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スーパーマーケットのハレ消費と「〇〇の日」の関係

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授 寺本 高

スーパーマーケットでは、ハレの日や季節催事をベースにしたカレンダーで、年間の販売計画を立案する。実は食品などメーカーが作る「○○の日」も、そのカレンダーに組み込まれることで意味を持つ。スーパーマーケットとハレの日の関係を、流通経済研究所で長年店頭研究にも携わってきた横浜国立大学の寺本高准教授に聞いた。

スーパーマーケットにとっての“ハレの日”とは

── 日常的な買い物の場であるスーパーマーケットは、ハレ消費とは最も遠いところにあるような気がしますが。

“ハレ”をどういうレベルで考えるかによりますが、スーパーマーケットでは「季節催事」がハレ消費に当たります。中でも正月のための年末商戦は最も典型的なハレ消費で、百貨店だけでなく、スーパーマーケットも一年で最も力を入れる時期です。私は流通経済研究所で店頭研究を長年やってきましたが、12月に店頭で売り上げに影響をおよぼすかもしれない調査や実験をすることは絶対に許されません。それくらいスーパーマーケットにとって年末商戦というのは大事なのです。

スーパーマーケットの関係者が口を揃えて言うのが、「正月用の食材を買ってくれる人が、一番いいお客様だ」ということです。「一年で一番大事な時期の食材を買う店=消費者の中で一番の店」だと捉えているんですね。

── 正月以外のハレ消費というと……。

2月のバレンタイン。3月のひな祭り。3月の下旬から4月にかけてがお花見。5月の母の日。6月の父の日。夏には具体的な行事や記念日はないですが、夏休みの行楽系の催事が行われる。9月に入ってから始まる大きな催事としてはハロウィーンがあります。10月31日まで2か月ありますから長いですね。ハロウィーンが終わったらクリスマスです。スーパーマーケットの中では、これらがハレの日、季節催事と捉えられている。

── 季節催事の中にハロウィーンやクリスマスが入っているというのは、いかにも日本的ですね。

これ以外にも少し規模が小さい季節催事がいくつかあります。例えば、2月初めの節分がそうです。関西の習慣だった恵方巻きをセブン-イレブンが売り始めてから、全国的な行事食になっています。

スーパーマーケットの平均的なお客さんは、メーンで使っているお店に週に2、3回行きます。季節催事や店頭に並ぶ旬の魚や野菜で「あぁ、もう秋か、冬か」と季節感を感じ取っているんですね。四季があり催事があり週のサイクルがあるというのが、日本のスーパーマーケットで、それがお客さんの生活と切っても切れない関係になっている。その変化する生活に合わせてマーチャンダイジング(商品計画)を考えるのが、「52週マーチャンダイジング」と呼ばれるものです。

メーカーが売り込む“ハレの日”

── 1年52週、毎週催事を考えるということですか。

52週マーチャンダイジングというのは、毎週の重点商品を中心に販売計画や店作りをしていこうという考え方です。毎週、季節催事があるわけではありませんが、そのメーンとなるのが最初に言ったようなハレの日、季節催事です。メーンとなるハレの日をまず決めて、ケの日というか、催事が何もないところに、メーカーから提案を受けたプロモーションや、ちょっとした遊びを入れた企画などを考え、52週を決めていくのです。

── メーカーからの提案というのは、どのくらい前にあるものなのでしょうか。

3か月前くらいまでにありますね。メーカーの営業が「こういうキャンペーンをやりませんか」という提案をしてくるので、それを52週の中に当てはめていくわけです。

── その中には、ハレの日と連動したプロモーションもあれば、通常の商品キャンペーンもあるということですか。

さまざまですね。10年くらい前から、メーカーや関連団体が作ったハレの日を売り込むということが行われています。

例えば、8月31日は「野菜の日」。「や(8)さ(3)い(1)」の語呂合わせから、全国青果物商業協同組合連合会をはじめ9団体の関係組合が1983年に定めた記念日です。カゴメやJAグループ、さまざまな食品・飲料メーカーが52週の企画のひとつとしてプロモーションを仕掛けています。

── メーカーの営業にとって催事の枠を取ることが、棚取りと同じくらい重要になっているということですか。

そうなんです。従来どおり定番の棚をどのぐらい取るかということと、52週のスーパーマーケットの売り場プロモーションの中に、自分たちの企画をどう埋め込むかということが、彼らのミッションになっているんです。

季節催事だけだと、それに関連のないメーカーはビジネスチャンスがないままになってしまう。チャンスを広げるために、記念日を作っているということなんです。カゴメが始めた「需要創造営業」が、その最初だと思いますね。

── 「需要創造営業」とは、どういうものなのですか。

10年くらい前、カゴメの営業活動が先進的だというので業界でも注目を浴びたのですが、その時のキーワードが「需要創造営業」でした。例えば、野菜ジュースは、それまでかなり限られたシーンでしか飲まれていませんでした。それを広げていくためには、飲まれるシーンを自ら作り上げていかなければいけない。記念日は52週マーチャンダイジングの1枠ではありますが、メーカーから見れば、「野菜の日」「トマトの日」といった記念日は需要創造の一環なわけです。

先ほどハロウィーンまでの期間が長いと言いましたが、リアルな話をすると、そういう時期に記念日を作るといいわけですね。

── 「〇〇の日」を広めていくには、マスの力も重要だと思うのですが。

広告という空中戦、売り場という地上戦の両方が必要です。例えば、サントリーは「小ハレ」という新しい価値を作りました。「ハレの日」というのは普通は公のものですが、個人的なそれぞれの「ハレの日」があってもいい。「今日は1日仕事を頑張った。そんな自分へのご褒美にサントリー ザ・プレミアム・モルツを」というわけです。店頭でも展開しましたが、マス広告で徹底的に広めていった。

一方、ハイボールの復活は需要創造で、居酒屋や飲食店でハイボールをジョッキで飲む展開をし、ハイボール缶は店頭プロモーションと棚の確保を徹底して行っていった。やはり、その時の状況に合わせ、店頭もマスも使えるところが強いと思いますね。

なぜスーパーマーケットはSNSで話題にならない

── 寺本先生の研究で「スーパーマーケットが期待されている点」が、最近は変わってきたというものがありましたね(図)。

2006年と2010年の比較ですが、「自宅や勤務先から近い」が大きく低下し、今日のテーマでもある「売り場に活気や季節感がある」ことが上昇している。背景には、スーパーマーケットの競争過多があると思います。スーパーマーケットの出店数は数年前に比べたら落ち着いてきたとは言え、すでに過剰出店となっている。近いところにたくさんあるわけです。

そもそもスーパーマーケットが伸びてきた大きな理由は、売れる売り場を作ってきたということではなく、新規出店で売り上げのプラスを作ってきたからです。それが最近は既存店を活性化し、売り上げを伸ばす戦略に切り替えられている。そこで大事になってくるのは、既存店に新規顧客をいかに呼ぶかだと思っています。

── 今のスーパーマーケットはSNSで話題にならないことも寺本先生は指摘されていますね。

それが、新規顧客を呼べない大きな要因だと思っています。SNSを日常的に使うようになっている今の世の中では、話題になることが新規顧客獲得のために重要になる。では、どうしたらスーパーマーケットがSNSで話題として取り上げられるようになるのか。それを実証的に明らかにしていくことが、今取り組んでいることなのです。

── スーパーマーケットはあまりにも日常的過ぎて、SNSで話題にしにくいということはないですか。

それもあるとは思いますが、店内でスマホの撮影を禁止していたり、そういう雰囲気が作られていることも要因だと思いますね。昨年11月、あるスーパーマーケットで「ネタ投稿キャンペーン」を行いました。お客様に調査用のSNSに入会してもらって、買い物の時、自由に写真を撮っていいと言っておいて、それをアップしてもらうという調査です。

── 結果はどうだったのですか。

「大量陳列」「バラエティー」「おいしそう」、それから「キャラクター」は、「話題にもなるし売れる」ことがわかりました。

「バラエティー」というのは、いろいろな種類を同時に陳列することです。例えばQ・B・Bのチーズは、さまざまなフレーバーがあります。イチゴ味やパイン味、ワサビ味もある。お客さんは、どれにしようか迷う。この悩んで、迷うというのが、買う楽しさにつながると思うんですね。

ハレの日で「モノ消費」を「コト消費」に

── これからのスーパーマーケットは、話題になり、売れることが大事だと。

これまでのスーパーマーケットは、消費者の「モノ消費」を後押ししてきました。インストア・マーチャンダイジングやカテゴリー・マネジメントなど、客観的根拠に基づいて売りの改善が行われてきました。それが最も端的に表れているのが、ポイントカードなどのFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)です。それによって優良顧客=モノをたくさん買ってくれるお客様を囲い込もうという企業が増えてきた。

確かに“優良な顧客”を確保することによって安定的な収入は期待できるのですが、いつも同じ店を使う消費者というのは、実は買い物に対して無関心層が多いのです。ほかの店に変えるのが面倒だから同じ店を使っているという人が多い。そういう“優良顧客”の購買履歴を元に売り場を作るから、売り場がますますつまらないものになっていく。それだと需要は維持できるけれど、需要拡大は難しいのです。

── どうしたらいいのでしょうか。

これからのスーパーマーケットは、「モノ消費」ではなく「コト消費」を支援すべきだと考えています。スーパーマーケットの「コト消費」というのは、買うプロセスを提供することです。最終的にはモノを買っていただくわけですが、そのモノを買うまでのプロセスを演出することがスーパーマーケットでの「コト消費」だと考えています。

先ほどのSNSの調査はボジョレーヌーボーの時期だったのですが、ボジョレーは売れましたが話題になりませんでした。話題にならないが売れる商品の代表は卵や豆腐ですが、消費者の意識の中では、ボジョレーは今やそれと同じになっているんですね。「話題力」を維持するには、希少性、限定性を維持する新しい演出も常に必要です。ほかの店の成功事例をただ真似すればいいというわけではない。そういう意味では、毎年行われるハレの日、季節催事の演出に最も大事な視点だと思います。

Takashi Teramoto

1973年横浜市生まれ。98年慶應義塾大学商学部卒業。2011年筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。流通経済研究所主任研究員店頭研究開発室長、明星大学経営学部准教授を経て、16年から現職。主な著書に『小売視点のブランド・コミュニケーション』(千倉書房/日本商業学会賞奨励賞受賞図書)。

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