特集 1998.4/vol.1

ニューシルバーの兆し
変わる円熟世代の実像

充実した人生のための勉強 早稲田大学エクステンションセンターはオープンカレッジという名称で広く一般に向けて公開講座を実施している。その機関紙に、ある高齢の女性受講者が次のようなコメントを寄せていた。「当時、十分に勉強できなかったという思いが今一気に噴き出してきたという気がする」。「当時」とは戦中・戦後の混乱期だ。青春時代に勉強したくてもできなかった。そんな勉強への思いが、彼女をオープンカレッジに通わせる。
 公開講座は一九八一年、同センターの正式発足と同時にスタートした。スタート時は年間38講座、会員も1,526人に過ぎなかったが、以後、順調に伸びていき、九七年には520講座・会員1万8,789人という規模にまで拡大してきた。現在、五十代以上の会員は五千人を超えており、全体の三割近くを占めている。「数字ではっきりつかんでいるわけではないが、年々、高齢の受講者が増えてきているという実感はありますね。生涯教育の時代になってきて、高齢者の目がこちらに向いてきたのだと思います」と同センターの事務長、佐藤和夫さんは言う。
トラベルスタディー 講座は早稲田大学の教室を借りて行われ、一コマ九十分でコマ割りも大学の授業と同じだ。オープンカレッジでは「アカデミックで継続的体系的な講座にする」という方針の下、語学や法律・経営の実務的な講座も置いているが、高齢者に人気があるのは文学や歴史の講座である。
 会員の三分の二は女性。ただし、年代が上がるにつれて男性の割合も増えてくる。一般に男性の場合は現役で仕事をしているときには受講する時間的な余裕がない。退職した後に時間ができると、勉強に生きがいを見いだそうとして受講し始めるわけである。
 オープンカレッジには独自の単位制度も設けられている。通算で七十六単位を取った人には修了証が授与されるのだ。七十六単位を取るまでには最短でも三年弱かかるが、すでに百四十人以上が修了証を手にしている。しかも、その九〇%は六十代の女性だ。そうしたところにも高齢者の勉強に対する強い情熱が表れている。
 また、同センターではオープンカレッジのほかに海外短期留学やトラベルスタディーといったプログラムも実施している。海外短期留学では米国、英国、中国など七か国十二大学に留学できるが、高齢者に最も人気があるのは中国だという。トラベルスタディーは、受講者がオープンカレッジの講座で学んだことにふれるため、講師と一緒に国内外の現地まで行くという研修旅行だ。毎年十二、三回ほど開催されていて、これにも多くの高齢者が参加している。
 充実した人生と勉強とを直結させようとする高齢者はこれからますます増えていくに違いない。

旅行に見るアクティブな高齢者 近年、旅行に繰り出す高齢者が目に見えて多くなってきた。
 「昔の年寄りは庭いじりでもして余生を静かに送っていたんですが、今はアクティブに過ごすのが当たり前ですね。それが最も端的に表れているのが旅で、この傾向は毎年増加しています」と旅行ジャーナリストの高梨洋一郎さんは指摘する。 
 現在の高齢者がアクティブになっているのはこれまで歩んできた人生の反動でもあるようだ。現役中に若い女性たちがどんどん海外旅行に出かけていくのを横から羨望(せんぼう)のまなざしで見ていた人たちなのだ。
高橋氏 高梨さんは高齢者と旅行のかかわりをこう話す。「今の高齢者は青春時代は恵まれず、結局、新婚旅行もファミリー旅行もたいしたところには行けなかった。生きるので精一杯だったんです。だから、『青春よ、もう一度』という思いが強い。それは、最近、旧制高校や女学校時代の同窓生と一緒の旅が盛んになってきているという点にも表れていますね。言葉を変えれば、旅は同じ青春を送った人たち同士で青春時代の空白を埋める行いであるのかもしれない。今は、男性、女性、地域社会といったグループで出かけていますが、夫婦単位が増えるのはこれからでしょう」
 経済面で余裕があるということも大きい。今の高齢者は、資産を子供に残しておかなければならないという意識が昔ほど強くはないと言われている。すると、住む家はすでに確保しているし、一定の年金や退職金も得ているため、それなりに消費生活をエンジョイできる。
 また、折から旅行業者間の競争が激化して旅行の値段も下がり、この面でも旅行に行きやすくなった。
 以上のような事情が総合的に作用して高齢者の旅行が増えているのだが、これからますます高齢化社会が進み、元気な高齢者も多くなる。しかも、若者と違って、値段の安い旅行だけではなく値段の高い旅行にも参加してくれる。旅行業者にとってこの分野は、今後とも成長が大いに期待できる魅力的なマーケットなのである。
 一方で、旅行業者に頼らない旅行をしようという高齢者も出現している。高梨さんは、「リタイアした人たちがボランティアで会をつくり、旅行代理店を通さないで旅を企画するという活動も始まっているんです。もはや旗の下に団体で行くだけの旅ではなくて、自分たちの目的に合った旅を自分で行動しながら探そうということなんですね」と話す。
 いずれにせよ、アクティブな高齢者の増加は、若者をメーンターゲットにしていた旅行業界に新たなマーケットをつくり出していくと言えよう。

パソコン通信で仲間づくり パソコン通信で交流する高齢者も増えてきた。大手パソコン通信のニフティサーブは一九九一年に高齢者向けのエフメロウ・フォーラムを開設したが、現在その会員は約八千人を数えている。
 九二年に会員になった公務員の小林能彦さん(56)はその動機をこう語る。「四十八歳のとき、十年たったら定年だけれど退職後はどうしようかと、考え始めたんです。そんなときに新聞で知ったのがエフメロウでした。これだ!と思いました。しかも、ちょうど通信機能の付いたワープロを買ったばかりだったもので」
 小林さんはいわゆる仕事人間だった。深夜の帰宅が当たり前という生活を送っていて、趣味もまったくなかった。それがエフメロウに参加して一変する。<会議室>に書き込まれた絵画や俳句の話題を読むうちにしだいに啓発されて、今では絵画鑑賞や俳句が自分の立派な趣味となった。「エフメロウには人生の達人がたくさんおられる。だから、会議室でのコミュニケーションには、慰めや励まし、思いやりの気持ちというのが流れているんですね」
 エフメロウはオンラインの交流のほかに、会員同士が直接会うオフラインも活発だ。年一回開かれる全国オフには毎年六十人ほどが参加するし、会食、カラオケ、花見、美術館見学などを目的としたミニオフも全国各地で随時活発に開かれている。「実際に会うと、文章だけでは表せないその人の雰囲気が伝わってきて、なおさら親しくなることも多いんです」と小林さんはオフの効用を説く。
 在職時代、メーカーの技術者だった小澤恭一さん(71)は退職後の九三年に、年を取った人たちが何をしているのかという興味からエフメロウに参加した。その結果、全国に百人を超える友達ができたのだが、「それまでは、学校の同級生や会社の同僚との付き合いだけでした。パソコン通信をしなかったら、何もしないで家にこもっていたかもしれません」と言う。
 昨年十月には二泊三日で奄美大島に行くなどオフもすでに十回ほど経験している。奥さんの眞理子さん(62)もオフに同行したことがきっかけでエフメロウに入った。オフでパソコン通信の相手と会うのは「昔からの友達に会ったのと同じような感じ」とのことだ。
 ともあれ、パソコン通信ができるというだけで、老後の交遊関係がかなり広がってくるのは確かなようである。


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もうすぐ敬老の日。お越しください、高齢社会の「好例」展。 東京ガス「ずっと元気を楽しもう」展 東京ガス 97.9.4朝刊5段



●21世紀への医療ルネサンス

満足ケアの条件(1)98.2.20朝(2)98.2.21朝(3)98.2.22朝(4)98.2.23朝(5)98.2.24朝(6)98.2.25朝(7)98.2.26朝(8)98.2.27朝(9)98.2.28朝
●超高齢時代

女性の能力 積極活用98.1.17朝/民営化しても「質」維持98.1.24朝/居場所知らせる発信器98.1.31朝/給与体系は社員が選択98.2.7朝/福祉機器で町おこし98.2.14朝/心と体の触れ合い98.2.21朝/「一人きりの悲劇」防げ98.2.28朝
●サラリーマン・第2章

新たな職場は地上10メートル97.9.23朝/“脱・会社人間”を手助け97.9.24朝/再就職“完全請け負い”97.9.25朝/売場で生かす専門知識97.9.26朝/経験を武器に夢創造97.9.27朝
●期待と不安(介護保険法成立を前に)

(上)「公正な認定」どう確保97.12.4朝/(中)巨大市場にらみ“商戦”97.12.5朝/(下)ヘルパー確保 量、質、施設整備も課題97.12.6朝
●介護の現場を歩く

(1)デイサービス97.11.18朝(2)ホームヘルパー97.11.19朝(3)24時間巡回サービス97.11.21朝(4)住宅改造97.11.22朝(5)ショートステイ97.11.24朝(6)特別養護老人ホーム97.11.25朝(7)老人保健施設97.11.26朝(8)療養型病床群97.11.28朝(9)ケアハウス97.11.29朝
●海外シニア事情

痴呆症のケア(1)97.7.2朝(2)97.7.9朝(3)97.7.16朝(4)97.7.23朝/ニュービジネス(1)97.7.30朝(2)97.8.6朝(3)97.8.13朝(4)97.8.20朝/高齢期97.8.27朝
●お元気ですか

写真愛好家集団「古稀同人」97.9.17朝/駄菓子問屋横丁 商売は面白い、やめられない97.9.18朝/長寿ボウラー夫婦97.9.19朝/90歳水墨画愛好家97.9.20朝

(1997年7月から1998年2月の読売新聞東京本社14版から)




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