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オウンドメディアは問いかける

オウンドメディアは課題解決のための手段

電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業コンサルティング2部
コミュニケーション・デザイナー 
廣田周作

電通は1946年から広告業界のニュースを伝えるタブロイド判の「電通報」を隔週で発行してきたが、2013年10月から月刊化し、同時に「ウェブ電通報」をオープンした。この「ウェブ電通報」だけでなく、電通総研の「COTAS」、クレディセゾンの「SAISON CHIENOWA」の立ち上げにも深くかかわってきたのが廣田周作氏だ。「オウンドメディアは企業の本音と建前に矛盾がないようにする場だ」と言う廣田氏が説く、これからのオウンドメディアのあり方とは?

── 廣田さんは「ウェブ電通報」にもかかわっていると聞いていますが。

普段はマーケティングの仕事をしているのですが、広報と兼務をしていて、「ウェブ電通報」のサポートメンバーの1人です。「ウェブ電通報」の立ち上げ以前も紙の「電通報」の情報をWebで公開してはいましたが、全く新しい考えで2013年10月に立ち上げています。狙いは四つあります。

一つ目はメディア接触の変化への対応です。モバイル・ファーストになってきている中で、スマホ対応を意識することで、若い世代にリーチしたいということです。

二つ目は、リアルタイムに発信できるようにすること。今は1日数本の記事を配信しています。

三つ目は、これが最も重要な点ですが、さまざまな知見を持っている社内の人材を社内外に発信していくことです。これまでの紙の「電通報」は主に日本の広告費や広告賞の紹介といった広告業界のニュースを発信していましたが、「ウェブ電通報」では電通の社員が前面に出て情報を発信しています。

四つ目は社員のモチベーションを上げることです。電通本社のエレベーターのモニターに「ウェブ電通報」の記事を紹介しており、よく読まれた記事のランキングもそこで一緒に発表しています。同僚が紹介されているのを見て刺激を受けるわけです。こういうことは、紙の「電通報」ではできなかったことです。

人材を可視化する「ウェブ電通報」

── 社員を前面に出すという発想はどこから出てきたのですか。

社員を前面に出すのには明確な意図があります。電通の提供しているサービスとは何か、突き詰めて考えると、僕らはモノを売っているわけではない。社員の知見、人材が僕らの提供しているサービスの一番コアなところなのではないか。そう考えたんですね。

クリエイターであれば、広告賞の受賞などで名前が世間に知られることもありますが、例えばマーケターなどさまざまな知見を持っているにもかかわらず知られていない社員も多い。彼らをきちんと見せていくことを考えたのです。

人を起点にすると、情報が共感されやすくなります。紙の「電通報」は70年の歴史があり、業界内では信頼もある。これまでは、「電通報」に載っているということが信頼につながっていた。新聞も同じですが、紙媒体の場合は看板に価値があるのです。

ところが、Webでは「この人は面白いことを言っている」「有益な情報を提供してくれる」とわかると、検索してその人の過去の発言を調べる。その人が紹介している記事や事柄だから価値があると思ってもらえる。人を介して信頼性が生まれるわけです。

「ウェブ電通報」の狙いはクリエイターだけでなく、マーケターなどさまざまな知見を持っている人材を登場させ、クライアントに知ってもらうことにある

最先端の人を取材する「COTAS」

── 電通総研が運営する「COTAS」の立ち上げにも廣田さんはかかわられていますが、「ウェブ電通報」とはどう違うのでしょうか。

「ウェブ電通報」は電通社員を登場させるという考え方ですが、「COTAS」は電通社員が文化人や知識人、カルチャーの最先端で活躍している人のところに出向いて話を聞く。社員自らが取材するというところが大きな違いです。

今まで電通が付き合うクリエイティブな人たちというと、広告系のクリエイターばかりだったのですが、クリエイティブをより広い意味で捉えて、さまざまな分野で活躍する人たちに話を聞きに行く。そして、そこで知ったことを社内に持ち帰って共有する。

「探求」と「エンゲージメント」と呼んでいますが、これを繰り返すことで、社内にイノベーションが起きることを期待しています。

── 話を聞きに行く社員はどういう人たちなのですか。

例えば音楽なら、本当に音楽が好きな社員が、音楽の世界で面白いことをやっている人にインタビューしに行く。聞く人がそのテーマにリスペクトがあれば、相手も心を開いてくれて、深い話をしてくれるということです。

── 最近、綱渡りをやっている女性の記事が載っていましたが。

綱渡りは今、マイナーだけれども新しい「エクストリームスポーツ」として注目されていて、「スラックライン」と呼ばれています。登場していただいた福田恭巳さんは2013年に世界ランキング1位になっている女性で、取材したのは電通総研の後藤という社員です。彼もアスリートで、山登りやスキーをやっていて、エクストリームスポーツの観戦が趣味なんです。同じフィールドに立つことで、映像や音楽まで踏み込んだ話を聞くことができました。こうした記事はソーシャルメディアでシェアされやすいんですね。

「COTAS」の取材は、必ずそのジャンルを趣味としたり、リスペクトしている電通社員が行う

リサーチの手法を変えるためにやっている

── 最先端の人たちを取材先にしているのはなぜですか。

実はもう一つ、リサーチの手法を変えたいという狙いがあるからです。これまでの消費者リサーチは「デモグラフィック・リサーチ」が中心で、M1、F1、M2、F2というように性別・年代別のリサーチでした。若者研究やシニア研究はそうしたアプローチに近いものです。

価値観が多様化する前なら、それでよかったのですが、今は性別・年代別では消費者が捉えきれなくなっている。そこで今、注目されているのが「カルチャー・リサーチ」です。

例えば、スポーツで最先端を走っている人に話を聞けば、スポーツ好きの人たちの未来が少し見えてきます。カルチャー・リサーチというのは「参与観察」「エスノグラフィー」と呼ばれるアプローチで人々のインサイトを探ることです。実は「COTAS」はリサーチのためにやっているんですね。

つまり、M1世代のインサイトはこうだとか、テレビCMのクリエイティブは今こういう傾向だと考えるのではなくて、スポーツや音楽の未来はどうなるのか。テーマで聞いていくほうが、よほど商品開発のための知見も得られるというように、世の中の考えが変わってきているのです。

マスマーケティングの時代はデモグラフィック・リサーチでよかったけれど、社会が複雑になって、いろいろな人たちがインターネットでつながるようになると、自分の興味で人と人とがつながるようになってくる。だとすれば、テーマごとにそれぞれのインフルエンサーにアプローチする必要がある。消費者インサイトの一番コアな部分は、カルチャー・リサーチをしないとわからなくなってきているということです。

── 話を「COTAS」に戻したいのですが、取材はすべて電通総研の社員ですか。

電通総研が事務局ですが、取材メンバーは電通全体から集めています。なぜ電通総研が事務局かというと、テーマがリサーチだからです。電通全体からメンバーを集めているのは、リサーチをエンターテインメントにするためです。「COTAS」の場合、音楽好きが音楽の最先端の人に話を聞くと、深掘りできるし、気づきもたくさんある。リサーチというと、硬くて、真面目で、グラフがいっぱいでという先入観がある。リサーチは、もっとクールで、かっこよくて、面白くてもいいんじゃないか。リサーチのあり方にイノベーションを起こしたいという意図もあるんですね。

オウンドメディアでは主語は社員

── 「ウェブ電通報」も「COTAS」もオウンドメディアですが、オウンドメディア=自社メディアとは単純に言えないものになってきていますね。

広い意味ではコーポレートサイトもキャンペーンサイトもオウンドメディアだと思いますが、僕なりの定義でいうと、「オウンドメディアは企業の本音と建前に矛盾がないようにする場」だと思っています。

プロダクト・サービスがあって、広告があって、社員がいて、経営者がいるとすると、昔は社員や経営者は消費者から見えなかった。広告で言っていることはあくまで建前で、社員や経営者の考えている本音と違っても特に問題はなかったのです。

オウンドメディアが何を変えたかというと、社員や経営者を可視化、見えるようにしてしまったことです。今まで社員や経営者の声は、記者が取材しメディアを通して伝えられるか、広告として消費者に伝えられることがほとんどでした。

ところが、オウンドメディアができたことによって、社員や経営者の声が直接消費者に届くようになった。そうすると、広告でいくらすばらしいことを言っていても、社員が病んでいたらオウンドメディアは運営できないわけです。社員が生き生きしていないとオウンドメディアも生き生きしない。つまり、オウンドメディアは嘘をつけないメディアだということです。

── そうすると、オウンドメディアの外注は難しいということでしょうか。

Webの仕組みを作ったりライターに記事を起こしてもらうことはあると思うのですが、編集方針はアウトソーシングできないと思いますね。オウンドメディアでは、誰が話しているか、主語は誰かということが大事で、主語が社員でなければオウンドメディアではない。外注できないからこそオウンドメディア。それがオウンドの本質だと思います。

会社の課題解決の手段であるべき

── 実際、オウンドメディアはどういうふうに発想していくのでしょうか。

最初からオウンドメディアありきで考えるものではないと思いますね。会社の課題解決を考えていく中で、その解決手段がオウンドメディアであるというのが理想だと思います。

僕自身がかかわった社外のオウンドメディアに、「SAISON CHIENOWA」があります。クレディセゾンは女性社員が非常に多い会社です。約2700人の女性のうち、産休や育休で、職場から離れたり、時短勤務している人が400人います。同社内ではそういう社員が、もっと働きやすい会社にならないかという議論が以前からありました。

クレディセゾンは、80年代にはセゾン文化と言われ、消費は楽しいというセゾンカルチャーで暮らしをリードしてきた会社です。昔だったら、広告で解決という提案もあり得たかもしれませんが、今はまず消費ありきではなく、「働く」「暮らす」ということを考えていった先に消費がある。まず、そこを解決するような取り組みにしよう。それで始めたのが「SAISON CHIENOWA」です。働くママ・パパのために仕事・子育て・教育などのコンテンツや記事を発信するオウンドメディアを作り、それを、時短や育休の社員たちに自宅から運営してもらうことを考えたんですね。

廣田氏が立ち上げに参加したクレディセゾンのオウンドメディア「SAISON CHIENOWA」。仕事・子育て・教育・家庭・両立など、働くママ・パパが当事者目線で選び抜いた良質コンテンツ&オリジナル記事を発信している

── 具体的にはどういう仕組みですか。

まず、クレディセゾンは社内で人事・広報・宣伝の三つのセクションが協力し合って「ワークライフデザイン部」というバーチャルな部を作りました。社員が時短や育休に入る際に、希望すると、このワークライフデザイン部兼務になり、仕事に対して時給も払われるという仕組みです。「産休の女性のためのNPOセミナーに参加しました」というようなレポートを書いてもらって、それをアップしているんですね。物理的に離れていても作業ができるオンラインならではのオウンドメディアは、自宅勤務の制度とも非常に相性がいいわけです。

社内にイノベーションを起こすオウンドメディア

── オウンドメディアは社内の課題解決のひとつの答えだと言えますね。

けっして間違いではないと思います。「SAISON CHIENOWA」も、働いている女性をより幸せにするには、どうすればいいかという問いから始まっています。それなら、それをみんなで考える場をつくろう。その結果がオウンドメディアになったということです。

「ウェブ電通報」も今までクライアントに知られていなかったクリエイター以外の社内の人材を知らしめるにはどうしたらいいかという課題がありました。

「COTAS」の立ち上げには、デモグラフィック・リサーチの限界というか、価値観が多様化する中で、新たなリサーチ手法が求められているという背景がありました。

今の企業が抱えている課題は多岐にわたっている。その解決の手段にオウンドメディアはなる。本音と建前の矛盾を許されないオウンドメディアは、社内の風通しを良くすると同時に、組織を活性化させ、イノベーションを起こす装置になり得るということです。

Shusaku Hirota

2009年に電通入社。企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。

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