CURRENT REPORT 2006.5/vol.9-No.2

企業の赤字保養所を活用し格安なリゾートホテルを実現
 たった5,250円で、伊豆や箱根、八ヶ岳の豪華リゾートホテルに1泊朝食付きで宿泊できると聞けば、誰しも耳を疑うに違いない。しかも、休前日や年末年始などの繁忙期を含め、全国15のホテルがオールシーズン同一料金となればなおさらだ。
 これらの宿泊施設「四季倶楽部」を運営するのは、三菱地所が100%出資する「四季リゾーツ」だ。宿泊料金を相場の半額以下に設定できる秘密は、ある画期的なビジネスモデルにあるという。そのビジネスモデルとはいかなるものか、同社取締役社長 山中直樹氏に話を聞いた。


山中直樹 氏 ――どのような点が画期的なのでしょうか
 「こんなもの要らない」と思われているモノと、今、不自由している人たちとをうまく融合できた点です。
 具体的にいうと、要らないモノとは企業の保養所のことです。かつては大企業のステイタスシンボルとしての存在意義もありましたが、毎年膨大な赤字を生み出す保養所は、現在ではリストラの対象でしかありません。年間1室当たり約400万円のキャッシュロスが発生すると言われていますので、20室ある保養所は年間約1億円近くの赤字を垂れ流していることになります。さらに、経営も採算度外視ですから、単純に利用する人が増えれば良いというものでもない。すべてが負のスパイラルに陥っているのが企業の保養所なのです。
 その一方で、旅館やホテルなどの割高な宿泊料金に不自由な思いをしている人々が大勢いらっしゃる。ただ宿泊したいだけなのに、不必要かつ不明瞭なサービスを押し付けられ、その代金も支払わなくてはならない。今は、仲居さんに料理を運んでもらったり、布団を敷いてもらったりする必要は無い、と考える人々も増えています。
 そこで、我々が各企業の負担になっている保養所を借り受け、過剰なサービスをそぎ落とした宿泊施設として運営すれば、各企業の経費もゼロになり、また、一般の方々にも安価で宿泊してもらえるすばらしい事業になると考えたのです。

――運営コストはすべて御社が持つのですか
 ええ。人件費、食材費、水道光熱費から施設の修繕費まで弊社が負担します。ただし、固定資産税だけは所有者である企業に払っていただきます。その代わり、固定資産税に相当する額として、売り上げの5%を弊社から各企業に還元しています。ですから、各企業は実質ゼロ負担で保養所を所有し、福利厚生施設としても利用し続けることができるのです。

――5,250円で利益が出るのですか
 稼働率70%以上で黒字になるようにしています。もちろん、そのためにいくつかの仕組みがあります。
 まず、既存の建物をそのまま使いますので初期投資が要りません。当然、借入金も金利も発生しません。
 次に、ホテルスタッフの縦割り作業を廃止しました。フロント業務に従事したスタッフが次に厨房で調理したり、空いた時間に客室の清掃まで行ったりします。布団敷きや部屋食などの不必要なサービスもやめた結果、人件費を通常の旅館の3分の1まで圧縮することができました。
 最後は水道光熱費の削減です。調理の際に水を出しっぱなしにしないなど、当たり前のことをしただけで2割も削減することができました。人件費削減よりも効果はありましたね。
 おかげさまで、今、箱根や湯河原の7施設は常時95%以上の稼働率を誇っています。稼働率が上がって黒字が出れば、修繕費にお金が掛けられます。施設がきれいになればお客様がさらに増え、より安定した経営ができるようになるというわけです。

――宿泊費を値上げすれば、簡単に黒字が増えるように思うのですが
 私が四季倶楽部を立ち上げる際に実現したかったことは、日本人誰しもまじめに働いていれば、年に3回か4回、子供と一緒に家族旅行ができるような施設を造りたかったということです。そのために1泊5,000円(税別)という宿泊料金を事業理念として掲げました。
 もちろん、値上げをすれば黒字幅も拡大しますが、1泊朝食付き5,250円をポリシーとしているため、利益ばかりを追い求めるようなことはしません。この点は、保養所の所有者である企業の方々にもご理解いただいております。

――今後、さらに施設を増やす予定ですか
 今年度中に、現在の15施設から20施設にまで増やす予定です。2001年に事業を立ち上げてから今年で6年目を迎えましたが、5,000円でホテルに泊まりたいというお客様がいかに大勢いらっしゃるか、ということを改めて実感しています。
 今後は、直営の施設だけではなく、全国のホテルや旅館さんと提携していくことも考えています。現在、旅館の稼働率は全国平均で約40%ですので、たとえ我々が送客した5,000円のお客様でも、空気を泊めるよりは良いわけです。
 もちろん、全国に5,000円の宿が増えれば、直営施設の売り上げは一瞬下がるかもしれません。しかし、長い目で見てどちらが得かと考えれば、やはりネットワークを作り、全体のパイを広げていくほうが、私はプラスになると思っているのです。

1月6日 朝刊


取材メモ
 現在、全国に15の宿泊施設を運営する四季リゾーツだが、元は三菱地所の社内ベンチャー制度に山中氏が応募し、事業化第一号として2001年2月14日に設立されたもの。
 「1999年にベンチャー制度ができたのですが、当初は興味無かったのですよ。ただ、募集要項に書かれていた『三菱地所にベンチャーマインドを醸成したい』という言葉にひかれたのと、この制度を立ち上げた高木前社長(当時専務)のことを尊敬していたので、胸をお借りして一個くらい提案をぶつけてみようと思い、出したのがこれだったのです」
 来年2月には三菱地所へ戻るという山中氏。「高木前社長にも『よくやった』と喜んでもらえるとうれしいのですが」と笑顔を見せた。
四季倶楽部「八ヶ岳エレガンス」客室
四季倶楽部「八ヶ岳エレガンス」客室

(佐藤)
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