特集 1999.8/vol.2-No.5

ここまできたデジタル送稿  新聞広告のデジタル送稿は、MOなどを使ったオフライン送稿からオンラインの実証実験の時代を迎えつつある。新聞協会と広告業協会も、昨年から合同でデジタル送稿標準化のための作業を進めている。
 しかし、同じ15段でも新聞社ごとに広告サイズが違うという事実一つをとっても、デジタル送稿が単に技術の問題ではないことがわかる。何のためのデジタル送稿なのか。新聞広告のデジタル送稿実現のために何が課題となっているのか。新聞広告電子送稿コンソーシアム、河北新報社、インタービジョンの取材を通して探った。
コンソーシアム
 新聞広告のデジタル送稿は、新聞社内部の問題、広告会社内部の問題、新聞社と広告会社とをつなぐ問題の三つの部分に分かれる。MOによる入稿はすでにかなりの新聞社が受け入れているし、広告会社の制作部門も約八割がデジタル化されている。残された問題はそれらをつなぐ部分、つまり複数の新聞社と複数の広告会社が自由にデジタル送稿を行う仕組みをどうするかという問題だ。ここでは「標準化」が大きなテーマとなる。
 この新聞社と広告会社とをつなぐ問題への取り組みを目的に活動している「新聞広告電子送稿コンソーシアム(以下コンソーシアム)」に話を聞いた。
 
コンソーシアムの役割

遠藤氏 現状では、同じ十五段でも新聞社によって広告サイズは微妙に違うし、新聞社側に用意されているフォントの数もまちまちだ。また、新聞社に送る送稿フォーマットにもいくつかの種類がある。これらを標準化しないことには、個々の新聞社の仕様に合わせて広告原稿を作り替えるという無駄が生まれ、デジタル送稿のメリットは大きく損なわれる。
 この標準化のために活動しているのがコンソーシアムで、電通、博報堂、共同通信社の三社により、今年二月二十四日に非営利の任意団体として発足した。
 デジタル送稿の標準化については、これまで新聞協会、広告業協会個別に作業が進められ、新聞社と広告会社をつなぐ部分の標準化作業も両協会合同で昨年から進められている。では、コンソーシアムの役割は何かということになるが、この点についてコンソーシアムメンバーの猪瀬洋一・電通新聞局計画推進部長は「両協会がまとめている標準化作業のための具体的な素材を提供する実験組織という立場でコンソーシアムを立ち上げた」と語る。
 デジタル送稿の標準化のためには実証実験は不可欠だ。しかし、各社の利益がぶつかる協会内で実際に送稿実験を行おうとすれば、費用分担、実験に使う広告原稿の決定だけでも多くの調整を必要とする。ところが、新聞広告を取り巻くデジタル化のスピードは、それを待ってくれない。広告会社を代表する電通、博報堂とNHKを含む六十の加盟社で構成される共同通信社がコンソーシアムを発足させたのは、こうした背景がある。
 遠藤真・博報堂メディアカンパニー新聞局業務進行部長もコンソーシアム発足当初は、周囲の反応にもどかしさを感じたという。
 「確かにコンソーシアムを外からみると、よく分からない面が多分にあると思うのです。我々の方は結構ストレートで単純なのですが、当初はなかなか設立趣旨を理解していただけなかった。最近、やっとそれなりに皆さん方に少し認知していただいたかなと思います」
 アメリカでは、広告業界主導で立ち上げた非営利機関DDAPがデジタル送稿の標準化に向けた積極的な活動を展開している。コンソーシアムの発足は、デジタル化の波に機敏に対応できる機関が必要とされてきた証左かもしれない。

標準化の重要性

 広告業界で激しい競争を展開してきた電通、博報堂が一緒になったのが「この業界で初めて」(電通・猪瀬氏)であることも、デジタル送稿にとって「標準化」の問題がいかに重要かを物語っている。両社はこれまで個別にデジタル送稿の実験を展開してきた。あくまで標準化は両協会が決めることと前置きした上で、猪瀬氏は「電通方式、博報堂方式とばらばらに実験を進めていくと、結局は標準化と逆行する。だったら一緒にやろうということで、去年から話し合いのテーブルに付いた」とコンソーシアム発足の経緯を説明する。
 これまで共同通信社は記事と記事中の写真の配信を業務とし、広告には一切かかわってこなかった。コンソーシアムの設立参加について田川義和・共同通信社情報システム局情報技術部次長は「記事と広告があって初めて新聞ができる。広告のデジタル化が今後進むとしたら、共同が参画することは加盟社の利益につながる。そういうことが共同の理事会で確認された」という。広告主の多くは東京に集中している。オンラインのデジタル送稿は東京と地方との距離をゼロにする。そのためにも標準化は不可欠だ。

コンソーシアムの活動

田川氏 コンソーシアムは活動期間を一年間に限定している。各社三千万円、合計九千万円が一年間の実験予算だ。「景気の悪いなかで各社とも大きな負担です。一年が限界ということもありますし、業界の標準化に貢献するには、スピードが大事だということもあります」(電通・猪瀬氏)
 コンソーシアムでは活動を二段階に分けている。三月二十五日に開催された「コンソーシアム発足説明会」では、新聞社関係七十四社、広告会社関係九十六社を招いて、一年間の活動スケジュールを説明した。同時に多様な調査、実験、検証活動を行う「電子送稿ワークショップ」への参加を呼びかけた。現在、広告会社、新聞社を合わせて九十九社がこのワークショップに参加している。
 四月には、このワークショップ参加社を対象に現在のEDIの状況、電子送稿の取り組みの進捗(しんちょく)状況を尋ねるアンケートを実施。MOを新聞社に渡し実際にモノクロ広告原稿を輪転機で試し刷りをしてもらう実証実験も行っている。また、六月十六日には、アメリカのDDAP副会長のロイ・ズッカ氏を招いて同組織の活動状況や歴史を振り返っている。これが第一ステージの主な活動で、アンケート、実証実験の成果は、七月三十日の報告会で発表した。
 第二ステージの活動の最大の山場は、秋に予定しているオンラインの送稿実験だ。九月中旬に実験の説明会を開くべく準備中だという。また、オンラインの実験とは別に、カラー広告の実験も九月に予定している。

第一ステージの成果

 MOによって行われた第一ステージの実証実験は、ADFとEPSの二つのフォーマットで行われた。デジタル送稿で従来から問題となっていたのが、送り手側と受け手側の環境の違いによって起こる「文字化け」だ。それを最初から防ぐため、二つのフォーマットとも送り手側で広告原稿全体を画像化して送るという手法をとった。そのため、両フォーマットとも当然のことながら、文字化けは一切なかった。ADFフォーマットは今回初めて多数の新聞社の協力で実験したものだが、両フォーマットとも十分使えるという結果を得た。
 また、アンケートは新聞、広告各社にデジタル送稿への取り組み方を聞いた。 
 「新聞社対広告会社という点では、広告会社の方が若干遅れている気はしました。一方、新聞社も広告局周りのデジタル化が遅れている。紙面制作はすでにCTS化されているので、MO入稿やISDN回線での受信など基礎的な部分は過半数の新聞社に設備がある。ただし、完全なオンラインはほとんどないと言っていい状況です」
 アンケートの結果を簡単に紹介した後で共同の田川氏は、「デジタル化が進んでいる新聞社でもどこかで止まる。広告会社も同様で、両業界ともデジタル化しようという意欲はあるが、やはりどこかで止まっている。そういう状況がアンケート結果に現れている」と指摘する。
 コンソーシアムでは、広告会社から新聞社を通した理想的なデジタル送稿のワークフローの作成もテーマとして掲げているが、現状は組織や従来からの仕事の慣習がフルデジタル化を阻んでいる。
 「相互デジタル送稿は技術やシステムの問題ではないのです。最終的には、人の頭の中の問題です。送稿フォーマットや送稿手段は最適に近いものが出ると思うのです。ただし、それが出たからデジタル化になるというものではない。それを扱う人間系の問題です」
 デジタル送稿は人間系の問題だということを象徴するのが、電通の猪瀬氏が紹介してくれたニューヨーク・タイムズのカラー化のエピソードだ。 
 前社主の息子ザルツバーガー・ジュニアは、社主になっってすぐにいろいろな改革に着手した。その一つが紙面のカラー化だ。それまでニューヨーク・タイムズは、USAツデーがカラー化した紙面で売れているなかで、頑としてモノクロ紙面にこだわってきた。ザルツバーガー・ジュニアが社主になって初めてカラー化に踏み切った。非常にきれいな再現性のある紙面になり、広告収入も急増した。
 「そのときに、ここがすごいのですが、万全な準備をして、カラー化と同時にカラーの広告原稿も一〇〇%デジタル入稿にした。今まで編集面も広告面もモノクロでしかなかったのを一気にカラーにした。そのためにニューヨーク・タイムズの色見本を作って、広告主に配った。クオリティーも高い水準を維持している。やればできる」

新聞広告の価値向上のために

猪瀬氏 電通の猪瀬氏も、博報堂の遠藤氏も新聞局に在籍している。コンソーシアム立ち上げのもう一つの理由には、新聞広告に対する危機感がある。
 「新聞広告の価値を高めようという考えからです。それは両社の新聞局にとっても、共同にとっても大きな課題です。昭和五十年にテレビに広告量のシェアを追い越されて以来の競争の歴史があります。そのためには、新聞広告を使いやすいものにしていかなければいけないし、クオリティーも上げていかなければいけない。しかも、低コストでやっていかなければいけない。そうしないと、広告会社も立ち行かなくなる」(電通・猪瀬氏)
 広告会社のクリエーティブ部門には、マッキントッシュが乱立し、製版会社もほとんどの制作過程でデジタル化が進んでいる。ところが新聞社に入れるときには、フィルムにして、書類に判を押して入稿する。紙面制作はCTS化されているが、間が完全に抜けている。ここをデジタルで通せばクオリティーは劣化しない。しかし、現状では広告会社の新聞担当は、“送り”に多くの時間を費やしている。「そこだけ取り残されているという感じがする」と電通の猪瀬氏は語る
 電子送稿と聞くと多くの人が一歩身を引いてしまうのは、そこで使われる技術の問題に目を奪われ、目的を見失ってしまうからだ。ファイルフォーマットや転送プロトコルに何を使うか。広告原稿を画像化するとは、どういうことなのか。システム担当や最近のクリエーティブ、製版の専門家でもなければ、皆目見当がつかない。
 「残念ながら、電子送稿は単なる進行業務だとまだ思われているようだ。電子送稿は、これによってビジネスをどう変えていくかの手段です。そういう目でこれから我々はどういうふうにやっていかなければならないかを考えていかないと、何の意味もない」(博報堂・遠藤氏)
 広告会社新聞局のこれからの業務について、電通の猪瀬氏はこう考えている。
 「これまで新入社員は送稿でたたき上げられてきた。これは教育的には非常にいいのですが、本来もっとやるべきことがある。それはお得意様に行って、新聞広告の価値をきっちり説明することだし、お得意様のニーズをきっちり聞いてきて、それを新聞広告企画という商品に仕立て上げる。そういうことに時間をかけていかなければいけないと思うのです。そのためにもEDI化による生産性の向上は不可欠です」

コンソーシアムの今後の活動

 第二ステージのオンライン実験に向けて、コンソーシアムは動き出している。
 ファイルフォーマットもADF、EPSにこだわらず予算の許す範囲でいろいろな形の研究、検討をして、その結果を報告したいという。オンラインの仕組みも、通信サービスやインフラ会社から提案してもらう方法を取った。通信方法を固定化しようとしても、次々とより高度な、より安価なシステムが登場する状況にあるからだ。「ですから、例えば衛星の場合はこういう問題があります、イントラネットの場合はこうですとか、そういう結果が導き出せる実験になると思います」(共同・田川氏)
 オンラインの実験の説明会は九月。十一月には送稿実験を行い、その結果はワークショップ参加社に報告される。さらに、実験結果のレポートは電子送稿標準化のための検討の素材という形で年明けごろまでに新聞・広告業両協会にも提出して、コンソーシアムは活動を終える。

スケジュール


■広告のデジタル化をサポートするソフト・技術の開発すすむ

 広告のデジタル化や電子送稿をサポートするソフトや新技術の開発が進んでいる。
 コンソーシアムの実験でも使われたADFは、電通テックと日本サイテックス社が共同開発した広告電子送稿フォーマットだ。従来、新聞広告の電子送稿で使われていたフォーマットはEPS形式で、これを新聞社のCTSに取り込むには、広告に使われた出力用のフォントを新聞社が個々に用意する必要があった。ADFは文字を線画データに変換するので、新聞社側で出力用のフォントを用意する必要がない。また、データ容量を圧縮できるのも特色で、高画質圧縮でも従来のEPSファイルの半分以下のデータ容量ですむため、オンラインの電子送稿フォーマットの有力候補の一つとして注目されている。
 このADFファイルをつくるには、ADFジェネレーターと出力用フォントが必要であり、ADFジェネレーターは1,000万円程度する。電通テックの小野裕二氏は「ADF化は製版会社の業務になると思う。既存のワークフローを変えないというのが基本姿勢」と、開発の意図を語る。
 広告制作の過程で問題になってくるのが、校正の問題だ。広告自体はデジタルで制作されていても、校正はプリントアウトされた紙で従来通り行われている。これを効率化できないかということで、画面上でのオンライン校正を可能にするソフトも登場している。校正に特化したソフトとしては電通テックの「アド・チェック」があり、今年5月に発売されたアドビシステムズ社の「Acrobat4.0」にも校正機能が追加されている。これらに使われているのがPDFだ。PDFはアドビシステムズ社が提唱するドキュメントファイル形式で、異なるOSや共通のフォントを持たない環境でも、オリジナルのデザインを保持したまま画面表示や印刷ができる。
 電通テックの「アド・チェック」は、広告・編集の校正に特化したもので、校正紙に書き込むように自由に校正を行うことができる。レイヤー機能を持っているので、複数の人のチェックが行え、またそのチェックがいつ行われたものかまで管理できる。チェックにはそれぞれパスワードの設定もできる。「アド・チェックのねらいは、これまで紙の上で行われていたことと画面上での距離をなくすこと」と開発者の電通テック田川哲郎氏はいう。
 今後も、広告の制作から入稿までの従来のワークフローをデジタルに置き換える技術やソフトが次々と現れてくることが予想される。




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