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ojoトップ  > 特集  > 広告デザインに活かす「伝える」技術:【 名画に学ぶ 】名作の構図から読み解く意識下の感情

特集広告デザインに活かす「伝える」技術

(2013.2.4/2013年2・3月号 特集)

【 名画に学ぶ 】名作の構図から読み解く意識下の感情
視覚デザイン研究所   代表取締役 発行人   内田 広由紀 氏

内田氏

名画と呼ばれる絵は見る人にさまざまな感情を抱かせるが、その感情がどこから来るものなのかを言葉にするのは難しい。「巨匠に学ぶ構図の基本」「巨匠に学ぶ配色の基本」の著者・内田広由紀氏は、構図や配色といった視覚的要素が意識下の感情とどう関連するのかを研究してきた。今回はその中から、特に構図がもたらす効果について解説してもらった。

──内田さんは絵画の構図や配色に関する本を多く出されていますね。

  長年研究してきた「意識下言語」の考え方を使って絵画を分析した本です。「意識下言語」というのは、「人の意識下の感情を視覚の体系を通して翻訳する仕組み」のことです。
  人の感情には、意識できる高度な感情と、本能とも言われる意識下の感情の2種類があります。意識できる感情は大脳新皮質で生まれ、意識下の感情は古い脳である大脳辺縁系で生まれます。人が何かを見て、それを好きか嫌いかをまず判断するのは意識下の感情で、わずか1000分の2秒でそうした判断は行われていると言われています。

──人の判断は視覚によるところが大きいということでしょうか。

  意識下の感情というのは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感が組み合わさって引き起こされるものなのですが、視覚がその内の8割を占めると言われています。日頃私たちが使っている言葉に「真っ赤な嘘」「身の潔白」など感情を色で表すものが多いのも、視覚と意識下の感情に表裏一体の関係、体系があるからだと考えています。
  例えば、左右対称のシンメトリー型は絵画の構図の中でも最も安定した型で、「威厳」「伝統」「内面的なこだわり」といった感情を表します。全体が一目で見渡せるようなパノラマ型の絵は、「自由」「のびのび」といった感情を表します。逆に、二つのものを対決するように配置する対決型では、絵に緊張感が生まれ、「厳しさ」「力強さ」といった感情を表します。これは構図に限ったことではなく、配色にも言えることで、例えばゴッホの黄色と青のように反対色を一つの絵の中で使えば、構図の対決型同様に、激しい緊張感を表せます。つまり、絵の構図や配色を読み解くことによって、意識下の感情はある程度言語化することができると考えています。

──広告を見たときの意識下の感情も絵画と同じように翻訳できるものなのでしょうか。

  概ね同じようにできると思いますが、広告と絵画では違いもあります。例えばモナ・リザは神秘的と言われますが、その神秘性はモナ・リザの優しい表情と背景の険しい山々との違和感から生まれています。絵画ではこの神秘性が評価されますが、広告ではうるさいもの、わけのわからないものと受け止められるかもしれません。

モナ・リザの背景を変えると…

  また、広告の場合、主役を真ん中に堂々と大きく置くのが基本だと思いますが、絵画では肖像画を除けばそうしたケースはほとんどありません。これは堂々とし過ぎてしまって、微妙なニュアンスや面白みが失われてしまうからです。
  構図が人の意識下の感情にどのように働きかけるのかを理解してもらうには「巨匠に学ぶ構図の基本」でやったように、代表的な構図の名画とその一部を変えたものを比較して見てもらうのが一番わかりやすいと思います。私が名画の構図のテクニックをうまく使っていると感じた新聞広告と一緒に紹介していきましょう。

名画に学ぶ新聞広告好事例①

明治

明治

2011年9月20日 朝刊

「領地」確保で主役を明示

  画面をすっきりと安定させるための基本は、主役をはっきりさせることです。主役が曖昧な絵は、見る人をいらつかせ、不安な気持ちにさせます。主役をはっきりさせる方法はいくつかありますが、その一つに「領地」の確保があります。「領地」とは、主役周辺の余白のことです。
  例はレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」です。下の絵は主役であるキリスト周辺の領地をなくしています。キリストが弟子たちに埋もれ、画面全体の緊張感が失われ、絵そのものが無意味なものになっています。上の実際の絵では、キリストは弟子たちから少し離れ、背後の明るい窓枠でキリストを目立たせています。この余白が領地で、全体的に弱い色調でも、視線はすぐにキリストに向かいます。
  広告でも、領地の考え方は有効です。明治のマーガリン「オフスタイル」の新聞広告では、マーガリンの塗られたトーストが主役として表現されています。トーストの周りには十分な余白が設けられ領地が確保されています。領地の取り方で主役を明示することが可能なことが、この例からもわかります。また、トーストを女性が手に持っていますが、何かを手に持つというのは、それを指し示しているという意味に人は受け止めます。それも自然に視線が集まる理由です。

名画に学ぶ新聞広告好事例②

サッポロビール

サッポロビール

2012年2月25日 朝刊

ドラマを生む「対立型」

  サッポロビールの新聞広告は、「対決型」の構図の良い例です。2人の人物を左右に対峙させていますが、こうすると緊張感が生まれ、ドラマを感じさせます。この広告の背景は赤一色ですが、赤は活気や開放感を表す色です。それによって、対立しつつ仲間でもあるという大人のイメージもうまく表現していると思いますね。
  絵画でこの「対決型」の代表作と言えば、俵屋宗達の「風神雷神図」です。試しに風神と雷神を増やし、パノラマ型に配置してみたのが下の絵です。これでは鬼神たちが遊び回っているようにしか見えず、絵から緊張感が失われるのが実感できると思います。上の実際の「風神雷神図」は、緊張感を感じさせるだけでなく、どことなくユーモラスに見えます。それがこの絵の魅力になっているわけです。

名画に学ぶ新聞広告好事例③

積水ハウス

積水ハウス

2011年9月30日 朝刊

「囲い込み」で生まれる安心感

  人は、周辺を何かに囲われると落ち着いて癒やされる気持ちになりますが、絵画にも「囲い込み型」という構図があります。
  例はゴーギャンが描いたタヒチの情景「会話」で、6人の女性たちが戸外で思い思いのポーズで噂話に興じている様子を描いています。実際の絵は周辺が樹木で囲まれていますが、試しに樹木を消してみると、何となく落ち着かず、不安な気持ちになることがわかります。
  積水ハウスの新聞広告は、この囲い込み型の典型例。主役を庭の緑で囲むことで、安心感や安らぎといった家の広告に最も求められるメッセージを伝えています。

Hiroyuki Uchida

1940年生まれ。日本大学藝術学部視覚伝達専攻卒業。1976年、視覚デザイン研究所を設立し現職。その間、東京藝術大学、武蔵野美術大学、桑沢デザイン研究所、御茶の水美術学院、玉川大学、東京造形大学、女子美術大学短期大学部講師。2003年、意識下言語の体系を開発。