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特集カンヌライオンズ2012リポート

(Fri Jul 13 12:00:00 JST 2012/2012年8月・9月号 特集)

〈寄稿〉今年のカンヌは、ますます熱い! 2012年カンヌライオンズ報告(後編)
多摩美術大学   教授/コミュニケーション・ラボ代表   佐藤達郎 氏

佐藤達郎 氏

今年も、世界最高峰の国際広告賞“カンヌライオンズ”が、6月17日(日)~6月23日(土)、南仏カンヌにて開催された。2004年にフィルム部門日本代表審査員を務め、ここ10年で8回現地参加した“カンヌ・ウオッチャー”であり、『教えて!カンヌ国際広告祭』という著書も持つ筆者が、現地の様子とカンヌライオンズの意味合いを2回に分けて報告する。

「仕掛けのクリエイティビティー」の宝庫「プロ・ダ・メ」から、 気になる受賞作をご紹介。

  前編で、カンヌライオンズでは近年、「仕掛けのクリエイティビティー」を競う部門が増加し、マーケティング・コミュニケーションに関わる多種多様な「仕掛け」のクリエイティビティーが評価されているとご紹介した。だから、カンヌライオンズはもはや、いわゆる“クリエイター”だけのものではなく、この記事を読んでいただいている「クリエイティブ部門以外」の方にも、ご自身の仕事のヒントになることが多い、とも。さらに、そんな「仕掛けのクリエイティビティー」の宝庫は、「プロ・ダ・メ」、つまりプロモ&アクティベーション部門、ダイレクト部門、メディア部門の3つだということにも言及した。この後編では、その「プロ・ダ・メ」の今年の受賞作から、メディア部門3作品、ダイレクト部門1作品をご紹介していこう。
  まずは、メディア部門から。メディア部門は、メディアのクリエイティブな使い方を審査する部門。伝統的メディアの新しい使い方などのヒントも、たくさんある。グランプリはまさに、伝統的メディアを活用した新しい事例。応募ビデオや解説ボードでも、「世界で最も古いメディアを新しいメディアとして活用した」事例として紹介している。
  その受賞作は、“Google音声検索”のロンドンでのキャンペーン。駅貼りポスターなどの屋外看板に英語の発音記号を記載。スマートフォンに向かってその通りに発音すると、内容に関連した情報が表示される。駅名を声に出せば、その駅周辺の情報、ベーカー街の近くでは「シャーロック・ホームズ」という発音記号が記載され、その通りに発音すると、ホームズやホームズ博物館の情報が表示される、といった具合に。「特定の場所に掲示される」という屋外看板の特徴を現代のデジタル・ワールドに見事に活かした事例として、評価された。

“GOOGLE VOICE SEARCH”(メディア部門2012グランプリ)


  次にゴールド受賞作から2つご紹介。まずは、雑誌・新聞などのプリント・メディアの事例。ペルーからの応募作だ。
  2011年9月25日、ペルーではフットボール(サッカー)の決勝戦の試合中にスタジアムで殺人事件が起きる。このことがきっかけで政府は決勝戦は無観客試合にするよう求め、チーム側はそれに反対するという事態に。スポーツ誌として有名なEL BOCON誌が行った施策は、こうだ。
  EL BOCON誌は、なんとフットボール関連記事のスペースをすべて消失(disappear)させた雑誌を発行。最後のページでは、「暴力を続けることは、フットボールを消失(disappear)させることになる」とメッセージした。雑誌や新聞などプリント・メディアならではの施策と言えるだろう。

“THE DAY FOOTBALL DISAPPEARED”(メディア部門2012ゴールド)

  次は、TNTというアメリカのドラマ専門チャネルがベルギーに進出した際の施策。TNTのキャッチフレーズは、「We Know Drama(私たちはドラマを知っている)」。そして、「語るに値するテレビ・チャンネル」を標榜している。
  彼らは、とある小さな街の普通の通りに、大きな赤いボタンを設置する。側には、「PUSH TO ADD DRAMA(日常にドラマを加えるために押そう!)」の文字が。その赤いボタンを押すと、殴り合いや銃撃戦や救急車や、テレビ番組のようなシーンが、リアルにその通りで行われる。茫然としてその様子を見続けるボタンを押した人。一通りのパフォーマンスが終わると、大きな垂れ幕が下りて来て「YOUR DAILY DOSE OF DRAMA(あなたの毎日のドラマ薬)」の文字が表示される。その様子を撮影し編集してYouTubeにアップ。解説ボードによれば、なんと、24時間で1,000万回以上見られたという。
  うん?なんか、似たやり方の件を読んだぞ!と思った方、いらっしゃいませんか? そうです。前編でご紹介したカールスバーグ・ビールのベルギーでの施策“The Bikers”にやり口がソックリです。調べてみると、この2つのキャンペーンを手掛けたのはいずれもDuval Guillaume Modemというベルギーの企画会社。今後しばらく、注目かもしれませんね。

“PUSH TO ADD DRAMA”(メディア部門2012ゴールド)


  最後の作品として、ダイレクト部門ゴールドから、メルセデス・ベンツのTHE INVISIBLE DRIVEをご紹介しよう(これはアウトドア部門グランプリも受賞している)。ミッションは、メルセデス・ベンツがF-CELLという環境にまったく影響を与えない新テクノロジーを開発したことを、どうやって、世の中に知らしめるか。
  「環境にまったく影響を与えない」ということは、環境から見ればそれは、「見えない(Invisible)」と同じだと彼らは考えた。そこで特殊な素材でクルマを覆い街を走らせる。このクルマは(タイヤ部分以外)、見えない。動いているのは分かるのだが、見えない。見えないクルマが走っていることに驚く人々。人々の様子を撮影し編集したビデオがYouTubeに投稿され、ごく初期に1,000万回以上再生されることになった。

“THE INVISIBLE DRIVE”(アウトドア部門2012グランプリ・ダイレクト部門2012ゴールド)

共通しているのはリアルな体験。そして「リアル」×「デジタル」の融合。

  これら今年の受賞作に見られる共通の傾向とは、何だろう? その1つは、リアルな体験。そして2つ目は、多くの事例が、そのリアルな体験を何らかの形でデジタルと融合させている点だ。
  グーグル音声探索のキャンペーンでは、「目の前にある屋外看板の発音記号を読み取りスマートフォンに向けて声に出す」というリアルな体験と、スマートフォン上での情報の表示というデジタル情報を融合させた。
  スポーツ誌EL BOCONの事例では、実際に手に取って見た雑誌に白紙部分があるという「リアルな体験」を、その施策のコアとしている。フットボールに関する記事が消えてしまっているという「リアルな体験」が、「暴力を続けることは、フットボールを消失させることになる」というメッセージにチカラを持たせた。
  ドラマ専門チャネルTNTの事例では、路上の赤いボタンを押すと銃撃戦などが起きるという「リアルな体験」と、少人数が体験したそのリアルさを動画として編集しYouTubeにアップすること(デジタルとの融合)で、多くの人に疑似体験させた。
  方法論としては、前編でご紹介したカールスバーグ・ビールの事例は、上記TNTの事例とまったく同じだ。バイカー(暴走族)148人がにらみつける中2人分だけ残された座席。勇気を振り絞ってそこに座ると、その勇気を祝福されカールスバーグで乾杯してもらえる。そしてその様子は、YouTubeで多くの人に共有された。
  メルセデス・ベンツのTHE INVISIBLE DRIVEも、実際に「見えないクルマ」が走っているところを見る、という「リアルな体験」と、そのリアルな体験を撮影し動画として編集しYouTubeにアップする(デジタルとの融合)ことで、「マス」に知らしめることに成功している。

カンヌは広告人を、熱くする。

  今年のカンヌライオンズは、史上最高の参加者、史上最高の応募数で、ますます熱かった。しかし、それ以前でも、“カンヌ”という地名は、広告人にとっては、特別であり続けている。そして、以前は「クリエイター」のためだけのものだったかもしれないが、いまでは、クリエイター以外の方はもちろん、クライアント側の方も含め、広告やマーケティングに関わるすべての人のための祭典になっている。
  そこには、今の傾向やこれからの企画のヒントが、てんこ盛りだ。そして、実は実は、ヒントがあることよりも何よりも、カンヌライオンズのいちばんの魅力は、それに触れることで(作品を見て、セミナーを聞き、パーティに参加することで)、“熱く”なってしまうということだ。
  自分たちの仕事は、悪くない。俺たちのショーバイ、けっこうイケてる。そんな風に感じることが出来て、明日からの仕事に“熱く”なることが出来る。
  それこそが、カンヌのいちばんの魅力だ。そんな魅力の少しでも、今回の寄稿で感じていただけたなら、とても幸福です。
(ご意見ご感想などは、佐藤達郎まで、直接どうぞ)

「前編」はこちら

※画像/データ協力:カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル日本代表・株式会社東映エージエンシー

Tatsuro Sato

多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授、コミュニケーション・ラボ代表。2004年カンヌ国際広告祭フィルム部門日本代表審査員。一橋大学→ADK→博報堂DYMP→2011年4月 より現職。受賞歴は、カンヌ国際広告祭、アドフェスト、東京インタラクティブアドアワード、ACC賞など。審査員としても、多数に参加。著書に、『自分を広告する技術』(講談社+α新書)、『教えて!カンヌ国際広告祭』(アスキー新書)がある。