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STORYストーリー

エッセー・作文コンテストが広げる
「おいしい記憶」のコーポレートブランディング

「あなたの『おいしい記憶』をおしえてください。」をテーマにしたエッセー・作文コンテストは、2026年で第17回を迎える。2005年の食育宣言をきっかけに生まれ、2008年にはグループのコーポレートスローガンとなった「おいしい記憶をつくりたい。」の想いのもと展開する取り組みは今、コンテストの枠にとどまらず、YouTube番組やブランドサイト、採用ブランディングにも広がっている。

その歩みと想いを、キッコーマンのコーポレートブランド戦略を担う黒木良平さんに聞いた。

キッコーマン 経営企画室 コーポレートブランド担当部長 黒木 良平 氏

キッコーマン
経営企画室 コーポレートブランド担当部長
黒木 良平 氏

エッセー・作文コンテストを新聞社と取り組む意義

――「おいしい記憶」エッセー・作文コンテストも今年で17回目を迎えます。「おいしい記憶をつくりたい。」というスローガンの歴史と、そこに込められた想いをお聞かせください。

「おいしい記憶をつくりたい。」というスローガンは、2005年にキッコーマングループが食育に本格的に取り組むと宣言したとき、その食育プロジェクトのスローガンとして策定したものです。単に「何を食べるか」ではなく、「誰と、どんな気持ちで食べるか」を大切にしたい——そうしたメッセージが、お客さまにも社員にも深く共感され、3年後の2008年にはコーポレートスローガンへと昇格することになりました。以来、「おいしい記憶をつくりたい。」は、食を通じて人に寄り添い、心に残る体験や物語を育んでいきたいという、キッコーマンの企業姿勢を象徴する言葉になっています。

日々の食卓には、人それぞれのかけがえのない記憶や物語があります。それは時に人を励まし、それに触れることで自分の「おいしい記憶」を思い起こし、前向きにさせてくれる力があります。そうした「おいしい記憶」の価値を社会に広く発信していく取り組みのひとつが、今年17回目を迎える「おいしい記憶」エッセー・作文コンテストです。

コンテストが始まったきっかけは、2009年に中央公論新社の紹介で、審査員をお願いしている直木賞作家・山本一力さんとのご縁をいただいたことでした。翌2010年正月に「エッセーコンテストをやろう」と意気投合し、読売新聞社と中央公論新社主催、キッコーマン協賛という形でスタート。以来、多くの方々に支えられながら、現在も続いています。

――エッセー・作文コンテストを新聞社と取り組む意義については、どうお考えですか。

「おいしい記憶」の情緒的価値を高めることがコーポレートブランドの核心だと考えています。商品の機能的な差異化だけでは限界があるなか、「食を通じた感情・記憶」というブランドの情緒的側面を磨くことで、社会的なブランド価値を高めていく。その上でエッセー・作文コンテストは、その中核を担う取り組みのひとつです。作品募集を公共性の高い新聞という媒体を通じて発信することで、食の大切さや家族の価値を社会に広く伝えることができます。SNSやネットメディアの情報があふれる時代だからこそ、新聞が持つ信頼性の高さにも大きな意義を感じています。さらに、コンテストには小学生の部もあり、今年からは文部科学大臣賞も設けました。これは、この取り組みが教育的価値を持つ活動として認められてきた証しだと受けとめています。以前、岐阜大学の客員教授で中央教育審議会委員も務められていた早川三根夫先生から、「おいしい記憶」について書き留めることは自己肯定感や非認知能力を培うことができる有用なテーマであるというお話をお聞きしました。自分の食を見つめることは、生きる基本であって、大人も子どもも例外なく語ることができる共通のテーマだと思います。

早川三根夫先生

新聞は企業の世界観を等身大に近づけて表現できるメディア

――「おいしい記憶」というテーマでビジュアル化した新聞広告も毎年出稿されています。

直近では2025年12月に掲載しました。木の板に釘と糸で絵を描く「ストリングアート」の手法を用いて「食べることで、私たちは世界と細くとも確かな糸で結ばれている」という世界観を表現しました。こうした情緒的なメッセージを大きなサイズで読む人に届けられるのは、新聞ならではの強みだと感じています。デジタルでは表現のサイズや見せ方が均質になりやすい一方、紙面では大きな面積を生かして訴求できるぶん、伝わる力が大きく異なります。エッセー・作文コンテストの募集告知にも通じますが、新聞広告は、私たちの世界観を等身大に近いかたちで表現できる特別なメディアだと思っています。

広告に使用したストリングアートは、実物を東京本社をはじめ社内施設で順次展示する予定です。新聞広告で伝えた世界観を、リアルな体験へと広げていく取り組みと位置づけています。

2025年12月21日付 読売新聞朝刊

2025年12月21日付 読売新聞朝刊

コンテストから番組へ、「おいしい記憶」の多彩な広がり

――コンテストに寄せられた作品はYouTube番組としても配信されていますね。

コンテストの応募作品のエピソードをもとに番組を制作し、公式YouTubeで配信しています。MCを藤井隆さん、進行を吉竹史さん、ナレーションを小野大輔さんが務めるドキュメンタリーエンターテインメント番組です。平均視聴時間は約8〜9分と動画コンテンツとしては異例の長さで、現在、月平均300万〜400万回の再生数を獲得しています。

――これまで番組化された作品の中で、特に思い出深いエピソードがあればご紹介ください。

直近で見ていただきたいのが、2026年1月公開の「野菜炒め丼」です。大好きな兄が、大学進学で実家を出る前日に振る舞ってくれた「野菜炒め丼」が忘れられないという、中学生のエッセーでした。「こんなにお互いを思い合う兄弟がいるのか」と、胸が熱くなりました。関係性が希薄になりがちな現代に、まっすぐな兄弟愛を見せてもらえたことは、直近で最も印象深いことのひとつです。

もうひとつは、コーポレートブランド担当に着任した直後、メンバーから「まずこれを見てください」と強く勧められた、2020年の「人生を変えたかた焼きそば」です。小学校時代に不登校だった女性が、夜の学校の調理室で先生と一緒にかた焼きそばをつくった思い出を大切に抱き続け、もう一度先生に会いたいと再会に乗り出すストーリーです。食事そのものの味ではなく、「誰が、どんな想いでつくってくれたか」がいかに大きな力になるか——食はお腹を満たすだけでなく、人生を支え、前へ進むきっかけさえ与えてくれる。それを実感させてくれた作品でした。着任直後にこれを見て号泣したのは、今でも鮮明に覚えています。

実は、この2作品はエッセー・作文コンテストの受賞作ではありません。映像制作のプロがこれまでのコンテストの応募作品を全て読み込み、受賞作に限らず心に響く作品を映像化したものです。

ブランドサイトを双方向のコミュニケーションの場に

――ブランドサイト「おいしい記憶」は、こうした関連コンテンツをまとめて見られるようになっていますね。

2024年にリニューアルしたブランドサイト「おいしい記憶」

2024年にリニューアルしたブランドサイト「おいしい記憶」

2024年にブランドサイトをリニューアルし、エッセー・作文コンテストやYouTube動画、「おいしい記憶」の想いを伝えてきた新聞広告をはじめ、「弁当の日 おいしい記憶のエピソード」「おいしい記憶フォトコンテスト」など、これまで蓄積してきた「おいしい記憶」関連のコンテンツを一つのプラットフォームに集約しました。サイトトップのメッセージのとおり、きらめく宝石のような「おいしい記憶」を、観たり、読んだり、聴いたりできるオウンドメディアです。

今年(2026年)1月には、リニューアル1周年を記念し「おいしい記憶クイズキャンペーン」を実施しました。ブランドサイトをしっかり見ないと答えられない7問で構成し、全問正解者にプレゼントを進呈する企画でしたが、2週間で約1万3,000通の応募が集まりました。自由記述の感想には、「料理そのものだけでなく、そこにある時間や人とのつながりも丁寧に書かれていて、読むたびに心が温かくなりました」「食を通じて人と人とのつながりまで共有できることに感動し、キッコーマンの理念に強く共感しました」といった声が寄せられ、クイズの前後でキッコーマンへのイメージが良くなったという回答も9割以上にのぼりました。

ただ現時点では、やっと「良い出発点に立てた」という感覚です。今後はさらに、双方向のコミュニケーションが生まれる場へと育てていきたいと考えています。

――オウンドメディアを双方向のコミュニケーションの場にしていきたいということですか。

そのひとつの試みが、2025年夏の「おいしい記憶かるた」企画です。「おいしい記憶」を募って「かるた」を制作するキャンペーンを実施し、全国から約3,700通の応募が寄せられました。完成した「おいしい記憶かるた」は、キッコーマンの工場見学に来ていただいた小学校などに配布し、かるたを通じて、食べること・つくることへの興味や楽しさを育むきっかけにしたいと考えています。

嬉しかったのは、社内からも多数の応募があったことです。そこで現在、社員版「おいしい記憶かるた」の制作も進めています。取り組みを通じて、社員自身が会社や自社の商品への理解と愛着を深める機会にしたいと考えています。「おいしい記憶」は、インナーブランディングでも重要な役割を担い始めています。

社員版「おいしい記憶かるた」

社外、社内、採用活動にも。コンテストは3つのブランド価値を高める原点

黒木氏

――今後の展望についてお聞かせください。

2015年から、新入社員全員が「おいしい記憶」のエッセーを書く取り組みを展開しています。現在、この社員の「おいしい記憶」を映像化するプロジェクトも進めており、就職活動中の学生や内定者に向け「キッコーマンで働くことは、人々の『おいしい記憶』に携わり、そのなかで成長していくこと」というメッセージを発信したいと考えています。「おいしい記憶」は、コーポレートブランドにとどまらず、採用ブランディングにも広がりつつあります。

ブランド形成はまだ道半ばです。コーポレートスローガン「おいしい記憶をつくりたい。」の認知も、さらに高めていかなければならない段階です。ブランドサイト、YouTubeを基盤に、エッセー・作文コンテストやかるたなどの「おいしい記憶」の取り組みを発信・循環させていくことで、「おいしい記憶といえばキッコーマン」という認知を積み上げていきたいと考えています。

その中心にあるのが、このエッセー・作文コンテストです。小学校低学年から90歳を超える方まで、毎年、幅広い世代の皆さまが、それぞれの食の記憶を言葉にして寄せてくださる。そこには、単なる応募企画を超えて、食卓の情景や家族の時間、時代ごとの空気までも映し出す力があります。このコンテストは、キッコーマンの「おいしい記憶」の取り組みの原点であり、社内外へ価値を広げていくための確かな土台です。今後も、この取り組みを育てながら、その価値を広げていきたいと考えています。

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