだと考えられる。必要なら異業種と組んで、同じ消費者にアプローチする発想もここから来ている。規制緩和によってこうした機運が勢いづいている。
 車を買うとき、電話一本でセールスマンが家に来てくれるようなことはまずない。私は、タクシーを拾って、近所のディーラーに出向いた。つたない英語での交渉をやっと終えて、複雑に書き込まれた契約書にざっと目を通してからサインをしたのだが、車を受け取れる日取りを確認してから、セールスマンに「じゃあ、わが家で待ってますよ」と言った。
 セールスマンがけげんそうな顔をした。
 「なんだ、車を家まで配達してほしいのですか。それならば手数料がかかるし、契約書も修正しなければなりませんね」
 同じころだったと思うが、家具屋で展示してある商品を指して「これを買いたい」と言ったら「それは展示品だから売れない」という。そこまでは納得はいったが、よく聞いてみると在庫もないと言う。「展示している現物でいいから売ってくれ」とたたみかけたら「自分には権限がない」とすましている。全くラチがあかなかった。
 この例は、売り場の一線のセールス担当者たちは、びっくりするほどに頼りないことを示している。それゆえに、売る人間にやる気を出させるための算段もいろいろ発達する。買う側の人間(消費者)がその気になるような仕掛けも必然的に凝ってくる。そうしたプロモーションを考える産業セクター(広告会社・プロモーション会社)へのニーズも高い。メーカーキャッシュバックや、消費者組織化の手法が盛んなのにはこんな背景があるからだろうと思う。

プロモーション 三つの潮流

 そうしたアメリカ社会でこの数年、産業政策全般に、規制緩和の考え方が徹底して追求されてきている。広告の世界にもその影響は及んでいる。その力学は、利用できるものは何でも活用するし、個人の能力よりもシステムの力でモノを売っていく方向に向かう。
 私の見るところ、競争要因が厳しくなっていく中で、アメリカのプロモーション手法は、以下の三つの領域で特にとぎすまされてきている。

(1)異業種企業間での結びつき強化
 他業種の中に味方を見つける手法。航空会社と電話会社と百貨店と、それにカード会社のカードが一つになっているような例が典型的だ。同じ消費者をターゲットに異業種が組む。価格競争ではなく、相乗的なメリットを訴える手法と言える。

(2)小売りとメーカーのタイアップ
 あるハンバーガー店で、特定のメーカーの飲料しか出さないようなセールス方法を思い浮かべてほしい。コンビニでのストアブランド開発をメーカーが協力するような方法もここに含められよう。百貨店が特定メーカーと共同でキャンペーンをする動きなども盛んだ。

(3)優良顧客管理の徹底
 新規顧客の獲得よりも手堅く既存客を囲い込む。ある意味で、守りのマーケティングだが、いい顧客とは、末永くつきあいたいはずだ。売りっぱなしが反省され、特に耐久消費財では、アフターケアの重要性が強調されているようだ。

デジタルメディアと競争要因

 私の問題意識から最後にもうひとつだけ付け足せば、デジタルメディアの与える影響も大きいはずだ。デジタル化された情報サービス技術の浸透で、メッセージ伝達や顧客データの管理、顧客側からのレスポンスなどが格段にやりやすくなる機運にある。
 テレビ系のメディアのことだけを語っているわけではない。新しいメディア環境では、従来の活字媒体が担ってきた、きめ細かな商品説明も、利用者の要望に応じて取り出せる仕組みがさらに進化するはずだ。新聞的な情報ニーズは高まるだろう。ただ同時に、こうしたプロモーション情報の選別は一層厳しくなり、メーカーも流通も、そしてメディアも巻き込んだ競争要因は大きくなる。
 アメリカの動きがそのまますぐに日本で起こるとは思わないが、私たちなりに、どこかで覚悟を固めておかなくてはならないだろう。


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