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おお、紙よ!

紙をテーマにしたクリエイティブをしよう

博報堂 MDビジネスインキュベーション局 梅村チーム アートディレクター 岡室 健

広告会社のアートディレクターの中で、紙メディアの可能性に積極的に取り組んでいるのが、博報堂の岡室健氏だ。岡室氏のユニークなところは、表現にとどまらず、最新のテクノロジーを積極的に取り入れ、紙の新たな使い方を広げていこうとしていることだ。そこから見えてきたメディアとしての紙の進化の方向性を聞いた。

さわれる文字が作りたかった

── 岡室さんというと、2007年にADC賞を受賞した、「なかよし幼稚園」のために作ったアルファベットと数字をモチーフにした紙風船「FEEL TYPE」のイメージが強いのですが。

僕が博報堂に入社したのは2006年ですから、入社してすぐの頃ですね。もともと文字というか、タイポグラフィーと紙が好きだったんです。文字というと平面に書いたり、印刷されたものが当たり前ですが、文字がさわれたり、世の中に流通するような形にするとどうなるだろうというのが、最初の発想です。それを紙風船にするというのは後から思いついたことです。

── 「さわれる文字」というのが最初の発想だった?

子どもって、モノをさわることで学んだり、覚えたりする。何かを学ぶ時や想像する時にいちばん大切なのは、それに対して興味を抱くことだと僕は考えていて、そういうものが作れないかと思っていたんです。

── きっかけは何だったのですか。

実は、大学院の修了制作のときに研究していたものなのです。会社に入ってから、これは“世の中化”させたほうがいいと思って、自分で幼稚園に話しに行ったんです。

── 個人的に売り込みに行った、ということですか。

そうです。自分の母校というか、母園ですね(笑)、「これで授業やりませんか」と。

── それにしても、なぜ紙風船だったのですか。

紙風船は破れる。そこがすごくいいと思ったんです。「モノは壊れるものなんだ」と知ることは、子どもにとって大切なんじゃないか。紙風船は破けるものなんだとわかれば、扱いも丁寧になる。一つ一つの風船を大事に使い始めたり、友達に渡したり、しまったりするようになると思ったんですね。

幼稚園の学習遊具/紙風船「FEEL TYPE」(なかよし幼稚園/千葉市美浜区)

第二フェーズに入った紙

── 最近、紙をテーマにした作品展に積極的に取り組んでいるのは、そうした理由からだったんですね。

いろいろなことが動き出したきっかけは、2014年に神保町にある竹尾見本帖本店で開催した「紙とテクノロジー 折り紙の呼吸展」からですね。「折り紙」の技術が、最近は数学や工学、医学の分野でも盛んに応用されている。紙の専門商社の竹尾さんがその展示会をするというので、そのアートディレクションを竹尾さんから依頼されたのです。

実は、「折り紙の呼吸展」の話がある前から、東大の舘知宏先生(東京大学大学院総合文化研究科助教)の考えた折り紙を個人的に研究していて、紙を細かく折り込むと伸びるようになるんじゃないかと考えていたのです。そうしたら竹尾さんのほうから、逆に「実は舘さんたちの展示が1か月後にあるので、ディレクションをやってもらえませんか」という申し出があったのです。

それがきっかけで、舘先生とも知り合うことができたばかりか、その展示に来ていた「AgIC(エージック)」の杉本雅明さんとも知り合えた。AgICは、電気を通す「銀ナノインク」をインクジェット印刷することで電子回路を製作する技術を持っているベンチャー企業です。それが、2015年6月の「光る紙の照明poster展」や今年7月の「光れ!紙 銀ナノinkと紙のミライ展」につながっていったということですね。

「紙とテクノロジー 折り紙の呼吸展」 ポスター

今年7月に開催された「光れ!紙 銀ナノinkと紙のミライ展」

── 「折り紙の呼吸展」後の対談で、岡室さんは「折り紙は第二フェーズに入った」と言っていますが、どういうことですか。

日本折紙学会という学会があるのですが、完全に工学系の学会です。会長の三浦公亮先生が考えたミウラ折りは人工衛星のパネルの展開方法として有名ですが、舘先生は、そのミウラ折りをはじめとする折り紙研究の第一人者です。舘先生は、3次元の作りたい立体形を入力すると2次元の折り目つきの展開図を自動作成する「オリガマイザー」というソフトも作っています。それから医療分野にも使われていて、折り紙の技術で作った折りたたまれたチューブ状の医療器具を血管に挿入して、血管を広げる治療にも使われるようになっています。

今の折り紙は、僕らが知っている、折って楽しむ折り紙と違って、折ることによって、実際に使える椅子にもなるし、家にもなる。世の中の役に立つもの、世の中を変えるものになっている。それで「折り紙は第二フェーズに入った」と言ったのです。

それは紙にも言えることで、テクノロジーと組み合わさることで、紙は新しい可能性を持ち始めています。今まで紙が弱いとされていた熱や水に強い紙、磁石にくっつく紙もできている。物理的な特性が、今までとは違ってきているんですね。

ミウラ折り

世の中にない新しいメディアを作る

── 岡室さんは、今、紙をどういうものだと思っていますか。

折り紙の舘先生が言っていたことで印象的だったのが、紙は歪むこと、曖昧であるから優れている、ということです。アルミや金属などでは作れないものが、紙だとできることがあるのです。要は、紙は繊維が重なってできているので、ある程度伸び縮みする。金属だとピッタリの数値じゃないと隙間が空いてしまうようなものでも、紙は、その構造が成り立つんですね。

── 曖昧さが、逆に紙の強みになる?

紙は人間の手と一緒なんですよ。柔らかい卵をつかむには、ロボットだと一所懸命プログラミングしないと難しいけど、人の手はそれが簡単にできてしまう。

── 金属だとできない構造が紙だとできるというのは、デジタルとアナログの関係にも似ていますね。

少し違う話かもしれないけど、デジタルとの対比ということで言うと、パソコンのモニターは、やはり“情報に触っていない”感じがしますよね。Macでデザインをやっていますが、画面だけで作業を終わらせることは、まずありません。必ず紙に出力して確認します。不思議なんですけど、例えばロゴを作っている場合でも、プリンターで出力して、目の前に置いて、光の中で見ないと、そのロゴがいいかどうか、最終的に判断できない。光の中で視点が変わると、ロゴの見え方って変わるんですね。

── 先ほど、伸びる紙を「折り紙の呼吸展」の前から自分でも研究していたとおっしゃっていましたが。

実際に折ってみましょうか。これはミウラ折りという折りなんですけど、蛇腹折りとは違うんです。紙を直角に折っているわけではなく、ゆるい角度でジグザグに折っていって、たたんで、対角線の端と端を引っ張ると一発で開くというか、伸びる。

僕が伸ばしたいと思っている構造は、これをもっと細かく折り込んだものです。手折りでやればできるのですが、機械化が難しい。型を作って、クルクル回転させ編み込んでいくような仕組みができるはずなんですが、そこがなかなかうまくいかないんですね。

例えば、これ、段ボールの厚さくらいに折りたためるわけですが、それを大きく広げたり、モノを入れればその形に伸びるし、クッション性もある。閉じた時と伸ばした時で色を変えたり、見る角度で見える絵を変えてもいい。これが量産できれば、動くポスターもできるわけです。いろいろな使い方ができるはずなんですね。

── ちなみに伸びる紙は、岡室さんが個人的に取り組んでいるものなのですか。

実は、会社が最近そういうことを認めてくれるようになっているんですね。2014年に博報堂と博報堂DYメディアパートナーズのビジョンとして、「未来を発明する会社へ。Inventing the future with sei-katsu-sha」を打ち出したんですが、それ以降、社内に“発明部”みたいなのができているんです。

伸びる紙はあくまで一つの例で、僕も発明家になろうとは思っていません。でも、最近は世の中にないものを作って、それが新しいメディアになっていくほうがグラフィックを一つひとつ作るより大きいことなのではないかという思いが強くなってきています。

今はデジタルが発達しているから、みんなそっちに目がいっていますが、根本的にどこまで人がデジタルを信用しているのかというのは、ずっと疑問を持っています。やはり、最終的に人間ってさわることで確信を持つし、さわることで好奇心も生まれてくると思っているんですね。iPadやiPhoneなどタブレットやスマートフォンが成功したのも、画面にさわれるというのが大きかったと思います。

見やすいではなく、見たくなるメディアを

── そういう岡室さんから見て、新聞はどういうメディアに見えますか。

メディアが先に立っている感じがしていて、それが新聞のいい佇まいになっていると思います。確固たる正しい情報が載っているという感じがするメディアですね。

── どういうことですか。

デジタルメディアは特にそうですが、今のメディアは見る人に合わせて最適化されているものが多い。新聞はその逆です。例えば、新聞のサイズも決して読みやすい大きさだとは思えませんが、頑として変わらない。でも、そこがいいと思うのです。情報が取りやすいことが、必ずしもメディアにとっていいことでもないと思うんですね。

── ネットメディアではユーザビリティーということがよく言われますが、情報へのアクセスのしやすさが「読みたい」に繋がらないということですが。

2015年1月から、博報堂の雑誌『広告』のアートディレクションと副編集長をやっているのですが、今までにない雑誌を作ろうという方針でやっています。最適化の話ではないですが、今の雑誌は、かっこいいものが多すぎる。フォーマットが全部、一緒ですよね。どの雑誌を見ても同じように見える。

雑誌の作り方は、デザインが決まってから、記事が作られるのが普通です。雑誌『広告』ではそれをやめているんですね。記事を書いて、見出しも考えてから、企画ごとに全部、デザインを変えているんです。それから、3種類紙を使っているのですが、内容に合わせて毎回、紙の種類も変えています、表紙も中身も毎回、違うんです。

それから、一番後ろのページに「撫でて・愛でて・オブジェ」というペーパークラフトのページを設けています。最初の号が「水色の自己主張」というテーマだったので、その時は水に溶ける紙を使った、クラゲのペーパークラフトにしました。逆に、「これからの母性は」をテーマにした号では、水に溶けない紙を使って、花瓶のペーパークラフトにしています。

── 子どもの時買った雑誌には、よく工作付録が付いてましたよね。

おとなが作るクラフトですよね。ただ紙の良さを見直そうではなく、紙を進化させて、可能性を広げていくことが大事なのだと思います。

Ken Okamuro

1978年東京都生まれ。2004年東京藝術大学デザイン科卒業後、同大学院入学。同年からドラフト・D- BROSにデザイナーとして約2年間就業。06年東京藝術大学大学院デザイン科修士課程修了。06年博報堂入社。HAKUHODO DESIGNを経て、第2クリエイティブ局勤務。07年東京TDC賞準グランプリ。08年東京ADC賞。08年JAGDA新人賞。博報堂・竹尾共催の「折り紙の呼吸Breathing of ORIGAMI」「光れ!紙 銀ナノinkと紙のミライ展」などのアートディレクションも務める。

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