特集 2005.6/vol.8-No.3

情報の伝わり方メディアの使い方
 インターネットは第5のマスメディアと呼ばれるようになった。しかし、マスメディアとインターネットでは情報の伝わり方が違う。それぞれのメディア特性を踏まえてコミュニケーション戦略を根本から考え直そうという動きが出始めている。同時に企業サイトでも、パブリックリレーションの視点からその役割が改めて問われ、消費者とのコミュニケーションを図る新たな試みが始まっている。そこに共通するのは、人と人のコミュニケーションからメディアの使い方を考えていこうという視点だ。

新しいメディアが変えるものは何か

 広告メッセージが伝わりにくくなったと言われる。その突破口はどこにあるのだろうか。新しい試みも始まっている。その1つが、電通とアサツー ディ・ケイ両社によってつくられたドリルだ。ホリスティックなアプローチで新しいコミュニケーション・プランニング・サービスの提供をめざすドリルは、広告の力をどのような視点から取り戻そうとしているのだろうか。

――マスメディアとインターネットの連動が、広告の課題になっていますが。
 コミュニケーションの基本的な原理に立ち返ってみると、マスメディアとインターネットは、実は異質なものでもなければ、対極にあるものでもないと思っています。いままでの広告の理論は、1960年代に完成したマスメディアの常識を前提にしています。ですから、その島に立ってインターネットを見ると、黒船に見えたり、宇宙人に見えたり、土足で上がってくる失礼なヤツに見えたりするだけなのだと思います。

――いままでのマスメディアの常識というのは?
 従来のメディアプランニングでは、それぞれのオーディエンスを独立した「点」として見てきました。この雑誌はこの層の人々をカバーできる、新聞やテレビはさらに広い人々をカバーできるというように、点の数、つまり「リーチ」を中心に考えられてきました。ドリルのアプローチは、人々を独立した点としてとらえるのではなく、人間はみんなつながっていて、互いに影響を与え合っている、と考えます。社会は「影響力のネットワーク」なのです。

スーパーコネクターの登場

――メディアの使い方、情報の伝え方を再考する必要が出てきている?
 これまでのようにまずメディアありきではなく、“人間社会のネットワーク”を中心に置いてメディアの使い方を考えることが必要だと思っています。人とメディアとの関係は60年代と90年代に大きく変わっています。しかし一方で、昔から変わらない「人と人のコミュニケーション」もある。今起こっている変化をきちんと整理して考えることが、まず必要です。

――昔から変わらない人と人とのコミュニケーションとは?
 たとえば、パソコンを買おうと思ったら、ほとんどの人は自分の周囲にいる詳しい人に相談します。商品やテーマによって変わりますが、情報の中心になる人「ハブ」がいて、そのハブから情報を受け取る人がいるわけです。この一つのハブにぶらさがっている人たちを「クラスター」と言いますが、そういうクラスターがあちこちにいる。
 さらに、違うクラスターの接点になる人がいます。これを「コネクター」と呼びます。たとえば、以前の若者向けの情報誌を思い出すとわかりやすいのですが、アメリカの若者文化に詳しい人がいて、その人が違うクラスター間の情報の橋渡しをしていた。実は、そういう情報の流れは、言葉を人間が使うようになった原始社会から基本的には変わっていないのです。

――では、60年代と90年代に起こった変化というのは?
 60年代に発達したのがテレビに代表されるマスメディアです。マスメディアは何かというと、「メガハブ」です。つまり、全部の受け手につながっているハブだということです。マス広告は、このメガハブの経済効率のよさに注目して発達してきたもので、それが60年代に定着した。一方で、90年代に「スーパーコネクター」が出てきました。それがインターネットで、あらゆる人、あらゆるクラスターが簡単につながるようになったのです。すべてがまさにホリスティック(包括的・全体的)につながる状況ができました。同時に、それによってマスメディアというメガハブの役割は相対化されてきました。しかし、ベースにあるハブとクラスター、それらを橋渡しするコネクターという人と人のコミュニケーション構造は変わっていないのです。

人を中心に置いたプランニング

――人と人のコミュニケーションの基本は変わっていないにもかかわらず、広告が伝わりにくくなったと言われています。
 広告に関して言えば、メガハブであるマスメディアがかつてと比べ力を失った要因は3つあると思います。1つは「情報洪水」です。さまざまなメディアから発信される情報量は60年代とは比較にならないほど膨大になりましたが、人間が消費できる情報量には限界があるということです。2つめは「消費者の懐疑主義」です。今の消費者は広告に慣れて、購買行動に結びつきにくくなっています。3つめは「成熟市場」です。今は商品のカテゴリーも細分化され、新製品が市場に出てもすぐさま競合会社から類似品が発売されてしまい、製品差別化は微細なところに向かいがちです。というように、今はマスメディアという太陽に雲がかかった状態になっています。「情報洪水」「懐疑主義」「成熟市場」といった、現代的な環境に対応するためには、広告の作り方も進化しなければなりません。

――では、どう進化すべきかということですが。
 「メガハブ」という60年代に完成したマス広告のモデル一辺倒ではなく、ハブとクラスターとコネクター、この基本的な3点セットを“虚心坦懐(たんかい)”に見て、柔軟に企画を考えていくことです。マス広告(メガハブ)とインターネット(スーパーコネクター)を飛び道具として駆使しつつも、人間社会のネットワークに注目して、ケースに応じた「情報がより速く人々に伝わる仕組み」を考えることが大切です。それを提案するのがわれわれの仕事です。
 たとえば、コンタクトポイントということが最近よく言われますね。人と商品や情報との接点のことです。認知段階ではメガハブが重要な接点となることが多いですが、購入の意思決定の段階まで見ていくと、インターネットや友人の推奨などが上位にきます。車ならかつてのカタログに替わり、ウェブが最重要となっていますし、化粧品であればメークアップアーティスト、ファッション雑誌のモデルといったハブの人たちが力を持っています。
 このハブがマスコミのジャーナリストの場合、従来「PR」と呼ばれてきた手法になります。また消費者が対象だと、クチコミや最近話題になっているバズ(Buzz)という手法になるわけです。

情報をどこから伝えるか

――ドリルがやろうとしていることは、クチコミ・マーケティングに近いことなのでしょうか。
 必ずしもそれに限定されません。ドリルの仕事は、人から人へ情報がどう流れるかを意識しながら、最も効果的なコミュニケーションの仕組みを包括的・全体的(=ホリスティック)に提案することです。うまくハブに当たるように種をまいたり、水をやったりしないと情報は人々に広がりません。そのためには、マスメディアのシャワー効果で、少し地面が湿っていると芽が出るのが早いということもありますし、インターネットの話題が広がるスピードをうまく活用するということも必要です。そうしたことを全体としてプランニングしていくのがわれわれの仕事です。
 新しいメディア環境の中で情報をどう伝えたら効果が上がるのか、部分部分ではいろいろな人が気づきはじめています。少し前までは、インターネットの可能性が注目されていましたし、その反動で、たぶんもうじき「いまこそマスメディア」と言われるようになるかもしれません。アメリカでは、いま、WOM(クチコミ)やバズ、バイラル・マーケティング旋風が吹き荒れています(注)。でも、どれもそれは今起こっている変化を部分でしかとらえていません。人間社会を情報や影響力のネットワークととらえ、コミュニケーション過程全体を意識することが大事だと思うのです。

――クチコミはコントロール可能だと考えていますか。
 クチコミに限りませんが、あくまで情報は「消費者がコントロールしている」という前提に立つべきだと思います。メディアが流行をつくるというのはメディア側のコントロールが効いているという前提に立ったメガハブ登場期の発想です。クチコミをコントロールできるという考え方もそういう感覚に近いと思います。インターネットのバイラル・マーケティングでもそうですが、本質的には、消費者間を流れる情報はコントロールすることができない。ただ、彼らの癖を見抜き、どういうものが話題になりやすいかということは、ある程度予測できると思います。
 いろいろな調査がありますが、一般的にクチコミに乗りやすいものとしてはレストランや映画の情報があります。車も車種によってターゲット特性がはっきりしていますから、比較的話題になるテーマを見つけやすい。逆に、話題になりにくいのが政治的話題や音楽です。音楽が話題になりにくいのは意外かもしれませんが、趣味が細分化しているからです。

ハブを押さえる広告の使い方

――そういう視点からメディアミックスをとらえ直すと、どうなるのでしょう。
 今まで言ってきたことは、昔からよく知られているロジャーズの普及曲線に当てはめて説明するとわかりやすいと思います。商品の普及にはイノベーター(革新的採用者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティー(初期多数採用者)、レイトマジョリティー(後期多数採用者)、ラガード(採用遅滞者)がいるという考え方です。中でも最も重要だとされているのがアーリーアダプターで、今までの話で言えば「ハブ」に相当する人たちです。つまり、この層に関心を持ってもらえばマジョリティーに影響力を及ぼせる。アーリーアダプターをいかにとらえられるかは、メディアの価値の1つと言えます。
 ところが、60年代以降これまでは、広告の考え方はメガハブが中心でしたから、こうしたアーリーアダプターをとらえているメディアの価値は軽視されてきました。最大のメガハブとしてのテレビ、新聞が広告の中心と考えられてきたわけです。それが現在では、テレビと新聞、テレビとインターネット、テレビと屋外広告という使い方になっています。以前は4大マスメディアでしたが、テレビとその他になっているのが現状です。
 しかし、新聞広告をアーリーアダプター=ハブを攻略するメディアととらえ直すと、まるで違う役割が出てくる。今までのメガハブ一辺倒の価値観を離れて、もう1回メディアと「影響力のネットワーク」の関係を分析すると、新しい新聞広告の価値が見えてくると思うのです。
 アーリーアダプター=ハブの人たちは、マジョリティーと同じレベルの情報が開示されても満足できない人たちです。新車のキャンペーンも同じ日に新聞広告とテレビCMをスタートするのではなく、新聞やインターネットは早く仕掛ける。テレビCMがオンエアされたときには、すでにこの人たちは事前に知っている。彼らは、人に教えることに満足とか誇りがあるわけです。

――考え方としてはよくわかるのですが……。
 たとえば、昔からあるティーザー広告もマスで大きく展開するより、メディアを限定した方が効果がある場合があります。広告をつくる人たちは理屈では考えなくとも、こういうことは実際にやっていると思います。それが一番進んでいるのは映画産業です。低予算で製作されながら世界中でメガヒットとなった『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』というホラー映画がありましたが、インターネット上でのクチコミで話題が広がっていった。1999年の映画ですが、それ以降、映画会社の人たちは、自分たちが人の言の葉にのぼるプロダクトをつくっていることに、より自覚的になっていったと思います。

(注)三者とも似かよった概念だが、その商品を買った人から広がっていくのが「WOM(クチコミ)」、インターネットを媒体にしたクチコミによる宣伝が「バイラル・マーケティング」、商品とは切り離されて、たとえば街角でパフォーマンスをするなど草の根的な活動で街の話題をつくることが「バズ(Buzz)」という区別がある。

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メディアとしての企業サイト、その新たな試み
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