特集 2006.7・8/vol.9-No.4・5

ここまで来たIMCプランニング
 日本広告主協会のアンケート調査「重点広告戦略の方向」によると、2006年度の主要課題1位に「販売促進を中心とする短期的コミュニケーション効果とブランド構築のための長期的コミュニケーション効果の融合(=IMC戦略の構築と展開)」が挙げられている。IMCとは「Integrated Marketing Communication」の略語であり、「統合型マーケティング・コミュニケーション」の意味だが、1990年ごろから提唱されてきたIMCが今再び注目されているのはなぜだろうか? 企業、広告会社、マーケティングの研究者、3者に取材する中で見えてきたものは、マーケティングコミュニケーションのあり方を根本から変える動きだった。

IMCから見た「TSUBAKI」のメガブランド戦略

 資生堂のメガブランド構想の第4弾としてシャンプー市場に投入した「TSUBAKI(ツバキ )」が3月末の発売から1か月を待たずに、トップブランドに躍り出た。商品開発やセールスプロモーション、広告展開のすべてをマネジメントしているのが、マーケティングディレクターの高津晶氏だ。高津氏の中で、キャンペーンはどう作られていったのだろうか。IMCの典型的な事例という視点から聞いた。

――高津さんの肩書はマーケティングディレクターということですが。
 ぼくに与えられたミッションには、資生堂のヘアケアブランド総体をどう動かしていくかということが、まずあります。この4月の組織改革(注1)でできた「ヘアユニット」のマーケティングディレクターという立場です。具体的には、ヘア戦略を全体構築した上で、「TSUBAKI」というブランドの戦略を考えていく。商品企画、プロモーション企画、宣伝、媒体計画などを全体的に考えることが仕事です。

(注1)資生堂は4月1日の組織改正で、国内の化粧品事業とトイレタリー事業を融合し、国内化粧品事業に再編している。商品開発からコミュニケーション戦略に至るまで、担当カテゴリーにかかわるマーケティングのすべてを一貫して担当するSBU制(戦略事業単位制)を導入。スキンケア、メーキャップ、ヘア、ボディ・メンズなど8つの事業単位で、それぞれの責任者であるブランドマネジャーが各ブランドの育成から売り上げ達成までの権限と責任を負う。また、トイレタリー事業を担っていたエフティ資生堂の営業機能を資生堂販売に統合し、チャネル別の営業体制へと再編した。

統合の象徴としてのブランド

――高津さんが、「TSUBAKI」というブランドをどう考え、キャンペーンを作っていったかをお聞かせください。
 まず、2005年から前田新体制(前田新造代表取締役社長)になり、資生堂はメガブランド構想(注2)を推進していますが、多少誤解をもって受け止められているところがあると思いますね。今回、広告投入額が話題になっていますが、メガブランド構想というのは、多額の金をかけて大きいブランドを作るというだけのものではなく、競合の激しい今の世の中で、本当の意味で存在感ある「資生堂の顔」を作ることです。
 90年代半ばから2000年にかけて、資生堂のブランド政策としては集約化の方針はあったのですが、さまざまな事情から多ブランド化していきました。多ブランド化自体は決して悪いことではないのですが、結果として資生堂の顔が見えなくなっていった。そういう反省から生まれたのが、お客様にとってのブランド価値を最大化するためのマーケティング改革であり、メガブランド構想です。

(注2)資生堂はメガブランド構想として、2005年8月から「マキアージュ」「ウーノ」「アクアレーベル」「TSUBAKI」を市場に導入している。

――その第4弾が「TSUBAKI」ということですね。
 ヘア戦略プロジェクトを立ち上げたのが一昨年秋です。そこで、ブランドをヘルスチェックして、課題があれば解決したり、新ブランドの投入が必要であれば円滑に行うという形でやってきたのですが、プロジェクトのもう1つの目的として、資生堂のあらゆる販売チャネルを横断して、その象徴になり得るブランドを立ち上げようと動き出したのが去年の4月です。

――象徴になり得るブランドというのは?
 基本的には、資生堂の顔になり得るブランドを作るという使命のもとに、組織横断的なブランドを作りたかったということです。資生堂の流通ルートは、直販もありますが、化粧品店とそれ以外の問屋ルートに大きく分かれています。それが今回の「TSUBAKI」は、両方の流通ルートを使った。「TSUBAKI」は、そういう販売チャネルも含めて、資生堂らしいシャンプーを作っていこうということを念頭に立ち上げたブランドです。

――ドラッグストア、コンビニエンスストア、化粧品専門店など5万店で一気に販売されたということですね。
 導入後1年間の配荷目標金額の約半分を1か月で配荷するというペースですから、スタートとしては計画以上ですね。最近のPOSデータを見ても、金額ベースで9週連続トップシェアになっています。

ブランド激戦区への投入


――スタートに力を入れるというのは、当初から計画されていたことですか?
 今回のプロモーションの組み立ては、発売時点に力を入れたトップヘビーな作りにしています。もちろん、そうしたプロモーションはシェアがすぐ落ちるなどリスクもあるのですが、シャンプー市場は体感を促進しないと売り上げが定着しないし、伸びない市場だという事前の分析がありました。

――体感というのは、サンプリングで実際に使ってもらうということですか?
 もちろんそれもありますが、最終的には買っていただくということです。シャンプー市場というのは、低価格嗜好品なんですね。要するにエントリーしやすく、スイッチングしやすい市場です。かつ、消費者の肌感、使ってみての感覚も肥えている。いろいろなところでこだわりを個々人が持っている商品です。そういう意味では、1番のブランド激戦区です。そういう市場に勝ち残るためにスタートダッシュにはかなりこだわったということです。
 ただ、結果的にシェア・ナンバーワンを取れましたが、目標は、トップスリーに入ることだったんです。
 低価格嗜好品の場合、購入の時に比較検討の対象になるのは3ブランドぐらいなんです。ある程度嗜好で買われる商品、たとえばPCやプリンター、デジカメなどもそうだと思うのですが、同じような機能の商品を選ぶとなると、大体目につくのは3ブランドぐらいです。シャンプー市場でも、当初の分析では、顔の見えるブランドは3ブランドぐらいでした。4位以下のブランドと3位の間には、大きな川が流れている。ただ、3位以内に入るむずかしさも事前の分析でわかっていましたから、とにかく一度購入していただいて、「TSUBAKI」を体感していただく、そういう形を作りこむのが非常に大事だということでやってきました。

――導入は成功したということですが、今後の見通しは?
 3月末の発売ですから、すでにリピート買いのステージに入っています。それでも、トップシェアを維持していますので、継続して購入されているお客様も多いと見ています。
 その理由としてわれわれの持っているデータから言えるのは、現在の売り上げの大半がジャンボサイズ(ポンプ式)のアイテムになっていることです。ジャンボサイズは試し買いではないということです。
 また、「TSUBAKI」が市場に定着する大きな試金石、評価点になると思っていたのが、トリートメントです。特にプロモーションをかけているわけでも、広告に出しているわけでもないのですが、圧倒的な市場ナンバーワンアイテムになっています。これは、椿オイルを配合した新しいヘアソリューションに対する期待の高さだと受け止めています。ヘアケア商品をよくわかっているお客様は、実はシャンプーからではなくトリートメントを先に買ってみる人が多いんですね。それがよければ、シャンプーもコンディショナーも買う。スキンケア商品で言えば、クリームを先に買ってみて、化粧水類は後で買うという消費行動と同じです。そういう高感度なお客様もかなり捕まえていることを考え合わせると、商品そのものも非常に高く評価されていると思います。

 
 
 
イベント 3月30日、表参道ヒルズでサプライズイベントを実施。仲間由紀恵・田中麗奈・上原多香子・広末涼子・観月ありさ・竹内結子の6人が登場。全国9か所の大型ビジョンに生中継され、スクリーン下ではサンプリングを行った。また、当日1日限定でラフォーレ原宿壁面にも巨大ランドマーク広告が出現した。表参道駅にはパッケージ部分が立体化されたバキューム広告も登場。  
30秒CM 6人の女優たちのほかに、出勤する女性やサーフィンをする女性の姿などのシーンを通して、TSUBAKIが日本女性を応援する商品であることを伝える。


キャンペーンの成功要因

――高津さんご自身から見た今回のキャンペーンの成功の要因は何ですか。
 資生堂ブランドに潜在的なパワーがあったことだと思います。今回のキャンペーンでは、美的嗜好品概念、すなわち化粧品メーカーのお家芸を全面に出していきました。シャンプーなどのトイレタリー商品は、一般には日用品にカウントされますが、そこに化粧品的な要素を持ち込んだ。それがキャンペーン全体に非常に新規性を持たせたし、嗜好品としてシャンプーを使うお客様が予測以上にいたということだと思います。もちろん、競合商品でその予兆はありましたが、「TSUBAKI」を機に、女性には女性のシャンプーという考え方がブレイクした。シャンプーの売れ方が変わったと思いますね。
 それから、キャンペーンの構造で言えば、広告にも予算をかけましたし、SMAPとタイアップしたCMソングも好感度ナンバーワンでしたが、事前のPR効果も過去に例をみない大きさだったと思います。2月の末に女優6人をそろえて、プレス発表を行ったのですが、合計30分近いテレビの露出を獲得しましたし、表参道ヒルズでやった消費者向けのデビューイベントも同じくらいのPR露出を獲得しています。CMのオンエアは4月からですが、その前に用意したトライアルキットはほぼなくなりましたから、CMが入る前に認知がかなりのところまでいっていたと推測しています。

――事前PRがうまくいった理由は、何だと?
 統合型マーケティングということとも重なるのですが、PRを誘発する時にいろいろなスイッチをいくつか同時に押すことがポイントだと思います。たとえば、イベントをやって、マスコミにPRをかけて、消費者にサンプリングすることを同時に行ったり、一般紙、経済ジャーナルとスポーツ紙やワイドショーに対するボタンを同時に押すことで、経済現象としても取り上げられるし、ワイドショー的な話題としても取り上げられる。広報部ともかなり話し合って、そういう複数のボタンを同時に押すというPRコミュニケーションも今回はうまくいきました。

4月3日 朝刊 二連版


次のページへ→



IMCの課題に広告会社はどう応えるか
電通 MPマネジメント局 IMCメソッド開発室 スーパーバイザー 石田 茂氏
シニアプランナー 宮本史郎氏 プランナー 孟 瀟瀟氏→


IMCとブランドはどう関係するか
法政大学大学院 経営学研究科長 田中 洋氏→
もどる