特集

2009.1・2/vol.11-No.10・11


これからの広告コミュニケーション

コミュニケーションをデザインする

 コミュニケーション・デザインという考え方が注目されている。メディアニュートラルな視点で、企業と生活者の間のコミュニケーションを設計していくという考え方だ。最近話題になっている『コミュニケーションをデザインするための本』(電通刊)の著者、岸勇希氏がその提唱者だ。広告の力を取り戻す新たな視点を聞いた。

――広告会社に入る前にメディアの研究をされていたと聞いていますが。

 電通に入る前は大学の研究員として、市民メディアの研究をしていました。より深くメディアのことを知ろうとした結果、コミュニケーションで社会を動かしている電通に行き着きました。研究活動は今もライフワークとして継続しています。

――コミュニケーション・デザインという言葉ですが。

 この言葉を使い始めたのは電通に入社した04年ごろからです。自分がやりたい仕事に、しっくりくる職種がなく、たぶんコミュニケーションをデザインするという概念が一番正しいのだろうと。電通の名刺の肩書として、「コミュニケーション・デザイナー」という言葉を使ったのも恐らく最初だと思います。
 後に世界的にもこの言葉が使われ始めていると聞いたときには驚きましたし、うれしかったです。

――デザインや建築の世界では、意味は少し違うと思いますが、以前から使われていますね。

 手法というよりは概念、視点に近い言葉だと思うので、いろいろな業界、領域で使われることは自然なことではないでしょうか。そういう意味で広告業界においても、この言葉が浸透しだしたのはうれしいことです。ただその反面、トレンド化して「去年はコミュニケーション・デザインの年だったね」と言われるのだとすればとても悲しく、残念なことです。コミュニケーション・デザインというのは、クロスメディアや口コミマーケティングなどの手法ではなく、広告の可能性を拡張していく普遍的な考え方だからです。

コミュニケーション・デザインとは

――岸さんの言うコミュニケーション・デザインとは、どういうものなのでしょう。

 言葉として定義することに、若干の抵抗はありますが、強いて言うならば、「プロモーションやブランディングなどの広告コミュニケーションはもとより、商品開発、事業設計、究極的には社会的課題の解決に至るまで、企業(クライアント)と生活者、そして社会の間に存在するあらゆる課題を、コミュニケーションをもって解決するという視点、意識」ということだと思います。

――広告だけを対象にしているわけではない?

 広告業界全体の意識として、広告を主語にするのではなく、コミュニケーションで何ができるかを真剣に模索するフェーズに入ってきていると思います。メディアやその上に載る表現ということに縛られず、あらゆるコミュニケーションチャンスをデザイン可能な対象だと考え、その結果のメディア、クリエイティブを考えるべきだと思っています。実際クライアントの課題も多様化しており、最近ではクライアントの組織改編や新人採用、都市計画など、既存の広告領域を超えた依頼も頂くようになっています。
 単に企画や戦略を提示するだけでなく、最終的なアウトプットや実施までを一元的に展開できる点ではコンサルティングとは異なりますし、その視点に立ったクリエイティブの可能性に興味をもっています。

広告が効く環境をデザインする

――具体的にはプランをどのように考えていくのですか。

 メディアからもメッセージからも考えません。「誰をどうしたいのか」、その目標に向けて、いかにニュートラルに最適なアプローチを考えられるかを大切にしています。例えば広告はよく恋愛に例えられますよね。企業から個人へのラブレターのようなものであると。広告業界は今まで、このラブレターの質にすべてを集約してきたと言えます。どんなメッセージを送れば相手を魅了できるのか、どのようなタイミングに渡せば効果的なのか、最高のラブレターとその渡し方にしのぎを削ってきたわけです。
 この比喩にはいろいろなことが内包されていますが、今の生活者について例えると、どんなに気持ちを込めたラブレターを送っても、日ごろあまりにたくさんのラブレターをもらっている彼らは、我々が思うほど、それを読んでくれないというわけです。「それではまずいので、もっと優れた、きちんと読んでもらえるラブレターをつくろう!」と、こう考えがちなわけですが、少し冷静に考えてみると、実は最高のラブレターを書くことがゴールではないという当たり前のことに気が付くわけです。そう、目的は射止めたい相手を魅了するということなんです。この当たり前のことに気が付くと、アプローチの方法はいっきに広がります。
 別にラブレターだけが気持ちを伝える手段ではなく、歌をうたうもよし、プレゼントを贈るのもよいかもしれません。時には直接メッセージを送るのではなく、相手の友人をご飯に誘って事前に味方にしておくことが重要かもしれません。
 コミュニケーション・デザインでは、メディアやメッセージといった通常の広告アプローチだけでなく、広告が効きやすくなる環境のデザインや、そもそもの課題の意義から発想をしていきます。その結果、あらゆるコミュニケーションチャンスをデザインすべき対象として考えていくわけです。

図1

事業をデザインする

――具体的な事例は?

 新商品のプロモーションをきっかけに、ブランディング、事業戦略へと展開していったケースとして永谷園の事例を紹介します。
 “「冷え知らず」さんの生姜シリーズ”というカップスープですが、当初、極力予算をかけずに軌道に乗せることが求められました。そこでコピー用紙の裏を広告スペースにすることで学生が無料でコピーできる「タダコピ」というサービスを使い、16大学のミスキャンパスらをモデルに起用した広告を作りました。さらに、より広い層の女性に話題を広げていくために、冷凍庫の中でミスキャンパスのファッションショーを行い、その様子をウェブサイトやモバイルサイトなどに流しました。結果的にはうまく話題になり、新聞やテレビにもかなり取り上げられました。

――キャンペーンの結果は?

 期間中に目標の200%と、永谷園のコンビニ向け商品としては記録的な売り上げを達成しました。女子大生からバズを起こすことがポイントでしたが、「面白い!」と思う強いコンテンツになれるかどうかが重要だったと思います。

――そこから、どう永谷園の事業戦略につながった?

 新商品の成功で、永谷園では生姜という食材の可能性に着目しました。そこで、生姜を永谷園のブランドにしていきたいという要請があったのです。
 「永谷園は生姜という食材、商品に積極的に取り組みます!」。パッと考えると新聞やテレビCMなどで「宣言広告」を大々的に行う方法が頭に浮かぶわけですが、これだけでは不十分だと考えました。なぜなら昨今の生活者は、単に広告で宣言しても「ふ〜ん」と聞き流すだけ。実際企業がどのくらい本気で取り組んでいるかを見抜いてしまうからです。
 そこで「永谷園生姜部」という部の設立を提案したのです。もちろん単に話題性を目的に創設された部ではいけないので、生姜の試験農場の開設や大学との共同研究、生姜部員によって作られた生姜料理129品の動画レシピの公開、これは実際の社員が出演しており、なかには取締役が出演しているものまであります。こうした具体的な永谷園の活動(汗)が伝わるような施策、コンテンツを次々に展開していきました。

消費者に伝わる新聞広告

――永谷園生姜部は新聞広告でも告知されていましたが。

 新聞広告やテレビCMは、こうした永谷園の“本気の取り組み”が見える形で準備できてから展開しました。マス広告が効かなくなったと言われていますが、そんなことはなくて、きちんと広告の効く環境を整えた上で展開すれば、とても効果的に機能するのです。実際「新聞広告を見て生姜部のサイトを見に行った」というブログの書き込みはたくさんありましたし、最近は検索サイトで「生姜」と検索すると、検索結果の上位に永谷園生姜部が表示されるようになりました。永谷園×生姜のブランディングとしては大きな成果だと思います。

2008年9月27日 朝刊
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