電子化で広がる“本”の可能性
(2010.8.5/2010年8・9月号 特集)
街の本屋と電子書籍をつなぐBooker'sの取り組み
東京都書店商業組合
常務理事 電子サイト運営推進委員長
小橋琢己 氏
東京都書店商業組合とACCESSグループが共同で運営する携帯電話向け電子書店「Booker's(ブッカーズ)」が、店頭と電子書籍を結びつけたさまざまな企画に取り組んでいる。「目的は、あくまで街の書店の活性化にある」と語るのは、Booker'sを中心となって推進してきた小橋琢己氏だ。リアル書店と電子書店の接点はどこにあるのだろうか。
Booker'sのPCサイト
──書店の組合が電子書店に取り組んでいる理由はどこにあるのでしょうか。
Booker'sは、08年10月末に“ケータイ書店”として立ち上げましたが、今はiPhone、アンドロイドといったスマートフォン、iPadにも対応しています。組合の中で構想自体は3、4年前からありました。“ケータイ書店”は700ぐらいあると言われていますが、その内容は当時からボーイズラブ系や耽美小説がほとんどで、売れるものだけを右から左に流しているようなサイトばかりでした。それが本当に書籍サイトとしていいのか。われわれも書店人として、お薦めしたい本、読んでほしい本がある。一方で、街の書店の数は、右肩下がりで減少している。バーチャルな街の本屋を作り、そこで実際の書店にも足を運んでもらえるような仕掛けができないかということでスタートしたのが「Booker's」です。
ケータイサイトのQRコード
──街の書店が減少している原因をどう見ていますか。
読者の選択肢が多様化したことが大きいと思います。最近は、われわれのような書店で新刊書籍やコミック、雑誌を買ってくれているお客様は40%ほどしかいません。残り60%は、コンビニやブックオフをはじめとする新古書店、アマゾンや楽天ブックスなどのインターネット書店、レンタルコミック、漫画喫茶、図書館といったところに流れています。こうした流れが加速したのは15年ほど前からです。「活字離れ」ではなく、本当は本を購入する場や本に接する機会が増えてきている。それが街の書店の減少に拍車をかけているということだと思います。
東京都書店商業組合の加盟数も出版バブルだった84年がピークで、当時は約1400店舗ありましたが、今は595店舗にまで減っています。きつい仕事ですから、なかなか後継者も育たず高齢化も問題になっている。年度末になると店を休廃業するところが増えるのですが、その数は加盟店で年50店舗を超えています。そんな状況の中、街の書店に読者を呼び戻す一助になればと試行錯誤を続けています。
出版社の協力のもと店頭連動
──書店との連動の具体的な方法は?
店頭との連動は、どこの書店でも必ず扱っているような本が前提になります。当初は、NHKの大河ドラマになった「天地人」(09年2月)、「新潮文庫 夏の100冊」(09年7月)というところからスタートしました。今は初版5000部というのが標準となっていますが、それに対して全国の書店の数は1万5000店あります。都内の書店はまだしも地方の書店にまでは行き渡らない。だから、組合としてプロモーションを仕掛けるにしても、一斉に実施できる本が条件になるわけです。
そういう意味でやりやすいのは、テレビドラマ化や映画化された本です。角川春樹事務所の「笑う警官」を原作とする映画が昨年11月にロードショー公開されましたが、原作の電子版をBooker'sが10月から先行発売しました。また、書籍自体はすでに発行されていましたが、角川春樹事務所の好意で、書店組合用の帯を巻いてもらい、裏にBooker'sに誘導するQRコードを印刷してもらいました。そのQRコードでサイトに入ると、映画の鑑賞券や作者・佐々木譲さんの新刊サイン本が当たるという仕組みでした。 このように、書籍の帯でBooker'sと連動させるのが、店頭連動の一番オーソドックスなやり方です。
それから、「笑う警官」は重版でしたから、欠品の場合は注文しないと本屋に入ってこない。それで、プロモーションの告知と同時に、一斉に加盟書店にファクスで注文書を流して、Booker'sで集約して出版社に注文書を出すということもしました。街の書店の場合、映画化された本でも、1、2冊しか入ってこないし、売り切ったら注文しないということも多いんですね。ですから、そういう取り組みも大事になってくるんです。
帯の裏にはBooker'sのサイトにつながるQRコードが
──本の帯が書店とサイトの接点になっているわけですね。
文春文庫の「武士道シックスティーン」(誉田哲也著)も同様でした。4月からの映画公開に合わせて文庫化されたものですが、電子版を文庫発売の1か月前に先行配信し、文庫本には最初からBooker'sのサイトにつながるようにQRコード付きの帯を付けて、全国一斉に配本してもらいました。サイトでは、映画鑑賞券、「武士道シックスティーン」特製の手ぬぐいなどをプレゼントし、書店店頭用の映画のプロモーションビデオの最後にも、Booker'sのサイトでプレゼント応募できるという告知を入れてもらいました。
これは、書店が取り組んでいるBooker'sならではの強みですが、長年付き合いのある出版社の協力を得やすいことがあるんですね。
『もしドラ』に続いて、蓮舫の「一番じゃなきゃダメですか?」(PHP研究所刊)も。画面にFelica(フェリカ)対応の携帯電話をかざすと、Booker'sで電子書籍版の試し読みや購入ができる(立川のオリオン書房ノルテ店)
──街の小さな書店だけだと、プロモーションにも制約がありそうですね。
それで、09年9月から組合の電子サイト運営推進委員会に大型書店、中堅書店も参加する「企画推進チーム」を立ち上げたのです。紀伊國屋書店、丸善、有隣堂、八重洲ブックセンターといった大型チェーン、大盛堂書店、オリオン書房、優文堂書店といった地場の中堅書店からITに明るい人を派遣してもらって、われわれ街の小さな書店と一緒に、自分たちの書店に足を運んでもらう仕掛けを考えていこうという狙いです。毎月一回定例会をやってきましたが、最近ようやく道筋が見えてきました。
このチームで5月末から実験的に始めたのが、『もしドラ』(「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」)の店頭プロモーションです。有隣堂アトレ恵比寿店で、プロモーションビデオが流れるデジタルサイネージ(電子看板)端末と実際の本を一緒に並べたコーナーを作りました。デジタルサイネージにケータイをかざすとBooker'sにつながり、その場で試し読みも、ダウンロードして購入することもできる。デジタルの本も、リアルの本も、どちらも選べる店頭の仕組みを作ったのです。
この仕組みのもう一つの特徴は、Booker'sからデジタルの本が購入された場合、ケータイにデータを落とした店舗にもインセンティブが支払われることです。プロモーションの場を提供してくれた書店にも売り上げメリットのある仕組みにこだわった。この有隣堂を手始めに、立川のオリオン書房ノルテ店、渋谷の大盛堂書店、八重洲ブックセンター、紀伊國屋書店と続々と実験店舗を増やしていく予定です。リアルの本はもちろんですが、デジタルの本は、独占で売るより複数のチャンネルで売ったほうが絶対に幅が広がると思いますね。
──今後、街の書店にもデジタルサイネージ端末が置かれる?
今回はそのための実験です。街の書店の場合は、出版社発のプロモーションだけでなく、近隣の商店のクーポン券がケータイを端末にかざすと手に入るというような利用も考えられる。地域の特性に合わせた展開ができればと考えています。書店の滞在時間を少しでも長くしたいという考えがベースにあります。
最終的に書店はどうなるか
──Booker'sでは6月から電子雑誌も販売していますね。
Booker'sはあくまでもバーチャルな&lddquo;本屋&rddquo;だと思っています。文庫から新書、単行本、雑誌まで、本屋にあるものは全部そろえましょうというスタンスです。ですから、最初から雑誌も想定内で、それを読む端末もケータイに限らず、すべてに対応していくことが基本です。
実は、われわれは「紙の書籍」「電子書籍」と二分して考えていません。雑誌があって、コミックがあって、文芸書があって、実用書がある中に、デジタルの本があるという考え方を持っています。
インターネットも20年かかって、ここまで発展してきました。ユビキタスと言われてから、10年が過ぎています。それを考えると、紙の書籍から電子書籍にいきなり移行することはあり得ない。その間に、われわれ書店も積極的にデジタルを組み込んでいこうということなのです。
──紙の書籍の中にデジタルの本があるというのは?
文字通りの意味です。われわれが最終的に目指しているのは、デジタルの本の決済を書店の店頭で行ってもらうことです。オンラインで音楽を購入する時、クレジットカードが使えない人たちも、店頭で買ったiTunesカードで決済できます。それと同じように、例えば「Booker'sカード」を書店の店頭で買ってもらって、後でもらったコードを打ち込んで本をダウンロードしてもらう。さらに、その先には、デジタルの本を店頭で買ってもらうことも可能だと思っています。たとえば、絶版になっている本の概要を書いたカードをリアルな本と一緒に陳列しておいて、それを店頭で決済してもらうこともできるはずです。
書店の強みの一つに、一定の幅の棚で本を見せられることがあります。いくつかの本を気軽に手にとってパラパラと見て、今度はこれにしようとか、関連でこんな本もあるとかその場の発見もあるのが書店の強みです。紙の書籍と一緒にデジタルの本も並んでいるほうが、書店としても品ぞろえの幅が広がる。それは、街の本屋に立ち寄る楽しみを広げることにもなると思うのです。
- 『iPad』『キンドル』は出版社が変わるチャンス
- 紙の書籍と電子書籍の相乗効果を狙う
- 雑誌広告ビジネスの可能性を探る「マガストア」
- 街の本屋と電子書籍をつなぐBooker'sの取り組み
- 電子書籍普及への論点「価格設定」と「公正利用」

