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特集通信販売に学ぶ モノの売り方

(2013.5.31/2013年6・7月号 特集)

「広告でモノを売る」とは、どういうことか
公益社団法人 日本通信販売協会   理事・主幹研究員   柿尾 正之 氏

柿尾 正之 氏

広告では商品は売れないという批判がある。それなら、実際に広告で商品を売っている通信販売業界は、広告をどう使い、どう売り上げを上げているのだろうか。日本通信販売協会主幹研究員の柿尾正之氏に、「売るための広告」の核心を聞く。

──通信販売が好調の要因は何なのでしょうか。

  通信販売の市場規模は2001年度に2兆4900億円だったものが、2011年度には5兆900億円とほぼ倍になっています(図1)。小売業全体の市場規模は今、135兆円くらいですが、この10年間ほぼ横ばいです。その中で市場規模が倍になったというのは、2000年代の通信販売業は高度成長期だったということです。その要因は二つあると思っています。一つはインターネットです。1997年に楽天がスタートし、2000年にはアマゾンが日本に進出して来ました。この二強がネット通販を引っ張って通販全体の市場規模を大きくしました。アマゾンの日本の売上高は、創業わずか12年で7300億円。これほどのスピードで成長した小売業は、今までありません。
  もう一つは通販が2000年以降、シニアの支持を得たことです。30年前は社会的信用も低く、おじいちゃん、おばあちゃんは“通販なんか”利用してくれなかった。ところが今は、シニア向けの健康食品や化粧品などアンチエイジングの通販が、テレビでも新聞でも大にぎわいです。シニアの人たちはネットはあまり関係ないですから、間違いなく最近の通販市場拡大のもう一つの要因になっているのがシニアだということです。

通販は情報提供型の“心理商売”

──なぜ通販で健康食品やアンチエイジングの商品がシニアに売れるのでしょうか。

  どこのドラッグストアに行っても健康食品が売られていますが、通販の方がはるかに売れています。それはなぜか、ということですよね。
  ジャパネットたかたで20万円、30万円の液晶テレビを買うメーンユーザーは60代、70代の男性です。実は、健康食品を買っているのも、この年代の人たちです。ジャパネットたかたで売っているテレビは、もちろん家電量販店でも売っています。では、なぜあの人たちはジャパネットたかたで買うのか。理由を考えてみると、最近のテレビは性能にほとんど差がないために、「店員さんの説明をいくら聞いても違いがわからない」ことと、違いがわからないから、「何を買っていいか消費者にはわからない」ということがあります。そこで、ジャパネットたかたの髙田さんがテレビに出てきて、「今日売る商品はこれです」と言って、テレビの特長をわかりやすく説明するから、売れる。
  髙田さんの説明は、家電量販店の店員の説明と何が違うかというと、スペックではなく使い方、使用価値を説明する点です。ハードディスクが何メガで、スピードがどのくらいでというようなことはほとんど言わないで、「このパソコンがあったらお孫さんとメールできる」「旅行会の案内や記録が作れる」「おまけに付けたデジタルカメラの写真は、こういうふうに取り込む」と、使い方に徹した説明をする。それがシニアの購買意欲をそそるわけです。
  若い人ならネットで調べて商品を比較検討することも苦にならないかもしれませんが、シニアになると、そういうのは面倒臭い。 つまり、シニアはスペックではなくて、生活の中でこう使える、生活がこう便利になるという「情報」を買っているのです。そういう意味で通販は「情報提供型」なのです。
  健康食品やアンチエイジングの化粧品なども、その延長線上にあります。 薬事法で健康食品は効果効能を言えません。薬と違って「この症状に効きます」と直接言えない。だから、年をとっているけれど元気な、イメージのいいタレントが出てきて山に登り、「僕は、健康にはすごく気を使っています」と言った後、「このサプリをいつも飲んでます」という事実だけを語る。そうすることによって、そのコマーシャルを見ている人は、タレントの元気さとサプリメントの効能を頭の中で自然に結びつけるわけです。情報を付加するという意味では健康食品の通販も「情報提供型」ですが、もう一歩進んで人のイメージに訴える「心理商売」でもあるわけです。それがテレビや新聞などのマスメディア、新聞折込広告などを使った通信販売の特徴だということです。

アマゾンと通販の今後

──最初にアマゾンほど急激に成長した小売業はないとおっしゃっていましたが。

  通販は、ネットに限らず売り上げの変化が激しい業種です。一般の小売業というのは、店舗を出さなければ売り上げが伸びません。ところが通販は、広告やネットを見た人全部がお客様になり得るわけだから、売り上げが急激に伸びる。だから、通販業界の上位10社を見ても、この10年で6社が入れ替わっています。こんな業界はほかにはありません。

──昔からそうなのですか。

  テレビ通販が盛んになった90年代後半からそういう傾向が出てきたのですが、ネット通販が出てきた2000年代から加速度的にそうなりました。ネットは誰でも見られるからです。
  そういうネット通販の中でもアマゾンはさらに別格です。今まで「在庫を持つのは悪だ」という考え方が小売業にはあったのですが、「在庫を持つことの重要性」に気付いたのがアマゾンだからです。今、アマゾンは物流センターを小田原に作っているのですが、日本国内で11か所目です。普通、大手の通販会社でも1、2か所しか物流センターを持っていません。
  そういう物流センターによって、アマゾンは1年に1冊しか売れない本でも在庫が持てるようになっています。「大きな書店にもなかった本が、アマゾンにはあった」。こういう経験が重なると、消費者は本以外の商品もアマゾンに行けばあるだろうという期待を持ちます。試しにやってみてほしいのですが、アマゾンで「トマトジュース」や「電池」と検索すれば300件以上出てきます。巨大な物流センターを全国に持つことによって、アマゾンは在庫のロングテールを可能にしているんですね。

──アマゾンは1年に1個しか売れないような商品も大量に在庫=資産として抱えているわけですよね。

  それが、そうではないんです。アマゾンが今一番伸ばしているのは、「フルフィルメント by Amazon」というサービスです。要は、メーカーから有料で商品を預かって、お客様から注文を受け、発送代行まで行うサービスです。商品を仕入れているわけではないから資産にならない。アマゾンがやっているのは、通販の代行サービスなんです。電池であろうと、トマトジュースであろうと、代わりに売ってあげますよというのが、ビジネスモデルなんです。

──そうすると、通販をやっているのはアマゾンかメーカーか、どちらなのでしょう。

  お客様から見たら、「アマゾンで買った」になりますよね。 だから今までの小売業の概念を変えなければいけないということです。そこがアマゾン一人勝ちの要因なんですね。

──今後、通販はどういう方向に進むのでしょうか。

  アマゾンとジャパネットたかたは対極にありますが、アマゾン的な、システマチックにモノを売っていく通信販売が、今後伸びるのは否定できません。日本通信販売協会の調べでも、通販ユーザーのうち6割はネットを使っています。しかも、協会加盟社の媒体別売上高も以前はカタログがトップだったのですが、今はネットがトップです(図2)。
  では、紙媒体やテレビを使ったこれまでの通販は今後なくなるのかといえば、なくならないと思いますね。なぜなら、通信販売の核心は「心」、人の気持ちだからです。「今日売りたいパソコンはこれです。これいいですよ」とお客様の気持ちに髙田さんが訴える。そういう売り方と親和性が高いシニアが、今後増えるからです。それは、アメリカでも、ヨーロッパでも、日本でも変わらないのです。

消費をこじ開けるものは何か

──そういう紙媒体やテレビを使った通販から、広告が学べるものがあるとしたら何でしょうか。

  今はなくなってしまいましたが、アキハバラデパートの前でよく包丁の実演販売をやっていましたよね。特にそれまで家の包丁の切れ味に不満を持っていたわけではないのに、実演販売を見ていると「うちの包丁、切れない」と思ってしまう。十分使える包丁を陳腐化させる。これが通販の本質です。
  昔と違って家庭に包丁が2、3本あるのは当たり前の時代ですから、それでも買わせる“消費のこじ開け方”が必要なんですね。今は、認知させればモノが売れる時代とは違います。仕掛けや心理戦を総動員して需要をこじ開けることをやらなければいけない時代です。そのため通販では、ファジーなイメージ広告ではなく、消費をこじ開ける、受け手の琴線に触れることは何かが徹底的に追求されます。広告が通販から学ぶことがあるとしたら、そこだと思います。
  かつて、ジャパネットたかたがICレコーダーを10万個売ったことがありました。ICレコーダーは会議の録音用ぐらいしかメーカーは想定していません。ところが、 髙田さんは、メーカーが気付かない売り方をした。お母さんが外出するときに、ICレコーダーに「お父さん、おつまみは冷蔵庫に入ってます」、ポン。「ケンちゃん、宿題やってからおやつは食べるのよ」、ポン。そして、ICレコーダーをテーブルにおいて出掛ける。
  感動したのは、耳の遠いおばあちゃんが病院に行ってICレコーダーを使うシーンです。診察を受けたあと、先生から「薬はいつ飲むんだよ」「こういう食品は食べちゃダメだよ」と、いろいろ説明を受ける。僕のオフクロもそうだから、ものすごくわかるんだけど、年寄りって先生に言われたこと忘れちゃうんですよ。それをICレコーダーに録音して、家に帰ってからお嫁さんに渡す。そのシーンが消費をこじ開けるわけです。

──ジャパネットたかたのテレビショッピングで、コンサートのチケットを売っているのを最近見ましたが。

  西本智実指揮「ロメオとジュリエット」のバレエのチケットをテレビショッピングで売った話ですね。番組はオーケストラメンバーへの取材や西本さんへのインタビューなど盛りだくさんの内容でしたが、このチケットの売り方の特筆すべき点は、チケット送付時に、パンフレットとDVDを送り、予習をしてきてもらうことだと思います。予習をするかどうかで、音楽に対する理解、つまり結果としての鑑賞の満足度は数段違うことを提案している。そこがすごいんです。そういうように、通販の売り方というのは、モノ以外にも応用が利くわけです。

売り方で差別化する

──通常の広告の場合は、アイデアを考えるのは広告クリエイターですが、通販の場合は?

  ジャパネットたかたなら、髙田さんだったり、スタッフだったりです。髙田さんに、それをどうやって考えるのか聞いたことがあります。そうしたら、「どれだけそれを真剣に考えるかです」と言われました。当たり前なんですよ。売れなかったら商売にならないわけですから。通信販売は、家電量販店との価格競争には勝てない。メーカーのようにオリジナルの商品を作れるわけでもない。売り方で差別化するしかないわけです。

──柿尾さんから見て、メーカーの広告はどう見えますか。

  通販視点で広告を考えれば、今までの広告と違うものができると思いますね。例えば、洗濯機の広告を見ていても、服の汚れを落とすことや省エネがアピールポイントになっているものが多い。それが本当に消費をこじ開けるポイントなのか、琴線に触れる使い方はないのか、ゼロから疑ってみる必要があると思います。そして「服の汚れを落とすこと」が訴求ポイントであるなら、今までの洗濯機の洗浄力をどう陳腐化するか、徹底的に考えてみる。それから、それがどこでも売っている商品だったら、その必要性をどう増幅させるかとことん考えることが必要だと思いますね。

──必要性を増幅させるというのは?

  テレビ通販のヒット商品に「高枝切りばさみ」があります。庭に柿の木がある家でも、実際に買って何度使うかわからない。でも、売れたんです。実は、あれ、ホームセンターでも売っています。でも、あまり売れてはいない。なぜか。ホームセンターでは折りたたんでケースの中に入れて売っているからです。つまり、ビジュアルで見せないと価値が伝わらない。そこに気付けるか。前述したICレコーダーで言うなら、お医者さんの説明を録音することに気付けるか。包丁の実演販売なら、その包丁で予想外に硬いものを切ってみせることに気付けるか。そうすることで、必要性はより強調され、増幅される。売ることを真剣に考えるというのは、そういうことなのです。

Masayuki Kakio

1954年千葉県生まれ。マーケティングコンサルティング会社を経た後、1986年4月、社団法人日本通信販売協会に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、現在、公益社団法人 日本通信販売協会理事。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販―『不況知らず』の業界研究」 (新潮新書・共著)、 「通信販売はどこへ行く」(繊研新聞社)ほか多数。