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振り切ることで、掴めることがある ライトパブリシティ コピーライター 山根 哲也さん

「この国は、女性にとって発展途上国だ。」というフレーズで始まるPOLAのリクルートCMなどを手がけるライトパブリシティの山根哲也さん。銭湯好きから始まった話は、やがて若いクリエイターにとって広告賞に応募することがいかに大事かという話に。

── 東京で最初に住んだのは、どこですか。

日比谷線で北千住の2つ手前の三ノ輪です。京都から出てきて初めての1人暮らし。駅を降りると長い商店街。近所には銭湯が4軒ありました。

── それから今の三軒茶屋に引っ越したんですか。

会社の人が何人か住んでいたことと銭湯が残っていることが選んだポイントです。僕、下町っぽいところや銭湯が好きなんです。休みの日はサウナに入ったり風呂に入ったり、近くのコンビニで買った漫画を読みながら、2時間ぐらいいますね。

── 新卒でライトパブリシティに入社したんですか。

はい、6年ぶりのコピーライター採用でした。広告を目指したのが大学4年になってからで、就活を始めるのも遅かったんです。それで、大きい広告代理店は受けることすらできなかった。応募できたところも軒並み落ちて、8月頃ブレーンを見たらライト(ライトパブリシティ)がコピーライターの募集を出していたんです。その時はキユーピーの広告をやってる会社くらいの知識しかなかったのですが、採用されて。後で聞いたら6年ぶりの採用だったみたいです。最近は2年に1度くらいの頻度で定期採用していますが。

── 採用された理由ってなんだったんですか。

作文が良かったとは言われました。ライトの書類選考って、作文を書くんです。お題はずっと変わっていなくて「私の好きなもの」。それで僕は、年季の入ったタオル地のシーツがとにかく好きだということをひたすら書いたんです。400字詰めの原稿用紙2枚分に。それが、後に上司となる人や秋山さん(ライトパブリシティCEO、コピーライター)の印象に残ったらしくて。面接の時も「あぁ、あの布団の子か」みたいな覚え方をされていました(笑)。入社した時は、秋山さんと一緒のフロアだったんですけど、面と向かって「不思議な生き物がいるなぁ」とよく言われました(笑)。

── 入社する前と後でコピーライターのイメージは変わりましたか。

大変な仕事に就いた!と思いましたね。キャッチフレーズを一行書けばOKなんて、どうしようもない思い込みを持っていたので、全然違って愕然としました(笑)。あと、入社初日にもらった名刺にはコピーライターと肩書が刷ってある。でも、コピーが全然書けない。それがコンプレックスで、3年目くらいまでは「コピーライターの山根です」とは名乗らずに「ライトの山根です」と言っていました。

── 最初にコピーが書けるようになったと思ったきっかけはなんですか。

今でも満足に書けるようになったとは言えないですけど、自分の中には、いくつかターニングポイントになった仕事というのはあります。入社したての頃は、まったくコピーが書けないので、誰かのコピーの真似、例えば秋山さんのコピーの真似とかしてたんですよ。でも会議ではダダ滑る。無反応。今考えると、それは当たり前で、表現の部分しか見てなかったからです。根っこにある本質を考えてなかった。だから、仕事をしながら、師匠にこっぴどく怒られながら、少しずつ学んでいきました。書き方はもちろんですが、モノゴトの考え方を。クライアントや世の中の人が、どうやったら嬉しいか、喜んでくれるかと考えると書きやすいし、素直だなと思うようにもなって。表現したい!と思う自我を殺していったら、逆に書きやすくなっていったという感じですね。

── 具体的な広告があれば紹介してください。

三井不動産の2013年隅田川花火大会の新聞広告がきっかけの一つかもしれません。三井不動産の協賛広告のお仕事でしたが、花火はすごくエモーショナルな題材なので、「いいこと言いたい病」というか「表現したい病」みたいな下心が出やすい。そういう気持ちをぐっと抑えて、不動産と花火をどう結びつけるか?をひたすら考えました。それで書いたキャッチが、「いい眺めだなって、花火に言わせたい。」というコピー。見上げるだけだった花火が、新聞広告を見たことで、花火が街を見下ろす視点を持ってもらえるかもしれない。花火を見る人の「視点の遷移」を作れたら面白いなと思ったのです。

2013年7月26日 読売新聞夕刊

── TCC新人賞を受賞したPOLA APEXの広告「鏡を、疑え。」は、どういう発想から出てきたのですか。

POLA APEXは、一人ひとりの肌分析を基にセミオーダーできるスキンケアです。その肌分析結果を女性の顔に当てはめ、変顔ビジュアルをつくりました。キャンペーンの核となったビッグアイデアは、CDの原野守弘さん(株式会社もり、クリエイティブディレクター)のものです。プレゼンや制作途中までは、「鏡には映らない真実」というコンセプトそのものがコピーになっていました。でも、「もっとキャッチーなフレーズがいいよね」ということになり、「鏡を、疑え。」を書きました。発想としては、みんなの中では「鏡=真実」だけど、本当にそう?という疑問を投げかけたかったんです。私がいつも見ている鏡は、真実を語っているとは限らない、そう思えるような。なので、鏡を「真実」と置き換えると、耳にする言葉になりますよね。これは自分の好みですが、みんなが耳にしたことのある言葉を少し変えるだけで、まったく違う意味を持つ、価値変換を起こすようなコピーが好きですね。

── キャンペーン2年目の「恋愛か、科学か。」というコピーは?

オリエンを受けて、初回のアイデア打ち合わせがありました。コンセプトをどうしようか、というラフな感じで。その時、僕が書いて持っていったのが「女性を美しくするのは恋愛だろうか。科学だろうか。」でした。それをコピーとして短縮し、凝縮していったのが「恋愛か、科学か。」です。

── 自分が作った広告の反響って、何かで見るんですか?

エゴサーチ、しちゃいますね。Yahoo!のリアルタイム検索だとツイッターやFacebookがまとめて検索できますよね。それは、自分の作った広告やコピーが、単純に話題になっているかどうかを確かめるよりも、「こういう反応をするのか」を知りたいからです。どういう言い回しをした時にポジで、ネガなのか。こちらが予想していない反応もあったりするので面白いです。世の中の広告の受け取り方を、肌感覚で鍛えられるかなと思っているんですね。

── 口コミでモノを売っていくとか、広告ではない手法も増えてきていると思いますが。

売り方として最適であれば、どんな手法にも全然抵抗はないですね。例えば口コミなら、人から人に伝わりやすい言葉の設計もできると思うので。PRやプロモーションなどのもっと幅広い枠の中でやってもいいし。広告の作り方とあまり変わらない気がしますね。

── 山根さんは読売広告大賞にも何度か入賞されていますね。

入賞は2回ですが、協賛社賞も2回いただいています。ライトの同僚と自主的に応募しているのですが、最初の入選は2011年の大修館書店ジーニアス英和辞典の広告です。

── 日本のTシャツに書いてある英語をモチーフにした広告ですね。foxはいかす女、love childは隠し子、pop offは急死する。

漠然とですが、辞典の広告は似たようなものが多いなと感じていました。「単語の数だけ未来が増える」的な広告。その切り口もあるとは思いますが、それよりも辞典を1ページでも実際に引きたくなる広告を作りたかった。「本当にこの単語って、そんな意味あるの?」と、行動に直結するコピー、広告を作りたかったんですね。実際の広告では見かけない、思いっきり振り切った表現を試したかったんです。

── 振り切った表現は、なぜ必要なのですか。

自主制作の広告賞は、若いクリエイターにとっての実験場だと思います。一度大きく表現を振り切ってみる。そして、スルーされる(笑)。では、どんな表現ならウケるかを自己分析して、またトライする。振り切ることで、「新しい!」と「意味わかんない」のギリギリの境界線を掴めると、僕は思っています。

Tetsuya Yamane

1983年京都府生まれ。2006年ライトパブリシティ入社。コピーライター。コピーを中心に、商品・店舗デザインなどのコンセプトワークも手がける。15年POLA APEXの広告「鏡を、疑え。」でTCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞、日本雑誌広告賞第一部コスメティック部門金賞を受賞。主な仕事にPOLA、DOUTOR、meiji、小学館など。読売広告大賞にも入賞2回。

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