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特集悪口はイノベーションの母!

(2014.6.5/2014年6・7月号 特集)

雑談と悪口から見えてくる人の心を動かす感覚値
HAKUHODO THE DAY   エグゼクティブクリエイティブディレクター/CEO   佐藤 夏生 氏

佐藤 夏生 氏

「会議に、無駄口を。打合せに、悪口を。」という一風変わったキャッチフレーズの広告は、2012年10月から広告関係の雑誌に掲載された博報堂の企業広告だが、この広告を手がけたのが、昨年7月に博報堂の出資で設立されたHAKUHODO THE DAYのエグゼクティブクリエイティブディレクター兼CEO佐藤夏生氏だ。クリエイティブな会議に悪口はなぜ必要なのかを聞いた。

調査データから見えてこない人の心を動かすアイデア

──「会議に、無駄口を。打合せに、悪口を。」の広告を入り口に、広告やマーケティング活動における悪口の役割をお聞きしたいのですが。

  この広告は、博報堂の仕事の仕方、発想法をテーマにしたシリーズ広告の一つです。実はこのアイデアのきっかけになっているのは、その何年か前に、東京大学大学院教育学研究科の岡田猛教授から博報堂のアイデアを生成する力を研究したいという申し出があり、僕らのチームがその対象になったことでした。岡田先生は、芸術家のような創造的熟達者の研究をしている方です。僕たちの打ち合わせを10回にわたってカメラに記録し、分析してもらったのですが、数週間後あがってきたリポートの内容は、「博報堂のアイデアは雑談力から生まれている」「打ち合わせの大半が雑談」「悪口が潤滑油」というものでした。僕らの打ち合わせというのは、まさにその通りで、無駄口、雑談を何時間も続けることが当たり前で、それがユニークな発想の元になっていると思っています。

──クリエイティブなことを発想するのに、なぜ、打ち合わせの大半を雑談に費やす必要があるのでしょうか。

  僕らの会議というのは5人から10人で行いますが、そこで探すのは「人の心を動かすものは何か」です。この商品、このサービスに対する人の本音を知らないと、人の心を動かすアイデアや発想は出てきません。だから、1人の生活者の自分として、この商品のここが「嫌い!」「面倒くさい!」「ダサい!」ということをまず徹底的に洗い出すわけです。
  どうしてかというと、そこは調査ですくえないからです。プロダクトの不具合は、そのプロダクトを知っている人には聞けますが、知らない人には聞きようがありません。ところが実際は、プロダクトを認知していない人たちがなぜ関心を示さないのか、というところにこそ課題があるわけです。「なぜ知らないの」「なぜ興味ないの」「なぜ素通りしているの」。それはプロダクトとそのお客様の関係ではなくて、プロダクトがその生活者と関係を結べていないということなのです。
  そういうプロダクトの否定的な側面を徹底して掘らなければ、生活者の本音は見えてきません。近道はありません。だから、時間もかかります。しかも、クライアントは絶対、「この商品はダサいから売れない」とは言いません。自分たちがつくったものは正しい、売れないのは理解されていないからだと思いがちです。しかし、生活者にとってはダサいものはダサいわけです。だから、プロダクトの悪い側面を徹底的に1人の生活者の感覚値に落とし込む必要があるのです。

2012年10月から2014年3月まで掲載された博報堂の企業広告「明日を拓く生活者発想」篇(右の2点も同じ)

マーケティングを身体感覚まで落とし込む

──「感覚値」に落とし込むとは、具体的にはどういうことなのでしょうか。

  「クリエイティブとは何か」と聞かれたときに使うたとえなのですが、すごくデコボコした名前のない坂があるとします。これに「デコボコ坂」と名前を付けても普通です。ところが、「あの坂、デコボコしていて歩くと酔っぱらってるみたいなんだ」ということから、「酔っぱらい坂」と名付けたとします。そうすると他の人が次に歩いたときに、「わーっ、本当に酔っぱらってるみたい」という驚きがあるわけです。自分の身体感覚を言語化、記号化したわけです。そういう身体感覚レベルまでマーケティングを具体化したとき、初めて人を動かすことができると思っています。

──「感覚値」には言語化できないものもあると思うのですが。

  そのいい例が、うちの会社(HAKUHODO THE DAY)にいる男性デザイナーです。彼は今32歳なのですが、16歳から16年間乗っている自転車があります。別に名車でもビンテージでもなくて、ただのママチャリみたいな自転車です。それを彼は8万円もかけてレストアしたのです。8万円あれば、そこそこいい新しい自転車が買えるわけですよ。でも彼は、それをしないで、長く付き合ってきたその自転車に乗り続けている。これってエコでもないし、ロハスでもない。サスティナブルと言うのもしっくりこない。でも、僕はその感覚をすごくいいなと思っているんです。この感覚ってまだ言葉になっていないんですよね。
  今は成熟社会と言われますが、彼の生き方というのは、成熟の先の新しい人間の幸せを感じさせる暮らし方というか、センスがいいなって思うんです。強いて言うなら、「ポストモダンの豊かさ」ということだと思いますが、それは説明の言葉であって、身体感覚に訴える言葉になっていません。それを、身体感覚に訴える一つの言葉にしたり、ビジュアルにしたりする。そういうものがクリエイティブだと思うのです。そこにたどり着くためには、多くの無駄口と悪口が必要だということなのです。

人はデータでは動かない 自分がどう感じるかこそが重要

──佐藤さんは博報堂のマーケティング局に4年いて、それからクリエイティブ局に移られていますが、入社2年目の時、上司に「今後、エクセルには触らない」と宣言したという話は本当なのですか。

  本当です(笑)。どうしてかというと、調査サマリーより自分の感覚、街で実感していることのほうが正しいと感じたからです。調査リポートが間違っているとは思わないし、まったく関係ないとも思いませんが、数字というのはやはり俯瞰(ふかん)データです。俯瞰データだけでは人を動かす発想は生まれません。
  同じ意味で「客観性」もまったく重視していません。「今の若い人たちはこうです」というデータで、人は動きません。人を動かすのは、「自分がどう思うか」なんですね。例えば、今の若い人たちはおいしいパン屋さんを知っていることは、かっこいい服を着ることと同じくらいおしゃれだと思っている人たちが多いというのが、僕の実感です。でも、そういう調査はどこにもないのです。

ZoffのテレビCM

──具体例があるとわかりやすいのですが。

  眼鏡の量販店「Zoff」のブランディングがいい例かも知れません。ここ数年、眼鏡については低価格の市場が伸びていますが、安い眼鏡を使う人たちがどんな人たちなのか、お客様の顔が見えません。そこが課題だと思ったのです。ファッションというのは着る人と対になって初めてブランドになるものです。例えば、革ジャンとハーレー乗り、ゼニアと商社マンというように、ファッションは、着る人が見えるとブランドになるんです。それから、アップルを持っている人はクリエイティブな人に見えて、アウディに乗る人はデザイン志向が高く見えるのも同じです。ところが、低価格の眼鏡を買う人たちの市場はかなり伸びているのに、それがどんな人たちかイメージがなかったのです。それをいち早く作ったら勝つと思って作ったのが、「Zoff」のテレビCMです。
  僕は今、40歳ですが、高いものを買うことがおしゃれだったり、服にはルールがあるということに踊らされてきた世代です。でも今の若い人たちは高い服を着るよりもちょっと力の抜けた着こなしをしたり、別に高い家具ではなくても置き方が上手だったり、はやりの店に行かなくても、30分早く起きて近所のパン屋さんでパンを買うとか、そういうことにおしゃれを感じています。夜中に、はやりの店に行って、カクテルを飲むことではなく、なんとなく真夜中の六本木のツタヤに自転車で行って、友達3人ぐらいに会って、本を買うわけでもなく、写真誌をペラペラめくり、カフェラテを飲んで帰る。でも今日は楽しかった、俺たち、イケてたなと思うわけです。そういう新しいおしゃれ、若者の生き方を肯定して、そういう彼らの生活の中に「Zoff」の眼鏡を入れ込みたかったんですね。
  だから、例えば「Zoff Running」篇では、朝、近所を走る若い女性を描いていますが、タイムを気にするわけでもなく、途中ウインドーショッピングしたり、パン屋さんに寄ったり、彼女はなんとなくそれで幸せなんです。そういう彼らの生活の中に「Zoff」の眼鏡を入れることによって、この眼鏡のターゲットではなく、“ターゲット像”が見えてくると思ったのです。ちなみに、「Zoff」の広告展開だけでなく、オフィスデザインも手掛けました。

今の時代に必要なのは、「技術革新」ではなく「発想革新」

──広告制作だけではないとすると、HAKUHODO THE DAYは、どんな会社なのでしょうか。

  マーケティングを生み出す会社です。経営やマーケティングの課題を解決し、新たな事業を切り拓く「リードエージェンシー」を目指しています。
  もう少し具体的に言うと、例えばですが、老人ホームがあるとして、それをどう言い換えるといい広告になるかが、従来の広告会社の仕事でした。HAKUHODO THE DAYは、そうではなくて、図書館を充実させて、大学の先生が月に1回講演に来るような生涯学習のできる老人ホームにしましょうという提案をする。もちろん、その老人ホームの広告もお手伝いしますが、いかに伝えるかというhowの部分だけでなく、何で企業を成長させるかというwhatの部分の提案もする。そういう会社だということです。

──新しい事業提案もする会社ということですか。

  それもたとえで説明したほうがわかりやすいと思うのですが、iPhoneの革新的なところは、メーンのボタンが「ホームボタン=戻るボタン」だというところ。それまでの携帯のメーンボタンの機能は、決定・進むでした。iPhoneのメーンボタンがなぜ「戻るボタン」かというと、好きな情報に簡単にアクセスできる今の時代、使いやすいボタンは「戻るボタン」ということなんです。だからボタンは出っ張っていないで、へこんでいるんですね。技術革新でも何でもない技術ですが、それによって情報へのアクセスが飛躍的に向上した。そういう意味では「発想革新」なのです。そういうクリエイティブ、アイデア、マーケティングをHAKUHODO THE DAYは目指しているということです。

──ちなみに、クライアントとの打ち合わせやプレゼンでも、悪口を言うのでしょうか。

  言います(笑)。実際、僕が「ここが悪いです」と言うと、きちんと聞いてもらえます。

──なぜですか。

  悪口に、そのプロダクトをより良くしたいというラブ、愛があるからだと思います。そして、それが単なる欠点の指摘で終わるのではなく、こうしたらいいという提案があるからだと思います。普通、ビジネスシーンでは上司への報告でもいいことしか言いませんが、悪いことも報告したほうがいいと思うのです。むしろ、悪口を言わずに、そのプロダクトに対して、当たり前のこと、常識的なこと、上っ面で形式的なことしか言わないことのほうが、マーケティングにとっては悪であるとしか僕には思えないんですね。

Natsuo Sato

96年に博報堂に入社。マーケティング局にてビールや自動車のマーケティング業務を手掛け、2000年、クリエイティブ局に異動し、CMプランナーとしていくつものヒットを生み出す。その後、クリエイティブディレクターとなり、メルセデス・ベンツA-Classのアニメーションコンテンツ制作や新潮社の新読書運動「ワタシの一行」の開発、Zoff新オフィスのデザイン、他にもCIデザイン、プロダクトやサービス開発などのプロジェクトに参加。13年7月設立の株式会社 HAKUHODO THE DAYの代表に就任。