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売れている商品はどう新聞広告を使っているか ── 健康志向の食品 3つの事例 ──

健康志向の食品と新聞広告の親和性が高い理由

法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授 小川孔輔

2015年4月にスタートした「機能性表示食品」制度で、健康志向の食品市場が拡大している。健康志向の食品はどのようなコミュニケーション、マーケティング戦略をとっているのか。また、その中で新聞広告の果たす役割は何か。食のマーケティング、個々の企業のマーケティング戦略の分析にも定評がある法政大学経営大学院の小川孔輔教授に聞く。

健康志向の食品のターゲットはシニアと若い女性

── 健康志向の食品市場が拡大している背景をどう見ていますか。

結論から言うと、健康志向の食品が市場を拡大している要因は日本人が高齢化しているからです。その結果、健康に不安を覚える人が増えてきた。男女ともだいたい55歳過ぎから健康問題を抱えます。ターゲットがシニアだということも新聞広告が多く使われる理由だと思います。

ただ、健康志向の食品のターゲットは明らかにダブルターゲットで、シニアだけでなく、若い女性もターゲットになっています。

── なぜですか。

「健康志向」と「安全志向」が、この層に共通しているからです。シニアの場合はその要因が「健康問題」ですが、若い女性の場合は「美容と健康」です。

例えば、ナチュラルローソンがターゲットとしているのも、まさに都市部で働く20代、30代の若い女性です。ナチュラルローソンはコンビニでありながら、商品の選定にあたって合成着色料を使用しないことや不必要な添加物を用いないことを品質管理基準として設けたり、弁当などにも塩分量やカロリーに上限を設定しています。グリーンスムージーを最初に商品化し、ヒットさせたのもナチュラルローソンです。健康志向の食品の場合は、シニアがメーンで若い女性がサブターゲットの場合が多いですが、「健康志向」「安全志向」がその背景にあることは確かです。

我が国の人口の推移

広告表現が規制されていることで重要になるコミュニケーション戦略

── “健康維持をサポートすることが期待されるヨーグルト”を各社出していますが、あまり競合しないという話を聞きます。

マーケットには「置き換え型」と「積み上げ型」があるというのが、私の持論です。ビールのマーケットを見るとわかりますが、A社の商品が売れるとB社のシェアが落ちます。それから90年代の地ビールブームに続いて、2014年ごろから小規模な醸造所がつくる「クラフトビール」がブームになりましたが、一部を除いて全国に約200か所ある小さなクラフトビールメーカーの経営はむしろ厳しくなったと言われています。ビールのマーケットは典型的な置き換え型なのです。

逆に健康志向の食品の多くは、ヨーグルトがそのいい例ですが、健康維持をサポートすることが期待されるヨーグルトを食べ始めたからといって、今まで食べていたものを止めるわけではなく、プラスオンで購入されることが多いのです。内臓脂肪を減らしたい人と免疫力を高めたい人はニーズが違うし、今までの食べるタイプだけではなく、ドリンクタイプのヨーグルトが増えてきたこともヨーグルト同士が競合しにくい要因になっていると思います。

近頃スーパーのヨーグルトの棚が増えていますが、あれはスーパーにとってもプラスで、他の商品の売り上げを落とすことが少ないのです。しかも、差別化されているから値引き販売の対象になりにくい商品なんですね。

健康志向の食品市場は積み上げ型

── 最近の商品はコモディティ化で差別化戦略が取りにくいと言われていますが、健康志向の食品は有効だということでしょうか。

売れている健康志向の食品の多くは、差別化に成功しているということだと思います。健康志向の食品の場合は、広告表現が規制されていることが一般商品との違いです。だからこそ重要になるのが、コミュニケーション戦略です。

── どういうことですか。

一般的な健康志向の食品は、医薬品的な効能効果を表示することは旧薬事法(現医薬品医療機器等法)違反になるためできません。健康への具体的な効果を謳(うた)わず、商品の特性や商品の提供する健康価値を表現することが求められるということです。

こうした食品の機能の表示を可能にしようということで、国の制度として導入されてきたのが「特定保健用食品(トクホ)」「栄養機能食品」「機能性表示食品」です。特に、2015年から導入された「機能性表示食品」は、トクホと違って国の審査もなく、科学的根拠を提出すれば届け出だけで機能の表示ができるというものです。トクホでは許されていなかった「ストレス緩和」や「目」「睡眠」に関する表示も認められているということで、トクホからの切り替えも進んでいます。「機能性表示食品」制度は、明らかに健康志向の食品に対してプラスに作用していると思います。

ただ、「機能性表示食品」で許されるのも、「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」といった健康の維持・増進に役立つ表現です。例えば乳酸菌にしても、免疫力強化、体脂肪低減などさまざまな効果があるわけで、時代のトレンドを読んで、どの機能、健康価値を届け出するかというところからコミュニケーション戦略は始まると言えます。

新聞との親和性が高い理由は能動的な情報処理

── 新聞広告に「健康志向の食品」などの食品広告が増えていますが、その背景は何だと思いますか。

媒体特性から見れば当然だと思います。広告媒体は、大きく分けると電波媒体と印刷媒体があります。電波媒体は情報が目と耳から入ってくるので、あまり情報処理を必要としません。基本的に受け身の媒体です。印刷媒体は自分で情報を取りに行き、書いてあることを読まなければいけない媒体で、情報処理をより必要とします。

一方、健康志向の食品は、どういう効用があるかを説明しないとわからない“説明型の商品”です。これは健康志向の食品だけでなく、健康食品全般にも言えることですが、説明型の広告は、電波媒体より能動的に接触する新聞や雑誌の印刷媒体のほうが説明には向いています。

さらに、印刷媒体の中でも、より多くの人に毎日届く新聞のほうが使い勝手もいいわけです。健康志向の食品のメーンターゲットであるシニアに最も届くメディアが新聞ということもあります。Webでは届きにくい層です。昨年末に健康まとめサイトの閉鎖がありましたが、メディアに対する信頼も健康に関するコミュニケーションには非常に重要な要素です。さまざまな点で新聞広告と健康志向の食品は親和性が高いのです。

ただ、今後のコミュニケーション戦略にあたっては、まとめサイトやランキングサイト、あるいは情報がストックされるという意味ではYouTubeなどの動画サービスもそうですが、そういうキュレーションメディア・中間メディアの役割も含め考えることが重要だと思います。

── その理由は?

商品がヒットするケースをここ数年研究してきたのですが、「マスメディアとソーシャルメディアの間に中間的なキュレーションメディアが介在してヒットが起こる」ということが増えてきたのです。要因は、何かが話題になった時に起こる「後乗り」です。今、話題になっているようだけど自分は知らないという時に、YouTubeやまとめサイトを見るわけです。今までマスメディアだけでも、ソーシャルメディアだけでも起こらなかった話題の増幅が、間をつなぐメディアができたことによって起こるようになった。そういうトータルなコミュニケーションの変化も今後は考慮していくべきだと思います。

中間メディアの介在でヒットが生まれる

機能とマッチさせるため先読み型マーケティングが求められる

── それにしても、最近のヨーグルトは、乳酸菌の機能競争と思えるくらいさまざまな機能のものがありますね。

日本でヨーグルトが商品化されたのは1950年代ですが、それ以降、乳業メーカー、飲料メーカーを中心に乳酸菌の研究が進みました。それぞれの研究所が世界から集めて所有している乳酸菌ライブラリーは、多いところでは5000種類を超えるところもあります。大学や研究機関と共同で乳酸菌の新しい機能について地道な研究を続けていますが、実際に機能がわかっている乳酸菌の数はそれほど多くありません。

また、麹菌、酵母菌、酢酸菌、納豆菌など乳酸菌以外の発酵食品もたくさんあります。醤油、味噌、漬物、日本酒と例を挙げるまでもなく、日本は発酵菌の宝庫です。もちろん、発酵菌以外にもオリゴ糖、DHA、食物繊維など食品に含まれて機能性が現れる関与成分はほかにも数多くあるわけで、新たな健康志向の食品が出てくる可能性はいくらでもあるのです。

── タイミングはどうですか。

ですから、新製品の投入で重要なポイントは、顧客のニーズ「健康に関する課題」と研究開発のシーズをうまくマッチングさせることです。そのためには5年、10年先を読んで、次の候補を見つけておくプロ・アクティブ(先読み)型マーケティングが大事なのです。既存品の改良の場合はリ・アクティブ(事態対応)型マーケティングが重要ですが、新製品の開発では、これからどういうテーマにスポットが当たるか、先を読むセンスが大事なのです。

私自身が取材した事例でいうと、「明治プロビオヨーグルト PA-3」がそうです。「PA-3」は、アイデアの着想から新製品が発売されるまで約10年のリードタイムがありました。2006年頃から、世の中では生活習慣との関係から「プリン体」がクローズアップされていました。調べると、20~60代の3割以上が気にしていた。それがのちに「PA-3」のキャッチコピーに採用された「プリン体と戦う乳酸菌」を探し出すことになったきっかけです。

しかし、発売を2015年春にしたのは、その1年ほど前からビール各社が「プリン体ゼロ」を謳った発泡酒を発売したのを待ってからでした。健康志向の食品の商品開発は短期勝負ではなくて、中長期勝負なのです。

食のトレンドは「おいしくて体にいいもの」へ

── シニアや若い女性は健康志向・安全志向が強いということですが、今後の食のトレンドはどういう方向に向かうと思いますか。

食べて健康になる、あるいは食べて美しくなるというニーズは、明らかに高まっていくと思います。いま減っているのは現役世代の人口であり、65歳以上の高齢者人口は今後も当面は増え続けます。彼らは、元気で長生きしたいから当然体に気を使います。若い女性も、食を美容と健康から捉えている。ただ、若い男性は食のトレンドを考える上ではあまり考える必要はないと思います。私のゼミ生を見ていても、男子学生はダイエットにはいかない。草食系と言われていても、食事は“がっつり系”です。

ただ、そこで忘れてならないのは日本人の食の嗜好です。日本人は世界に冠たるグルメです。「健康志向」や「安全志向」が高まっているのは確かですが、おいしくなければ売れない。そこは、はっきりしていると思います。食品の機能にひかれて一度は食べてもらえても、おいしくなければリピートされないということです。しかも、日本人はおいしさを舌だけでなく、目でも感じる。「おいしくて体にいいもの」「おいしそうで体にいいもの」という方向で、健康志向の食のトレンドは進んでいくと思いますね。

Kosuke Ogawa

1951年秋田県生まれ。74年東京大学経済学部卒業。86年法政大学経営学部教授、2004年法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授(現職)。日本マーケティング・サイエンス学会理事。日本フローラルマーケティング協会会長を務める。著書に『しまむらとヤオコー』『ブランド戦略の実際』『マクドナルド 失敗の本質』ほか多数。岩崎達也・小川孔輔編著『メディアの循環「伝えるメカニズム」』(生産性出版)が2017年2月末に発行予定。

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