特集 2006.5/vol.9-No.2

本を動かす。
 書名をネットで検索すれば、その本について語られているさまざまな情報がわかる時代になった。ネット書店も台頭している。その一方で、新聞書評、書店といったこれまでの読者との接点でも、さまざまな努力が行われている。永江朗氏と読売新聞の書評担当デスクとの対談、書店向けのフリーペーパー「LOVE書店!」編集長・嶋浩一郎氏など、今回は本の情報の送り手という視点から、本を元気にする動きを探った。

ネット時代の新聞書評

 ネットが本の重要な情報源となる時代に、新聞書評の役割とは何か、また、今後どうあるべきなのか。書店・出版事情に詳しい永江朗氏と読売新聞の日曜読書面担当の鵜飼哲夫デスクに対談してもらった。


――読売新聞には、日曜日の読書面だけでなく、中高生向け、親子向けなど様々な書評のコーナーがありますが、まず、そうした書評面はどう作られているのでしょうか。

鵜飼 夕刊の読書面やこの4月に始まった「週刊KODOMO新聞」の「ライブラリー」というコーナーを含めると、書評のスペースは以前の倍ぐらいにはなっています。その書評面の作られ方ですが、各新聞社でもやっている日曜書評を例に説明します。読売では、「本よみうり堂」というタイトルで、僕自身が担当しているコーナーです。新聞の書評欄の作り方は、実は新聞社によって違います。大きく分けて2つあって、読書委員制度を持っているのが、読売、朝日、毎日の3社です。日経、産経、東京は事務局、つまり新聞記者が選んだ本の書評を個別に有識者にお願いしていくスタイルを取っています。
 読書委員制度を取っている3紙にも違いがあります。毎日は委員の自己申告制です。自分がどの本の書評を書きたいかを申告して、本がダブった場合の調整を事務局がしていく。実際に委員に集まっていただいて本を選んでいるのは、全国紙の中で読売と朝日だけなんです。

多彩な読書委員

永江 朝日は自分がいいと思うものに点を入れて、点の集まったものを取り上げる、いわゆる句会方式ですね。読売は、完全合議制と聞いていますが。
鵜飼 委員の方に検討していただきたい本を2時間ぐらい回覧したあと、私の司会で皆さんが意見を述べ合って書評する本と評者を決めるやり方です。それから、アフター読書委員会が長いことも読売の大きな特色だと思いますね。場所を移して、お茶会と称して飲む(笑)。
 実は昨日も夕方5時から、(読売新聞東京本社内の)この部屋で読書委員会をやっていました。川上弘美さん、町田康さん、逢坂剛さんはじめ、各分野の学者など読書委員はいま23人います。委員会は二週間に1回、ここで開いています。
永江 キョンキョンもメンバーですね。
鵜飼 小泉今日子さんもそうですし、読書委員を人文、文芸だけでなく実業家の方にお願いしているのも読売だけの特色です。今は第一生命の相談役の櫻井孝頴さんにお願いしていますが、その前はJR東海会長の葛西敬之さん、資生堂名誉会長の福原義春さんにもお願いしていました。
永江 読書委員の選び方には何か基準があるのでしょうか。各紙同じような人が交代でやっているようにも見えますが。
鵜飼 読売の読書委員をされた後に、ほかの新聞社の読書委員をされる方はいますが、逆はまずないですね。例外は、この10年でいうと高橋源一郎さんぐらいです。
永江 他紙に行って戻ってくるというのはある?
鵜飼 それはあります。
永江 ほかの新聞社の書評委員だった人を選ばない理由というのは、あるのですか。
鵜飼 悔しいから、ですね(笑)。

2800冊のうちの20冊

永江 読書委員会のために、毎回、何冊ぐらいノミネートされるのですか。
鵜飼 事務局が毎回作るリストは150冊ぐらい。そのうち、実際に委員が手にとって回覧するのが60冊ぐらいです。  
永江 対象となる本は、何か基準があるのでしょうか。
鵜飼 掲載時で三か月を過ぎないという努力目標はありますね。そうしないと、最近は「本屋の店頭になかった」という苦情が来るんです。ただし、発行当初はそれほど注目されなくても、後で評価が高まる本もあります。そういう例外も年に数冊は認めています。
 紹介するのは毎週10冊。二週分まとめて選ばれる読書委員会では60冊がノミネートされ、そのうち書評として20冊が選ばれるわけです。最近の新刊本は平均すると、一日ほぼ200冊、二週間では2800冊発行されるということになりますから、そのうち20冊というのは相当確率は低いですね。
 こうした読書委員制度には、いい面もあれば悪い面もあります。編集部が選んで有識者に書いてもらう方が、ジャーナリスティックな感覚が生かせるし、早くできる。その本に合った人に書いてもらえるよさもあるとは思うのです。
 しかし、読書委員制度の場合は、ジャーナリスティックな感覚だけではなく、それぞれの専門家の多様な視点から本が選ばれますし、特に読売の場合は読書委員会の場で生まれた議論を紙面に反映できる。
 アフター読書委員会を含めワイワイやっていると、本と書評家の意外な取り合わせが生まれる場合があります。例えば、去年でいうと、アラブが専門の国際政治学者・池内恵さんが村上龍の『半島を出よ』の書評を書いています。

4月16日 朝刊 14・15面 4月16日 朝刊 13面


最終決定権は読書委員に

永江 読者として気になるのは、編集部側の意向がどれくらい読書委員会に反映されているのか。要するに、読書委員の自治権はどのくらいあるかという点ですが。
鵜飼 読書委員の自治権は、ほぼ確立しています。ただし、委員の方が誰も推さない本でも、ぜひ意見を聞きたい本があります。その場合は、委員の方に「この本はどうですか」と働きかけをする。しかし、最終的に取り上げるか取り上げないかは委員会の決定がすべてです。
 それでも落ちてしまって、どうしても取り上げたい本がある場合は、「記者が選ぶ」というコーナーで僕たち記者が書評します。また、インタビューコーナーで取り上げる本は、事前にノミネートからはずしておきます。  
永江 読書委員の人が書いた本については?  
鵜飼 読書委員の方には申し訳ないのですが、委員の著書は一切紹介しないと決めています。それからもう1つ、「1年ルール」を設けています。同一の作家、著者の本は、原則1年に1冊しか紹介しないという原則です。ただ、作家も乗っている時期がありますから、どうしてもという作品があればおっしゃってくださいと言っていますが、いまのところ破られたケースはないですね。  
永江 同じ紙面に同じ出版社の本が何冊も出てくることは?  
鵜飼 基本的に重ならないようにしています。委員の方はいろいろなジャンルの方がいらっしゃるので、同一出版社に集中することは、それほどありませんが、出版点数が多い出版社はどうしても重複してしまうことがあります。その場合は、大きさの同じ枠では載せないようにしています。  
永江 書評者に決まった読書委員は、どれくらいの期間で書評を書くのですか。  
鵜飼 それはケース・バイ・ケースですね。例えば話題作はできるだけ早めに書くようにお願いしていますし、大冊の場合は時間をかけるようにしています。すでに決まっていた書評を後にして、話題作の書評を先に書いてもらうこともしばしばあります。  
永江 読書面の下に来る広告はどの段階でわかるのですか。  
鵜飼 読書面を作っている段階では、広告の内容はわかりません。たまに読者の方から、読書面に載るには掲載料が要るのかという質問がありますが、そういうことも一切ありません。新聞社として、編集面は広告とは完全に独立しています。
 ただ、本好きにとってはそういう区別はないと思いますが。  
永江 言い方は悪いかもしれませんが、私にとって新聞紙は出版広告の包み紙みたいなところがありますね(笑)。書店に勤めていたときも、お客さんが「新聞に載っていたあの本」と言ってよく買いに来ましたが、それは記事だったり広告だったり、全然区別していないですね。  
鵜飼 2年前の読売世論調査で、本を選ぶ理由を調べたことがあるのですが、「書店の店頭で見て」が最も多くて、新聞の書評は28.6%。新聞、雑誌の広告は26.3%とほとんど変わらない。そうすると、書評だけがんばってもだめで、広告とうまく合わさっていかないと本好きにはなかなか届かない。新聞社のスタンスとしては、編集と広告が手を携えるわけにはいかないのでむずかしいところですが。

書評のターゲット

永江 新聞の読書面、特に日曜書評で想定されているのはどんな読者なんでしょう。1,000万世帯すべての人に向けているのかということですが。  
鵜飼 ある意味では、それは意識しています。つまり、新聞は一面から始まっていろいろな面がありますが、同じ記事が1,000万世帯に届いている面は意外と少ないのです。一面や社会面も地域によって違いますし、テレビ面も、地方によってテレビ局が違います。
 ですから、実は日曜日の読書面は、同じ紙面がそのまま全国に届いている数少ない面なのです。そういう意味では1,000万部という数字は意識しますが、編集方針として1,000万部という数字は意識しにくいですね。少なくとも、日曜書評に関しては若者向けや中高年向けなどターゲットを絞ってはいません。強いて言えば、普通の読者に伝えたい。書評を書くときには、高校生が読んでわかるレベルでとお願いしています。  
永江 新聞各紙、日曜日に読書面を持っているわけですけれども、読売の特徴は何ですか。
鵜飼 最初に言った読書委員制度の違いがまずあります。それから、日曜日の読書面は3面ありますが、フロント面の作り方が違います。週替わりで「空想書店」「ホントの旅」という企画をやっている。それから、「本ライン倶楽部」という読者投稿をもとにしたコーナーがあるのも読売の特色です。「本のソムリエ」という、読者から本についての相談を受け付けるコーナーも、月に1、2回やっています。読者との敷居が低い紙面を作るというのが、読売のいいところだと思いますね。

新聞書評は硬い?

永江 新聞書評への批判として、硬い本、値段の高い本、あるいはマイナーな本が多いという批判がありますね。
鵜飼 そうした意見についても、それぞれ考えています。硬い本は、例えば10冊あるうちの3冊ぐらいに抑えるようにして、一般の人が手に取りやすい本を取り上げるようにしています。値段もできるだけ2,000円以内。軟らかく作ることが基本方針です。
 ただし、4月の最初の週の例で言えば、『渋沢孝輔全詩集』15,000円という本も取り上げています。こんな高い本買えるかという批判も予想して、僕自身が書いている編集後記で、「高い値段の本というのは買うほうも大変だけど作る側も大変である。部数にもかかわらず製作に時間とコストがかかるものなんだ」とフォローしています。渋沢孝輔は読売文学賞などいろいろな賞を取っている詩人ですが、全詩集は出ていなかった。それで、教え子や大岡信さんが発起人になって数百部の予約が集まったことで発行できた本です。読書面では、そういう本も応援したいと思っています。
 特に専門書は、初刷りが1,000部、場合によっては500部の時もあります。そういう本のおもしろさを伝える部分が新聞書評の中にあってもいいと考えています。  
永江 よく出版社の人は、最近の新聞書評は効果がある、ないという言い方をしますが、売れる売れないとはまた違う役割があるということですね。  
鵜飼 読売の読書面は実際、それほど硬くはないと思いますよ。最近は本の表紙だけではなく、本のさし絵なども随時掲載するようにしていますし、4月2日には初めて日曜書評すべてをカラー面にしています。こういう試みも、続けていきたいと思っています。
 逆に、永江さんにお聞きしたいのは、どうすれば読者は本に関心を持つかということです。  
永江 もう少しやんちゃな読書面でもいいのにな、とは思いますね。たとえば、読書委員会の様子が伝わってきたら、おもしろいと思います。別に内幕暴露的な話を期待しているわけではなく、その本が取り上げられるまでのプロセスを知りたいということです。新聞書評には、本そのものの話は出てきますが、周辺の話は出てきません。でも、口コミを頼りに本を買う人は、むしろその周辺情報で本に関心を持つわけです。例えば、この本がなぜ特定の地域で売れるのか、どういう人がどう読んでいるのか、そういう本の周辺の情報がもう少し出てくるといいと思います。純粋に本のことだけではなく、ノイズがあるといいということです。各紙書評欄を見ても、ちょっとまじめすぎる感じがします。もっと遊べる書評というか、書評のヴィレッジヴァンガード化みたいなのがあってもいいと思いますね。

Akira Nagae Akira Nagae
1958年北海道生まれ。法政大学文学部哲学科卒業後、西武百貨店系洋書店「ア−ル・ヴィヴァン」を運営するニューアート西武に入社。約7年間勤務した後、『宝島』、『別冊宝島』などの編集、ライターを経て、93年よりライター業に専念する。著書に『いまどきの新書』(原書房 )、『本 あたらしい教科書』(プチグラパブリッシング )ほか多数。本誌2005年10月号より「立ち読み広告」連載中。





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