立ち読み広告 2006.9/vol.9-No.6

驚愕のコラボレーション、ここに誕生!!
 8月1日の朝刊、第3面を広げてたまげた。西尾維新の新刊2冊の広告が載っているのだが、その内容がただごとではない。1冊は『デスノート アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件』、もう1冊は『×××ホリック アナザーホリック ランドルト環エアロゾル』である。
 広告のまん中に「ノベライズ維新、西尾維新」とあり、『デスノート』側右下には集英社と、『×××ホリック』側左下には講談社の名前がある。集英社と講談社のコラボレート広告である。先ほど西尾維新の2冊といったけれども、一方は大場つぐみ・小畑健の『デスノート』を、もう一方はCLAMPの『×××ホリック』をという、ともにコミックを原作にしたノベライゼーション(小説化)本なのである。
 
「売れ線」の3乗、4乗狙い

 これはとんでもない企画だ。たしかにこのところコミックのノベライゼーションが流行っている。たとえば取次大手のトーハンが発表した7月の月間ベストセラーを見ると、初登場の第1位はコミック『D.Gray―man』のノベライズ、『D.Gray―man reverse』(星野桂・城崎火也著)の第2巻である。
 だが、『デスノート』と『×××ホリック』といえば、超人気コミックの代表ではないか! いってみればイチローと松井みたいなもの。そこに加えて西尾維新。新刊が出ると必ずベストセラーになる若手ナンバーワン作家である。これはもう、イチローと松井というよりも、長嶋茂雄と王貞治にサイボーグ手術をほどこして40歳ぐらい若返らせて現役でプレーさせるようなものである。我ながら意味不明の比喩であるが、どれくらいすごいことなのかお分かりいただけただろうか。「売れ線」の3乗、4乗ぐらいの企画である。それがコラボ広告でさらに強まった。そもそもノベライゼーションそのものがコラボなのだから、コラボのコラボである。

次代を担う?ライトノベル作家

 ところで、「西尾維新? なんだ、そのふざけた名前は。知らんぞ。本当に人気があるのか?」という人もいるかもしれない。そう、熱狂的なファンが多く、本もよく売れているにもかかわらず、世間一般での知名度はいまひとつかもしれない。
 西尾維新は1981年生まれの小説家で、彼の書く作品は「ライトノベル」と呼ばれるジャンル。キャラクターの造形とシチュエーションの設定を重視し、軽やかな文体で書いた、主に青少年向けの小説である。ライトは文体の軽さであり、テーマの軽さなのだ。文庫や新書(ノベルス)で刊行されることが多く、カバーや章扉にはイラストが使われる。もともと作家も読者もコミックとの親和性が高い、きわめてオタク性の高いジャンルだ。
 ライトノベルほど読者がはっきりと分かれるジャンルも珍しい。読む人(主に10代後半の男女だ)はとにかくよく読む。読まない人は目もくれない。まったく扱わない書店もあるほどである。
 しかし、ライトノベル作家の中から次代の文学の担い手が登場するのではないか、と期待する向きも少なからずある。彼らが従来の作家とは違う資質を持っているからだ。そう考えるとこのコラボ企画は、文学的実験としてもかなり面白いかもしれない。

8月1日 朝刊
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