Creativeが生まれる場所 2006.5/vol.9-No.2

東京ガス 「ガス・パッ・チョ!」という未来感
澤本嘉光 氏  仕事始めとなる前日、1月4日朝刊に、東京ガスの「ガス・パッ・チョ!」の新聞広告が掲載された。見た人の多くは、正月三が日にテレビに頻繁に流れていた妻夫木聡を起用したテレビCMが自然と頭に浮かんだはずだ。その裏には、周到に考えられた表現とメディアの使い方がある。サントリーの「BOSS」やセブンイレブン、三井不動産の「芝浦の島」など、数々のヒットCMを生む澤本嘉光氏に聞いた。

――まず、なぜ「ガス・パッ・チョ!」なのか、ということですが。
 東京ガスが、変な言葉のキャンペーンをなぜ始めたんだろうと思われるかもしれませんが、これはいくつかの輻輳した課題から出てきています。広告はただおもしろければいいわけではなく、企業の課題から考えることが大事だというのをいつも意識しています。おもしろいだけの広告を考えるのは、それほどむずかしくありません。課題の解決という出口まで考えるから、広告は楽ではないというか、むずかしいんです。
 今回の場合は、ガスから電気へという電力会社が行っているキャンペーンへの対抗策や、田村正和さんを起用してこれまでやっていた「まさにガスだね」というキャンペーンから一歩先に進みたいという課題がありました。ガスには未来があるがテーマです。
 「まさにガスだね」は東京ガスと強く結びついたキャンペーンだったのですが、その未来感の訴求に欠けていました。だから、キャンペーンを一歩先に進めるには、それを忘れさせることも課題になります。
 それで、より強い言葉が必要だった。「ガス・パッ・チョ!」という口の端に乗りやすく、耳に残りやすい言葉を作った理由はそこにあります。「ガスで、パッと明るく、チョっといい未来」、略して「ガス・パッ・チョ!」にしたのは、そういう理由です。

――テレビCMは、妻夫木聡さんを起用して、ガリレオや織田信長が出てきたりと、SF的な設定ですね。

 基本的には、広告は未来の話をしています。東京ガスの最近の商品は、しゃべるコンロにしても、ミストサウナという最新式のサウナにしても、相当未来感がある。ただ、未来の話でむずかしいのは、「私たちは未来をこうします」と約束をしても、共感を得ることがむずかしくなっていることです。その未来感を違和感なく表現するにはどうしたらいいか。
  1つの方法は、「いまが未来なんだ」と言い換えることです。それを今の人が言うとウソになるけれど、昔の人が「未来だ」と言うならせりふに無理がない。やっぱり、せりふに無理があると、見る人は広告にウソを感じてしまいます。「昔から見た未来」を大きな仕組みにすれば描きやすいと思ったんですね。

正月に集中出稿した理由

――テレビCMも新聞広告も、新年早々に集中していましたが。
 広告はどういうふうに見せるか。流す順序やタイミングによって、受け手の印象はものすごく変わります。今回のテレビCMは正月の1、2、3日に集中して流し、新聞広告は仕事始めの前日の4日に掲載しています。三が日は家にいる率が高いことが理由です。また、いままでの経験上、この時期のキャンペーンは、新年に出社したときに、その会社の何人の社員が「今度の広告いいね」と言うかにかかっていることも理由としてありますね。インナーに対する効果も意識しました。
 商品関連では30秒と15秒の二つのCMを作ったのですが、30秒を最初の一か月は集中して流すようにし、15秒は3月になってから流すようにしました。せりふが多い30秒のほうが圧倒的におもしろいのですが、最初に集中して30秒を見せて、おもしろいと思ってもらった後に15秒を見せると、30秒をリマインドするんですね。聞いていないせりふを勝手に思い出す。
 新聞広告も、三が日にテレビCMを相当見たあと見るのと、初めて見るのとでは効率がまるで違うんです。

――もし新聞広告だけなら別な見せ方になった?
 新聞しか媒体がなかったら、今回のような広告にはならないですね。最近、クロスメディアが言われるようになりましたが、普通の媒体の中でも課題によって組み合わせ方は全部違います。ただ、インターネットの絡め方も最近注目されていますが、媒体が1つ増えただけでも、その組み合わせはかなり増えますし、メディアの組み合わせが変わると、個々の広告の役割も変わりますから表現も新しくなる。CMや新聞広告を完全なWebへの入り口だと割り切れば、表現がまったく新しくできるんです。その場合、問題なのはWebで、その中身まで全部企画できるなら、もっと違ったキャンペーンができると思うのです。

広告革新に先駆者が必要

――CMを中心に活躍されてきた澤本さんですが、新聞広告をどう見ていますか。
 一般の人に近い感じでぼくは新聞を見ていると思うのですが、新聞を若い人が読まないというのはウソだと思いますね。家で新聞を取っていたらテレビ欄ぐらいは見る。少なくとも、新聞には手を伸ばしている。だから、新聞広告が全部おもしろかったら若い人も見ると思うんです。でも、いまは広告は記事よりもつまらないと思っている人が多いし、新聞の読者は30代以上と決めているところがある。
 例えば、これから携帯の地上波テレビ、ワンセグが普及したら、新聞でクイズ出して答えはワンセグで見るというように、いままでやっていたことの逆もできるようになる。そういう仕組みで効果が出るとなったら、みんなそうすると思うんです。ただ、これまでと違う使い方に踏み込むのは勇気が要ります。先駆者が必要なんだと思いますね。ある媒体の基本的な使い方を変えた最初の表現は、イノベーティブでおもしろいはずなんです。それがうまくいったら、その媒体の広告表現全体ががらりと変わっていく。それはCMでも新聞広告でも同じだと思うのです。

――新聞広告の場合は、コピーライターの役割も重要だと思うのですが。
 活躍している若いコピーライターは、確かに本当に少ないですね。ただ、これもぼくの勝手な推測ですが、あと5年ぐらいすると若いコピーライターが出てくると思うんです。ここ何年間か広告学校のCMコースを担当しているのですが、それとは別にコピーコースがあるんです。3年ぐらい前まではCMコースは定員一杯の60人で、コピーコースは定員割れだった。それが、いまは逆転しているんです。
 原因の1つは、たぶんメールです。手で書いてはいませんが、いまの若い人は昔の人よりはるかに多くの文字を読んだり、打ったりしている。それが言葉の興味につながっていると思うんです。しかも、女性がものすごく多い。
 コピーライターの講座に今通っているそういう人たちが広告会社に就職して、活動し出すのに5年ぐらいかかるとして、2010年ころには、おもしろめのコピーライターが増えてくるんじゃないか、と期待しているんです。

1月4日 朝刊
もどる