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ojoトップ  > 特集  > 広告デザインに活かす「伝える」技術:【 DMに学ぶ 】パッケージはブランド資産 長期的な視点で育てていく

特集広告デザインに活かす「伝える」技術

(2013.2.4/2013年2・3月号 特集)

【 DMに学ぶ 】“受け手の顔”を思い浮かべることがDM成功の秘訣
アディック   取締役   伊藤博永 氏

伊藤氏

多くが郵便受けからゴミ箱に直行する宿命にある中、ゴミ箱行きから免れ、開封され、読まれ、行動を誘発するダイレクトメール(DM)も存在する。長らくダイレクトマーケティングに携わり、1987年から毎年実施されている全日本DM大賞でも審査員を務めてきたアディックの伊藤博永氏に、受け手の心と身体を動かす効果的なダイレクトメールの秘訣を聞いた。

──最近のDMには、どんな変化がありますか。

  DMの担う役割は近年、「不特定多数の中から見込み客を獲得すること」から「見込み客のコンバージョン(成約)を得ること」へと大きく変化しています。
  その背景には、2005年度から施行された個人情報保護法の影響が大きいと思います。これにより、以前のようにターゲット像に合致する属性の人のリストを名簿会社等から入手して、そこをめがけて一斉に大量発送するというようなことができなくなりました。送り先は、基本的に事前に何らかの接触によって受け取ることを許諾している人、つまり見込み客に限られ、DMの送付数は絞り込まれる傾向にあります。さらに、その後のリーマンショックの影響などで費用対効果がより厳しく追求されるようになったことも、商品やサービスに興味のある見込み客を確実に取り込む方向へのシフトを進めました。
  また送付数が少なくなった結果、一通により多くのコストをかけることが可能になりました。例えば車のキーを模したUSBメモリーを同封するなど、ターゲットの心を捉える凝ったデザインのDMが増えてきているのも最近の傾向です。

時間軸や立体物を利用できるのがDMの利点

──DMも広義の広告ですが、DMならではの特徴とは?

  マス広告にはないDMの特徴は、主に二つ挙げられます。
  ひとつは時間軸を利用できることです。DMは基本的に送る相手が決まっていますから、同じ人に第二弾、第三弾を送るなど、時間軸を利用した継続的なアプローチが可能です。数週間おきに接触し、理解を深め、最後にクロージングをかけるというのは、DMならではの手法と言えるでしょう。
  例えば第26回全日本DM大賞のグランプリを獲得した、グーグルの法人向けサービスのDMは、受け手の理解の段階に合わせたサービスの説明で大きな反響を獲得しました。その戦略性を評価しての授賞でした。
  時間軸の利用には、継続・段階的な接触という方法に加えて、長い間手元に置いてもらうことで緩やかに関係を築く方法もあります。DM自体がカレンダーなど卓上ツールになる手法はポピュラーですね。
  もうひとつの違いは、三次元の表現が比較的容易なことです。例えば新聞など、定期刊行物として定型・デリバリーの制約がある紙媒体の広告は基本的に二次元ですが、オンデマンドで形態を変えられるDMでは、立体物を送ることもできますし、先ほどの時間軸の視点も加えれば四次元にすることもできます。日常的に身近に置いてもらえる組み立て式の立体オーナメントや前述のUSBメモリーなどは、「時間軸」と「立体」を組み合わせて活用した好例です。

──マス広告とDMの考え方の違いとは?

札幌トヨタ自動車「レクサスハイブリッド疑似オーナー体験DM」(第24回全日本DM大賞 銀賞)

  マス広告の最も大きな課題としては、まず「マインドチェンジ」があるのではないでしょうか。それも、全く同じ人に確実に何度も接触することはなかなか想定しづらいので、1回の接触で覚えてもらいたい。AIDMAで言うところのMemory、まず記憶させることが一番重要で、そこから心の中で変化を起こさせるような戦略性が求められていると思います。
  一方DMは、忘れた頃にまた届ければいいので、記憶させること自体は最優先事項ではありません。受け手の心理変化を表すとするとAIDMAから「M」を抜いたAIDA、だからこそより直感的でエフェクティブな表現・演出が求められます。
  ただ、もちろんこれは商材にもよりますので、新聞広告にそのまま応用できるようなDMのマス的なビジュアルの使い方もあります。例えば、折りたたまれたリーフレットを開くとハンドルやメーターなど、実寸大の運転席のグラフィックが目の前に現れるレクサスのDMは、実物を見てみたいという興味を掻き立てるインパクトがありました。

ダイレクトマーケティングの究極はOne to One

──DMの場合は、本文や中身を見てもらう前に、まずは封筒を開けてもらうための工夫も必要ですよね。

  以前は確かに、ボールペンを同封するなど工夫していましたが、今はもう封筒自体、使うことが少なくなってきました。今は印刷技術の進化もあり、定形郵便料金で送付できるマルチページの剥離式のハガキやA4リーフレットそのものに宛先を印字して送る手法が一般的です。
  DM自体に一通ずつ「○○様」と個別の名前を入れられる、バリアブル印刷も増えてきました。ちょっとした工夫ですが、それだけで親近感が生まれ、読まれる確率も高まります。
  また、先ほどの「絞り込まれた人に送る」傾向と関連しますが、そもそもある程度の興味がある人に送っていますので、以前よりは読んでもらいやすくなっているという見方もできます。さらにターゲットが絞られている分、分析もしやすい。
  ただし、ロジカルな分析以上に重要なのは、DMを手にしたときの受け手の反応をどれだけリアルに思い描けるかで、それには特定の個人が動くかどうかを想像することが大きな手がかりになります。

──特定の個人を想像するというのは、具体的には?

  そもそもダイレクトマーケティングは追求すればOne to Oneのマーケティングに行き着きますから、DMも元々「30代女性」などの属性で区切られたターゲット層ではなく「あなた一人」を喜ばせたい、そういう思考で制作すべきものです。にやっと笑うのか、それとも驚いて目を見開くのか。DM制作では受け手がDMを手にしたときの顔を思い描いてつくるのが前提です。
  例えば昨年BMWアメリカが行った、実際のタイヤ痕を利用したDMは、何を受け取ったらファンが喜ぶのかがよく考えられていた事例だと思います。これは制作過程の動画をYouTubeで公開してSNSでも話題になりましたが、このようなクロスメディア展開にDMを組み込むことも有効です。
  また、「あなた」宛ての視点でつくられたDMの究極が、約1000人の既存顧客に宛てた鉄板焼ステーキ六番館の手紙DMです。季節の料理を知らせるDMを、東日本大震災直後に実施した時は自社の思いを込めて手紙形式とし、宛名は一通一通、同社代表自らが手書きしたそうです。まさに私信ですね。これを受けての再来店率は20%と、高い成果を上げました。

BMWアメリカのタイヤ痕DM。制作過程をYouTubeで公開した

鉄板焼ステーキ六番館「震災後のお便り」(第26回全日本DM大賞 銅賞)

一人に語りかける発想をマス広告へ活かす

──その発想は、マス広告にも応用できるでしょうか。

  大いに活かせると思います。例えば昔の新聞広告で、私はクリエイティブディレクターの大貫卓也さんが手がけた、としまえんの広告「史上最低の遊園地。」が好きなのですが、これを当時新聞を開いて見たときにはちょっとにんまりしてしまいました。マス広告ではありますが、よくできたDMと同様に、受け手がどんな反応をするかをしっかり思い描いてつくられているのを感じます。
  時代ごとに、効果的な表現のセオリーや鉄則はあると思いますが、それだけで考えていくと時間の経過によりどの広告も似た表現に収束し、競合他社と差異化することができなくなります。不特定多数の人に気づいてもらい、好感度や親近感を高めるためには、ビジュアルインパクトを重視した新聞広告ももちろん有効です。ただそれとは別に、DMと同じように一人に向けて考え抜いた表現を取り入れれば、オリジナリティーがありメッセージ性の強い広告ができるのではないでしょうか。それは人から人へのコミュニケーションの温かさを感じさせるものになると思いますし、それこそが新聞広告の新たな潮流になるかもしれません。

DM視点で見た新聞広告好事例①

ポーラ「美肌県グランプリ」

ポーラ「美肌県グランプリ」

2012年8月20日 朝刊

  2012年8−9月、全国のポーラ店頭で展開したスキンチェックのキャンペーンに際して出稿。全国版と併せて、ポーラの拠点が多い地域では原稿を切り替え、個別のメッセージを発信した(写真は福岡県バージョン)。
「その地域の人たちに語りかける“手紙”発想の広告。新聞の地域切り替えはもっと使いようがあるのでは」(伊藤氏)。

DM視点で見た新聞広告好事例②

ポケモン「ピカチュウかぶと」

ポケモン「ピカチュウかぶと」

2011年5月5日 朝刊

©2011 Pokémon.
©1995-2011 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

  全30段広告を点線の指示通りに折ると、ピカチュウのかぶとになる。一部地域のみの掲載。
「こどもの日に、被災地の子どもたちを笑顔にする意図で出稿したとのことで、まさに受け手の顔を想像してつくられた広告だと思います。作成中の時間を共有できる点も、関係づくりに効果的です」(伊藤氏)。

Hironaga Ito

1973年に広告業界に就職、1993年に旭通信社(現アサツー ディ・ケイ)入社。1995年よりダイレクトマーケティングを主業務とし、2008年にダイレクトマーケティング専門会社であるADKダイアログ設立に参画、翌年から2011年まで代表取締役社長。2012年より現職。