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特集動き出した暮らしの「スマート化」

(2012.2.2/2012年2月・3月号 特集)

「賛成の連鎖」を広げる日産リーフのマーケティングコミュニケーション
日産自動車   マーケティング本部 宣伝部 部長   星野 敦彦 氏 日産自動車   マーケティング本部 マーケティングダイレクターオフィス マーケティングマネージャー   梅津 行雄 氏

左から星野敦彦 氏、梅津行雄 氏

日産自動車は2009年、CO2や排出ガスをまったく出さない「ゼロ・エミッション」社会の実現を掲げ、同時に電気自動車「日産リーフ」を発表。2010年12月より販売を開始している。現在、世界で2万台、日本国内では約1万台が普及している日産リーフのコミュニケーション戦略と、ゼロ・エミッション社会実現へのビジョンを聞いた。

環境負荷をかけない ゼロ・エミッションを目指す

  2012年元日の朝刊に、日産自動車は電気自動車日産リーフの周りに多数のツイッターアイコン画像を並べた新聞広告を掲載した。アイコンの画像は、前年に広告への参加を一般に呼びかけて投稿されたものだ。元日には、広告に画像が使われた人がその旨を自分のツイッターに書き込むなど、ネット上で話題を巻き起こした。
  広告に添えられているのは、「1年で2万台」「電気自動車に賛同する人々の輪を、世界に広げたい」との言葉。日産自動車 宣伝部部長の星野敦彦氏は、この広告の狙いについて「一般の方々に参加してもらうことで親近感を醸成し、電気自動車は“未来の車”ではなく、すでに多くの人に受け入れられているメジャーな車なんだというメッセージを伝えたかった」と語る。

日産自動車

2012年1月1日 朝刊

  次世代のエネルギー問題に目を向けざるを得ない状況を受けて、現在多くの自動車メーカーが環境保全につながる技術開発に取り組んでいる。日産自動車は1960年代より積極的に開発を進め、さまざまな技術を使ってすでに複数のエコカーを発表している。
  ハイブリッド車や燃料電池車など、さまざまなタイプの車の研究開発を進めながらも、同社が早い段階でその研究の中心に据えたのが、内燃機関を用いず、電気で動くモーターのみを動力発生源として用いる電気自動車だ。その背景にあるのは、CO2や排出ガスをまったく出さないゼロ・エミッション社会を実現しようとするビジョンである。電気自動車の開発・普及だけでなく、新たな移動手段の提案やバッテリーのリサイクル、各種制度に関する行政との交渉なども含めて、同社は現在、ゼロ・エミッション社会へ向けた包括的な取り組みを着実に進めている。

横浜市で開催された「the new actionツアー」の様子

  「自動車市場全体における電気自動車の需要は、いずれ10%程度になると見込んでいます」と、日産リーフのマーケティングマネージャーを務める梅津行雄氏は話す。
  他社に先駆けて、電気自動車を最も環境に配慮した量販車として社会に打ち出すには、その理解の促進やインフラの整備など、先行者ならではの難しさが伴う。「当然、市場を開拓するコストもかかります。それだけに、いち早くこの分野での存在感を確立し、市場を牽引するポジションを築くことも、当初から視野に入れていました」(梅津氏)。

キーワードは「賛成の連鎖」 受け入れられる基盤を築く

  とはいえ、「車を売る」ことにとどまらず「ゼロ・エミッション社会を実現する」という大きな目標に近づくためには、一般的な新車の販売時のように特長を訴求するだけでは不十分だ。購買検討者に限らず、広く社会に対してガソリン車とは異なる電気自動車の仕組みを伝え、さらに電気自動車がこれからの社会にどのような価値をもたらすのかを知ってもらう必要がある。
  そこで、同社は予定していた発売時期より1年半も前にあたる2009年夏に、ゼロ・エミッションについての提言と電気自動車日産リーフの発売を発表し、発売までの間に時間をかけてこれらの理解の促進に取り組んだ。WEB上での情報発信に加え、翌年の夏からは全国6か所で「the new actionツアー」と題した大規模なキャラバンを実施。一般生活者のほとんどが乗ったこともなく想像もつかない電気自動車を体験してもらうため、各所に試乗車を手配してイベント形式でのコミュニケーションを展開したのだ。
  その地域の行政や地元メディアの協力を得ながら、試乗会や市民参加型のワークショップを実施。新しい時代の到来を印象付けながら、各地域で自然に電気自動車やゼロ・エミッションの概念が伝播していくことを図った。
  当初から掲げていたコミュニケーション上のキーワードは、「賛成の連鎖」。決して企業からの上からの押し付けではなく、電気自動車がもたらす価値を理解した上で「賛成」してくれる人の輪を地道に広げていくこととイメージした。電気自動車の意義を踏まえて「社会にとって必要な車だ」との賛同を促したわけだ。
  「発表から実際に発売するまでの約1年半は、いわば電気自動車が受け入れられる素地づくりに費やしました。これをコミュニケーションにおける第一フェーズと考え、ようやく発売を迎えた頃には、いよいよ第二フェーズに突入するという実感がありました。草の根的な活動から一歩進めて、マス広告も展開しながら、より幅広く社会に日産リーフを打ち出していきたいと考えていました」(梅津氏)。

東日本大震災によりエネルギー問題への注目増

  2010年12月、同社は満を持して日産リーフを発売。エコカーに対する政府補助金の後押しもあり、すでに同年度の販売目標としていた6000台は予約で即座に埋まるという好スタートを切った。
  引き続き電気自動車の理解促進に注力しながら、全国の販売店を通して試乗や購買につなげていこうとしていた矢先に起こったのが、東日本大震災だった。特に、電力供給の不安定さを懸念する世論が高まり、一時は電気自動車にも不安の声が寄せられた。
  日産リーフのマーケティングコミュニケーションは、図らずもこの震災によって大きな転機を迎えた、と梅津氏は語る。「被災地では停電、また首都圏でも計画停電や節電が問題になっていたため、電気自動車など役に立たないのではないかという否定的な意見が高まったのは事実です。でも、その一方で電気はガスや水道など他のインフラと比べて復旧が早く、さらに今度は深刻なガソリン不足が問題になったため、次第に電気自動車の可能性が見直されていきました」
  実際に、日産リーフは震災直後から被災地で活躍している。仙台市で活動する往診専門の診療機関「仙台往診クリニック」では、ガソリン不足により診療が滞る危機に陥ったが、市内の日産レンタカーから1台を確保し、震災の4日後には日産リーフで往診することに。加えて、同クリニックと連絡を取っていた読売新聞記者からの要請を受けて、日産自動車はさらなる拠出を即決。市内の販売店で管理していた試乗車も、往診用に無償で提供することとなった。
  まさにその要請の電話を受けた梅津氏を中心に、同社では他の地域の自治体や団体へも電気自動車の貸し出しを呼びかけ、最終的に約60台が災害支援に役立てられた。
  震災を境に、エネルギーに対する世の中の意識は大きく変化したといえるだろう。それは単純にエネルギー問題に注目する人が多くなったというだけではなく、先進的なライフスタイルの一部としてエコ意識が語られていた状況から、今まさに誰もが直面している課題として考えられるようになったという質の変化も伴っている。日産リーフ自体も、前述した災害支援の活動などを通して、“エコカー”という認識だけでなく「有事の際にも価値を発揮する車」という印象も合わせて受け入れられるようになったのだ。

日産自動車

2011年12月3日 朝刊

車から住宅へ電力供給 走行時以外にも機能

  世論の変化は、大震災後の2011年8月に発表し、グローバル本社前に建設された積水ハウス株式会社のモデルハウス「観環居」でも公開されている電力供給システム「LEAF to HOME」に対する反響の大きさからも窺える。
  これは、日産リーフに搭載している駆動用のリチウムイオンバッテリーから住宅に電力を供給する、というシステムだ。夜間電力や再生可能エネルギーである太陽光で発電した電力を使って日産リーフに充電し、蓄えた電気を日中の電力需要が高まる時間帯に使用することにより、家庭への安定した電力供給やピークカットの効果も見込める。さらに、停電時や電力が不足する時間帯などに備え、日産リーフを家庭用の蓄電池として活用することも可能になる。
  水面下ではずっと研究を続けていたとしながらも、星野氏は「世論の高まりによって、3、4年先の発表を見込んでいたものを一気に前倒ししてリリースしたのです」と、発表時の状況を振り返る。
  研究開発の部門にとっては、かなり急ぎ足で発表に漕ぎ着けることになったものの、世の中に受け入れられやすいタイミングを計るのもマーケティングコミュニケーションの成否に大きく関わってくる。今が発表すべきときだという同社の読みは的中し、いつ購入できるのか、今乗っている日産リーフで使えるのかなど、一般からの反響が予想以上に大きく驚いた、と星野氏。本システムについては、今年から来年にかけて量産体制を整える意向だ。
  今、こうした新しいシステムに関心を示したり、日産リーフの購買を実際に検討したりしているのは、元々エコ意識が高い50〜60代が中心だという。車との付き合い方としては、子どもの手が離れて遠出をすることは少なくなり、近場を快適に移動できる車を求めている人が多い。
  ただ、同社では想定購買層を世代で捉えているというよりは、「むやみに環境に負荷をかけず、エネルギー消費の面でもスマートな暮らしを送りたい」といった興味・関心を持つ層をターゲットとして描いている。実際に購買検討層には、震災を経て住宅にソーラーパネルを設置するなど、住宅も含めてエネルギー消費の効率化に関心を持っている人が少なくないそうだ。

課題は不安要素の払拭と社会的な価値の訴求

  だが、日産リーフの購買促進に関しては「まだ課題も多い」と梅津氏は話す。電気自動車が語られるときに懸念点として必ず挙がるのが、長い距離を走れないのではないかという航続距離の問題、充電インフラの設置状況、そしてガソリン車と比較して高額な価格帯だ。加えて、まだまだ未来のクルマというイメージから、購買を検討する選択肢に挙がりにくい状況もある。
  「ただ、航続距離が短くて心配というお客様が少なくありませんが、ユーザーのライフスタイルによってはそこまで必要ないことも多々あります。こうした誤解を払拭するためにも、今はWEB上や販売店などで実際のユーザーの声を『オーナーズ・ボイス』として提供したり、テレビでミニPR番組を展開したりと、今まさに日産リーフに乗っている人の実感を伝えることに注力しています」(梅津氏)。
  すでに試乗などは全国の販売店が担っているため、マーケティング戦略の方向性としては、マス広告や広報活動による報道を通して「大きな目標であるゼロ・エミッション社会の実現に向けた提言、そしてその社会における電気自動車の価値を幅広くアプローチしていく」と星野氏は語る。CO2を排出しない、乗り心地がいい、それからスマートフォンで遠隔的に充電などの操作ができる最新のITを整備しているという3つの特長に加えて、災害時や走行時以外にも蓄電池として役立つことも訴求していく意向だ。
  しかし、後者は「車は移動手段である」という概念自体を刷新するものであるがゆえに、その価値を理解してもらうのは容易なことではない。
  「そういう意味では当社としても自動車業界としてもまったく新しいカテゴリーの商品なので、マーケティングコミュニケーションの明快な戦略が立っているとは到底言えない状況ですし、先駆者ならではの苦悩を今味わっているところです。でも、だからこそ市場との対話を重視しながら、電気自動車がある社会の様子を多くの人が思い浮かべられるような状況を創りたいと考えています」(星野氏)。