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特集2020年への設計図

(Thu Dec 05 14:01:00 JST 2013/2013年12月・2014年1月号 特集)

〈設計図を描くための視点 2 「働き方が変わる」〉個人は終身雇用からパラレルキャリアへ 企業は経済競争から社会貢献競争に
(社)ソーシャル・デザイン代表理事   経営コンサルタント   長沼 博之 氏

長沼 博之 氏

2020年への設計図を考えるにあたって、実は最も重要なのが、「仕事はどう変わるか」。終身雇用が崩れ、仕事のインフラが大きく変わる中で、仕事のあり方の今後を予測するのはやさしいことではない。こうしたテーマを真正面から取り上げた「ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉」の著者、長沼博之氏に聞いた。

仕事のインフラが変われば、働き方も変わる

──著書の「ワーク・デザイン」では、これからの働き方を正面から語っていますね。

  経営コンサルタントとして企業やNPOの業績アップや事業モデルの構築などを支援する仕事をしていますが、そこで感じていたのは「企業のために行う生産性向上の施策が、必ずしもその会社の従業員のためにならない」という矛盾でした。「自分は一体、誰のために、何のために支援しているのか」という思いが次第に強くなっていったのです。

長沼博之氏の著書の表紙もクラウドソーシングで制作されている

  そういう視点から現代の雇用・労働をできる限り冷静に見つめ直して気づいたのは、仕事のための様々なシステムや、その根底にある価値観は賞味期限切れになりつつあるということでした。「安定した職業」「終身雇用」「十分な年金によって支えられた老後」など、かつて人々が信じていたストーリーは、もはやどこにもない。今まで人間の仕事だったものも、どんどんロボットに取って代わられている。しかも、いまだに従来の労働の価値観で成功した人が「勝ち組」と言われ、どんな仕事、スキル、会社なら今後もビジネスエリートとして稼いでいけるかというようなことが相変わらず語られている。どこにも出口はないように見えます。
  しかし、インターネットの普及や新しいテクノロジーによって生まれたサービスを見ると、その中に新しい仕事のインフラやコンセプトが生まれてきていることも感じます。また、お金のために働くのではなく、ボランティアなどの社会貢献も、若い世代ほどごく当たり前に行う人たちが増え、仕事に対する価値観も変わってきています。だとしたら、そうしたことを基に、これから我々が目指すべき社会のビジョンを描き、普通に働く人々にとって実現可能なより良い働き方は何かを具体的に探るべきではないか。こうしてたどり着いた答えが本書です。

「オーデスク」のオンラインワーカーは翻訳だけで10万人登録

──新しい仕事のインフラやコンセプトというのは?

  「クラウドソーシング」がそうですね。インターネットを使って不特定多数の人に業務を委託することですが、デザインやプログラミング、会計、統計、翻訳など知的労働サービスを安く調達できることで注目を集めているサービスです。日本でも「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」「ヤフー・クラウドソーシング」などがあります。
  世界のクラウドソーシングの最大手は「オーデスク(oDesk)」ですが、年間取引総額はすでに1000億円を超えています。サイトに登録してサービスを提供する「オンラインワーカー」の数も膨大で、たとえば翻訳だけで10万人を超えています(2013年8月時点)。時給5ドル以下で対応してくれる人も4万人近くいて、中には時給1ドル、2ドルで翻訳の仕事をしますという人たちもいます。「オーデスク」を利用する日本企業も1500社を超えていますが、こうしたサービスを利用することにより、これまでの経費を5分の1、10分の1にすることが可能です。実は、私のコンサルティング業務でも、クラウドソーシングを使った業務の効率化の依頼が多くなっています。

明治期と現代の「インフラ」

──翻訳の質に問題はないのですか。

  オンラインワーカーの評価はレビューとして公開されていますし、質の確保は可能です。それだけでなく、100字、200字程度の短い文章の翻訳もこうしたサービスを利用すれば気軽にオーダーできますから、外国語がまったくできない人でも個人輸入ができるわけで、翻訳という仕事が活躍する場も広がります。
  こうした「クラウドソーシング」のほかにも、ネットを通して多くの支援者から資金を募る「クラウドファンディング」や教育プログラムをネット上で公開する「オープンエデュケーション」など、これまでの働き方を変える仕事のインフラが出てきているのが、今だと思うんですね。

3Dプリンターの 普及などで個人でも 製造業ができる時代に

──しかし、時給1ドルや2ドルでは、既存の翻訳業者は商売をやっていけないのではないですか。

  確かにそういう面だけ見ると、働く側からすれば「絶望」しかないということになります。しかし、今はまだ日本のフリーランスは国内の狭い範囲の中で競争していますが、クラウドソーシングのような仕組みが普及していけば、プログラミングもデザインも世界との競争になるわけです。それが逃れられないシビアな現実なんです。だとしたら、そうした変化を前向きに考えるべきだと思うんですね。

──どうしたらいいのでしょうか。

  この問題はレイヤー(階層)を変えないと解決策は見えてこないと思います。明治を近代国家成立の時期とすれば、今はポスト近代国家への途上にあると思うのです。例えば明治初期に今の銀行や大企業、大学といった社会のインフラが次々と生まれています。日本に銀行を作ったのは渋沢栄一ですが、当時にしてみれば銀行はベンチャー企業だったわけです。今のような社会のインフラになるとは、当時のほとんどの人は思っていなかった。それと同じように、今というのはポスト近代化社会のインフラが立ち上がってきている時期なのです。

──クラウドファンディングが銀行と同じようなインフラになるということですか。

  そうです。そういう想像力が必要だと思うのです。例えば近代化社会では「工業化」が起こったわけですが、今モノづくりで起こっているのは「デジタルファブリケーション」です。これは、「ロングテール」や「フリー」など、ネット時代の重要な概念を提唱してきたクリス・アンダーソンが、「メイカーズ」という著書の中で提出したモノづくりの新しい概念です。これまでモノは大量生産モデルによって作られてきましたが、それが3Dプリンターなどの普及により、個人でも製造業ができる時代になってきています。日本にもそういう企業は生まれていて、例えば「ビーサイズ(Bsize)」(代表・八木啓太氏)がまさにそうです。LEDライトデスクでグッドデザイン賞を受賞するなど、一人家電メーカーとして注目を集めていますが、そういうように、いろいろなところから新しい仕事のやり方が芽生えているのが、今だと思うのです。

仕事だけでなくボランティアもNPOもこなす自己実現と社会貢献の時代へ

──そういう中で仕事のやり方はどう変わるのでしょうか。

  これまで個人は、抽象化された労働力として捉えられてきました。仕事は細分化され、テクノロジーと同じものとして見なされてきました。だから、人員を削減してロボットに置き換えることが可能だったわけです。しかし今後は、仕事が細分化される近代以前、日本でいうなら江戸時代の仕事のやり方が高度に復活するということです。
  ピーター・ドラッガーは「ネクスト・ソサエティ」の中で「ネクスト・ソサエティにおいては、まさにトップマネジメントが組織そのものである。他のものは、すべてアウトソーシングの対象となりえる」と言っています。会社の仕事は、「ロボットやコンピューターに任せる仕事」「クラウドソーシングする仕事」「従業員のする仕事」「経営陣のする仕事」に分かれていく。この中で「従業員の仕事」は、人との交渉や仕事の仕組みづくり、事業モデルの構築など、これまで経営陣の領域だった仕事も含まれるようになると思うのです。そういうところでは、江戸時代の町内会の祭りや近所付き合い、今でいうならボランティアやNPOをどう運営するかという力も重要になってくる。今後はいくつもの仕事を並行して行う「パラレルキャリア」が普通になっていくと思うんですね。

これからの「タスク」のあり方

  実は、今の世の中に流れている底流で見過ごしてはならないのは、自己実現と社会貢献への人々の欲求です。20世紀型の消費社会が行き詰まったこともありますが、今という時代は個人もブログのアクセス数やフェイスブックの「いいね!」の数、ツイッターのフォロワー数によって他人からの評価が具体的にわかるようになっています。企業の商品やサービスも、ネットの評価を確認して購入されることが多くなっています。効率だけを追求し、社員の労働環境を顧みない企業はブラック企業として社会的に非難されますし、サイトも炎上します。すでに信用や評価の蓄積をベースに企業や商品を選ぶということを私たちは行っているわけです。
  こうした一連の動きは、まだ表面的には捉えにくいかもしれませんが、東京オリンピックの開催される2020年には、企業競争は経済競争から社会貢献競争の文脈に移っていたことが、誰の目にもわかるようになっていると思います。

Hiroyuki Naganuma

1982年生まれ。中央大学卒業後、船井幸雄グループに入社。企業及びNPO等を支援し、年間最優秀賞を最年少で受賞。その後、2008年に一般社団法人ソーシャル・デザインを設立。コンサルティング実績も300社を超える。現在も、企業、NPO、団体、個人に向けて近未来型ビジネスモデル構築コンサルティングを行う。著書に「ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉」(阪急コミュニケーションズ)。

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