特集 1998.5/vol.2

規制緩和時代のマーケティング ―ビッグバン本格化―
ビジネスチャンスを生かす7つの視点
 規制緩和は企業にとって、ビジネス・チャンスと競争激化という2つの側面を持っている。規制緩和で企業のマーケティング戦略や広告戦略はどう変わるべきか。これからの方向性を提言する。

 規制緩和は、日本経済の構造調整のうち、市場構造ないし産業構造に関するものの中心に位置している。わが国における規制緩和が本格的に推進されるきっかけとなったのは、一九九四年七月に政府が閣議決定した「今後における規制緩和の推進などについて」であるといってよいだろう。その後これに基づき「規制緩和推進五か年計画」が作成されたが、三か年計画への前倒し、二度にわたる改定がなされた。
 今年三月三十一日の閣議では、一九九八年度から始まる新しい規制緩和推進三か年計画を策定したが、これにはタクシーや国内航空の新規参入の規制緩和や、運賃の自由化など十五分野、六百二十四項目が盛り込まれている。これを見るかぎり、全体として事前調整型から事後チェック型に転換されている点が特徴になっている。

長期的視野に立った規制緩和の推進を

 経済の停滞感が強まる中で、とかく規制緩和の進行が鈍るとか、先延ばし論も出てきているのが現状だが、そんな中、四月九日には四兆円を超える大幅減税の実施、赤字国債発行の弾力化を可能にするための財政構造改革法の改正、十兆円規模の総合経済対策、科学技術の振興や情報通信の高度化などの分野への重点的な公共投資が発表された。
 当面は景気対策や金融システムの不安解消が重要ではあるが、二十一世紀をにらんでのわが国経済の活性化のためには、規制緩和の推進が望まれるところである。
 規制緩和に関してわが国に先行しているアメリカでは、今日の経済活性化の一因として規制緩和の実施が指摘されている。規制緩和によって市場が活性化し、生産性が向上したことが経済復興に大きく寄与したといえるようである。もっとも規制緩和によって競争が激化した結果、リストラや倒産が多発したことも事実で、そのために日本でも雇用不安が招来されるとか、サービスの低下によって消費者利益が損なわれるというような規制緩和のマイナス面も指摘されている。

規制緩和に対応する新しいマーケティングの方法

 日本の景気回復のためにも、アジアの経済危機を救うためにも、日本政府は内需拡大を是非とも急ぐべきであるとする外圧が、現在、アメリカ政府などから加わってきている。そのためには規制緩和が推進されるべきであるという主唱もなされている。
 規制緩和を推進するということであれば、結局は消費者利益につながることでなければならない。企業にとっては、一方ではビジネス・チャンスが発生し、他方では競争激化に直面することになる。つまり規制緩和は、一方で新しい市場を生み既存市場への参入を容易にすることを通じてビジネス・チャンスをもたらし、他方で市場参入企業の増大を通じて、企業間競争の激化をもたらすことになる。その場合の競争形態は価格競争となるきらいがある。価格競争が激化すると、まさに優勝劣敗、力の弱い企業は戦いに敗れ、倒産や廃業に追い込まれることになる。勝者はM&Aによるなどして資本を集中させ、市場シェアを高めることで、経営上有利となる。その結果、業界における企業数が減少し、寡占化が生ずることにもなりかねない。
 かくして、企業が規制緩和によってビジネス・チャンスを得、他方で直面する競争激化に対処して生き残りを図っていくためには、基本的には環境問題を重視し、顧客満足(CS)の実現を目指すマーケティングを、新たな観点に立って進めていくことが必要であるといってよい。

 そこで、以下に規制緩和に対応する新しいマーケティングの方向について述べることにしよう。

[視点1]市場の的確な把握を
 規制緩和による新規参入可能な市場が自社のターゲットとして好ましいものであるかどうか評価する必要があるが、それについては、市場の定量分析にとどまらず、定性分析の諸手法を駆使して、市場を構成する消費者のニーズやウォンツをきめ細かく把握することが大切である。ことに、消費者の行動を売りの現場などでとらえるとか、消費者の生活行動を十分観察するとか、消費者からのクレームを適切に検討するとかして、情報分析をなし、結果の解釈を的確に行っていく必要があるといえる。

[視点2]イノベーションの実行を
 新規市場に参入し、そこで競争優位を確保するためには、マーケティングにおいて絶えず新機軸を打ち出すことが必要である。製品開発を始めマーケティングの各活動領域での戦略・戦術について、知力を結集して、競合他社に対して差別化を図り、消費者の価値創造に寄与しうるようなものにしなくてはならない。

[視点3]ソフトウエア差別化の重視を
 競争激化の状況の下で、競争優位を確保するためには、競合他社に対して製品面や物流面などでのソフトウエアの差別化を図ることが重視されるべきである。

[視点4]リーズナブルな価格の設定を
 競合企業との価格競争に挑戦し、値引きをせざるをえないこともあるであろうが、出来る限り、消費者の知覚品質価値に見合うようなリーズナブルな価格を設定することを心掛けることが大切であろう。場合によっては、値引きを避けサービス活動に活路を見いだすことも必要である。

[視点5]情報化の推進を
 情報技術の進展による成果であるEDI(電子データ交換)やインターネットなどを導入した電子取引を推進し、また、物流情報ネットワークを整備し、さらに、情報技術の利用によるジャストインタイム配送とかQRやECRを進めることで、オペレーション・コストの節減を実現し、生産性向上に一層努めることが大切である。

[視点6]パートナーシップの構築を
 競争激化の中で、顧客とのパートナーシップを構築することが新しいビジネス・チャンスを生かし、また、ワン・ツー・ワン・マーケティングを進める上でも必要である。

[視点7]マーケティング・コミュニケーションの改善を
 消費者に対して、情報公開を旨とし、製品・サービスや企業理念などについて一層分かりやすい説明を行うべきであろう。ことに、金融ビッグバンによって、金融商品についての消費者の選択幅が広がるのはよいが、消費者が少しでもリスクを回避できるよう、金融商品や金融サービスについて、広告などで分かりやすい説明を行うことが肝要である。


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