adv.yomiuriトップページへ

ojoトップ  > 特集  > 広告デザインに活かす「伝える」技術:【 パッケージデザインに学ぶ 】パッケージはブランド資産 長期的な視点で育てていく

特集広告デザインに活かす「伝える」技術

(2013.2.4/2013年2・3月号 特集)

【 パッケージデザインに学ぶ 】パッケージはブランド資産 長期的な視点で育てていく
アイ・コーポレーション   代表取締役   小川 亮 氏

小川氏

店頭で消費者にアピールし、購買を促す役割を担う商品パッケージのデザインには、コミュニケーションの工夫が凝らされている。「どう機能させたいかによって、パッケージデザインの考え方は異なる」と、アイ・コーポレーションの小川亮氏は語る。パッケージデザインの制作・コンサルティングを専門とする同氏に、効果的なパッケージデザインのポイントや広告との連動について聞いた。

──商品パッケージは、マーケティング活動において、どのように位置づけられるのでしょうか。

  商品パッケージはそれ自体が生活者にとってとても身近なメディアになります。トライアルを促すのはもちろん、購入後も広告と違って触れる実体があるので、継続的な関係構築を図ることも可能です。どんな商品にもパッケージはありますから、マーケティングの4Pの一つ、プロモーションの中でもかなり原点に近いものと言えるのではないでしょうか。
  また、パッケージをどう見せるかは、マス広告を含めた他のコミュニケーション活動をどう展開するかにかなり密接に関わってきます。その関係性によって、たとえ同じカテゴリーの商品でも、最終的なデザインは大きく変わってきます。
  デザインというと情緒的な話に感じられますが、その商品のマーケティング活動を整理することで、パッケージが担うべき役割とそれを反映させたデザインはおのずと見えてきます。

売れるパッケージデザインに必要な4つの軸

──小川さんはこれまで数多くの商品パッケージを手がけられてきましたが、どのような考え方でデザインを構築してきたのでしょうか。

  パッケージを開発する時に考えることは、大きく分けて2つあります。ひとつは、その商品の一番の魅力は何かということです。広告同様、いっぺんにいくつもの要素を言おうとしても伝わらないので、訴求点を絞り込み、それがターゲット顧客の感性に触れるかどうかをよく吟味する必要があります。
  もうひとつは、店頭の棚の前に立ち止まるごくわずかな時間で正確に商品のベネフィットが伝わるデザインになっているかということです。そのためには、次のA〜Dの4軸を満たす必要があります。
  まずA、Attentionについてです。パッケージはたとえばビールを買いたい人が店頭のビールの棚に来て目にするものですので、基本的にはその商品カテゴリーに関心がある人に接触します。そう考えると恵まれたメディアであるとも言えますが、その代わり競合商品のビールに囲まれている中で、抜きん出てその商品の存在感・メリットを訴えかけるデザインが必要です。
  次にB、Basicとは、そのカテゴリーにおける“らしさ”、ビールなら生活者が期待するビール“らしい”パッケージデザインが求められるということです。今、ビール市場ではシルバーやゴールド、ブルーを基調としたパッケージが主流ですが、ここにピンクの缶が加わっても生活者が感じているビール“らしさ”の範囲を大幅に外れ、興味を持ってもらうことは難しいでしょう。そのカテゴリーにおける“らしさ”だけでなく、そのブランド・企業“らしさ”についても同様です。
  3つ目のC、Conceptは、商品のベネフィットがしっかり伝わっているか。最初にお話しした、絞り込んだ訴求点がパッケージに反映されているかどうかです。
  そして4つ目のD、iDentityとは、記号として残せる何かがあるか。色や形、ロゴ、書体など、購入した人の心に残り、商品やブランドの世界観とのつながりをつくり、長期にわたって資産となりうるものを指します。これが明確になっていると、たとえば派生商品を発売する際も「このブランドのシリーズだ」と一目でわかってもらえますし、広告との連動もしやすくなります。また、このようなアイデンティティーは一旦発売してしまうと後から追加することが難しいので、最初から強い象徴を設定できなくても、ずっと残したいデザイン上の何かを初期の段階から定めておくことが必要です。
  以上A〜Dが、売れるパッケージが満たすべき条件であり、同時にこれはパッケージデザインの評価軸にもなります。売れない商品のパッケージは、これらのいずれかが欠けていることがほとんどです。

パッケージのチラシ的役割とブランド的役割

──新商品のパッケージデザインを考える際、最初に考えなくてはならないのはどういう点でしょうか。

  商品をどう売っていくかという全体のコミュニケーション戦略をまず大きく把握することです。ここでポイントになるのは、その商品にマス広告を展開する予算があるかどうか。これによって、パッケージに「ブランド的」役割を担わせるのか、「チラシ的」役割を担わせるのか、大きく2つの方向性に分かれます。
  言い換えれば、全体のコミュニケーション戦略の中のひとつとしてパッケージがあるのか、それともトライアル獲得をパッケージだけでするのか、という違いが出てきます(図1)。

  マス広告の展開がある場合は、生活者はマス広告に触れ、そこで醸成される世界観と共通したパッケージを店頭で目にすることになりますから、コミュニケーションストーリーの中で強い意味性を持たせることも可能です。その場合のパッケージは、広告キャンペーン全体のトーン&マナーに合わせることに徹すればよく、パッケージだけであれこれ伝えきる必要はないかもしれません。
  前述のように、パッケージは実体として購入者の手元に残るため、色や形が与える印象などを通しても購入後も関係を築くことが期待できますから、それも見越したブランド的な役割をパッケージに込めることがポイントになります。
  一方、世の中に送り出される新商品の多くは、そこまで潤沢な広告予算はつきません。その場合、パッケージだけで店頭の棚に立ち寄った人にアピールし、まずトライアルを促す役割を担う必要があります。これを私は「チラシ的」役割と呼んでいます。「今日だけ100円均一!」ではありませんが、いわゆる小売店のチラシのように訴求点をしっかりパッケージに盛り込み、最初の購買動機を与えるわけです。
  また、「チラシ的」役割を担って世に送り出されたパッケージも、トライアルからリピート購入が進み、ある程度ユーザーが定着してきたら、「ブランド的」役割を持たせるようシフトしていきます。トライアルカスタマーをロイヤルカスタマーへと育てる過程で、商品を使用することに対する喜びや、身近に置きたいという気持ちをパッケージで醸成する、つまりパッケージのデザインを調整することでブランドを育成する必要があるわけです。
  見方によっては、マス広告を投じるということは、このプロセスを一気に縮めることにもなります。発売時からさまざまな種類のメディアを使って商品のアイデンティティーを印象付けた場合、ロゴやカラー、イラストなどにそのアイデンティティーを紐付けた大胆なデザインに挑戦することも可能です。
  逆に、マス広告を展開しないのに最初からブランド重視の発想でパッケージをデザインしてしまうと、店頭で初めてその商品を目にする人にとっては何も伝わらず、すぐに廃れてしまうことにもなりかねません。

細かな変更やリニューアルで時代に合うデザインに

──「チラシ的」役割から「ブランド的」役割へのシフトは、具体的にどのように行うのでしょうか。

  パッケージデザインが最終的に目指すところは、前述のように記憶に残る独自の記号、アイデンティティーをつくることです。それは、確かなブランド資産になります。
  この道筋を見据えていないばかりに、パッケージのリニューアルが流通店頭の棚を確保するためのアピールになるからとデザインをころころ変えてしまい、ユーザーに覚えてもらえないという失敗例もよくあります。
  心理学用語に「丁度可知差異」という言葉があります。これは、わかるかわからないか程度の小さな違いのことを言うのですが、ロングセラーブランドでは丁度可知差異レベルでのデザインの微調整が行われるのがほとんどです。リニューアルと謳うほどの大幅な変更ではなく、色味や書体、レイアウトをほんの少しずつ変えていくのですが、数年単位で並べてみると変化は明らかになります。
  商品は生き物なので、他社の動向や時代の流れなどに影響され、自社の商品のポジションもどんどん変わっていきます。コンセプトやアイデンティティーのように、ずっとぶれない軸は必要ですが、そればかりにこだわって周りが見えなくなると、気づけば時代遅れになっていたという事態にもなりかねません。そのため、常にその商品が生活者にどのように映っているのかを把握した上で、自分たちがそのブランドで表現したいものを追っていくことが大事です。

──順調そうに見えるブランドのパッケージでも、しばしば大きなリニューアルが行われるのは、そういった理由があるのですね。

  ええ、細かいチューニング以上に、大きなデザインリニューアルは商品をその先も生かしていく策になり得ます。ただしその場合、既存顧客が許容してくれる範囲で行うことが重要です。庶民的なデザインで親しまれていた商品が急に洒落たデザインになったりすると、一見進化したように見えてもユーザー離れを起こします。その意味で、パッケージのデザインは半ばユーザーのものだと言えるかもしれません。

──店頭がコミュニケーションの場となるパッケージは、店頭での見え方もデザインに大きくかかわってきますか。

  もちろん、そうですね。デザインを提案する際は、多くのケースで実際の売り場や広告展開のイメージも合わせてプレゼンしています。先日携わった「気仙沼わかめプロジェクト」も、競合商品との差を強調したデザインとネーミングで店頭でのインパクトを狙いました。

売り場での見え方を意識した「気仙沼わかめプロジェクト」のパッケージ

新聞広告と相性の良いロングセラー商品のパッケージ

──マス広告を含めた全体のコミュニケーション戦略の中でパッケージを考える際、広告とパッケージの関係について教えてください。

  当社では広告制作も行いますが、パッケージを静とすると、広告は動の世界だと捉えています。それはCMの動画という意味ではなく、受け手の気持ちを動かす動的な表現ができるという意味です。パッケージのイメージを広告だけで刷り込むのは難しいので、広告とパッケージのデザインに一貫性を持たせ、店頭・商品へ動かす表現にすることを常に心がけています。
  特に新聞広告は、社会的な信用性に加え、あれだけの文字を読む人が接しているメディアですから、しっかりとしたコピーワークなら必ず伝わると考えています。たとえば最近手がけた胃腸薬「新キャベジンコーワS」(興和)の新聞広告では、毎日飲むことで将来の健康な胃を育てる、という商品本来の機能を改めてコピーで訴求しました。
  パッケージと新聞広告の連携ということで一つ提案したいのが、ロングセラー商品での新聞広告活用です。まずパッケージが知られていることで目に留めてもらえますし、そこで先のキャベジンのように新たに伝えたいことを提示すると読んでもらいやすい。ロングセラー商品は時代に合わせてパッケージだけでなく、訴求点をチューニングしていくことがよくありますので、それを確実に伝えるのに新聞広告は効果的だと思います。

パッケージ視点で見た新聞広告好事例①

大正製薬

大正製薬

2012年5月10日 朝刊

パッケージが語りかける

  発売50周年を迎えたリポビタンDの「ファイトの日(5月10日)」新聞広告。「あまり知られていないパッケージを大きく出しても興味を持たれませんが、十分知られているパッケージなら誰もが目を留め、愛用者へのアピールにもなるので効果的です。さらに定着した定番パッケージを中心に大きくデザインすれば、コピーは商品が語りかけてくる言葉のように聞こえるのでは」と小川氏。

パッケージ視点で見た新聞広告好事例②

興和

興和

2012年1月20日 朝刊(北陸支社版)

商品の機能・価値を改めて伝える

  「ロングセラーの場合、昔からの愛用者が知っていても、若い人が商品価値を知らないことも多く、継続・定期的に商品本来の機能を伝えていくことは大切です。新聞広告はそういった目的にぴったりだと思います」(小川氏)。

Makoto Ogawa

1994年、慶應義塾大学環境情報学部卒業後、キッコーマンに入社。宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学ビジネススクールにてMBA取得。2007年より現職。文部科学省学習指導要領改善協力メンバーも務める。著書に「図解でわかるパッケージデザインマーケティング」。