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マーケボン

1848年の大統領選挙

『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』 (カール・マルクス著・平凡社ライブラリー)
『怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史』 (鹿島茂著・講談社学術文庫)

平塚元明 マーケティングプランナー

2016年の十大ニュースとなれば、誰がどう選んだとしても、米国大統領選挙のことがリストから漏れることはないだろう。その結果には世界中が驚いた。事前にトランプ圧勝を予測できた専門家はおそらく皆無、大慌ての後出しじゃんけんが喧(かまびす)しい。

他人事じゃないね。市場の専門家といいながら、市場に裏をかかれ続けている者、それが我々マーケターである(その自覚がない人は幸せだ)。野次馬も結構だけれど、事前の世論調査が汲(く)み尽くせなかった市井の人たちの動態に、謙虚に思いを馳(は)せてみる機会ととらえておきたい。

今回の大統領選の結果をきいて、本棚から引っぱり出したのが『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』(カール・マルクス著)。ナポレンの甥っ子、ルイ・ボナパルトが1848年の選挙でフランス大統領に選ばれ、のちにクーデターを起こして1852年に皇帝ナポレオン三世となるまでの過程を書いた本だ。マルクスの筆は、そのナポレオン三世をこきおろして容赦がない。

「ヘーゲルはどこかで、すべての偉大な世界史的事実と世界史的人物はいわば二度現れる、と述べている。彼はこう付け加えるのを忘れた。一度は偉大な悲劇として、もう一度はみじめな笑劇として」という書き出しは有名だ。一度目の「偉大な悲劇」は、フランス革命が紆余(うよ)曲折の末、ナポレオンの帝政(第一帝政)に帰結してしまったこと、二度目の「みじめな笑劇」は、世界で初めて普通選挙による大統領選を実現したフランスの共和政が、ナポレオン三世の帝政(第二帝政)に至ってしまったこと。ナポレオンは英雄であったが、ナポレオン三世は初代とは似ても似つかぬ凡庸愚昧(ぐまい)で、曰(いわ)く「昔のナポレオンのマンガ版」のような人物だと酷評している。

インテリが愚かだと評する人物、そしてインテリが信じる時代の進化方向に逆行するかのような志向……というと、そこに二重写しになるのは今日のドナルド・トランプの姿である。マルクスの面白さは、その人物個人の言動や行動に問題を見るのではなく(だからどこまでも無能として描かれる)、その人物が時代の主人公の役を演じることを可能にした〈情況〉を問題視し、見えていなかった背景を抉(えぐ)り出す手際にある。トランプがスゴイんじゃなくて、エリート連中が自滅したのよ。乱暴に要約すればこうなるか。

と、ここでもう一冊。『怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史』(鹿島茂著・講談社学術文庫)も推薦しておくことにする。いやいや、トランプって結構スゴイんじゃないの。なかなかどうしてあなどれないぜ、という見方もあるとすれば、本書がそれ。私が買った時の帯には『「ナポレオン三世=バカ説」を徹底検証する』とあって、マルクスら同時代人の言説で固定化してしまったナポレオン三世の負のイメージを再点検する試みだ。パリにボン・マルシェなどのデパート文化を花開かせた大胆な経済政策、バラックを一掃し公園や大通りを整備して現在のパリの形をつくった都市改造計画の推進など、それまで誰も思いつかなかった政策を構想実行した独特の能力と人物的魅力に光をあてている。

ドナルド・トランプは果たしてどんな大統領になるのか。そして、市井の人たちは新たな大統領をどう評価するのか。就任式は1月20日。年末年始にトランプ関連本でも読んでみようかというのであれば、この二冊を加えてみることをおすすめします。今年もお世話になりました。ではよいお年を。

フランス史に明るくない人は、マルクスよりも鹿島本を先に読むとラクできる。初代ナポレオンのことがそもそもアヤシイ人は、同じ著者の『ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789-1815』(講談社学術文庫)をさらにその前にどうぞ。

筆者プロフィル

1967年生まれ。1989年博報堂入社。マーケティング局〜博報堂電脳体〜インタラクティブ局を経て03年に退社、現在はフリーで活動中。(株)博報堂プラニングハウスフェロー、(株)パズル社外取締役、(株)ants相談役、「宣伝会議」レギュラー講師。著書に「ポスト3.11のマーケティング」(共著)など。 http://blog.goo.ne.jp/omiyage22

本誌デザイン/阿部雪絵デザイン室

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