特集 2006.6/vol.9-No.3

クロスメディアの効果を測る
 今回の特集は、2つの疑問から出発している。(1)複数メディアを組み合わせた場合の媒体効果は、きちんと測られているのか。(2)テレビコマーシャルは話題になると言われるが、新聞広告は話題になっていないのか。その日に見た広告とメディアを丹念に書いてもらう調査と、ブログで話題になっている言葉のデータベースから、クロスメディアの広告効果を測るヒントが見えてきた。

消費行動とメディアの多様化に対応した広告効果調査とは何か

 これまでも多種多様な広告効果調査が行われてきたが、意外にも複数のメディアを使ったキャンペーンの広告効果の調査手法は確立されていないという。クロスメディアの時代の広告効果調査には、どのような視点が必要なのか。早稲田大学商学部教授の嶋村和恵氏に聞いた。

――クロスメディアをどうとらえていますか。
 20年前なら広告媒体は、まず(新聞、テレビ、ラジオ、雑誌のマス)4媒体があり、その周辺媒体があってという説明で済んだのですが、そうもいかなくなってきました。消費行動やメディア環境の変化に対応しなければならないと何年も前から言われてきたのですが、その変化が、ここ1、2年で、だれもが目に見える形になってきたと思います。
 インターネットなどの新しいメディアとこれまでのマスメディアを使って相乗効果を上げていく「クロスメディア」が、広告業界でも盛んに言われるようになってきた理由も、そのへんにあると思います。

――目に見える形の変化というのは?
 単にインターネットや携帯電話が普及したということではなく、実際の生活を変え始めていることです。「モノを買う」という行動1つを取ってみても、多様なメディアを活用する術を身につけている生活者が、若い人たちを中心に確実に増えてきています。

多様なメディアを活用する生活者

――最近の消費行動は、具体的にはどのように変わってきたのでしょうか。
 全体的な傾向としては、広告を見てもすぐに買わなくなったことがありますね。学生を見ていてもそうなのですが、たとえば、ニキビに悩んでいる女子学生が化粧品を購入しようと思ったとき、どういう行動を取るかというと、化粧品にある程度関心のある学生の場合は、広告で商品を知ったとしても、すぐには買いません。まずニキビが出ている友だちに聞いて、クチコミサイトをチェックして、それからブログを見て、と自分で情報を探しに行く。そうこうしているうちに、どこかのお店で何割引きになっていたからようやく決心して買う、といった人たちが多くなっています。
 また、化粧品に詳しくない学生の場合も、広告をよくみかけるし、企業が相当力を入れているということを判断材料に、その商品を調べるという行動を取る。もちろん、中には、広告で使われているタレントのイメージを自分に投影させて購入するという層も相変わらずいることはいるのですが。
 航空券の買い方も、旅行慣れしていない学生は、旅行代理店でパック旅行を探して行きますが、海外旅行に何回か行っているような学生の場合は、単に安いチケットというだけではなく、発着や乗り継ぎの時間まで全部ネットで調べて、自分で旅行プランを組み立てて買うことを当たり前にやるようになっています。
 学生だけでなく、普通の人の行動も、単に広告が出ていたとか、チラシが入っていたからすぐ買うということがなくなってきています。企業がインターネットやモバイルを広告活動の中にどう取り込むか模索しているうちに、生活者は周囲にあふれる情報を自分でうまく活用する術をアッという間に身につけてしまった気がしますね。
 もちろん、今も「テレビコマーシャルで気になったから、すぐ買う」ということも、商品によってはあるのですが、情報を集める手段と意識を持った普通の人たちに対して、広告はどういう意味を持つのか、改めて考える必要があると思います。

何かを知るキッカケとしてのマス広告


――マス広告は、今後、そうした生活者に対してどんな役割があるのでしょうか。
 以前に比べ、マス広告の置かれている状況が厳しくなったのは確かだと思いますが、何かを知るとか、何かを見る「キッカケ」という役割は、逆に大きくなってきたと思います。

――情報の入り口という役割が、クローズアップされてきている?
 「続きはウェブで」というカード会社のテレビコマーシャルがありますが、象徴的な使い方だと思います。ネット上でコマーシャルの続きが見られる、というより広告の予告編をマス広告でやっている。新聞広告で「詳しくはウェブで」というのも、当たり前になりつつあります。ネットは、資料請求やプロモーションの応募窓口というだけではなく、関心を高めたり、理解を深めることにも使われ始めています。

――そういうプロモーションやコミュニケーションツールとしてのネットの活用は定着しましたが、メディアとしてはどうなのでしょう?
 ネットは、ほかのメディアと同列なものではまったくないですね。マスメディアを入り口に、さらに詳しい情報や関心を呼ぶための仕掛けをネットに用意することと、メディアとしてネットを評価することは別な話だと思います。ネットのメディアとしての強さが1番出ているのは、実は個人が発信するブログやコミュニティーサイトです。特にブログは、受け手の力、生活者の影響力が爆発している感じさえ受けますね。

ブログの話題から探るキャンペーンの反響

――実は、今回の特集でもCACというシステム開発の会社が始めた「ブログクチコミサーチ」を紹介しています。リアルタイムでブログで話題になっていることを解析したデータベースを基に、商品名、企業名、あるいは「ダイエット」や「旅行」など何でもいいのですが、キーワードを入力すれば、その言及数の推移がグラフで見られるというサービスです。
 非常におもしろい試みだと思いますね。ネット上のクチコミが関心を集めていますが、それをブログという限定があるにしろ見られるようになったのは意義があります。アメリカでは「WOMMA(Word of Mouth Marketing Association)」というクチコミの学会ができていますが、ネットが普及してからのクチコミ研究はまだ始まったばかりです。現在実施しているキャンペーンのネットの反響を知る参考になると思いますし、クチコミ研究の対象という点でも興味があります。

――私たちが関心を持ったのは、若い人たちをターゲットにした新聞広告の反響がグラフで確認できたという点です。媒体のリーチや広告接触だけでなく、クチコミ効果を測る装置になるのではないかと思ったのですが。
 ただ、これはこれで、短期的な広告効果やキャンペーン効果を知る手段にはなると思うのですが、広告の長期的効果をどう考えるべきか、という別の問題は残ると思います。2年、3年かけて、企業イメージを変えていくような、息の長い広告キャンペーンの意義も改めて考えてみる必要があります。

クロスメディア時代の広告接触を探る

――読売新聞東京本社広告局では、クロスメディアの中で個々のメディアの広告効果や他メディアとの相乗効果を明らかにする調査を実施しました。今回その監修を嶋村先生と東京富士大学経営学部の広瀬盛一助教授にお願いしましたが、最後にその感想をお聞きしたいと思います(調査の詳細は6ページから掲載)。クロスメディアの時代といいながら、複数のメディアを使った広告効果調査の手法は確立されていないと聞きますが。
 そうなんですね。手法の提案という意味でも、今回の調査は意義のあることだと思います。

――具体的には、交通機関を使って通勤する人が1日に接触する広告の数は、4,000から5,000件あると言われていますが、今回は、その実態を知るべく、日記式で1日4回、8日間にわたって書いてもらうという手法を取りました。
 生活者に時間帯別にどんなメディアの広告に接触したかを書かせ、それが事前・事後のブランド意識にどう影響するかを見た調査ですが、調査対象者は大変だったと思いますね。今後、改善の余地はあると思いますが、こういう手法でも調査可能だということはわかりました。

――広告の接触効果を媒体間でフラットに比較できる指標として「インパクト・スコア」を導入しましたが、これを見ると商品ジャンルによって媒体力の違いが表れましたね。必ずしもテレビが1番ではなく、新聞が1番のジャンルもある。意外だったのは、交通広告、店頭広告のスコアが高いことですね。
 調査エリアが東京50キロ圏ということもあり、都市型メディアの交通広告が強く出たのだと思います。また、時間帯別に調査したことで、新聞と交通広告は朝強いことも確かめられたと思います。一般に、広告キャンペーンの効果調査は、事後調査ですから、新聞や交通広告のプリント媒体はこれほど強くは出ません。事後調査では、記憶から消えてしまうことが多いのかもしれませんね。

――ブランドのマインドシェアは、新聞とテレビ両方の広告で認知すると向上することも確認できましたが。
 新聞とテレビについては相乗効果が確認できたと思いますが、他のメディアとの相乗効果を評価するには、サンプルがやや少な過ぎましたね。調査の困難さから規模を大きくすることはむずかしいと思うのですが、クロスメディアの全体像を見ようとするには、やはりもう少しサンプルが欲しいところです。
 もう1つの反省点は、ネットの結果が出なかったことです。商品情報の収集に関しても、もっと利用されているというのが実感です。今回はインターネット広告に限定しましたが、その影響が大きかったと思います。
 調査対象のレベルをそろえたかったということはありますが、利用の仕方から考えて、ネットの場合は広告に限定すること自体が実情にそぐわないのかもしれません。次回の調査からは、インターネット広告は他のメディアの広告といっしょに書いてもらい、「インターネットで見た、検索した」などの項目を別建てにする方がいいかもしれません。
 先ほども言いましたが、企業サイトやバナー広告は企業がコントロールして使えるものですが、ネットはそれ以外の部分が、生活者に対して非常に大きな力を持っているメディアです。
 広告効果研究は、クチコミにしても、テレビの視聴率にしても、みんな別個に行われている。非常に細分化されているんですね。分析もどんどん専門化されている。クロスメディアの広告効果は、それを統合していかなければ、実は実現はむずかしい。今回の調査は、その入り口に過ぎませんが、1つのヒントになればと思っています。

Kazue Shimamura
1955年東京都生まれ。78年早稲田大学商学部卒業。88年同大学院商学研究科博士後期課程単位取得。埼玉女子短期大学専任講師、助教授を経て、93年早稲田大学商学部専任講師、95年助教授、2001年教授。主な著書に、『新版新しい広告』(電通、監修)、『現代広告論』(有斐閣、共著)、訳書に『経験価値マーケティング』『経験価値マネジメント』(ダイヤモンド社、共訳)などがある。
Kazue Shimamura



生活者から見たクロスメディア効果を調査する
読売新聞東京本社広告局マーケティング部→


新聞広告のクチコミ効果を視覚化する
KIZASI事業室 室長 潮栄治氏 同副室長 田中昇太郎氏→
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