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読売新聞 海外駐在員リポート

from Asia

タイ版一村一品運動

今回が私の最後の執筆となる。それはすなわち、私のタイでの任期終了を意味する。まだタイで訪れていない場所を挙げたらきりがないが、この1年でチェンマイやスコータイ、クラビなどを、休日を利用して訪れることができた。日本でも市区町村によりそれぞれ異なる表情や名産を持っているのと同様に、タイにおいても町ごとの雰囲気の違いを感じることができたのは、貴重な経験だった。

そんな各地域の個性に触れる機会は、実は現地に行かずとも得られる。タイに旅行したことがある人であれば、「OTOP」の表記を目にしたことも多いのではないだろうか? OTOPは「One Tambon One Product」の略であり、Tambonはタイ語で「村」を意味する。つまり、日本語では「一村一品」ということになる。1980年代に大分県の取り組みで有名になった一村一品運動は、その後海外へも広がり、タイでは2001年にスタート。政府主導のもと、雇用の創出や地域の自立、能力開発、伝統的な知識の継承などを目標に掲げている。背景には、人口や経済がバンコクに集中し、地方との格差が拡大しているという問題がある。

商品は食品、飲料、家庭用品、衣類、工芸品など多岐にわたり、品数はおよそ8万点にもおよぶ。高級デパートや空港などの専用売り場だけでなく、コンビニやスーパーなど身近な場所でも取り扱っている。もちろん、オンラインでも商品の閲覧や購入が可能だ。外国人観光客の土産選びの参考になるだけでなく、地方色豊かで、かつ品質も保証されていることから、タイ人にも人気がある。旅行やエリア情報を提供するスマートフォン用アプリには、各地の観光スポットやレストランの情報に併せ、OTOP情報が盛り込まれているものも少なくない。また、年に数回、バンコク近郊で開催されるOTOPのイベントは多くのタイ人で賑(にぎ)わい、出展を知らせる広告もあちらこちらで見かける。

商品はランク付けがされており、星の数で評価される。最上位の5つ星は、政府の輸出促進事業でプロモート対象になるなど優遇される一方、3つ星はタイ国内での販売に限定される。少々酷にも思えるが、この評価システムが質の向上や新商品開発といった生産者の努力を喚起している側面もある。

昨年5月にはタイ国際航空の協力で、機内販売をスタート。販路の拡大と外国人旅行者への認知拡大に一役買っている。8月にはOTOP商品購入額を所得税控除の対象とするなど、政府の積極的な後押しが続く。

一方、自治体独自の活動もみられる。バンコクから車で1時間半ほどの場所にあるシラチャは、昨年、日系スーパーのイオンと、地域活性化での協力に関する覚書を交わした。経済面の協力も含まれるが、その一環として、シラチャのOTOP商品の展開も行われている。独自色のある商品開発や品質の向上に加え、今後は売り方に関しての差別化も重要になるとにらんでの施策だろう。

さて、一村一品運動発祥の地である日本。タイに負けず劣らず、全国津々浦々に個性的な特産品があふれている。それらを旅の楽しみのひとつとして残しておきたい気もする一方、OTOPのように都会にいながら気軽に楽しめるのも、悪くはない気もする。訪日リピーターも増える中、東京や大阪で見かけた特色ある商品が、次回の目的地選びの参考になることもあるのではないだろうか。

藤木康裕 バンコク駐在

タイが舞台の小説『サヨナライツカ』。帰任から25年、再びバンコクを訪れた主人公・豊はさまざまな思い出に心を揺さぶられます。次回タイに降り立ったとき、私は何を思い出すのか? 1年間だけとはいえ、日々、喜怒哀楽を味わっただけに、予想がつきません。

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