特集 2006.3/vol.8-No.12

広告のダイナミズムを取り戻す
 「最近の広告には元気がない」と言われる原因が、広告の考え方が世の中の動きとずれてきていることにあるとすれば、広告はどう変わるべきだろうか。事業そのものから発想して広告の持つ大きな力を取り戻そうとしている白土謙二氏、IRの立場から、負のレピュテーションを増幅しない仕掛けとして新聞広告の活用を提案する花堂靖仁氏、2人へのインタビューから、広告の閉塞感を打ち破る新たな可能性を探った。

「クロスジャンル」発想が世の中を動かす

 企業のコミュニケーション活動に、広告はどんな役割を果たせるか。企業活動が社会や環境と切り離して考えられない時代に、広告やメディアの役割は宣伝、販促という狭い範囲に閉じこめられていたのではないか。広告の枠を超えて活躍する電通の白土謙二氏に聞いた。

――広告のクリエイティブ、インタラクティブマーケティング、ソーシャルマーケティングとさまざまな分野に取り組まれてきた白土さんが、「事業からデザインする」ということを言い始めた。その辺のことからお聞きしたいのですが。
 私のチームは電通の中ではかなり自由に仕事をさせてもらっているところで、事業そのものからデザインしたいというのは、私のチームの方針という前提でお話ししたいと思います。

――事業をデザインするとはどういうことですか。
 広告を一度脇において、どういうところから事業そのものを活性化できるか考え直してみようということです。企業の課題に対し、広告で解決できれば広告、営業で解決できれば営業、ブランドで解決できればブランドで解決する。商品力がなければ商品をつくり直す、店舗に問題があれば店舗を、それを供給しているサプライチェーンが問題だったらサプライチェーンをつくり直すということです。洋服でも車でも時計でも、頼まれれば何でもつくります。
 実際にお見せできる例としては、三菱東京UFJ銀行の所沢支店の店舗があります。私は建築家でも何でもないのですが、同行でイントラネットの構築をお手伝いした実績を買われて依頼されたものです。もちろん、コンピューターもまったくの素人で、それが銀行や使う人に「どういう価値を生み出すか」だけを考えてつくらせてもらったものです。

お客様の持っている「時間」に対応した店舗

東京三菱銀行(現:三菱東京UFJ銀行)の所沢支店は、お客様の持っている「時間」に着目して店舗をリニューアルした
東京三菱銀行(現:三菱東京UFJ銀行)の所沢支店は、お客様の持っている「時間」に着目して店舗をリニューアルした
――店舗をつくったのも初めてですか?
 ええ、初めてです(笑)。最近は銀行、証券、信託といった金融業務の垣根がほとんどなくなり、業務が明示してあれば一緒の店舗にしていいと、条件が緩和された。「じゃあ、まったく新しい店舗ってどんなものか実際につくってみてよ」ということで、所沢の三階分のフロアを改装したのです。
 普通、銀行のプロの方がどうお考えになるかというと、「資産」のある方を大事にする店舗をつくろうと考える。資産額に応じた対応が常識的な発想です。それに対して私たちは、お客様が持っている「時間」に着目して店舗を考えましょうと提案しました。極端な話、資産家の方は皆さん、銀行に来ない。行員の方がうかがうことが多い。しかし、一般的には、「手続きしたら早く帰りたい」「きょうは、遺産のことでじっくり相談したい」というように、お客様によって、またそのときの目的によって、一人ひとりの「時間」は違います。それで、お客様の時間に応じて対応する店舗の提案をしました。
 一階はすばやく、二階はゆっくり、三階はじっくり。要するに一階は駅と同じ。立ったまま切符を買って、早く電車に乗りたいという方のためのフロア。二階はホテルのロビーのような雰囲気で仕切りがあって、プライバシーを守って資産運用や融資の相談がゆっくりできる。三階は外貨預金や株式投信などよくわからない方のために、セミナーを開いてじっくり学べる大人のためのギャラリーや塾のためのフロアにした。そこでじっくり勉強していただいて、興味があれば二階へどうぞということです。一階、二階、三階で家具も変えて、音楽も違うものを流すようにしています。
 それから、銀行には金利などを表示する大型画面がありますが、普通は本部からデータが送られて来ます。それを、コンピューターシステムをつくり替えて、支店の行員の方が売りたいものをインプットすれば、画面に表示できるようにしました。

――しかし、店舗設計のプロではない白土さんが、図面を引けるわけではない?
 私は全体のクリエイティブディレクターを務め、空間デザイナー、アートディレクター、CGディレクター、システムエンジニア、webデザイナー、イラストレーター、それから音楽はCM音楽やっている人というように、私以外は全員プロです。
 でも、その最初の「お客様の時間ってどう?」と言った私は素人です。銀行の店舗は資産額に応じてつくるというこれまでのプロの考え方を突き破れる、つまりパターン化した考えを突き破れるのは、素人の発想、異端児の発想だと思うのです。でも、素人は図面を描けない。素人が考えて、風穴を開けて、プロがつくり上げるというのが、新しいものを生み出すいい組み合わせだと思っています。

縦割り社会がつくる広告の閉塞状況

――白土さんが、なぜそういう考えに至ったのか、ですが。
 広告だけでは、なかなか事業の課題を解決できないことが多くなってきたからです。そういう状況が、もう15年近く続いています。電通に入社して30年近くになりますが、90年になるころには、もう広告業界の閉塞状況は見えていました。
 その原因の一つは、宣伝部の力が企業内で弱くなったことです。10数年前に宣伝部長の方々が集まる非公式な会で話をさせていただく機会があって、「10年後には宣伝部は消滅します」という趣旨で講演をしたことがありました。世の中の変化に宣伝部は十分に対応できていない、従来の宣伝部の体制では、会社の仕組み上、十分なパワーを発揮できない、これから宣伝部は社内で苦境に立つということを少し誇張して申し上げたのですが、当時は理解されませんでした。
 ところが、かつては社長直轄で日本の広告を背負ってこられたような大宣伝部が、今はメディア部門を残して、実質的なクリエイティブは社外に依頼するような状態になりつつあります。
 なぜ宣伝部の力が企業内で弱くなってきたかと言えば、予算や広告内容の決定権が事業部やマーケティング本部、経営本部という大きな枠組みに移っていって、なかなか宣伝部単独でものが動かなくなっているからです。その結果、宣伝部は企業内の調整役になって苦労されてます。小さくなった裁量権の中で、何とか努力して仕事を回さなければいけない状況です。

――広告の閉塞状況は、構造的な問題が原因だと。
 もちろん、広告の重要性は今も変わっていません。誰もがそう思っているのに、閉塞状況からなかなか抜け出せない理由は、全ライバルが同じことをやっているからです。つまり、負けない競争です。バブル崩壊以降、企業間の競争が厳しくなって、シングルヒットでいいという経営になってきました。ホームランねらいで三振を繰り返していたら会社は傾くから、事業部が立てたプランを宣伝部が手堅く支援していく。そういう非常にオーソドックスな戦略を取る会社が多くなりました。しかも、もっと商品を説明したい、売りに直結した広告にしたいという事業部からの要請にこたえる中で、広告はどんどんプロモーション寄りになっていったのです。
 ところが、90年代以降の海外では状況が逆で、マス広告が重視されてきました。その理由はブランドです。ブランドは企業の資産価値をつくっている。その大きな価値を生み出すために、マス広告が活用されてきました。メッセージをシンプルにして、費用が高いからこそマスメディアを大きいことに使っていくという考え方です。企業価値を何倍にもすることにマス広告が貢献していると評価したわけです。その代わり、小さい部分はウェブ広告やeコマースを使って手配りしていった。海外ではメディアの役割が、はっきり認識されていました。
 日本はテレビ、新聞を中心としたマス広告にプロモーションの役割まで担わせていった。その結果、日本の広告は、ここ15年ぐらいオーバーローディング、情報過多の状況になっています。つまり、異常にしゃべり過ぎるテレビCM、異常に書き込まれた新聞広告が多くなっています。日本の今の状況の中で、そのミスマッチをどう解消するか。みんな広告表現で苦労していますが、それだけではもう解決がむずかしいのが現状です。

――なぜ、日本では欧米と同じような方法が採れなかったのでしょう。
 日本が閉塞状況に陥っている一番の原因は、縦割り組織です。役所は縦割りだからとよく批判されますが、実は企業も同じです。それが、宣伝部が海外のようにダイナミックなプランができなかった理由になっています。会社全体を見ているのは社長だけという状況になってきています。個々の社員を見れば有能なのに、その能力が分散されているのです。
 結局、今の状況はみんなわかっているけれど、縦割り社会の中で身動きがとれなくなっている。狭い一つ一つのセクションの中に閉じ込められている。それを突破できるのが外部視点、ある種の素人の視点なのです。

事業の行き詰まりを打開する外部視点

――縦割り社会の弊害を解決するのは外部視点だというのは納得できるのですが、商品やサービスの開発に素人の発想がなぜ必要なのでしょう。
 日本でも、モノづくりの分野ではイノベーションが始まっています。例えば、トヨタのトールワゴン「bB」を開発するときには、大部屋システムが敷かれ、車の開発責任者、デザイナー、営業、調達、製造など全関係者を集めて開発されたと聞いています。そのほうが、新しいものを早く無駄なく生み出せるということで、モノづくりの分野では、そういうイノベーションが起こっています。
 しかし、ソフト領域になると、イノベーションがあまり起こっていないのです。それが世界的に今、テーマになっていて、マネジメント・オブ・クリエイティビティー、あるいはデザイン・マネジメントなどいろいろな言い方をされていますが、要するに、いいコンセプトをつくり、いいブランドイメージをつくり、いい販売関係をつくって、生活者の心をとらえていくという考え方です。ところがそれをトータルに考えられる人は少ないし、ましてやソフト領域とハード領域をまたいでコントロールしている人はほとんどいないのが現状です。
 そのためには、先ほどから言っている外部視点、あるいはユーザー視点、お客様視点、生活者視点と言い換えてもいいのですが、そういう素人の視点を持ち込まないと実現できない。あらゆる商品やサービスは、最終的には使う人たちが評価するわけですから。

――お客様の「時間」に着目した銀行の店舗のような発想が必要だと。
 実際の商品やサービスでも、そういう考えを必要とするものがすでに現れています。例えば、携帯電話が象徴的ですが、携帯電話は、機能も、料金体系も、扱いやすさも、デザインも、全部が重要な要素です。それらが複合して価値を生んでいる。そういうトータルに価値をつくっていく必要性のある商品・サービスが実際に出てきていますし、その必要性はさまざまな企業の中でも出てきています。私は、それを良質なNPOから学べる可能性も結構あると思っています。

CSRを企業に根付かせる本業に軸足を置いた発想

――それは素人の視点を取り入れるということですか?

 私は、NPOの人たちを“企業を告発する人たち”だとは思っていません。“先鋭的な生活者”だと思っています。「消費者」という言い方をしないのは、人々には消費しない権利があるからです。その買わない権利のある生活者の中で、自分たちが気づいた価値観を社会や企業に啓発しようとする人たちが、NPOだと思っています。企業はどうして、こうしてくれないんだと提案してくる人たちです。
 言い方を変えれば、一番先鋭的な生活者意識に目覚めた人たちがNPOの人たちです。特に、生活者が自主的に始めているNPOからは、企業はかなり多くのことを学べるはずで、サービスや事業のアイデアにあふれていると思うのです。これまでいろいろなNPOの方にお会いして、教えられることが非常に多かったというのが、私の実感です。そこに気づいて、彼らの意見を取り込んで事業として組み立てていけるかが、実はこれからの企業にとっても大事になっていくと思います。

――NPOの声を、むしろ事業に生かすべきだと。
 自分たちの会社が社会と深くかかわっているのは、本業を通してです。NPOの人たちが言ってきたことを、本業に軸足を置いて「どういうことなんだろう」と考え、実際の事業やサービスの形でもう一度社会に提案するということをしないと、本当のCSRは企業に根付かない。そういうことを考えられる社員がたくさん育っている会社が、CSRやソーシャルマーケティングを実践している企業だと思います。

Kenji Shiratsuchi Kenji Shiratsuchi
1977年立教大学法学部政治コース卒業。同年電通入社。以来約20年間、CMプランナー、コピーライター、クリエーティブ・ディレクターを務め、以後、企業の経営・事業戦略からブランドコミュニケーション、商品開発、プロモーション、店舗開発、イントラネット構築、企業カルチャー変革まで、あらゆる領域を統合的にコンサルティング、戦略とコミュニケーションの両面から担当している。また、NPOの広報力をアップするための活動にも協力。カンヌCMフェスティバル銀賞を始め、広告賞受賞多数。





レピュテーション形成に不可欠な広告の力
早稲田大学 ビジネススクール 教授 花堂靖仁氏→
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